
はい。じゃあ始めます。今回は、英語でいう名詞節についてやります。目標としては、次のような文を書けるようになろう。
- 私はこれが林檎であるということを知っている。
- 男は少女が店に来るということを待っている。
- そらは、ロジバンについて学ぶということが好きだ。

ふむふむ。「ということ」が共通だね。つまり、全部、文の中に文が入ってるっていう入れ子構造になってる。

そうだね。これをロジバンで実現するには、「命題を項として使えるようにする」必要があるね。

難しいけど、多分そういうことだ。

まずは、「命題を述なれ語に変換する」方法を学ぼう。{nu}を使うよ。
nu | 抽象詞;命題の左に付いて、その命題が内包する事象を抽出する。命題の範囲を含めた全体が1つの述なれ語となる。「x1は[命題]に表される事象だ」 |

分かりません!

…。ポイントは3つ。
- 命題を取り込んで、ひとつの大きな述なれ語をつくる
- その述なれ語は「x1は[命題]に表される出来事」というようなPSをもつ
- 終止詞は{kei}。すなわち、{nu...kei}で命題を囲むことで、述なれ語を作ることができる

ふむ…。えっと、じゃあ例えば、犬が走っているのを見て、
ti nu lo gerku cu barja kei = これは、犬が走るという(命題で表される)出来事だ。

というのはアリ?あんまり使えそうな代物ではなさそう。

ですよね。ま、これは前座みたいなものだし。じゃあ、これはどういう意味でしょう。
mi nelci lo nu mi citka lo plise kei
nelci | x1はx2が好きだ |
citka | x1はx2を食べる |

えっと…とりあえず文の構造を調べてみよう…。

「私は{lo nu mi citka lo plise kei}が好きだ」ということだね。

{lo}は述なれ語を取り込んで項にするから、{nu mi citka lo plise kei}という述なれ語を{lo}が項化してるんだ。その意味は…。

「述なれ語のx1であるようなもの」だったね。今回のx1はといえば、

ああ、「出来事」だ。つまり、
{lo nu ... kei}で、「〜という出来事」と訳せるんじゃない?

その通り。そら姉はときどき冴えてるよね。

時々とは失礼な。答えは「私は、私が林檎を食べるという出来事が好きだ」つまり「私は林檎を食べるのが好きだ」だね?

正解。ちなみに、
取り込まれた命題のx1が省略されているときは主文のx1と同じことが多いよ。だから、さっきの文は{mi nelci lo nu citka lo plise kei}と書いても多分通じるよ。
*1

さて、少しまとめると、
{nu}は命題を述なれ語にする ({lo}を使えば結果的に項にする)機能があるんだね。{nu}以外にもそういう語があって、それらをまとめて
抽象詞(abstractor)と言うのさ。

ふむふむ…。まあ確かに、出来事ってのは抽象的なものだもんね。

んで、抽象詞でつくった述なれ語を{lo}で囲んで項にしたものを
抽象節と呼ぶよ。これは名詞節に対応するね。

なるほど。

あと、抽象詞の主なものは {nu}と{du'u}と{ka}と{ni} の4つ。{ka}と{ni}は少し複雑だから、補習授業でやることにする。
*2

おっけー。じゃあ次は{du'u}だね。

{nu}の定義に「その命題(bridi)が内包する事象を抽出する」というのがあったでしょ。

うん、なんだかよく分かんなかったから見ないふりしたけど。

だと思ったよ。ま、「その命題で表されるような事象を表す」くらいの意味だよね。

ふむ。まあ、その命題を言ったときにイメージできるような出来事、くらいの意味だよね。イメージできるってことは「内包してる」って言ってもよさそうだ。

じゃあ、{du'u}についてやろう。{du'u}は、命題を
そのまま抽象化するんだ。
du'u | 抽象詞。命題の左に付いて、その命題が内包する『命題』を抽出する。命題の範囲を含めた全体が1つの述なれ語となる。x1 は x2(文字列)によって表される[命題] |

次の2つを見比べてみよう。
- mi nelci lo nu mi citka kei
- mi nelci lo du'u mi citka kei

違いは{du'u}と{nu}だけ。{mi citka}から何を引き出しているかが違う。1では「私は食べる」という出来事を、2では「私は食べる」という命題を好きと言ってる。

ああ、2って変だね。「私は食べる」っていう命題が好きだなんて。

うん。ちなみに{djuno}「知る」は x2に(命題)をとる。つまり、{du'u}で囲んだ命題を項にとる。
djuno | x1 は x2 (命題)・ x3 (題目)を x4 (認識体系)で知る |

