ゴッドイーターでエロパロスレ保存庫2 - 部下から恋人へ(前篇)
 食堂が賑わう早朝。第一部隊隊長の少年もまた、朝食を摂るべく此処へ来ていた。
 配給品と朝食を受け取り適当なテーブルに着く。

「お! リーダーじゃん! 隣いい?」
「ああ。好きにしろ」
「サンキュー」

 コウタはトレイと支給品の入った袋を置いた。支給品の中身を見てやや嫌そうな顔を見せる。
 少年も少し中身が気になり、サンドイッチを食べるのを止めた。

「無駄に巨大なトウモロコシと……ああ、これはプリンか。食べ難いとアリサが愚痴っていたな」
「へー……」
「――? 何だ? 俺の顔に何か付いてるか?」
「いやさ。リーダーの口からアリサの名前が出るって珍しいじゃん」
「は? 任務の時にも普通に呼んでいるだろう」
「そうじゃなくて。――なんつーかさ、アンタってもてる方なのに女っ気ゼロじゃん? 任務ならともかく平時の時に女の名前が出るなんて滅多にないって」
「――……? わからないな。それのどこが悪い……?」

 アリサの名前が出したのも、この間支給品が少ないと嘆いていたので、自分の配給分を渡したからだ。
特に他意を込めたわけではない。
 少年はコウタの真意が読めず首を傾げる。

「うーん……なーんか説明まどろっこしいよなーアンタって……。もういいや! じゃあ、はっきり聞くけどさ、アナグラで誰か好きな奴とか居んの?」
「――――? 好きな者……? 念の為確認すると、それは仲間として、というわけではない意味だな?」
「もちろん!! さーどんと吐いた吐いたあ!!!」

楽しそうに身を乗り出してくるコウタに若干引きながらも少年は真剣に考える。
………。
……。

「いないな」
「へぶっ!!!」

 身も蓋もない発言。密かに聞き耳を立てていた者も、コウタと同じくトレイに顔を突っ込む。

「つまんなっ! アンタ女っ気なさすぎ! どんだけ幸薄なの!? ほら、うちの隊にも居るじゃん! アリサとかアリサとか!」
「何故アリサなのか。どうして二度言うのか。色々と疑問はあるが……」

もう一度。今度はアリサ限定で考えてみる。
………。
……。

「わからない」
「ほんと身も蓋もない答えなんですけど……。あのさあ、俺、先に報酬貰ってんだからさあ、もう少し真面目に答えて貰わないとヘブゥ!!!」

 トレイが飛来してコウタの顔面に命中。皿の中身であるサンドイッチがぶち撒かれるが、ギリギリ少年は皿で受け止める。
やや怒った様子で振り返り、投擲主へ不服申し立てた。

「アリサ。コウタに物をぶつけるのは別段構わない。俺が関知する事ではないしな。しかし、これは別だ。このサンドイッチ一つがこのご時勢どれだけ貴重か分かるだろう」
「すいませんリーダー。今後、トレイだけをコウタに投げるようにします」
「どっかおかしいだろその謝罪ッ!」

 ガタンッとテーブルの皿が揺れ、サンドイッチが一つ床に落ちた。

「あ…………」

 コウタとアリサ。二人だけでなく、食堂の全員が固まる。
 余談となるが、少年はゴッドイーターとなる前は無職であり、フェンリルからの配給でその日暮らしをする事が多かったらしい。
勿論、配給が盗まれたり尽きたりした時は空腹で臨死体験寸前まで逝った事もある。
そんな少年の前で貴重な食事を無碍にする事は即ち――――。

「――――」

 ギギギと錆び付いたロボットのように少年へ視線を向けるコウタ。
食堂の一同は危機を察知して最大全速で距離を取っていた。タツミやブレンダンはコウタへ合唱までしている。
 少年は端末を手に番号を押す。

