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hitoshinka 2021年05月06日(木) 04:03:14履歴
2002年にNHK出版から出されたテレビゲームバッシングの本。森昭雄著。出版当時はテレビゲームを嫌悪する中高年層やメディアに受け、大きな話題となった。
「脳波測定によってテレビゲームの危険性を明らかにした」と称する本であり、著者は一応は脳神経科学を専門とする日本大学教授……なのだが、極めて主観的かつ非科学的な内容で、数えきれないほどのツッコミどころを含んだ疑似科学本に過ぎない。そのトンデモ振りは、と学会『トンデモ本の世界T』や左巻健男『学校に入り込むニセ科学』などの書籍でも取り上げられている。
また精神科医の斎藤環氏や「脳トレ」で知られる川島隆太教授など、ゲーム文化に通じている脳科学関係者も森氏の『ゲーム脳』理論を「全く支持しない」と表明している。斎藤氏にいたっては、本書が文中に頻繁に登場するEMS−2000なる怪しげな簡易脳波測定器(はるかに安価でしかも測定機能のしっかりしたものが既にある)の「広告」的な著作に過ぎないのではないかと問題視さえしている。氏がこの本と機器の脳波知識の怪しさについて、専門的な立場から検討しているインタビューがあるので、関心のある方はぜひ一読されたい。
本書の基本的な論理はこうである。
「人間の脳は、知的に働いている時にはベータ波が出ているが、認知症患者などではベータ波が減り、アルファ波が増えている。テレビゲームをやる人間の脳は認知症患者に似た脳波を示すことが分かった。だからゲームは脳を低下させる危険なものだ」
そしてこの脳の状態を「ゲーム脳」と名付け、現代の若者文化や犯罪報道などと主観的に結び付けては、ゲームバッシングを繰り返している。
この論理展開は。脳波について少しでも科学的知識がある人間からすれば噴飯物である。
まずアルファ波の優位は別に認知症の人に特異的なものではなく、ごく普通の人に日常的に表れる状態である。特に脳科学に詳しくない人でも、アルファ波という言葉が「睡眠」「リラックス」「集中力」などとも関連付けられる、いわば「良い脳波」として扱われているグッズやコンテンツを目にしたことがあるであろう。そのようなグッズの実際の医学的効果はともかく、アルファ波がリラックスしたり、一つのことに集中している時に出ること自体は事実である。『ゲーム脳の恐怖』文中にさえ「痴呆の人の聞き取り中と健常な人がボーッとしているときの脳波が似ている」と書いてあるのはこのことだ。
つまり「ゲームをやっているとアルファ波が出る」というのは「ゲームを遊んでリラックスしている」という普通も普通の事象を指しているにすぎないのである。
これを無理やりに認知症と結び付け、「脳が危険な状態」と煽っている――というのが本書の基本的なからくりである。
また、森氏が怪しい機器で測定したとされる「ゲームをやっていない時の健康な脳波」とされるベータ波は、多くがお手玉をやっているときとか、何らかの体を動かす行為をさせているときに出ている。これらはみな「筋電図アーチファクト」――つまり、筋肉を動かしたことによって発生したノイズに過ぎないであろうことを、メディカルシステム研修所は指摘している。
すなわち森氏が危険視する「ゲーム脳患者」がただの正常なリラックスした人だっただけでなく、「ゲーム脳でない健全な人の脳波」さえも、ただの電磁的ノイズの産物に過ぎなかったのである。
そもそも著者・森昭雄氏の脳波知識は、専門家めいた肩書をしているにもかかわらず極めて怪しい。
アルファ波を「大きくてゆっくりした波(高振幅徐波)」と書いてあったりするのだ。アルファ波は異常脳波の一種である徐波ではなく、大きいかどうかも関係ない。脳波に関する極めて初歩の間違いである。
予想されるように、本書のゲーム・コンピュータ関係者・ひいては現代の若者たちに対する偏見はひどく、もちろん知識も貧弱である。
・「ゲームははテンポが速く、思考の入るすきまがありません。要素もありません」――RPGや推理ものなどのテキストアドベンチャー、戦略シミュレーションなどはどうなるのだろうか。アクションや落ちものパズルしか知らないのか。
