【廉×美男(美子)】君に贈るセレナーデ01*エロなし

2012/02/10(金) 21:49:13.57 ID:1ER8nhHo

「たくさん食べて下さいね!」

料理の出来栄えを褒められ、美子は嬉しそうに笑みを零しポタージュスープが
入った皿をキッチンから運び出した。

「俺と美子が早起きして作ったんだ、残すんじゃねぇぞ」

テーブルにスープ皿を置く美子に続き人数分のスプーンとフォーク、
サラダが入った大きなボウルを持って来た美男は、相変わらず可愛げのない口調で言う。
同じ顔をしていながら二人の性格は全く異なり、それがどうにも滑稽だったようで。
勇気と柊は一瞬顔を見合わせて思わず吹き出し、俯き加減になると小さく肩を揺らした。

「ぷぷっ…美男は味見と盛り付け“だけ”担当だろ?」
「…勇気、お前には俺が作った杏仁豆腐をデザートで出してやるよ、特別にな」
「すいませんごめんなさい遠慮します」

どうにか笑いを収めた柊とは違って美男をからかい始めた勇気だったが、
彼の絶対零度の微笑みと共に止めを刺され、あえなく白旗を上げて降参する。
美男の手料理をまともに食べたら最後、半日はトイレとお友達になるのが必須なのだ。

「お兄ちゃん、勇気さんに意地悪しちゃダメだよ。早くこれ運ぶの手伝って?」
「…分かったよ」

キッチンへ戻った美子は勇気に対する兄の失礼な物言いに
呆れ顔で注意し、彼を呼び付けた。
大事な大事な妹に滅法弱い美男。
大人しく指示に従い、淹れ立てのコーヒーが入ったマグカップと
サラダの取り皿をお盆に載せ、リビングへと運ぶ。

「お砂糖とミルクはどうします?」
「あ、俺はどっちも!」
「ありがとう、俺は砂糖だけで大丈夫だよ」

コーヒーに追加する物の好みを尋ねると、勇気はミルクと砂糖の両方、
柊は砂糖だけとの回答があった。
それらを手に、小走りでリビングまで移動する。



「はい、どうぞ。…えっと、お兄ちゃんと廉さんはブラックだよね」
「あぁ。…それにしても遅いなアイツ。二度寝してんじゃねぇか?」

勇気と柊に砂糖とミルクを必要分手渡した所で、美男が
いつまでも顔を見せない廉を訝しむ。
普段から割と寝起きのいい彼にしては珍しく、美子も少し心配になった。

「俺、寝坊する廉さんなんてまだ見た事無いよ」
「…このところスタジオに缶詰めだったからな。きっと疲れてるんだろう」
「…ちょっと見て来ますね。皆さん先に食べてて下さい」

作曲の苦労を間近で見ていた柊が信憑性ある語り草で言えば、
余計に美子の不安は煽られ ひとまず様子を見に部屋へと向かう。

「廉さん、大丈夫ですか?」

扉の前に立ち数回ノックをしてから声を掛けたが、返事は無い。
やはりまだ寝ているのだろうか。

「入りますよ〜……あれ?居ない…」

そっと中へ入ると、先程まで少々寝乱れていたベッドは綺麗に整っており、
廉の姿も無かった。
不思議に思い辺りをキョロキョロ見回す。

「…どこ行っちゃったんだろ…」
「呼んだか?」
「えっ!?れ、廉さん!ビックリしました…」

気配無く背後からいきなり彼の声がし、心臓が止まりそうなほど
驚き目を丸くして振り向く。
廉は美子のすぐ後ろ、開きっぱなしの扉に凭れ掛かる形で立って居た。
寝間着から早々に着替えて身支度も済ませたらしく、
糊の利いた白いYシャツに黒のベストとスラックス、グレー掛かった
渋いパープルの細身ネクタイという私服が彼の
キリッとした印象を際立たせ、思わず見惚れてしまう。



「何だ?」
「あ、いえ…あの、今までどこに?」
「…顔を洗ってただけだ。寝惚け面をアイツらに見せられないし」

口を半開きにしたまま固まった、その理由を悟られないよう即座に話題を変えると、
思わぬ言葉が返って来た。
どうやら廉は、美子以外の人間に気の抜けた格好を見せたくないらしい。

「そうだったんですか。でも、皆さんあんまり気にしないと思いますよ」
「アイツらは良くても、俺が気にするんだ」

交際前と変わらぬプライドの高さと潔癖症に、つい苦笑が漏れた。
彼はA.N.JELLのメンバーと一つ屋根の下で暮らしてもう二年半ほど経つはずだが、
皆へ100%気を許している訳ではないように見える。
現に、水沢麗子が廉の実母だと知っているのは自分を除き、メンバー内では
兄の美男だけだ。
全てを晒け出す必要は無いにせよ、家族同然の皆に寝起き姿くらい
見せてもいいような気がする。

