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 ここでは、羊肉の焼肉。特に中央部が山形に盛り上がった特徴的な形の「ジンギスカン鍋」を用いて調理される日本の料理を指す。北海道を中心に東北地方でも盛んに食べられている。
 歴史人物としてのジンギスカンの日本語表記はチンギス・カン、チンギス・ハーンなど標記揺れがあるが、料理名としては「ジンギスカン」で定着している。満州国時代に大陸進出した日本人が、中国の烤羊肉に改良を加えてできた料理という説が有力で「歴史人物としてのジンギスカンが作らせた陣中料理」は俗説。

 この料理名を嫌悪し改名を叫ぶ人物が、静岡大学の楊海英教授(内モンゴル自治区出身)である。
 彼は2005年に日本の全国紙に「<ジンギスカン>料理名変えて」なる文章を寄稿し、「日本人が尊敬する歴史上の人物の名がついた料理が出されたらどう思うか」と書いてあったという。
 また2019年にも、キム・カーダシアンが企画していたブランド名『kimono』が批判されたことに乗じて、Newsweek日本版で同様の主張を繰り返している。この時の主張によれば、2005年当時に「歴史上の人物」としたのは編集の意志で変更された文面であり、本来の原稿では「モンゴル人がウランバートル市内に『テンノウ焼き』や『テンノウ揚げ』という料理を出したら日本人はどう考えるのか」となっていたそうだ。

 実際にはキム・カーダシアンの『kimono』が批判されたのは、日本のものを何かの名前に使うことが日本に失礼などという言い掛かりをつけたわけでもない。商標上の問題が生じるためである。
 kimonoという名前が「商標」になってしまうと、その法的保護によって同じ名前を他の業者が商品に使うことが制限されうることになる。そしてその範囲は「同種の商品」である。つまり、服のブランドに「キモノ」と名付けられてしまうと、本来の着物があおりを受けることになるのだ。
 まったく別種のもの――たとえば車やお菓子かなにかが「キモノ」と名付けられたり、フィクションに「キモノ」という名前のニンジャでも登場した、というだけであればほとんどの日本人は笑って済ませたことだろう。

 kimonoのことはともかく、「ジンギスカンを料理名に使う」ことはそれほど不当なことなのだろうか。
 2005年に実際に紙面に載った楊教授の疑問に回答するならば、歴史上の人物に由来する料理名など珍しくもない。
 日本の食べ物に限っても漬物のタクアンや、お菓子の信玄餅、金平ごぼうなどがあるし、外国料理のサンドイッチ、カルパッチョ、マルゲリータ、ビーフストロガノフ、東坡肉なども人名由来である。フィンランドには「世界の提督ビール」という、各国24人の提督の名前を冠したビールもあるらしい。

 料理名ではないが天皇の名に由来する「もの」も存在する。
 カムチャッカ半島から南東に伸びる海底山脈「天皇海山群」がそれで、アメリカの海洋学者ディーツによって日本の歴代天皇の名前が各山に付けられている。
 そもそもモンゴルにさえチンギス・ハーン国際空港のようなジンギスカンに由来して作られた名前があるではないか。
 では「皇帝を料理の名前にするのだけがダメで、料理以外のものや、皇帝以外の歴史人物ならよい」のだろうか。そんなことを仮に楊教授が主張したとしても誰の耳にも後付けとしか聞こえまいし、そもそもそんなルール自体になんの根拠も思いつくことはできないだろう。
 そもそも、それさえもナポレオンがお菓子やお酒の名前になっている時点で成り立っていない。

 なお、チンギス・ハーンは空港のほかにも普通に栄養ドリンクやウォッカの名前にもなっているという。



参考リンク・資料:
キム・カーダシアンの「キモノ」に怒った日本人よ、ジンギスカンの料理名を変えて
「ジンギスカンの料理名変えて」モンゴル出身教授の主張で物議「チンギス・ハンはモンゴル人にとっての天皇」
みなとの野菜大辞典:クイズ 人物名が由来の料理は?
 

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