「雨宮教官。俺の隊から一人。除隊する者が出た。ああ、本当に惜しい奴だったな。除隊時刻は―――」

 三十秒後――未来の時間だった。
492 名前: 部下から恋人へ [sage] 投稿日: 2012/07/13(金) 03:17:10.21 ID:pqQGjS84
「おうリーダー。 コウタが泡吹いてぶっ倒れてたが……悪いもんでも食ったか?」
「知らん。蟹の真似事でもしたい年頃なんだろう」
「リーダー? それだと、私達まで似た目で見られちゃいますよ? 同じ年齢なんですから」

 アリサのツッコミはズレている。
 朝の惨状を目の当たりにしたエントランスに居るゴッドイーター一同は内心ツッコんだ。

「訂正、おそらくバガラリーの見過ぎで変な極致に至ったのだろう。全く変な奴だ」
「そっかしゃあねぇな奴だな、全く……うおっと呼び出しか? たっく、こんなの後だっていいだろうに」

 頭を掻きながら去っていくリンドウ。サクヤに呼び出しを受けたのだろう。
 嫌そうに言ってるものの、にやけが隠せていないので色々と丸分かりだ。

「仲良いですよね、二人とも」
「ああ、そうだな。元々長い付き合いだそうで、その分お互いが惹かれあうところも沢山あるのだろう」
「…………り、リーダーは……その……誰かと付き合いたいとか、思わないんですか?」
「お前まで似たような事を…。――その話題は流行しているのか?」

 端末を弄くる手を止め、前のベンチに座るアリサを見つめる。
 流石にコウタに支給品を提供して隊長(貴方)の近辺を探らせていた、とは言えず、苦笑いを零す。

「――いない。第一俺は仕事ばかりでそんな相手も全く。仮に相手が居たとしても仕事ばかりの者では愛想尽かされるのが関の山。なら、初めから高望みしないほうがいいだろう?」
「つまり! 相手がいれば付き合うんですよね!?」
「喚くな。声が大きい」

 あまりに声が大きかったので、エントランス中の注目を浴びた。居心地が悪くなったので立ち上がる。
 明日は第一部隊と第三部隊の合同演習が行われる予定だ。そろそろ準備を詰めにかからないと寝る時間を削られかねないので丁度良い。

「あの! リーダー!」
「ん?」
「―――後で…部屋に言ってもいいですか」
「さっさと寝ろ。明日の合同演習で隊員が不始末すれば隊全体の尊厳に関わる」
「は、はい……すいませんでした……」

 元気を無くしたように沈む。アリサに尻尾があったのなら力なく垂れているだろう。

「――そんなに、大事な用か?」
「はい! 私の人生に関わる程度に大切な用事です!」
「そんなに!?」

 背後に雷でも落ちそうな決意に一歩たじろいだ少年。
 本気で迷って考えた末、妥協案を出す。

「じゃあ明日。演習終わってからなら……」
「わかりました! 少し遅くなっちゃいますけど……絶対行くので……寝ないでくださいよ?」
「――――? ああ……」

 アリサは嬉しそうに顔を綻ばせてエレベーターに乗って行った。

「遅い…いつまで待たせるつもりだ……!」

 ――夜。食事を済ませてアリサの来訪を待っているものの、全く来る気配がない。
 ただでさえ無趣味で娯楽品を持たない少年は、時間を潰す物がまるで持っていない。
 しかし。アリサの事だから、待たされて10分程度だろうと踏んでいたのに……まさか二時間も待たせるとは――想定の斜め上だ。

「就寝時間を過ぎたな」

 ここまでくれば、苛立ちも霧散した。色々と突き抜けて「どうにでもなれ」という気分だ。

「――コーヒー、淹れるか」

 コーヒーを淹れ、喉に流し込む。糖分のない苦味だけの味が、眠気覚ましにはちょうど良い。
 その時、怒りすら卓越して待ち焦がれたインターフォンが鳴る。

「リーダー! 起きてたんですね!」
「他に言う事ないのか? お前は」

 「常識欠けてるんじゃないか?」と愚痴を零す。
 確かに昨日来ても構わないと言ったのは少年だ。
しかしそれでも、せめて就寝時間前には来て、用件を済ますのが当然ではないだろうか?