なるほどね。知り得るのは「ある出来事を命題にしたものであって、出来事そのものじゃない」もんね。

えっ、その通りなんだけどなんか怖い。

セヴァンの中で私ってどうなってんのよ。

あと、オールマイティな抽象詞{su'u}というのは覚えていて損はないかな。
su'u | 命題の左に付いて、その命題の不特定の内包要素を抽出する。「x1 は[bridi]に表される不特定の抽象、x2(種類)の」 |

はあ。どの抽象詞を使えばいいか分かんないときに使えそうだね。

そういう「ごまかして」モノを言うための語がロジバンには割と用意されてて、{tu'a}もそのひとつだ。
*3
tu'a | 項になれる語の左に付いて、それが不特定の命題から抽出したものであることを示す。つまり、{lo su'u ...} の代わりに使える |

んん?よく分かんない。

たとえば、「飲み物がほしい」というのは、「飲み物を云々するということ(飲み物を飲むという出来事)が欲しい」ということでしょ。だから、{mi djica tu'a lo se pinxe}って言えるのよ。
djica | x1 は x2 (事)を x3 (目的)のために欲する/求める |
pinxe | x1 は x2 (液体)を x3 (容器/起源)から飲む |

なるほどねー。

いくつか注意を。ひとつは、{kei}は適宜省略できること(終止詞なんだから当たり前だね)。もうひとつは、抽象詞で作った述なれ語にSE類を使うことはもちろん可能ということ。

今更感だね。

たとえば、{mi denpa lo nu do klama lo barja kei ti}は「私は君がバーにくるのをこの状態で待つ」だけど、{kei}を抜くと{ti}が抽象詞で作った述なれ語の中に取り込まれちゃって、「私は君がバーにここから来るのを待つ」になっちゃう。
denpa | x1 は x2 (事)を x3 (状態)ながら待つ、 x4 (事)の開始以前/再開以前に |

そだね。

それから、{du'u}は「x1 は x2(文字列)によって表される[命題]」だから、{lo se du'u ... }は「...という命題を表す文字列」になる。

ほうほう。これって何に使えるの?

これは間接話法に使われることが多いね。{mi cusku lo se du'u mi ponjo kei}「私は『私は日本系だ』という命題を表す文字列を言う」つまり「私は『私は日本系だ』という旨を言う」だね。
*4
cusku | x1 (者)は x2 (内容)を x3 (聴衆)に x4 (媒体)で表す/言う/表現する |

なるほどー。

さて、これで終わりにしよう。命題を項として使いたいなら、抽象詞を使って、述なれ語にして、それから{lo}で項にする。お分かり?

余裕だわ。んで、抽象詞には種類があって、取り込んだ命題から何を抽出するかが違うんだったね。

{ka}と{ni}について知りたい人は補習授業
抽象詞をもっとをどうぞ。じゃあ、えーっと。宿題は、冒頭の3文を訳してね。
→
命題で項を(関係詞)
問題 : 次の日本文をロジバンに訳せ。 |
1. 私はこれが林檎であるということを知っている。 |
2. 男は少女が店に来るということを待っている。 |
3. そらは、ロジバンについて学ぶということが好きだ。 |
語彙 |
djuno | x1 は x2 (命題)・ x3 (題目)を x4 (認識体系)で知る |
plise | x1 は x2 (種類)のリンゴ属植物 |
nanmu | x1 は男(の人) |
nixli | x1 は x2 (年齢)・ x3 (基準)の少女/未成熟の女 |
zarci | x1 は x2 (取引品)・ x3 (営者)の店/市場 |
denpa | x1 は x2 (事)を x3 (状態)ながら待つ、 x4 (事)の開始以前/再開以前に |
klama | x1 は x2 (終点)に x3 (起点)から x4 (経路)を x5 (方法)で行く/来る |
nelci | x1 は x2 (物/事)を好む/好き/気に入っている |
cilre | x1 は x2 (命題)・ x3 (題目)を x4 (情報源)から x5 (方法)によって習う |
lojbau | x1 は x2 (使用者)が x3 (概念/命題/文字列)を表すのに用いるロジバン |
答え |
1. mi djuno lo du'u ti plise kei |
2. lo nanmu cu denpa lo nu lo nixli cu klama lo zarci kei |
3. la .soran. cu nelci lo nu cilre fi lo lojbau kei |
3.の抽象節のx1が省略されていることに注意。また、3問とも{kei}は省略できる。 |

