【勇気×NANA】Intoxicated01*エロなし

2012/02/01(水) 23:00:10.93 ID:/KU6VvIU

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ふと気が付くと目の前にNANAがいて、俺の顔を覗き込むように見つめていた。
「?!」
慌てて身体を起こしてしばらく辺りを見回し、そしてようやく自分が今どこにいるのかを思い出した。
どうやらNANAが起きるのを待っている内にソファで寝てしまったらしい。
知らない間に身体に毛布が掛かっていた。
「俺、寝ちゃったのか…ごめん」
NANAがコクンと頷く。
「その、おまえ…もう大丈夫か?」
彼女はもう一度、何も言わずに頷いた。

部屋着に着替え、ラグマットの上にペタンと女の子座りをしているNANA。
その姿はなんだかひどく心許なくて、小さく見えた。
自信なさげに伏せた目からは、可愛らしいアイドルの顔も、その裏側の小憎たらしい顔も想像できない。
それは俺が初めて見るNANAの表情で、なんだか新鮮な驚きだった。

「…こっち、座るか?」
NANAはまたひとつ頷いて俺の隣に少し距離を置いて座り、クッションを胸に抱えた。

酔いが覚めたら絶対に文句言ってやろうと思っていたのに、そんなことすっかり忘れてしまっていた。
NANAも黙ったまま何も話そうとしないから、どうしても気まずくなる。
沈黙が続く重い空気に耐えられなくなって、口を開いた。

「あ、あのさ。毛布…ありがとう」
NANAが軽く頷く。
「すぐ帰るつもりだったんだけど、迷惑掛けちゃったな」
今度は首を左右に振った。
「なぁ、なんでさっきから何も言わないわけ?」
彼女は何も言わずに俺の顔をチラッと見て、クッションに顔をうずめた。
なぜか、泣きはらした後のような赤い目をしていた。
「ま、いっか。気が向いたら話せよ」
そう声を掛けると、NANAはクッションに顔を押し付けるようにしてもう一度頷いた。


それにしても、改めて考えるとすごい状況だ。
成り行きでこうなったとはいえ、NANAの部屋で2人きりだなんて。
最近は嫌なヤツだと思うことが多かったけど、今のしおらしい姿を見ていると可愛らしいとさえ感じる。

もともとは大ファンだったんだよな…。
あの頃は裏の顔があるなんて知らなくて、雑誌やテレビで見る天使のような笑顔に純粋に惹かれたんだっけ。

(あーあ、いつもあんな風にしてれば可愛いのにな。そしたら俺だって今頃…)

 『NANAちゃん、俺と…付き合って下さい!』
 『……はい』

(そうそう、ちょっぴり照れたように俺に微笑みかけるんだ。くーっ、かーわいいっ!)

妄想した勢いで隣を見たら、NANAとバチッと目が合ってしまった。
恥ずかしすぎて大慌てで目をそらしたけれど、胸がバクバクして止まらない。
(しっ、静まれ!俺の心臓!)
自分の身体の一部なのに、どうにもコントロールできない鼓動。
それでもなんとか制御しようと、必死にその方法を考えて…。
「ちょ、ちょっとキッチン借りるからな!」

何か温かいものでも飲んで落ち着きたかった。
冷蔵庫にあった牛乳でホットミルクを2つ作り、NANAにもマグカップを差し出す。
「勝手に悪いと思ったけど…。飲みなよ、落ち着くからさ」

お互いに黙ったままホットミルクを少しずつすすった。
熱い液体が喉から食道を通り抜け、胃の中をじんわりと温める。
さっきまでの激しい鼓動も次第に収まっていった。


「ふぅ…」
温かいものを飲むと自然とため息が出てしまうのはなぜなんだろう。
そんなことをぼんやりと考えていたら、隣から小さな声が聞こえてきた。
「あったかい…」
マグカップを両手に抱えてNANAがつぶやいた。
深い息と一緒に、胸の奥につかえていたNANAの言葉も戻ってきたみたいで、なんだか少しほっとした。

「やっと喋った」
「…うん」
「どうしたんだよ。なんか変だぞ」
「勇気…」
「何?」
「ごめんね、迷惑かけて」

思いがけないNANAの言葉に正直うろたえた。
何で今日はこんなに素直なんだろう?
素直すぎてかえって気味が悪いくらいだ。

「いいよ、謝るとか…らしくないことするなって。そうだNANA、変な寝言言ってたぞ!」
「え…?」
「好きとか、バカとか、気付けとか」
「ぁ………」
NANAが耳まで真っ赤になって、またクッションに顔を押し付けた。
「バッカだよな〜。それ廉さんに言うことだろ?俺に言ったってしょうがないじゃん!カッコわるぅ〜」
わざとらしく大げさにからかうと、NANAは顔を伏せたまま首を左右に振った。
「違う…」
「はぁ?何が?」
NANAがクッションから顔をガバッと上げて、真っ赤な目で俺を睨みつける。
その真剣な顔に気圧されて怯んだ瞬間、NANAが俺の胸元を掴んでいきなり顔を近づけた。


「?!」

不意に押し付けられたNANAの唇。
何が起きているのかまったく理解できなくて、ひたすらまばたきを繰り返す。
ほんの数秒後、NANAは俺の胸を突き飛ばしてベッドルームへと駆け込んで行った。

「な、なんだよ今の…」

鼓動はめちゃくちゃに乱れ、押し付けられた唇の固い感触がジンジンと痺れるように残っている。
そんな…嘘だろ?