「……何だ? その甘ったるい匂いは」
「お気に入りのシャンプーを使っただけです! 変な匂いみたく言わないでください!」
「――シャワー浴びたのか?」

 気づいたが、頬が少し赤い。見た目血行も良くなっているようで。
 その前に用件を済ませてくれと、四時間待たされた少年は呆れてものも言えない。

「……はい。その……すみません。中々決心付かなくて……」
「――――はあ。 俺の部屋を訪ねるだけで決心が必要なら、日を改めても構わないぞ」

 少し棘のある言い方だがしょうがない。
 散々待たされ、挙句、決心が必要なくらい此処に来るのを躊躇していたなどと言われたら腹が立つのは当然である。

「――すみ」
「謝罪は聞き飽きた。長話している時間すら惜しい。早く入ってくれ」
「はい……」

 アリサを招き入れると自動でドアが閉まる。就寝時間設定が当に過ぎているので部屋の鍵は自動で閉まる。

「飲み物は必要か?」
「だ、大丈夫です! そ、それより…座って貰えますか?」
「ああ」

 促す立場が逆なのには驚いたが、余程鬼気迫る状況なのか、表情が引き攣って今にも泣いてしまいそうだ。

「っ――ふうっ!」

 一度の呼吸で一旦気持ちを切り替える。
 状況は飲み込めないが、仲間が困っているのは間違いないのだろう。なら、ここは部隊を預かる隊長として、しっかり助けてやらなくてはならない。
やや優しさを込めた目で見る。アリサの目が見開かれ、また迷うように視線をずらす。
葛藤があるのだろう。やがて、次に目線を合わせた時には、迷いを振り払った――丁度、“あの”ヴァジュラ戦後のような表情だった。

「貴方に……話があります」
「ああ……聞こう」
496 名前: 部下から恋人へ [sage] 投稿日: 2012/07/13(金) 03:20:30.88 ID:pqQGjS84
 少年も誠意もって応対する。今度は視線をずらす事無く。

「わたしは――いえ、私と――」
「私と……?」
「わ、わたしと――!」

少年が唾を飲む。そして――!

「私とっ! 付き合ってくださいっ!」

 ゴッっとソーマの部屋の方から凄い……まるでソファーからズリ落ちて頭を打ち付けたような鈍い音がした。
部屋を震わす大声で。アリサは一気に潤んだ瞳を少年へ向ける。
 双眸から見取れるは、拒絶への恐怖で、一言でも発したら間違いなく泣いてしまう脆さしかない。

「――――」

 熱さと冷たさで頭が上手く回らない。否、一部が正常に機能してるだけ余計タチが悪い。
とにかく、理解出来るのは、自分は今、目の前の少女から告白され、返事を要求されているという現実だけだった。

「俺――は……」

 仲間に困らされるとは――本当に斜め上からくる奴だと楽観的な思考。
 普段の隊長である自分として繕った――冷静さを失っていない思考。
 熱に侵食されて上手く纏まらない思考回路の一部――。
 様々な問題を抱えて、必死に、少女を傷つけないよう、考え続ける――――。
 ……………やがて――。

「俺は……わからない」

 最悪な答えで――――返した。
 嫌いではない。嫌いではないが――それでも今まで部下としてしか見なかったので、好きなのか分からないのだ。
 そんな半端な気持ちでアリサの決意を踏み躙るのは駄目な気がする。

「そう……ですか」

 落胆、失望する答えだったというのに。アリサの表情は少し和らいでいた。

「私……ずっと気づいてたんです。リーダーがそんな対象として私を見てないのは」

 胸のうちを全て明かすかのように。言葉は次々と聞こえてきた。

「でも……それでも告白さえすれば……或いは好きになって貰えるんじゃないかって。 ……へ、変に思われるかもしれないですけど私、す、少しだけなら容姿にも自信がありますから……」