・「ロールプレイングゲーム」の説明として「ホラー映画のような、スリルと恐怖感を抱かせるものでした。自分が敵にみつかって殺されないように敵陣に進入し、相手を威嚇しながら画面上で突き進んでいく」と紹介。『メタルギアソリッド』か『バイオハザード』あたりかと思われるのだが、ジャンル名が明らかに「ロールプレイング」ではない。
・「ソフトウェア開発者は、視覚情報が強く、前頭前野が働くのは勤務時間内でもほんの一瞬で、ずっと使い続けているわけではありません。開発といっても設計図を描くわけではなく、画面をみてつくっていく仕事です。朝九時に席に座り、夕方五時までずっと画面をみています。ひらめいたり、集中しているのはわずかな時間で、ただ画面をみている時間のほうが圧倒的に長いのです」――ソフトウェアがただ画面をみているだけで作れると思っているのだろうか。
・「自然の中での体験が大切」的な話をしだすのだが、その中に「海でオゾンの香り、野山では緑の香りを嗅ぎ分け〜」とある。オゾンなど海にはない。
・「子どもが自分の飼育していたカブトムシが死んでしまい、親が悲しんでいる様子を見て、『パパ、電池を交換すればいいよ』と真剣な顔をしていったそうです。この話に私は強い衝撃を受けましたが、子どもの脳に異変が生じていることは現実なのです」――テレビゲームが流行するはるか前からある有名な都市伝説。
・「ゲームショーに行くチャンスがあり、見学してきました。その会場の異様な雰囲気に驚き、ショックを受けてしまいました。というのも、中学生風の女の子が、左右に立派な白い羽をつけたエンジェルの格好をして、真面目な顔で歩いているのです。しかし、会場をよく見回してみると、テレビゲームのなかに出てくるキャラクターそっくりの衣装に身を包み、無表情で歩いている小中高生が、彼女のほかにも百人前後いることに気がつき、再度ショックを受けました。このとき、私はこの子たちの将来、そして日本の未来はどうなってしまうのだろうかと心配になってしまいました。」
このように、ほとんど若者憎悪・コンピュータ憎悪ともいうべき先入観を疑似科学で上塗りしただけの本なのだが、ゲームへの社会的偏見を正当化した極めて罪深い本である。
悪名高い「香川県ネット・ゲーム依存症防止条例」を作った同県議会議長の大山一郎も、影響を受けたことを自ら告白している。
(2020年1月27日「北海道新聞」朝刊)
参考リンク・資料:
森昭雄『ゲーム脳の恐怖』生活人新書(NHK出版)
斎藤環氏に聞く ゲーム脳の恐怖
と学会・山本弘氏に聞くトンデモ『ゲーム脳の恐怖』
“ゲーム脳の恐怖”の脳波について
「脳波測定によってテレビゲームの危険性を明らかにした」と称する本であり、著者は一応は脳神経科学を専門とする日本大学教授……なのだが、極めて主観的かつ非科学的な内容で、数えきれないほどのツッコミどころを含んだ疑似科学本に過ぎない。そのトンデモ振りは、と学会『トンデモ本の世界T』や左巻健男『学校に入り込むニセ科学』などの書籍でも取り上げられている。
また精神科医の斎藤環氏や「脳トレ」で知られる川島隆太教授など、ゲーム文化に通じている脳科学関係者も森氏の『ゲーム脳』理論を「全く支持しない」と表明している。斎藤氏にいたっては、本書が文中に頻繁に登場するEMS−2000なる怪しげな簡易脳波測定器(はるかに安価でしかも測定機能のしっかりしたものが既にある)の「広告」的な著作に過ぎないのではないかと問題視さえしている。氏がこの本と機器の脳波知識の怪しさについて、専門的な立場から検討しているインタビューがあるので、関心のある方はぜひ一読されたい。
本書の基本的な論理はこうである。
「人間の脳は、知的に働いている時にはベータ波が出ているが、認知症患者などではベータ波が減り、アルファ波が増えている。テレビゲームをやる人間の脳は認知症患者に似た脳波を示すことが分かった。だからゲームは脳を低下させる危険なものだ」
そしてこの脳の状態を「ゲーム脳」と名付け、現代の若者文化や犯罪報道などと主観的に結び付けては、ゲームバッシングを繰り返している。
