覇穹封神演義検証wiki - 十話 血の雨
◆脚本:池田臨太郎 ◆絵コンテ・演出:神保昌登 ◆作画監督:二松真理・高野ゆかり
孫天君の空間宝・化血陣に苦戦する太公望たち。しかし、玉鼎真人は太公望の策によっておもちゃの中に紛れた孫天君の本体を見極め、一刀で切り捨てる。
化血陣からの脱出に成功した太公望たちの前に、今度は王天君から通信が入る。捕らわれた楊戩を助けたければ、「一人で来い」と要求する王天君。
明らかな罠であるにも関わらず、玉鼎真人は自ら名乗り出て王天君の空間宝・紅水陣へと単独で乗り込んでいく。

(アニメ公式サイトから引用)


『十面埋伏、無影の如く!』


(2018年5月9日撮影)

覇穹公式サイトの"Story"の今回第10話のページの、上記画像では王天君のスクリーンショットの下部に載っているあらすじ文中にて、が宝に間違えられている。上述の転載したあらすじ文も参照のこと。
公式誤字シリーズの中でもかなりの致命的なミス。

『宝(ほうぐ)』とは


用語の意味するところが封神演義における宝貝と非常に近いことに加え、ご覧の通り宝とは漢字一字、それも横棒一画違いのため、書き間違いや見間違いを大変しやすい。
両作とも親しんでいる者なら、誤字に気付かないまま読み進められるほどである。

その他の例:


しかも、前述のように完結済みの封神演義と比べてシリーズ展開が現在進行系なFateの方が影響力が強いため、宝貝が宝具に間違えられることはあっても、逆はまず無いと言ってよい。そのため封神演義ファンにとっては何かとデリケートな言葉である。
ゆえに"原作を愛するスタッフ"が結集して制作している(らしい)覇穹には特に犯して欲しくない過ちだったのだが、このミスがネット上で指摘されるようになった15話放映後の時点でも修正する気配は全く見られない。

ちなみに、1話や2話、8話など他のエピソードのあらすじ文ではちゃんと「宝貝」と書かれている

いくら漢字が似ているとは言え読み仮名は全く異なるのだから、一度「宝貝=ぱおぺえ」の読みを覚えてしまえば、パソコンやスマートフォンの文字入力なら誤ることは基本的に、予測変換機能がおかしな動きをしない限りは無くなるはずなので、これは10話あらすじ担当者固有のミスだと思われる。
しかし長く修正がなく、そこに愛はないのかと考えさせられる件である。

「てきをうたねば!」

金光聖母「王天君! テキを討たねば!」
張天君に続き孫天君も敗れ、慌てだす十天君たち。
そして金光聖母は雪辱を果たそうと上記のセリフで王天君に次なる行動を求める・・・

だがこのシーンの原作のセリフは「孫天君の敵(カタキ)を討たねば!!」であった。
確かに敵(テキ)は討たねばならないので注意せずに聞いていれば気づきにくく、前後の文脈的にも大外れな意味にはなっていないが、わざわざキャラクターにセリフを与えて内面を描く意味でも、後者の方が正しいはずである。敢えて変える理由に乏しいうえ、「カタキ」と表現した方が、十天君同士の結束の強さを強調できるだろう。


原作14巻より

脚本家の他にも収録現場での音響監督や声優など、関係者中の誰が原因だったかは不明だが、小学五年生レベルの漢字の読み間違いくらいどこかで気づいて欲しいものである。

なんで一人で行く必要なんかあるのか

ただし、一人で来い。
と言いつけて通信を打ち切る王天君。格納庫内のワープ宝貝を見つけた太公望はすぐ乗り込もうとするスープーを「これは罠だっつーの!」と言って制し単独で乗ろうとするが、明らかに罠の予感があるならば、尚更バカ正直に敵の言う通りに動くのは危険ではないのか?
いくら指示に従わねば人質の楊戩が危ないとはいえ、十天君との戦いが待っていると分かっているなら、重要な戦力の玉鼎真人をどうにか一緒に連れていけるよう、何かの策を講じるのが玉鼎も言う「崑崙で最高の頭脳をもつ」者のとるべき行動ではないのか。
それとも、前回のアバンタイトル部分にて明かされたように、水面下でグルになった太公望と王天君が芝居で玉鼎を罠に誘導しようとでも言うのだろうか。

