今月は「日本の
水上機」特集、ということで、実質『日本海軍機』特集ということになります。
巻頭2頁のノーズアートクィーン、
月刊小泉麻耶 (SHINCHO MOOK 103)(
小泉 麻耶)さんの艶姿に殿方は目を魅かれるかとは思いますが、特集の機種自体は航空模型専門誌ならではの渋い選択になっています。
第8頁から同45頁までフロート機から
飛行艇まで 中島 A6M2-N 二式水上戦闘機[タミヤ 1/32 零戦二一型改造]、空技廠 1/72
[フジミ]、
川西 H6K5 九七式大型飛行艇 二三型[ハセガワ 1/72]、
川西 H8K2 二式大型飛行艇[ハセガワ 1/72]、
愛知 E13A1b 零式三座水上偵察機 一一乙型[ニチモ 1/48]の作例が目を楽しませてくれます。
変わったところでは、第48頁
アラド Ar196A-3[ドイツレベル 1/32] でしょうか? 日本軍に「撃墜されない」ようにマレーシアのペナン島基地・第196艦載飛行隊の同機は「日章旗」識別マークを主翼と胴体に大きく描き、遠目には日本海軍機に見えます。
第54頁からは日華事変前後から大戦初期まで活躍した複葉機、中島 九○式二号水上偵察機[ウイングス 1/48]、中島 E8N 九五式水上偵察機[コロジーモデル 1/72]、川西 E7K1 九四式一号水上偵察機[ハセガワ 1/72] が続きます。
出来ることなら、川西 E7K2 九四式二号の「空冷発動機を積んで大きく機首廻りが変化した派生型」も、いわゆる「赤トンボ」塗装の『無線操縦実験機』も含めて作例に欲しかったのは欲張りでしょうか?
第90頁からは
1/48 三菱F1M2零式水上観測機11型[ハセガワ]、新明和 US-1 レスキューバード[ハセガワ 1/72]が作例で続き、いずれも良い出来です。
第27頁「滝沢 聖峰」氏の短編読み切り漫画「夜間飛行」は連載企画ですが、極めて短い頁数ながら叙情的で水上機の世界観の育成に寄与しています。
今回、私が本誌を買いたいと思わせる最良の記事が 第92頁「夢見る翼」(第21回)にありました。
1/144 川西式四発飛行艇「大日本航空」(モノクローム 社) 和田 拓/竹縄 昌の両氏による、東宝の映画
南海の花束 [DVD](民間型)にて一躍有名となった97式輸送飛行艇の原型となった2機の【 H6-K3 】のうち1機が「大日本航空株式会社」が海軍から譲渡を受け「綾波号」(登録記号 J-BFOZ)の名で航路は西南大平洋の殆どを網羅しました。
具体的には
1. 日本本土(横浜港)‐ティモール、サイパン〜パラオ〜チモールの定期便
2. サイゴン〜トラック〜ポナペ〜ヤクルート便間の航空路開拓の業務
に殉じた経緯を知れば、実際の航路開拓は単純に「南海浪漫」では済まない、熱帯低気圧(台風)等の悪天候との闘い(当時は気象レーダーも無く航空気象分析や、長距離航法支援が未発達)であることへの困難さに想いを馳せるには初心者向け導入編としては十分な内容です。
モノクローム社の製品も 1/144と小縮尺ながら、通常は売れ筋を考えて「軍用型を基本」に模型を開発するところ、敢えて「民間機」としての設計を優先させ、艇体設計の基本型により忠実な、高アスペクト比(翼幅【wing span】と翼舷長【chord length】の比率)の約40mの長さの幅広主翼をパラソル形式に配置し、ポーポインジングに悩まされた
2式飛行艇 世界の傑作機 (No.49)]]と異なる強い幅広の長大な艇体を以て「白鳥が飛び立つ時」のような優美さがある機体を見事に再現していて、かつそのキットを文章と共に上手に調理する記事内容にも好感が持てました。
総じて現用ジェット戦闘機等のアニメ的な誇張された記事ではなく、かつての航空少年(少女)として、大人の優雅さで水上機&飛行艇時代を理解可能な方は実はカナダ連邦に次ぐ飛行艇大国である
新明和 US-1 (世界の傑作機 NO. 140)・救難飛行艇、そして与圧客室&荷物室を持つ後継機「
US-2 救難飛行艇 」の配備状況に思いを馳せるのに、本雑誌は最良の案内書になると思っています。