最終更新: centaurus20041122 2014年03月24日(月) 15:57:51履歴
5月も半ばを過ぎて、島の中がなんだかがやがやしてきていた。
もともとサーフィンのために来る人も多い島だ。波を求めて移住してくる人もいる。
しかし、今回はそれとは規模が違う。
明里を失ってしまった空隙から逃れるために、受験勉強に逃避していた僕でさえ、なにか騒がしいことに気づいた。
「ところで、最近、島の中が騒がしくないか?」
昼休みにそれとなくクラスメートに言うと、あきれたふうに答えた。
「来月、日食あるだろ」
「あ、ああ……」
そうだった。すっかり忘れていた。
「NHKとか民放とか、日食の生中継やるらしいぜ。それ以外に来島者がいつものピーク時の5倍くらいくるから、臨時キャンプ場や臨時トイレの設置やら、英語の看板やら忙しいみたい」
「詳しいな」
「親父、役場に勤めてて段取り関係やってるから。最近は毎晩帰ってくるの遅いし」
「そうか……そんなに人が来るんだ」
いつか見た、共同研究の掲示。明里の通っている学校の名前。
明里のことを知ってる人が来るかもしれない。
どうしてるか聞いてみようか。
……いや、聞いてどうするんだ。
共同研究?
そういえば、うちの学校に日食観測するような部活なんてあったっけ?
「そういえば、本土から3つくらい日食観測で学校がくるようだけど」
「ああ、北海道と栃木と和歌山」
「そうそう。ところで、うちにそういう関係の部活ってあったっけ?」
「遠野、鋭いところをついたな」
「ん?」
「確かにお前の言うとおり、うちにそういう部活はない」
「じゃあ、受け入れはどうすんの?」
「生徒会でやってるって聞いたけど」
「そうか……」
「去年から、全国の高校から島中の高校に問い合わせが殺到したらしい。んで、教育委員会とかで仕切って「共同研究」って形にして文部科学省に陳情したら、国から補助が出るだろ? それでインフラ整備も進める。ま、親父の受け売りだけどな」
「なるほどなあ」
去年のうちからそういう話が進んでいたとはまるで知らなかった。
日食には興味あるけれど、まあ、当日は平日だし、授業中だけど、臨時で観測授業でもするかもしれない。
明里は元気でいるだろうか。
種子島で皆既日食が見られる、というニュースを見聞きして、僕のことを少しでも思い出してくれるだろうか。
もう一度だけ、手紙を書こうか。
しつこい人だ、なんて思われるのもいやだけれど。
このままは、もっと、いやだ。
時の流れは人の思いなんて無視して容赦なく進む。
そんな中で、時には抗い、時には流れに乗って、その先に向かうしかないんだろう。
それならば。
いったい僕は、
どれほどの速さで生きれば、
明里にまた会えるのだろうか。
そんなことを悶々と考えながら、帰宅の途についた。
(つづく)
もともとサーフィンのために来る人も多い島だ。波を求めて移住してくる人もいる。
しかし、今回はそれとは規模が違う。
明里を失ってしまった空隙から逃れるために、受験勉強に逃避していた僕でさえ、なにか騒がしいことに気づいた。
「ところで、最近、島の中が騒がしくないか?」
昼休みにそれとなくクラスメートに言うと、あきれたふうに答えた。
「来月、日食あるだろ」
「あ、ああ……」
そうだった。すっかり忘れていた。
「NHKとか民放とか、日食の生中継やるらしいぜ。それ以外に来島者がいつものピーク時の5倍くらいくるから、臨時キャンプ場や臨時トイレの設置やら、英語の看板やら忙しいみたい」
「詳しいな」
「親父、役場に勤めてて段取り関係やってるから。最近は毎晩帰ってくるの遅いし」
「そうか……そんなに人が来るんだ」
いつか見た、共同研究の掲示。明里の通っている学校の名前。
明里のことを知ってる人が来るかもしれない。
どうしてるか聞いてみようか。
……いや、聞いてどうするんだ。
共同研究?
そういえば、うちの学校に日食観測するような部活なんてあったっけ?
「そういえば、本土から3つくらい日食観測で学校がくるようだけど」
「ああ、北海道と栃木と和歌山」
「そうそう。ところで、うちにそういう関係の部活ってあったっけ?」
「遠野、鋭いところをついたな」
「ん?」
「確かにお前の言うとおり、うちにそういう部活はない」
「じゃあ、受け入れはどうすんの?」
「生徒会でやってるって聞いたけど」
「そうか……」
「去年から、全国の高校から島中の高校に問い合わせが殺到したらしい。んで、教育委員会とかで仕切って「共同研究」って形にして文部科学省に陳情したら、国から補助が出るだろ? それでインフラ整備も進める。ま、親父の受け売りだけどな」
「なるほどなあ」
去年のうちからそういう話が進んでいたとはまるで知らなかった。
日食には興味あるけれど、まあ、当日は平日だし、授業中だけど、臨時で観測授業でもするかもしれない。
明里は元気でいるだろうか。
種子島で皆既日食が見られる、というニュースを見聞きして、僕のことを少しでも思い出してくれるだろうか。
もう一度だけ、手紙を書こうか。
しつこい人だ、なんて思われるのもいやだけれど。
このままは、もっと、いやだ。
時の流れは人の思いなんて無視して容赦なく進む。
そんな中で、時には抗い、時には流れに乗って、その先に向かうしかないんだろう。
それならば。
いったい僕は、
どれほどの速さで生きれば、
明里にまた会えるのだろうか。
そんなことを悶々と考えながら、帰宅の途についた。
(つづく)
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