表現の自由にまつわる言説の事実関係を検証しています。

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要旨

 『後から同意してないと言われれば無条件で性暴力の加害者にされる』とする主張は事実に反する。

発言

山田太郎/参議院議員(自由民主党)*1

・政府は「同意のない性的な行為は全て性暴力であり、同意していないと判断できる客観的な状況がなくても性暴力になる」との見解
 →後から「同意していなかった」と言われれば、無条件で性暴力の加害者とされてしまう
 (引用者注:ツイートに添付された画像の中の文章である)

評価

 事実関係:事実に反する

背景

 内閣府男女共同参画局は2023年4月を「若年層の性暴力被害予防月間」と定め、キャンペーンを周知するポスター等を作成した。*2
 山田が批判したポスターは『あなたがYESでも、わたしがNOなら性暴力。』というキャッチコピーが中央に描かれ、下部では青ざめた表情の女性のそばに『怖くて何も言えなかった』という文言が書かれている。

評価の根拠

事実関係:事実に反する

 『性暴力の加害者とされ』る状況にはいくつかの種類があると考えられるが、後述するようにいずれの場面においても『後から同意してないと言われれば無条件で性暴力の加害者にされる』ことは考えにくいため、こうした主張は事実に反すると評価できる。

 刑事事件の場面においては、山田の発言当時、性暴力に関する主要な刑法は強制性交等罪である*3。強制性交等罪は条文において『暴行又は脅迫を用いて』性交を行う者を罪とするとしている。このため、少なくとも法律上は、同意がないだけで性暴力の加害者とされるわけではない。また、2022年10月には不同意性交罪の試案が示されたものの*4*5、この試案の中でも罪となるのは人を拒絶困難にさせて行われるか、拒絶困難であることに乗じて行われる行為であるため、この試案の通りに法律が改正されたとしても、同意がないだけで性暴力の加害者とされるわけではないと予想される。
 刑事訴訟においては、仮に同意がないだけでその性行為を犯罪として扱う法律が成立したとしても、同意がないことを検察側が証明する必要がある。このことからも、被害者が後から同意がなかったと主張するだけで性暴力の加害者とされることが起こるとは考えにくい。なお、現在の刑事裁判においても被害者側の証言が完全に信用されるわけではなく、むしろ被害者の証言を不合理に疑った判決が下され批判を浴びることもある*6

 支援の場面においては、刑事事件として犯罪化されない事例も性暴力と扱われることは考えられる。つまり、性犯罪とされなかった事例も性暴力として扱われることはあり得る。そして、支援の場面では被害者の訴えを(不必要に)疑うことは好ましくないとされていることから、被害者が後から同意していないと訴えた事例が、何らかの証明を求められることなく性暴力としてみなされることも考えられる。しかし、そのことは、そうした性行為の相手方を直ちに加害者として扱うことを意味しているわけではない。あくまで被害者の経験が性暴力であると、支援という限定的な場で扱われるだけのことであり、行為の相手方を加害者であると決めつけそうした評判を流布するといった行為が行われるわけではない。
 なお、支援を通じて被害者が加害者と見なす人物への責任を追及することを決め行動することもあり得るが、そのような場合には刑事にせよ民事にせよ一定の妥当性のある証拠を求められることとなるため、『後から同意してないと言われれば無条件で性暴力の加害者にされる』わけではない。また、そうした主張に根拠がないと見なされれば反対に被害者が名誉毀損であるとして責任を追及されることもある*7
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