この論理展開は。脳波について少しでも科学的知識がある人間からすれば噴飯物である。
まずアルファ波の優位は別に認知症の人に特異的なものではなく、ごく普通の人に日常的に表れる状態である。特に脳科学に詳しくない人でも、アルファ波という言葉が「睡眠」「リラックス」「集中力」などとも関連付けられる、いわば「良い脳波」として扱われているグッズやコンテンツを目にしたことがあるであろう。そのようなグッズの実際の医学的効果はともかく、アルファ波がリラックスしたり、一つのことに集中している時に出ること自体は事実である。『ゲーム脳の恐怖』文中にさえ「痴呆の人の聞き取り中と健常な人がボーッとしているときの脳波が似ている」と書いてあるのはこのことだ。
つまり「ゲームをやっているとアルファ波が出る」というのは「ゲームを遊んでリラックスしている」という普通も普通の事象を指しているにすぎないのである。
これを無理やりに認知症と結び付け、「脳が危険な状態」と煽っている――というのが本書の基本的なからくりである。
また、森氏が怪しい機器で測定したとされる「ゲームをやっていない時の健康な脳波」とされるベータ波は、多くがお手玉をやっているときとか、何らかの体を動かす行為をさせているときに出ている。これらはみな「筋電図アーチファクト」――つまり、筋肉を動かしたことによって発生したノイズに過ぎないであろうことを、メディカルシステム研修所は指摘している。
すなわち森氏が危険視する「ゲーム脳患者」がただの正常なリラックスした人だっただけでなく、「ゲーム脳でない健全な人の脳波」さえも、ただの電磁的ノイズの産物に過ぎなかったのである。
そもそも著者・森昭雄氏の脳波知識は、専門家めいた肩書をしているにもかかわらず極めて怪しい。
アルファ波を「大きくてゆっくりした波(高振幅徐波)」と書いてあったりするのだ。アルファ波は異常脳波の一種である徐波ではなく、大きいかどうかも関係ない。脳波に関する極めて初歩の間違いである。
予想されるように、本書のゲーム・コンピュータ関係者・ひいては現代の若者たちに対する偏見はひどく、もちろん知識も貧弱である。
・「ゲームははテンポが速く、思考の入るすきまがありません。要素もありません」――RPGや推理ものなどのテキストアドベンチャー、戦略シミュレーションなどはどうなるのだろうか。アクションや落ちものパズルしか知らないのか。
・「ロールプレイングゲーム」の説明として「ホラー映画のような、スリルと恐怖感を抱かせるものでした。自分が敵にみつかって殺されないように敵陣に進入し、相手を威嚇しながら画面上で突き進んでいく」と紹介。『メタルギアソリッド』か『バイオハザード』あたりかと思われるのだが、ジャンル名が明らかに「ロールプレイング」ではない。
・「ソフトウェア開発者は、視覚情報が強く、前頭前野が働くのは勤務時間内でもほんの一瞬で、ずっと使い続けているわけではありません。開発といっても設計図を描くわけではなく、画面をみてつくっていく仕事です。朝九時に席に座り、夕方五時までずっと画面をみています。ひらめいたり、集中しているのはわずかな時間で、ただ画面をみている時間のほうが圧倒的に長いのです」――ソフトウェアがただ画面をみているだけで作れると思っているのだろうか。
・「自然の中での体験が大切」的な話をしだすのだが、その中に「海でオゾンの香り、野山では緑の香りを嗅ぎ分け〜」とある。オゾンなど海にはない。
・「子どもが自分の飼育していたカブトムシが死んでしまい、親が悲しんでいる様子を見て、『パパ、電池を交換すればいいよ』と真剣な顔をしていったそうです。この話に私は強い衝撃を受けましたが、子どもの脳に異変が生じていることは現実なのです」――テレビゲームが流行するはるか前からある有名な都市伝説。
・「ゲームショーに行くチャンスがあり、見学してきました。その会場の異様な雰囲気に驚き、ショックを受けてしまいました。というのも、中学生風の女の子が、左右に立派な白い羽をつけたエンジェルの格好をして、真面目な顔で歩いているのです。しかし、会場をよく見回してみると、テレビゲームのなかに出てくるキャラクターそっくりの衣装に身を包み、無表情で歩いている小中高生が、彼女のほかにも百人前後いることに気がつき、再度ショックを受けました。このとき、私はこの子たちの将来、そして日本の未来はどうなってしまうのだろうかと心配になってしまいました。」