しばらく経っても寝室から出てこないNANAが気になり、ドアをノックしたが返事がない。
耳を澄ますとすすり泣くような声が聞こえ、急いでドアを開けた。
「…NANA?」
「来ないで!」
暗い部屋の中で、NANAはベッドの足元に座り込んで泣いていた。
その姿を見たら勝手に足が動き、気付いたらNANAのそばにいた。

「大丈夫か…?」
なぐさめないと、と肩に手を伸ばしたけれど、NANAはそれを拒んだ。
「勇気が好きなのは美男なんでしょう?!あたしのことなんかほっといてよ!」
なんとかなだめようとしても、じたばたして言うことを聞いてくれない。
「NANAっ!」
仕方なく両肩を無理に掴んで大声を出すと、NANAはビクッとたじろぎ、ようやく暴れるのをやめた。
涙を溜めた目で俺を見つめる。


「なあ、落ち着けよ。どうしたんだ」
「前に見かけたのよ…偶然、勇気があのバスに乗ってたところ。すごく切なそうな顔して…」
「えっ…?」
(もしかして、あの時…)

夏の終わり。
この前、俺がバスに乗っていた時だ。
もう美男のことは諦めよう。あいつには廉さんがいるんだから。
そう考えて、この気持ちを吹っ切ろうと思ってた。
NANAの言うとおり、切なくて、苦しそうな顔をしていたんだと思う。
実際、すごくきつかったから…。

「不思議なの…。胸が苦しくなって…それからもう勇気のことしか考えられなくなっちゃって…」
…全然気付かなかった。
ずっと、NANAは廉さんが好きなんだって思ってたから。

「勇気にあんな顔させる美男が許せなかったのよ!だから、だから…」
だから…美男にあんなことを。
そっか。俺のせいだったんだな。

「勇気に怒られて、ヤケになってお酒飲んで…。バカよね、私…」
NANAの目から大粒の涙がぽたぽたとこぼれ落ちる。
「泣くなよ…」
NANAの頭を引き寄せ、左胸で受け止めた。
あふれ出す感情の雫が服に染みこみ、その熱は皮膚をすり抜けて胸を締めつける。
素直な心をさらけ出してくれたNANAに真剣に向き合おう、そう思った。


「NANA、よく聞いてほしいんだけど…」
NANAの瞳をしっかりと見つめて話し始めた。

「俺は、美男のことを守りたいと思ってる」
「やめて!そんなの聞きたくない!」
NANAが必死に耳を押さえる。
「いいから最後まで聞いて!」
耳から手を引き離し、抵抗できないように手首をギュッと握りしめた。

「美男を守りたいのは、あいつが仲間だからだ。それ以上の気持ちは…もうないよ」
「え…」
「俺さ、1人になりたい時にあのバスに乗るんだ。そうすると、心をリセットできるから。
NANAが俺を見たのはたぶん、美男のことをあきらめようと思ってた時だよ。
確かに切なくて、苦しかったけど…。もう、あいつへの想いは吹っ切ったんだ」
「そんな…。じゃあ私…」
「そう、だからこれ以上美男にあんなことしなくていいんだよ。俺はもう、大丈夫だから」
「…本当に?」
「本当に!」
そう言ってニカッと笑ってみせると、NANAの表情がみるみるうちに呆然となった。

「もう…私って本当にバカ!勝手に勘違いして、美男にひどいことして…」
NANAが首を振りながらため息を吐く。自分で自分に呆れてしまったようだ。

「勇気…私のこと、嫌な女だって思ってるでしょ?…軽蔑していいからね」
ぐすっと鼻をすすり、手の甲で涙を拭いながらNANAが言う。
「軽蔑なんかしないっつーの。でも、美男には今度ちゃんと謝れよ」
「うん、そうする…」
「よしっ」
素直に頷くNANAの頭を、手のひらでポンポンと軽く叩いた。

あのNANAの態度は、愛情の裏返し。
それがわかったら、彼女のことが急に愛おしくなってきた。
自分のことをこんなに想ってくれる人がいる。それだけで、心が満たされる気がした。


「少し、遠回りしちゃったみたいだな」
「え?」
「俺、単純だからさ。はっきり好きだって言われた方がわかりやすいっていうか、その、うれしいっていうか…」
話し始めてから、まるでNANAに告白してるみたいだって気が付いた。
急に照れくさくなって、うまく話せなくなった。
「それにおまえ、素直にしてると…やっぱり可愛いし…」
そこまで言って、言葉に詰まる。
顔が熱い。

「かわ…いい…?」
「うん…。超、可愛い…」
ドキドキしながら小さな声でつぶやくと、NANAの耳が真っ赤に染まった。

「うれしい…」
そう言いながら、俺の胸にNANAがふわりと飛び込んできた。
ごく自然に、まるでここがずっと前から自分の居場所だったみたいに腕の中に収まる。

「好きよ、勇気。…ギュッてして」
「う、うん」
ためらいがちに背中に腕を回して、NANAの身体を抱きしめる。
やわらかくて、あったかくて…ずっとこうしていたくなった。

「ねえ、勇気」
「ん?」
「このまま…いっぱい抱きしめて…」
「あの…NANA、それって…」

少し照れくさそうにNANAが頷いて、俺の胸に顔を埋めた。
断る理由なんか、どこにもなかった。





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