 乾いた笑い。自虐的な微笑は見ていて痛々しかった。

「貴方が正直で……良かったです。 今日……私の為に時間をくれて……ありがとうございました」

 立ち上がって今にも走り去ろうとしたアリサの左手を掴む。少年は未だ、表情を崩してはいなかった。

「勝手に答え決め付けるな。俺は――まだ最後まで言ってない」
「―――! き、聞きたく、ありません……っ! もう私に余計な迷いを持たせないで下さい!!!」

 手を振り払い、走り出そうとするアリサ。
 邪魔なテーブルを蹴り飛ばし、一直線に距離を詰めると、後ろから抱きしめる。

「あ…………いや……離して………ください……」
「じゃあ逃げないで答えを聞くことだ。俺も、これ以上手荒な真似はしたくない」

 優しい声音でそう言ったところで、説得力は皆無だった。
 本気で嫌がって逃げたなら、きっと諦めて手放すだろうに。
 アリサの体から力が抜け落ちる。

「――ドン引きです……」

 泣きそうなアリサの声に胸が痛むが、負けじと覚悟を決めて口を開く。

「確かに、俺はお前の事は好きか分からない。けど――絶対に嫌いじゃない。それだけは分かる。だから……付き合ってくれないか?」
「貴方は好きかも分からない人と……付き合えるんですか?」
「そうだな一時のごっこ遊びなら難しくないだろうが、永続的にだと――事実上不可能だ」
「だったら……私はただの遊び……ですか?」
「愚問。俺がそんな不誠実な真似――許すと思うか? お前は好きになったという俺は……そんな奴か?」

 小さく首を振る。同身長なので髪が頬に当たって心地よい。アリサの頭を撫でる。

「リンドウとサクヤ……あの二人は、長い時間を掛けて、お互いを信頼して……好きになったわけだ。
だったら、――俺達も、積み重ねてみないか? お互いが信頼し合えるような、好きになれるような。そんな時間を、な」

 返事はない。やがて暫くの時が経過し。アリサの泣く声が聞こえてきた。
 せめて、もう、これを最後に絶対泣かせまいと、強く抱きしめる。

 ――――――二週間後。

「相談があるんです」
「人を殴り起こして…他に言う事ないのかよ…」

 コウタが頬を腫らした顔で不平を零す。しかも折角、第一部隊に配属されてから中々取れていなかった休暇なのだ。
 昼間まで寝て、それから取り溜めたバガラリーを見るという計画(プラン)も目の前の乱暴少女(アリサ)の所為で台無し。
 ベットに入れたのも今日で、朝っぱらに起こされるのは疲労しきった体に堪える。

「実は……」

 完璧に無視(スルー)だった。不平など無視以前に聞こえていないとでもいう表情。
 内心で怒りの咆哮を上げつつ、ヤケクソ気味に耳を傾ける。

「コウタから見て、私とリーダーは…どう見えます?」
「う〜ん……どうって言われてもねぇ…お高く止まりがちの兄に振り向いてもらおうと必死な妹…?」

 尤もリーダーの側面から見れば、“一般的な上司と部下”というアリサが怒り狂いそうな答えとなるのが、死にたくはないので言わない。

「そ、そうじゃなくてですね……もう! 率直に聞きますッ! 私と、リーダーが、付き合っているように見えますかッ!!!」
「いやあ全然見えないけど」

 崩れ落ちるアリサ。そもそも。付き合っていると今、初めて聞かされて驚きだ。
成る程成る程。だから最近、アリサはリーダーの部屋に入り浸ったりと、積極的になっていたのか。
 疑問が頭の中で崩れ失せた。

「で、でも! 私とリーダーは付き合っているんです! 本当ですよ! なのにどうしてそう見えないんですかッ!!!」

 「目が腐ってるんじゃないですか!?」と言わんばかりにコウタを締め上げるアリサ。
 手足をバタバタさせて必死に存命を請うとようやく放してくれた。
 リーダーの真似して物事をはっきり言うのは金輪際控えよう。あれはリーダーのカリスマあってこそ許されるものだ。
自分が言えば命を吹き消されかねない。
 数度咳き込み、アリサを刺激しないよう脳内変換を加えて告げる。

