表現の自由にまつわる言説の事実関係を検証しています。

要旨

 『フェミニストが草津町を誹謗中傷した』とする主張は根拠不明で、不正確である。

発言

荻野稔/大田区議(無所属)*1

踊らされた事を謝罪せずに、被害者面するなって話ですよ。踊らされてその先に何をしたのかと。その先の誹謗中傷などの行為は嘘をついた元町議がやったわけではないので

評価

 事実関係:根拠不明
 解釈表現:不正確

背景

 2019年、新井祥子草津町議(当時)が黒岩信忠草津町長からの性被害を告発した。告発によれば、被害があったのは2015年で、新井は電子書籍において町長室で性行為を強要されたとしている。なお、告発に対し黒岩は否定した*2
 これに対し草津町議会は2019年12月、言論の品位に欠けるとして新井を除名処分とした。新井は群馬県議会に処分の取り消しを求めて審決を申請、2020年8月に県は「議員の議場外の行為で、懲罰の事由にならない」などとして処分は違法と認定し、取り消した。町議らはこの処分を不服とし、新たに新井に対するリコールのための署名を集めた。署名が規定数に達したことで住民投票が行われ、2020年12月6日の投票結果によって新井が失職した。*3
 新井はリコールの無効を群馬県選挙管理委員会に申し立てたものの、退けられた。新井はこの裁決の取り消しを求めて訴訟を提起したものの、2021年6月9日、東京高裁は新井の請求を棄却した*4。続く上告審でも、最高裁は同年11月22日、新井の上告を退け、失職が確定した。*5
 2019年12月16日、黒岩は新井や電子書籍のライターなどに対し損害賠償を求める民事訴訟を提起した*6。2021年12月、新井は黒岩を強制わいせつ容疑で刑事告訴した。一方、黒岩も直後に新井を虚偽告訴だとして告訴した。前橋地検は黒岩に対する告訴を嫌疑不十分として不起訴とし、新井を名誉毀損と虚偽告訴の容疑で在宅起訴した*7。2023年11月1日、前橋地裁で行われた民事訴訟の口頭弁論において、新井は肉体関係があったことや被害を訴えた会見の内容が虚偽であることを認めた。ただし、体を触られたことは引き続き主張した*8

評価の根拠

事実関係:根拠不明

 荻野は草津町を誹謗中傷したと主張するものの、具体的な例や根拠を示せていない。よって、何をもって誹謗中傷と主張しているかすら定かではないため、後述する論点の是非に関わらず、『フェミニストが草津町を誹謗中傷した』とする主張は根拠不明であると評価できる。

解釈表現:不正確

 新井の告発がなされた当初、草津町への批判は告発者に対する対応についてのものが主だった*9*10*11。Twitterでの批判で一部用いられた「セカンドレイプの町」などの表現は確かに強いものではあるが、告発の真偽が明らかでなく、捜査や裁判などでも一定の結論が出ていない時点において、草津町議会が(虚偽の告発ではなく)品位を理由に新井に対する懲罰動議を行ったこと、町議が新井や議会の傍聴者に対する誹謗中傷を行ったことや集団的にリコールを主導したことなどは事実であり、対応に問題があったという評価は不当とは言えない*12*13。また、町議会のほとんどの議員が懲罰動議に賛成したことや、リコールにかかる住民投票で大多数がリコールに賛成したことをもって、町全体が新井への不適切な対応に加担していたとする評価も殊更不当とは言えない。こうしたことから、批判の是非は主に表現の程度問題であり、こうした批判を指して誹謗中傷であると、批判が殊更に不当な内容であったり罵詈雑言の類であったかのように表現することは実態を正確に表していないと評価できる。
 なお、セカンドレイプという表現は、被害者が最初に性暴力の被害を受けていることが前提となる表現ではあるものの、ここで問題となっているのは被害者または被害の告発者に対する対応の是非であり、その問題は性暴力被害の真偽にかかわらず存在するものである。また、告発当初から新井の主張が虚偽であることが明白だったとの主張も散見されるが、当時明らかになっていた情報は当事者の主張と断片的な第三者の証言のみであり、少なくとも告発が虚偽であったことが明らかだったとまでは言えない。
 『フェミニストが草津町を誹謗中傷した』とする主張は、「フェミニスト」を主語としているものの、何をもって明確な集団ではない「フェミニスト」が草津町を誹謗中傷したと言えるのかは議論の余地がある。SNS上で批判が起こったという性質上、フェミニストを名乗るアカウントが誹謗中傷と評価できる発言を行っている実例が存在する可能性は十分あるが(ただし、荻野はそうした実例も示していない)、いくつかのアカウントでそうした実例が見つかることだけをもってフェミニストの主要な態度や主張であったとすることはできない。少なくとも、当時草津町への批判を行っていた主要な女性団体や著名なフェミニストの中には、草津町への誹謗中傷と評価できる発言を認めることはできず、またそうした根拠も示されていない。
 以上のことから、『フェミニストが草津町を誹謗中傷した』とする主張は当時の実態を正確に反映しているとはいえず、不正確であると評価できる。
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このページへのコメント

性被害を告発した「草津女性町議」が失職した本当の理由 居住実態ナシ、草津町が前橋地検に告発
www.dailyshincho.jp/article/2021/01161057/

上記記事では、リコールについて次のような証言があります。

> 「自分の居住地を偽っているのではないかとして資格審査特別委員会が設置されたのです。新井さんは草津町内のアパートの1階を住所にしていましたが、大家は“貸していない”と否定。もちろん水道の契約もしていません。これが問題になり、リコールにもつながってゆくのです」

こちらについてはどうお考えでしょうか?

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Posted by 匿名 2023年11月12日(日) 12:47:26 返信数(1) 返信

これだけ短い記事だと何とも言えませんが、仮にリコールの理由に居住実態の問題を含むのだとしても、性被害の告発を議会の品位を貶めるものとしたことも依然事実なので、記事の内容に影響はありません。

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Posted by  kudan18 kudan18 2023年11月19日(日) 18:09:11

> 告発の真偽が明らかでなく捜査や裁判なども行われていない時点において、

こちらですが、2019年12月に町長側から、告発は事実無根として提訴が行われております。
ttps://www.sankei.com/article/20191216-AVNQFQSEKROAZJ6JQ4TU7TGW34/

リコールは2020年12月のため、大まかに計算しても1年前から告発についての裁判が行われています。

性被害を告発されたが、なんの捜査・裁判もせずリコールに踏み切ったのような記述は不正確かと思われます。

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Posted by aaa 2023年11月06日(月) 10:52:00 返信数(1) 返信

ご指摘ありがとうございます。裁判が行われていないというのは(少なくとも訴訟が提起されている以上)不正確だったので、表現を修正しました。

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Posted by  kudan18 kudan18 2023年11月10日(金) 23:24:47

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