このように、ほとんど若者憎悪・コンピュータ憎悪ともいうべき先入観を疑似科学で上塗りしただけの本なのだが、ゲームへの社会的偏見を正当化した極めて罪深い本である。
悪名高い「香川県ネット・ゲーム依存症防止条例」を作った同県議会議長の大山一郎も、影響を受けたことを自ら告白している。

(2020年1月27日「北海道新聞」朝刊)
参考リンク・資料:
森昭雄『ゲーム脳の恐怖』生活人新書(NHK出版)
斎藤環氏に聞く ゲーム脳の恐怖
と学会・山本弘氏に聞くトンデモ『ゲーム脳の恐怖』
“ゲーム脳の恐怖”の脳波について
このページへのコメント
フェミニストは何一つ間違った事は言っていないな。何が可笑
しいのか?可笑しいのはお前らモテないブサキモ男共の欠損し
た脳味噌の方だろう。
この様に、お前らモテないブサキモ男共は女性の立場に立って
物事を考える事が出来んから、一生掛かっても女性にモテる事
等無いし、全世界の女性達にゴキブリの如く嫌われて一生童貞
のままなのだ。この醜い奇形チー牛顔共が。
また、フェミニストという概念自体、女性の立場が低い現状を
是正することを主張する、または是正のために実行動をとる人
々を示すものであり、この概念に同意するか否かで、女性の立
場の低さを是正すべきかそうでないか、という各人の立場をは
っきりと二元的に示す物である。
即ち、フェミニストの正論に難癖を付けている時点でお前らモ
テないブサキモ男共が女性差別主義者なのは自明の理だ。
ま、お前らの様なド底辺の社会のゴミ共如きに嫌われようが恨
まれようが当方もフェミニスト達も一切気にしないが、別に当
方の主張とフェミニストの主張が対立しているわけでもないの
に、自分が批判しているものを批判しないから嫌いだと言うの
は幼稚園児並みの屁理屈だと思うが?
ま、お前らモテないブサキモ男共にはこんな「粋」な発言は理
解出来んだろうな。
「強くなければ生きていけない。
優しくなれなければ生きている資格がない」
ついでにもう1つ、
「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」
共にレイモンド・チャンドラーの著作に登場する探偵フィリッ
プ・マーロウの発言だ。
女性に対する気遣いなど微塵も見せず、ただ性欲の捌け口扱い
するだけのお前らモテないブサキモ男共が現実の女性から好感
をもたれる訳は無いし、また自分が反論者諸氏を散々に罵倒し
ながら、自分が同様の状況に晒されると「反論者の自演だ」
「捏造だ」と言い掛かりを付けて非難するような輩の発言に何
の正当性があるだろうか?
女性が嫌いなら地球から出て行け。モテないブサキモ男共。
以上、反論等有れば当方のブログのコメ欄まで来てみろ。
ttp://jipangbito.blog93.fc2.com/blog-entry-82.html
オタクとトランスの共通点
・自分達をマイノリティと思い込んでいるが中身は醜悪な差別主義者がほとんど
・お仲間の犯罪を咎める気が一切ない
・平気で嘘をつく
・内部から批判する人間を裏切り者と罵倒する
・外部から批判する人間を差別主義者と認定して被害者ヅラ
自分の行ってきた差別を自身がマイノリティであることを理由に免責を迫るだけでなく相手を差別主義者だと口汚く罵るのはオタクが昔からよくやる手口ですね。
「オタク差別」と「トランス差別」は根本的な部分が同じなんですよね。
ttps://twitter.com/Shota_824m0Xbot/status/1276392367667310592
ttps://twitter.com/Shota_824m0Xbot/status/1417071234999672834
ゲームスピードの速さで思考が出来ない、なんてそれこそゲームド素人の偏見よな。
テトリスも格ゲーも、熟練者はきちんと考えて操作するわけだし。
それが出来ないなら格ゲーの「読み合い」なんて存在しないわけだし