「な、なんかいつもとあんまし変わってないから、気づき難いんだって。
 そりゃリンドウさんやサクヤさんみたくイチャラブな雰囲気を出してれば、俄然カップルっぽくは見えるけどさあ……アリサ、出来る?」
「公衆面前で私とリーダーに不埒な真似をしろ…と。……そういう意味ですかコウタ……?」
「だ、誰もそこまでいってないよッ!? そもそも不埒って! カップルなら多少は許してあげなよ!?」
「なっ!? 手を繋いだり、抱きしめて貰ったりはしてますし、出来ます! ただ、恥ずかしいですし人前では……」
「……えぇ、それだけ?」

てっきり、既に人には言えないような事まで済ませている仲だと思っていたのだが……。

「それだけ……? 恋人同士ならこれが普通じゃないですか……?」

 可愛く不安げに首を傾げる。
 コウタは大げさにため息をつく。今の気分を理解してくれる人が居たなら、生涯の友人となれるだろう。

「だいぶ昔にさ……あんた達みたいなカップルは“草食系”とか言われてたらしいよ」
「――? 私に分かる言葉で話してください」

 やはり通じなかった。詳しくはノルンにある旧動画ストックでもと茶を濁す。
 意地悪い笑みを浮かべ、コウタは言った。

「エッチはしてないの?」
「し、してませんよそんな事ッ!! 変なこと言わないでください!!!」

 顔を真っ赤にして慌てだすアリサ。
 本当にしてないのかと、呆れ半分。からかう反撃が出来るのが半分で困ってしまう。ニヤニヤが止まらない。

「え〜。エッチが付き合う醍醐味でしょ〜。それじゃ付き合ってるなんて言えないって」
「ッ!!!」

 ショックを受けたように真っ青になる。やばい。やり過ぎだったかも。

「――そうなんですか…………」

 沈黙する空気が痛い。眠気も覚めるような静けさが支配する中、コウタの部屋にインターフォンが鳴り響いた。

「コウタ、居るか?」

 声はリーダーだった。アリサが立ち上がって声を出そうとするが慌てて止める。

「付き合ってんだろ! 今此処に居るのがばれたら不味いって!!!」
「!!!」

 朝からコウタの部屋に居たとなると、ややこしい話になりかねないしリーダーが本気で怒ったら確実、殺(や)られる。
 あの食堂での一件を追体験するくらいなら、ハンニバルの巣に飛び込んでも惜しくはない――――!

「な、なんとか帰してください!」

 言われるまでもない。
 慌ててベットから飛び出し、アリサがクローゼットに隠れるのを横目に見てからドアに向かい、開く。

「すまないな、寝ていたか」
「ううん! 全然ッ!」

 少年は笑って書類でコウタの頭を叩く。

「しっかり寝ろ。娯楽に身を窶すのも構わないが……体調を崩しては命に関わる。俺達がしているのはそういう仕事なんだからな。気を抜くなよ」
「すいません、リーダー」

 コウタの謝罪を聞き終えると少年は顔色を職場のそれに戻す。

「さて。今来たのはこれだ」

 一枚の紙をファイルから取り出してコウタに渡す。
 来月頭にチームリーダー選任試験を控えているコウタは、僅かでも経験(キャリア)を詰むべく、隊長である少年から部下を率いる術。訓練の機会を貰っていた。
今回の書類も、リーダーの代理としてコウタが第三部隊の部下達を率いて統率させるという、言わば実戦形式での訓練だった。

「シユウ二体とヴァジュラ三体。まあ、多少危険だが補佐にソーマが居る。条件的に厳しくはないだろう。いつも通り、俺の代理という事を忘れず訓練に望んで欲しい」
「まかせなって!」

 目の前の少年の代理という事は、少年が最低限出しうる結果を出さなければ部下の信頼は付いてこないという意味でもある。
それだけでも、ある種試験より難しいものと言えた。
 尤も、最初に訓練をと、少年に言い出したのは自分だ。今更どうこう言って困らせるつもりはないし、少年は出来ない事をしない、させない人でもある。
コウタならこれぐらいは出来ると、信頼された上で任されているのだ。なので。俄然、やる気が燃え上がるというものだ。

