新海誠監督のアニメーション「秒速5センチメートル」の二次創作についてのサイトです。

貴樹はM社に移って、研修期間ののち、そのまま「はやぶさ2」プロジェクトに配属となった。自ら組んだ制御プログラムの面倒を見る仕事だ。同じフロアには理子も勤めていて、たまにランチを一緒したりしていた。

「どう、新婚気分は」
にまにましながら理子が聞いている。

「んー、住まいはとりあえず前のままだから、あんまり変わらないかな」

貴樹がカレーを食べながら答えた。

多忙な明里とは結局、まだ隣同士の部屋に住んでいる。2年契約で一度更新しているため、まだあと1年契約が残っているからだ。

「まあ、手が空いたら探そうとは思っているんだけど」

「このプロジェクトは少なくともあと1年半は続くから、しばらくは相模原通いよね」

「明里は市ヶ谷だから、逆方向なんだけどさ」

そう言っていた矢先、結婚してわずか2か月後、貴樹は人事本部長に呼ばれ、面接以来の本社に出頭していた。


なんだろう。


部屋に入ると、本部長と自分の直属上司もいる。

「遠野君、わが社はこのプロジェクトを、国民が注視しているこの計画を必ず成功させなければならない」

「はあ」

なんだか大仰な物言いだなあ、と素直に思った。

「飛翔体プログラムは君の尽力で大まかな問題は解決した。次はH2A本体なんだ」

「へ?」

思わず、オフィシャルな場にそぐわない反応をしてしまった。


でも。
これまで何度も打ち上げが成功しているではないか。

と思って気付いた。

これまでのH2Aはほとんどの場合、地球の衛星軌道に打ち上げている。しかし、「はやぶさ2」は違う。地球の重力圏を脱出しなければいけない。

「ロケット本体の制御プログラム管理とその更新のために、打ち上げまでの1年半、種子島に常駐してくれないか。きみの故郷でもあるのだろう?」


貴樹には即答できなかった。



明里は気になっていた。
昨日から、貴樹の表情が暗い。物思いにふけり、たまに自分の顔をじっと見ている。気付いて視線を合わせようとするとあわてて逸らす。

なに? なんなの?

深酒もしているようだし。


「貴樹くん、話がある」

仕事から帰ってきた深夜だったけれど、貴樹の部屋を訪れた。

「なにがあったの。なにかがあったのはわかってる。何年一緒にいると思ってるの。隠し事、しないで」

半分泣きながら、明里が訴える。
その表情を見て、貴樹が意を決する。

「種子島に、転勤の打診があった」

明里の表情が凍った。



同じころ、花苗も転勤の辞令を受けていた。
新島の中学を離れ、渋谷区の中学校へ勤務せよという。
公務員である花苗に拒否権があるわけもない。

「あの……住む場所はどうすれば……」

「近くに公務員宿舎があるから、そこに入れば?」

教育委員会のおばさんに言われ、まあ、それだったら安くつくかと思い、赴任先の学校へ挨拶に行った。

しかし、そこでは花苗のこれまでの活動を疑問視するような指摘をされてしまったのだ。

「澄田先生、新島での事情は伺っていますよ。でも、ここは渋谷区で、サーフィン活動で啓蒙、なんていうことは考えなくていいんです。世界ツアー? ですか、それに参加するためにたびたび休まれると、父兄からのクレームの元にもなりますし、これまで通り、というわけにはいかないんですよ」

着任予定の校長にそのように釘を指さされた花苗は、沈む心を持て余しながら、夜の東京を眺めるのだった。

(つづく)

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