- 投稿者:Yui-Nyaa "Lisa Hayes" (東京都)
歴代VFマスターファイルの“モノグラフ”〔単一機種を図版や写真付きで徹底解説して一冊にまとめた書籍のこと〕で、
- 可変戦闘機〔VF〕エピソードアーカイブスVol.1 (VF-19編 マスターファイル・シリーズ)
のような航空戦記 兼 航空機開発談話を除けば、一番売り上げが悪いようで残念な話です。
しかし私は保存用途で 3,000円×2 = 約6千円 の価額工面に苦労しながら Amazon さんから2冊も取り寄せてしまう位、お気に入りの1冊になりました。
暫定的な重力・慣性制御装置 “キメリコラ K-IVC”を補助に利用することを前提条件にしているため、艦上戦闘機なのに単車輪の首脚と主脚の華奢な構造、エンジンが
バトロイドの脚を兼ねていない為、切り離し可能という特異性、少数生産の高品位機と、ヒーロー性充分な要素満載なのに、マクロスシリーズ中での扱われ方が「光と影」のうち、影を担当すると否定的なので、評価で損をしています。
個人的には、マクロスフロンティア以降、機能や性能のインフレーション化で、現代の戦闘機の可能性の範囲から離れてしまい、絵空事ぽくなってしまった可変戦闘機の新方向性として、SF方向の独自性〔ユニーク〕と魅力を開花させたと
YF-21/VF-22 を評価しているだけに、この扱いは本当に残念でなりません。
特に
バトロイド時のクアドラン系を思わせる艶かしい曲線美の腕や脚部は、独特の魅力があるだけに、バトロイドや
ガウォーク形態の記事配分は他のマスターファイルよりは3頁ほど多いようですが、まだまだ足りないように思います。
一方で航空戦記二本立ては、戦記の項目が、あまりにも昭和時代の少年雑誌の活躍想像図や架空戦記の体裁に偏り過ぎていると感じました。
人類同士の現実の航空戦でも、もちろん一方の側から敵の状態は見えません。
けれども、相手の戦術思考は見えるはず。
例えば、敵機も海面スレスレに誘い込む機動をするとか、小惑星帯から奇襲を掛けてくるとか、相手も執筆者側の部隊に勝つ、言い換えれば自分達が死なないように知恵を奮ってきます。
バシュラは虫だから力任せに数で押しまくる戦術なのは仕方ないとして、少なくともゼントラーディ、バロータは知的生命体だから作戦や空戦に関しても知恵を絞ってくるはずです。
太平洋戦争末期の学徒兵の飛行なら、確かに『ゆるい隙間だらけの編隊での目的もなしに直線飛行』もあるかもしれませんが。
坂井三郎氏は、ベテランパイロットは、実戦では雷撃や急降下爆撃など明確な目的がある時以外、絶対に『目的なしの直線飛行』をしてはいけない、と部下に戒めていたそうです。
地球人より遥かに戦闘経験の高い彼らが、シューティングゲームのヤラレ敵機〔俗に言う「ザコ敵機」〕、あるいは「GIジョーのドイツ兵」のように、自ら弾に当たるように飛び出してくる筈がなく、ドッグファイトにせよ、ミサイルによる遠距離殲滅戦にせよ、お互いが自分たちが死なないように考えを巡らせる。
しかし、そこに「見落としによる不注意や、慢心油断があれば敵の奇襲などで壊滅する危険が常にある」それが戦場なのですが、その緊迫感が足りないように思います。
フリー記者パトリック・ヒルツの現役復帰話にせよ、女性テストパイロットのカーリナ・パセットのバロータ戦役でのマックス艦長支援の話にせよ「敵を千切っては投げ〜」の文体になっていて、アオシマの合体マシンのプラモデル付属の販売促進漫画の物語構成を感じます。
ヒルツ〔仮名〕少佐の反乱側の交渉の切り札であるMDEをパルス電磁波で無力化させる構成も、カーリナのエピソードで最後で思い出したようにテストパイロットとしての彼女の特性を書いて〔 121頁 〕るのは悪くないですが、どこか英雄談話に近い小説の地の文の作りがしっくり来ない。
いっそのこと、ヒルツやカーリナが自ら語る自伝による航空戦記にしておけば、仕方ないよねと、多少の誇張は納得出来るのですが。
総評としては、機体解説に関しては申し分なし。
但し航空戦記に関しては、誇張や現実味に欠けた記載を修正するか、あるいはパイロット自らの自伝として英雄談話風に処理するか等の改善を、今後の刊行予定書籍にて望みたいです。