「ああ、宜しく頼む――――ところで……アリサを知らないか?」
「ひぇっ!?」

 心臓が飛び跳ねて思わず変な声で応対してしまう。

「先程から探しているが……どこにも居なくてな。此処に来ていないか?」
「き、来てない! 来てないよぉッ!?」

 声が上擦っているコウタに気づいたのか、表情を険しくした。

「――――本当か?」

 有無を言わせぬ迫力。そして何か確信を持っているような言葉。
アラガミですら怯む少年の威圧に耐え、コウタは何度も頷く。
 一層視線を冷たくして――クローゼットを指差した。
コウタも恐る恐る振り返る。
 ――クローゼットの扉には、見事紅いチェックのスカートの裾が挟まっていた。
少年はコウタを押しのけて部屋に入り。クローゼットの前に行くと――。

「もういいかい?」

と、勤めて爽やかな笑顔で尋ねた。

「それを早く言え、まったく……」

 エントランスに向かうべくエレベーターに乗っている中、少年は微笑を浮かべた。
 コウタは嘘を付いた事で頬を一撃殴られ、

「お前ら最高にお似合いだよ! 畜生ーーーッ!!!」

と叫んで部屋に引き篭もった。

「あの……リーダー、怒ってないですか?」

 アリサにだけは罰が無かった。
 少年はは怒る時、誰であろうと怒る。無論恋人とで例外ではない。

「いや別に。お前はいつも予想の斜め上に行く奴だとは思ったが……それだけだな」

 まさか15歳にもなってかくれんぼとは、予想の選択肢にすら無かった。

「え…で、でも私コウタと二人っきりだったんですよ!?」
「――――? お前とコウタは友達だろう? 二人で居るのに何の問題がある?」
「そ、それは――その……嫉妬とか……しませんか?」
「するわけないだろう。お前は事あるごとに俺の部屋を訪ねてくるんだからな。接している時間は比べるべくもないと――」
「そうじゃなくて! ああもう! どうしてそんな鈍いんです!?」

 逆上して怒る。少年から見れば頬を膨らませて怒られても全然怖くないのだが。
 機嫌を取るようにしてアリサの頬を撫で、少年は微笑む。
アリサも擽ったそうにけれど、次第に手から伝わる温かさに目を細めて―――慌てて手を振り払った。

「そ、そうです! これがコウタが言っていた恋人に見えない原因です!」
「はあ……」

 役員区画で少年は降り、アリサも慌てて追いかける。

「真面目に聞いてください! 私は真剣なんです!」

 アリサの声に少年は足を止めて振り返る。表情は至って真剣そのものだ。

「なあアリサ。俺達は恋人、そうだろう?」
「はい」
「なら、それでいい。人の目など気にして無理をする必要は何処にもないな」
「…………でも」

 正論ではある。恋人なのは間違いないし、互いが互いに認めているのだから、他者がどうこう言おうと噂しようと、気に病む事は無い。
しかし、アリサはそれだけでは納得出来ない。
コウタが言う様にイチャラブな雰囲気で不埒な真似をしたいわけではないが、せめてもう少し互いの態度に色が出ないものか。
今のままでは、部下と上司に近いような繋がりで、いつか離れてしまいそうな。そんな恐怖もある。

「暫く支部長代理のところに行く。朝食は――出来れば配給品だけ部屋に届けて置いてくれると助かる」
「わかりました……」

 肩を落として去っていくアリサを横目に少年もまた小さく困りきったように溜息を吐き出した。

「やあ、ご苦労様! 君のおかげで沢山あった書類の山もこの通りだ」

 支部長代理――ペイラー榊博士が嬉しそうに声を上げる。
 肩の荷が下りたであろう表情は生き生きしていている。
 少年は書類を返し、さっさと踵を返す。

「ああ、ちょっと待った! 君、疲れてないかい?」
「少なくとも、変な薬を盛られない程度には、平気だ」
「そうかいそうかい」

 皮肉など気にも留めていないように快活に笑う。

「――――君はある意味、ヨハンにそっくりだ」
「どういう意味だ? 俺はあの人のように賢くはないし、ましてや人類の救済などという願望も持ち得ないぞ?」
「そうだねぇ。でも、君がその気になれば、“演技”するだけなら、ヨハンに迫るかもしれないよ」