「{nu}を使う述なれ語」「{du'u}を使う述なれ語」って何があるの?という人のために、いくらか挙げておくね。
@{nu}を使う述なれ語
badri | x1 は x2 (事)について悲しい/落胆している; x2 は x1 を悲しませる |
bredi | x1 は x2 (事)に向けて準備できている/用意が整っている/覚悟している |
cafne | x1 (事)は x2 (基準)において頻繁/しょっちゅう/頻発する/よくある |
certu | x1 は x2 (事/行為)の、 x3 (基準)における玄人/達人/プロ/ベテラン |
cfari | x1 (事/状態)は始まる/開始する |
cfipu | x1 (事)は x2 (観者)にとって x3 (性質)の点で紛らわしい/混乱をまねく |
ciksi | x1 (者)は x2 (事/状態/性質)を x3 (者)に x4 (命題, du'u)で説明/弁明/解説する |
cinri | x1 (事)は x2 の関心を惹く; x2 は x1 に関心がある |
ckasu | x1 は x2 (者)を x3 (事/性質)について x4 (行為)で嘲る/笑いものにする/ばかにする/ひやかす |
ckire | x1 (者)は x2 (者)に x3 (事/性質)を感謝する; x2 が x3 をしたことについて x1 はありがたく思う; x3 であることはありがたい |
cpedu | x1 は x2 (事)を x3 (者)に x4 (態度/方法)で頼む |
cumki | x1 (事)は x2 (条件)においてありえる/可能; x1 は可能性 |
darsi | x1 (者)は x2 (事/行為)に関して大胆に振舞う/ずぶとさをみせる/厚かましい; x1 はあえて/思い切って x2 をする |
denpa | x1 は x2 (事)を x3 (状態)ながら待つ、 x4 (事)の開始以前/再開以前に |
djica | x1 は x2 (事)を x3 (目的)のために欲する/求める |
fanza | x1 (事)は x2 の気に障る/をいらいらさせる; x2 は x1 でを苛つく; x1 は邪魔 |
fengu | x1 は x2 (者)にたいして x3 (事/性質)について憤慨している/怒っている |
fliba | x1 は x2 (事)に失敗する; x1 は x2 を怠る |
@{du'u}を使う述なれ語
birti | x1 は x2 (命題)が真であると確信している |
ciksi | x1 (者)は x2 (事/状態/性質)を x3 (者)に x4 (命題, du'u)で説明/弁明/解説する |
cilre | x1 は x2 (命題)・ x3 (題目)を x4 (情報源)から x5 (方法)によって習う |
ctuca | x1 は x2 (生徒/門下生)に x3 (命題)・ x4 (題目)を x5 (方法)で教える |
didni | x1 は x2 (命題)を x3 (題目)について x4 (一般法則)から演繹する |
djuno | x1 は x2 (命題)・ x3 (題目)を x4 (認識体系)で知る |
facki | x1 は x2 (命題)を x3 (題目)について発見する; x1 は x3 (物)を見つける/探し当てる |
fatci | x1 (命題)は事実/現実 |
jdice | x1 (者)は x2 (命題)であると x3 (題目/事)について決める/定める |
jetnu | x1 (命題)は x2 (認識体系)において真実/本当 |
jijnu | x1 は x2 (命題)を x3 (題目)について直感する/勘づく |
jimpe | x1 は x2 (命題)を x3 (題目)について理解する; x1 は x3 がわかる |
jinvi | x1 は x2 (命題)・ x3 (題目)を、 x4 (根拠)により真であると考える; x1 は x2 だと思う |
jitfa | x1 (命題)は x2 (認識体系)において偽/虚構/非真実/うそ |
krici | x1 は x2 (命題)を x3 (題目)について信じる |
morji | x1 は x2 (命題)を x3 (題目)について思い出す/回想する |
senpi | x1 は x2 (命題)の真実性を疑う; x2 は信憑性に欠ける |
smadi | x1 は x2 (命題)を、 x3 (題目)について推測する |
sruma | x1 は x2 (命題)が x3 (題目)について本当であると仮定する |
tugni | x1 (者)は x2 (者/観点/側)にたいし、 x3 (命題)・ x4 (題目)について賛成/賛同/同意する |
xusra | x1 は x2 (命題)を事実的内容として断言/宣言する |
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