「…あれ?でも…、前は寝起きのまま…皆でご飯食べてたような…?」

大股に歩いていく広い背中を眺めながら、美子は一人首を傾げた。

この時はまだ、廉の小さな異変に気付く由もなく…。





「いただきます」

A.N.JELLのメンバー全員、朝の身支度を完了させた廉もリビングに座した所で、
美子は彼の斜め向かいの席へ腰掛け朝食を食べ始める。
ホットサンドの具は皆同じだが、廉の嫌いな物にならないよう気を付けた。

「ん、美味い美味い!」
「美子の料理はいつも優しい味がするね」
「当然だろ、俺の妹だぜ?」

延々と妹自慢を繰り広げそうな美男はさておき。
元気にガツガツと朝食を頬張り満面の笑みを浮かべる勇気と、
穏やかな微笑と共に味を楽しむ柊から手料理を絶賛され、
美子の気分はすっかり上昇する。

「ありがとうございます。そう言ってもらえると頑張って良かったなぁって、
嬉しくなりますね」

彼らに笑顔を向けて応えた後、どんな評価が下されるのか一番気になる廉へ、
そっと視線を移してみた。

「…ま、それなりに美味いんじゃないか」

甘い方のホットサンドを一口食した廉が、目を逸らしたまま言う。
やはり素直に褒めてはくれないが、初めて手料理を食べさせた時よりも
遥かに良い感想を受け、心底ホッとした。

「良かったです、廉さんのお口に合ったみたいで」
「…ふん」

まるで昭和の頑固親父に、貞淑な妻といった会話内容。
周りが笑いを堪えているとも知らず、美子は廉の食事風景を
飽きる事なく眺めながらスープを飲む。

彼の母親は、小学校へ通う頃にはもう居なかったと聞いた。
しかし廉の食事マナーは完璧で、尚且つ普段の口の悪さとは裏腹に、
ふとした時現れる所作の美しさからも育ちの良さが滲み出ている。
著名な指揮者である彼の父が、余程しつけに厳しかったのかも知れない。
自分と兄も施設の院長に基本的な礼儀作法などを習ったが、
ごく一般家庭に育った子と大して代わり映えしないレベルだと自覚している。
一朝一夕では身に付けられぬ上品な佇まい…それもまた廉の魅力だろう。

「廉さんは今日もスタジオ?」
「いや、アレンジは家でやるつもりだ。早く出来れば今日中に
事務所へ持って行くけどな」
「そっかぁ…俺はレギュラー収録だし、美男は雑誌の取材だろ?
柊さんは…」
「昨日までCM撮ってたから、今日はオフだよ。温室を手入れしようと思って
NANAも呼んであるんだ」



各々食事をしながら今日のスケジュールを話す。
最近になってますます個人での仕事が増え、半年ほど前から馬淵の下に
若手男性サブマネージャーが新たに三人加わり、メンバーのバックアップも万全。
“やっと俺にも部下が出来た!”と、美子の帰国パーティーで酔った馬淵が
騒いだ事は記憶に新しい。

「美子は…確か、泊まりがけで出掛けるんだっけ?」
「あ、はい。修道院の施設で毎年ある行事なんですけど、
今回は青空学園の子供たちと合同でキャンプに行くんです」
「みんな喜ぶだろうね。くれぐれも危ない目に遭わないよう、気を付けて?」
「はい、柊さん。ありがとうございます」

柊らしい気遣いの一言を有り難く受け取り、頭を下げる。

美子は現在、青空学園の非常勤職員として働く傍ら、自分が生まれ育った
施設の孤児たちの為、ボランティアにも励んでいた。
休みの日は合宿所の家事をこなし、子供と接する上で必要な
保育士資格を取得するべく、勉強も欠かさない。
兄に代わってA.N.JELLのメンバーとなり芸能活動をしていた時期と同じく、
忙しい日々である。

「…泊まりがけ…?何だそれ、俺はそんな話聞いてねぇぞ」

楽しく談笑しながら食事を続けていると、斜め向かいの席から低い
唸りにも似た不機嫌極まりない声が届き、皆一斉に廉を見遣る。
ホットサンドを完食した彼は腕を組んで美子を真っ直ぐ見据え、
眉間に深く皺を寄せていた。

「あ…、すみません…
昨日お話ししようと思ってたんでけすけど、その……」

ここで初めて、己の失敗に気付く。
キャンプで子供たちを引率するはずだった職員の一人が、一昨日から
酷い風邪でダウンしてしまった為、急遽代わりにその役を引き受けた事を
廉へ報告し忘れていたのだ。
作曲中は迷惑を掛けまいと、直接会った時に伝えるつもりが…
昨夜遅く帰宅した彼の成すがままベッドに雪崩れ込んだ所為で、
結局言えず終いのまま。
どうすればこの場を丸く収められるのか分からず、
しどろもどろになる美子を見た廉は、眼光鋭く睨みを利かせた。

「言いたい事はハッキリ言え」
「…すみません…で、でも急に決まった事なんです!明日の夜には
戻りますし、そんなに遠い所じゃありませんから…」






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