もちろんそんな悪意は無く、王天君の「ただし」の後に続く「そいつは一人乗りだ」という大事な条件を述べていた原作の台詞を雑に削ってしまったから妙な流れになっているのである。
行方不明だった楊戩が人質にされたことが判明し、その居所は分からず、ワープ宝貝も全員が乗り込んでは動かない仕組みにされている、という不利な状況だからこそ、仕方なく太公望は敵の言う通りにしようとするのだ。
仙界大戦編の始まった7話以来、序盤よりもだいぶストーリーの進行スピードが落とされているので、描写したい内容に対する持ち時間には余裕があるはずである。にも関わらずこういう短くも意味の大きい台詞を削るあたり、依然として脚本チームの読解力は信用ならないと言わざるを得ない。

加えて太公望の、
わしらを一人ずつ、確実に殺す作戦に変更してきおったわ。
と口にして王天君の戦略を推理する理由も、この「そいつは一人乗りだ」という台詞で制限された状況を作られたと察したからこそである。
だが覇穹の「一人で来い」と言われて素直に一人で行こうとしているこの状況では、太公望側が勝手に王天君の言うがままになっているだけにしか見えない。皮肉なことに前回のアバンタイトルで先出しした内容がうまく効いている。

「ヒライイ」って何だ

元始天尊様のヒライイと同じシステムのようだのう。

格納庫の中で王天君の指示通りワープ宝貝を見つけた太公望の感想。でも「ヒライイ」って何よ?

ヒライイ=飛来椅
原作11巻にて、太公望たちと趙公明の戦いを見守りに元始天尊が地上に現れたシーンで初登場した彼専用の乗り物。
一応、下画像のように覇穹でも7話にて登場済みである。


この画面の大半を占める球体が飛来椅。本体の左右に手も生えてるのだが映ってない。

原作では飛来椅初登場シーンのコマ外にこの乗り物の名前を説明する注釈が小さくついているのだが、趙公明編をばっさりカットした覇穹ではこれがワープして現れる場面が無いので、原作未読の視聴者は金鰲のワープ宝貝についてこんな例えをされようが何を言ってるのか全く分からない

仮に趙公明編が覇穹で映像になっていても、宝貝の名前をロクに紹介しない方針の本作では、この乗り物に「飛来椅」という名前があるのか伝わっていないので、やはり意味不明な台詞に終わるだろう。現に上で示した通り覇穹でも「未登場ではない」のだから。
カットしてはいけない「そいつは一人乗りだ」はカットするのに、むしろこのようなカットすべき台詞は何故残すのか。

ちなみにこの金鰲のワープ宝貝、玉鼎が乗り込んでワープする描写は開始から12分10秒時点の一瞬だけ、かつ画面演出も効果音も地味なのでワープしているさまが分かりにくい。「ワープしないで団扇で飛んでるだけじゃないか」と思った視聴者は少なくないだろう。

楊戩しか見えない

傷つき変わり果てた玉鼎真人が紅水陣の壁を破壊し、最後の力で庇っていた楊戩を陣の外へ放り出すと、太公望は楊戩に駆け寄り「楊戩…」と呟いて抱き寄せる…
そして玉鼎が愛刀を持つ力も失って、斬仙剣が通路に転げ落ちた音を聞いて初めて太公望はその人影が玉鼎だったことに気付いたような反応で彼の方に顔を向けるのである。太公望も玉鼎に冷たくないか。

無論原作14巻ではこのような、誰も彼も楊戩しか見ていないような流れにはなっていない。太公望は楊戩を抱きかかえつつも、顔は玉鼎の方を向いて彼の身を危ぶむ。

また、このシーンで警戒する身振りも無く紅水陣に駆け寄る太公望も、本来ならば彼らしくない。敵陣である金鰲島内の、それも如何にも得体の知れない雰囲気を醸し出している物体に不用意に走って近づくのは慎重な頭脳派キャラクターのとる振る舞いだろうか?「覇穹の太公望」らしい、と考えればそれまでだが。
これはおそらく、覇穹では消されてしまった蝉玉が、原作では自分の母校気分で金鰲島内を走り回って紅水陣の外壁にも気軽に近寄り、それを追いかけて太公望もやむなく紅水陣に接近する…という展開を乱暴に縮めてしまっているからであろう。