新海誠監督のアニメーション「秒速5センチメートル」の二次創作についてのサイトです。

5月も半ばを過ぎて、島の中がなんだかがやがやしてきていた。
もともとサーフィンのために来る人も多い島だ。波を求めて移住してくる人もいる。
しかし、今回はそれとは規模が違う。

明里を失ってしまった空隙から逃れるために、受験勉強に逃避していた僕でさえ、なにか騒がしいことに気づいた。

「ところで、最近、島の中が騒がしくないか?」
昼休みにそれとなくクラスメートに言うと、あきれたふうに答えた。

「来月、日食あるだろ」

「あ、ああ……」

そうだった。すっかり忘れていた。

「NHKとか民放とか、日食の生中継やるらしいぜ。それ以外に来島者がいつものピーク時の5倍くらいくるから、臨時キャンプ場や臨時トイレの設置やら、英語の看板やら忙しいみたい」

「詳しいな」

「親父、役場に勤めてて段取り関係やってるから。最近は毎晩帰ってくるの遅いし」

「そうか……そんなに人が来るんだ」

いつか見た、共同研究の掲示。明里の通っている学校の名前。
明里のことを知ってる人が来るかもしれない。
どうしてるか聞いてみようか。

……いや、聞いてどうするんだ。


共同研究?
そういえば、うちの学校に日食観測するような部活なんてあったっけ?

「そういえば、本土から3つくらい日食観測で学校がくるようだけど」

「ああ、北海道と栃木と和歌山」

「そうそう。ところで、うちにそういう関係の部活ってあったっけ?」

「遠野、鋭いところをついたな」

「ん?」

「確かにお前の言うとおり、うちにそういう部活はない」

「じゃあ、受け入れはどうすんの?」

「生徒会でやってるって聞いたけど」

「そうか……」

「去年から、全国の高校から島中の高校に問い合わせが殺到したらしい。んで、教育委員会とかで仕切って「共同研究」って形にして文部科学省に陳情したら、国から補助が出るだろ? それでインフラ整備も進める。ま、親父の受け売りだけどな」

「なるほどなあ」

去年のうちからそういう話が進んでいたとはまるで知らなかった。
日食には興味あるけれど、まあ、当日は平日だし、授業中だけど、臨時で観測授業でもするかもしれない。

明里は元気でいるだろうか。
種子島で皆既日食が見られる、というニュースを見聞きして、僕のことを少しでも思い出してくれるだろうか。

もう一度だけ、手紙を書こうか。
しつこい人だ、なんて思われるのもいやだけれど。
このままは、もっと、いやだ。

時の流れは人の思いなんて無視して容赦なく進む。
そんな中で、時には抗い、時には流れに乗って、その先に向かうしかないんだろう。

それならば。

いったい僕は、
どれほどの速さで生きれば、
明里にまた会えるのだろうか。

そんなことを悶々と考えながら、帰宅の途についた。


(つづく)

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