じゃあどういえば良いのかというと、1970年代頃のフェミニストによってhisをherに置き換えた「herstory」という言葉が作られたが、幸いにしてこの馬鹿げた単語は定着していない。現在のところhistory排撃派はそれほどの勢力はなく、historyを使い続けてもまずは安全である。
実際には、historyの語源はhis+storyなんかではなく、ギリシャ語のἱστορία(探求または探求で得られる知識、物語、歴史の説明)から、ラテン語のhistoria(記述、寓話、物語など)となった。
ちなみにstoryの方は、やはりhistoriaがノルマンフランス語のestorieという単語に変化し、そこから英語に入ってstoryとなった語である。つまり同語源であるのだが、storyにhisが加わってhistoryになったわけではなく、逆にhistoryの元の単語からhi部分が抜け落ちたのがstoryである。
いつぞや、いわゆる「政治的に正しい politically correct」表現が話題になったとき、居あわせた英語の先生が「ほんとに神経使うのよ。history は his story だからよくないとかね」と言った。
わたしはてっきりジョークだと思ったのだがそうではないらしい雰囲気だった。それきりあまり気にしていなかったのだが、学生の一人からひょんな折に「わたし、高校の英語の先生から history は his story だから男性上位の単語なんだって教わりました」と言われてはじめて、これが少なくとも一部で流布している考えなのだと思いいたった。