2012/04/04(水) 23:46:32.05 ID:H9PczKFm

A.N.JELLがニューシングルを出すことになり、打ち合わせで事務所にやってきたRINA。
2週間後にジャケット写真の撮影を控えた今日は、その衣装を考えるために
メンバー、社長、馬淵と共に曲のイメージをすり合わせることになっている。


「お疲れさまでーす」
挨拶しながら会議室に入ると、馬淵がデリバリーのメニューとにらめっこをしていた。
「よっ、RINAも来たな。これから弁当頼むけど、お前はどうする?
ミーティング終わったら一緒に食わないか?」
「あ、そうする!私のも頼んどいて!」


───
熱の入った打ち合わせから一転して、今はシンとした会議室の中。
馬淵と2人で弁当をつついていると、話はメンバーの恋愛事情…というか、
そのせいでますます多忙になった馬淵の愚痴になった。

「スケジュール合わせるの大変だよ。廉はともかく、美男はNANAちゃんが相手だからな」
「そうねぇ。そのうち柊や勇気に彼女ができたらもっと大変になるんじゃない?」
「俺の苦労も知らないで、あれこれわがまま言いまくるんだろうな〜。ひー、怖い怖い」
「まあまあ、あの子たちの幸せのためじゃない。頑張んなさいよ〜!」

まったく…相変わらず大げさな顔しちゃって。
でも馬淵の愚痴って、全然嫌そうに聞こえないのよね。逆に楽しんでるんじゃないかって思うくらい。
結局この人、みんなのことが大好きなんだわ。

「それにしてもみんな若くていいわよね〜。ラブラブでうらやましいわ」
馬淵の愚痴につられて、私もつい本音とため息を吐き出した。
このところ、恋愛からはすっかり遠ざかってしまっている自分がなんだかむなしい。
「RINAだって若いくせに、なにオバサンみたいなこと言ってんだよ。
お前だって彼氏くらいいるんだろ?もうそろそろ結婚でも考えた方がいいんじゃないのか?」
「え?結婚?…そんなの大きなお世話よ」
馬淵が私に彼氏がいるって決め付けてることが、やけに胸に引っかかる。
「それに彼氏なんていないし」
可愛げのない、ぶっきらぼうな声しか出てこない自分に少し驚いた。
あれ?
なんで私、こんなにイライラしてるんだろ…。


「結婚だったらあんたの方が先でしょ?なんでその歳で独身なのよ」
「そりゃさっきも言ったとおり、忙し過ぎるんだっての。RINAだってわかるだろ?」
そうよね。私は知ってる。
A.N.JELLを裏で支え続けるために、あんたが毎日一生懸命頑張ってる姿。

「忙しいし、そもそも出会いってやつがないんだな」
馬淵が何気なく言い放った一言にまたイラっとした。イラっとして…なぜか胸の奥がチクチクする。
やだ。なんなのよ、この気持ち。

…あ。わかった。
私、くやしいんだ。この人に、女として見られてないことが。

でもちょっと待って。よく考えなさいRINA。目の前にいるのは「あの」馬淵よ。
私よりずっと年上でもう50歳も近いのに、うだつの上がらない、冴えない男。
見た目だってぱっとしないし、好みでもなんでもない。お調子者だし、おしゃべりだし、気も弱いし。
でも…。
そんな馬淵には気が置けないのも事実。
この人の前では私、飾らない姿をいつでも無理なくさらけ出せた。
それなら、やっぱりそういうことなのかな…。

「どうしたRINA?さっきから黙ってるけど…」
「新しい出会いなんて、なくていい」
「え?」
意外な答えだったのか、馬淵は箸でフライを持ち上げたままふっと顔を上げてこっちを見た。
なんだか締まらない、間の抜けた表情。やっぱりカッコ悪いけど、絶対に憎めない顔ね。
「だって…もうとっくに出会ってるんじゃないの?」
「は?とっくに、って…」
少しずつ速くなる胸の鼓動を必死に隠して、私は馬淵と目を合わせ続けた。

「あ、いや…。そう、かもな…」
我慢できなくなって、先に目を逸らしたのは馬淵の方。
この人は多分、これで私を意識した。
だってほら、もう耳が赤くなってるもの。

この先どうなるかなんて全然わからないけど…とりあえず今はこれでいい。
そして私は、この人と他愛もない話をしながらふたりで同じ時間を過ごしていくのを想像した。
うん、悪くないかも。

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