 振り返る。少年はゆっくりと目を細めて博士を見た。

「謎掛けの剥がし合いは好みじゃない。どういう事か、はっきり言ってくれ」
「じゃあ単刀直入で聞こう。君の悩み、聞かせてくれないか? 勿論、これは“支部長命令”だ」
「……職権乱用だ」
「ヨハンが言っていたよ。「権利というものは使ってこそだ」とね」
「―――ありがとう」

 正直、少年は誰かに悩みを話したかった。
けれど責任感を持ち、悩みを話した事が一度も無い少年は、悩みを話す術を知らず、無理に博士が聞き出してくれたのは、本当に渡りに船という諺通りだ。

「実は二週間ほど前から――アリサと付き合い始めたのだが……俺はずっと彼女の事をどう思ってるか分からなくて……」
「アリサ君の方は?」
「アリサは……俺の事を好きでいてくれている。だから自分なりに答えを模索してきた……が、未だわからない」

悔しくて歯軋りする。
アリサの気持ちは嬉しいのに、それに応えられない自分の不甲斐なさが腹立つ。

「ふむ、男女の恋愛関係か。高名科学者もお手上げの難題だね」
「嫌味にしか聞こえないが――?」
「いやいや、君に喧嘩を売る程命知らずじゃないよ。私は自分の力量を弁えているからね。
 しかし聞いていてしまった後で悪いけど、私じゃあまり力になれなさそうだ」
「――――いや気にするな。俺としても誰かに聞いて貰えるだけで荷が軽くなった」

多少落胆したが、難しい事情が絡むものなので分からないまでもない。
それにやはり、この問題は自身とアリサのもので、他人の力は借りる訳にはいかないと思う。

「ただ、あくまで観察者として言える事もある。――私が見る限り……君はアリサ君と居ると嬉しそうだったよ」
「――――嬉しそう……」

 嬉しそう。その言葉が一日中、頭から離れなかった。「どうして嬉しそうでいられるのか」なんて野暮な問いはしないが、少年にはまだ“好き”の意味を理解出来る程の人生経験が無かった。
 故に考え続けて時間だけが過ぎ、悩みとして抱え込んでしまっていた。

「リーダーあの……最近おかしくありませんか?」

 夕食後。いつものように部屋を訪れたアリサが開口一番、そう切り出した。

「―――別に、何も」

 表情を全く崩さず、態度も平静なまま寛いでコーヒーを啜る少年。
 確かに、上辺だけ見れば何も変わりない第一部隊最強のゴッドイーターそのものだ。
 任務の指示も的確、被害を最小限に、効率的な手段を用いて殲滅していく様は、誰もが羨む実力者の片鱗そのものだろう。
 しかし、アリサは気づいていた。癖があるのだ。
 嘘をついたり、悩み事を抱えている時、必ず自身を客観的立場に追い込んでいくという癖が。

「嘘、ですよね? ―――わかるんです。ずっと、リーダーばかり見てましたから」
「――――――」

 断言すると流石に騙しきれないと判断したのか、少年は顔を苦々しいものへ変える。
 そして、何かを決意したようにアリサへ向き直った。

「確かに嘘だな。俺は悩んでいる。これ以上ないくらいに。―――でも、これは、俺が解決するべき問題だ。誰の手も借りるべきじゃないと思っている」
「…………もしかして、その悩み…………私に関係ありますか?」

 沈黙が肯定していた。悔しそうに俯く少年。これ程まで弱り切った少年を今までアリサは見た事が無かったし、見たくなかった。
 ましてや自分がそうさせているのだと思うと辛くて胸が張り裂けそうになる。

 ―――でも、もしかしたら。

 今の少年の姿を見たくないと思ったのは、もしかしたら憧れだからかもしれない。
 単に部隊長として、優秀で仲間想いの少年に憧れて、その姿をずっと見て居たかっただけなのかもしれない。

 そう考えた時―――――アリサは考えるより先に口を開いていた。

「―――――私と、別れてください」