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【日本テレビビデオテープ押収事件】と並ぶ、捜査機関による差押え処分と【取材の自由】との関係が争われた著名判例。
 1990年3月20日、TBSのバラエティー番組『ギミア・ぶれいく』内で「潜入ヤクザ24時――巨大組織の舞台裏」と題するドキュメンタリーが放映された。この映像に、債権取り立てのために暴力団員たちが債務者に暴行する場面があり、その後暴力団員が逮捕されたため、証拠品として撮影されたビデオテープが押収されたことに対してTBS側が準抗告し、東京地裁が抗告棄却したため、TBSは最高裁判所に特別抗告を行った。
 暴力団員の協力を得て犯罪の現場を撮影していたということで【報道の自由】のほか、報道倫理についても話題となった事件である。

 最高裁は、【博多駅テレビフィルム提出命令事件】【日本テレビビデオテープ押収事件】に触れ、これらを踏襲して
報道機関の取材結果に対して差押をする場合において、差押の可否を決するに当たっては、捜査の対象である犯罪の性質、内容、軽重等及び差し押さえるべき取材結果の証拠としての価値、ひいては適正迅速な捜査を遂げるための必要性と、取材結果を証拠として押収されることによって報道機関の報道の自由が妨げられる程度及び将来の取材の自由が受ける影響その他諸般の事情を比較衡量すべき
 であるとした。
 そのうえで本件の場合には、上記2事件と同様、すでに放映済みのビデオテープであり報道の機会が奪われるわけではない点、事案の真相解明の必要性を比較して、TBSの特別抗告を棄却し、押収を合法とした。

 なお決定ではさらに
さらに本件は、撮影開始後複数の組員により暴行が繰り返し行われていることを現認しながら、その撮影を続けたものであって、犯罪者の協力により犯行現場を撮影収録したものといえるが、そのような取材を報道のための取材の自由の一態様として保護しなければならない必要性は疑わしいといわざるを得ない。
 と述べている。
 確かにこのような報道には「犯罪を見過ごしている」「犯罪者と付き合いがある」という、世間的には俗悪とみなされやすい側面を持っている。
 しかし、犯罪ドキュメンタリーをはじめとするいわゆる裏社会についての報道は、たとえ実際には興味本位の煽情性・娯楽性を重視したものが多かろうとも、しばしば犯罪や治安の実情について、裁判結果や学術研究、司法統計のみによっては提供されにくい知識を知らせてくれるものである。その有用性を考えると、単に俗悪なものとして排斥すべきではないし、同じ情報が他の手段によっては一般社会に伝えられにくいことを考えると、むしろこうした報道の取材の自由を認める必要性は大きいように思われる。
 本件決定のこの部分はいわゆる「俗悪報道」に対する「イメージの悪さ」を、決定の説得力のために余りに安易に援用し過ぎていると筆者は考える。

 また本件決定には裁判官奥野久之の反対意見がある。
 奥野裁判官は、本件は悪質ではあるが(日本テレビビデオテープ押収事件における)リクルート事件のような社会的大事件ではないこと、他に証拠がないわけではなく供述の食い違いについて確認するための証拠に過ぎないこと、また日本テレビの場合と違い本来刑事告発のための撮影であるという特殊事情がないことを挙げ、違法とすべきと述べている。

参考リンク・資料:
憲法判例 TBSビデオテープ差押処分事件の概要と判例の趣旨をわかりやすく解説
最高裁判所判例集 平成2(し)74 Aに対する暴力行為処罰に関する法律違反、傷害被疑事件について地方裁判所がした準抗告棄却決定に対する特別抗告

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