【廉×美男(美子)】君に贈るセレナーデ20*エロなし

2012/11/11(日) 02:23:22.01 ID:enUFwA0l

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「…お疲れ様、美子。よく頑張ったね」
「…柊さん…」

そっと静かに舞台袖へ捌けると、頑張って歌い切った美子を労うよう、柊と勇気、美男が出迎えた。

「美子の歌、すっげー良かった!…廉さんのお母さんも、喜んでくれたみたいだよね」
「ありがとうございます。ホントは緊張で倒れそうだったんですけど、最後まで歌えてホッとしました」

勇気はプレッシャーに負けず本番を成功させた美子の手を握り、明るく褒め讃える。
柊も柔和な笑みで、やんわりと頭を撫でてくれた。

「……出来るなら…俺らもあんな風に………」
「え?お兄ちゃん、何か言った?」
「いや……何でもねぇよ。とにかくサプライズが上手く行って良かったぜ」
「うん…そうだね……」

和解した二人の様子に目を細め、美男は何か言い掛けたようだったが、結局はぐらかされる。

だが、美子には何となく分かってしまった。

もしかしたら兄は、廉と麗子に自分たちの姿を重ね、夢見ていたのかも知れない。
決して叶わぬ、両親との再会を。


「いや〜でも、こんな時にあのバイトが役立つとは思わなかったよ」
「あ…そうでした、勇気さんとお兄ちゃんが照明を担当してくれたんですよね?」
「そうそう。やってて良かった、照明係!」

今回のプライベートライブの立役者は、A.N.JELLメンバーに他ならない。
下積み時代、勇気と美男は舞台照明、柊には劇場の音響アシスタントというアルバイト経験があり、
今夜の演出をドラマチックに仕上げたのである。

廉から事情を聞いた三人が一致団結し、見事なサプライズを披露出来た。
皆のスケジュールが空くよう調整してくれた、馬淵と芳井…
そして安藤社長にも、礼を言わなければならない。

「でも、せっかくこ〜んなにオシャレしたんだから…
…このまま縁の下の力持ちで終わるのは…ね、柊さん?」
「確かに。ちょうど、舞台にはギターとドラム…
おっ、キーボードもある事だし……な、美男?」
「あぁ…廉一人にいい格好、させられるかよ!」
「へっ?ちょ、ちょっと…どうしたんですか!?」


急に、示し合わせたかのような悪戯顔になった三人は、美子の手を引きステージへと躍り出た。
スポットライトだけでは暗くて分からなかった場所に、何故か設置してあるギター、ドラム、キーボード…。
まさか、最初からそのつもりだったのか?と、美子が問うより早く、いつの間にかヘッドセットマイクを付けた美男が叫ぶ。

『こら、廉!まだライブの途中だぞ!!…お前また、客席に降りたままかよ!』

いきなりの大声にギョッとして振り向いた廉は、メンバーに母親との抱擁シーンを目撃された事を今更自覚したらしく、
首筋まで真っ赤になって麗子から離れた。

『な、なな、何だよお前ら!?』
『ごめんな、廉。A.N.JELLが全員揃ってるのに、
手ぶらで帰る訳にはいかないと思ったんだ』
『そうだよ、水沢さんだって俺らのライブ、見たいよね!?』

素早く自分たちの担当楽器の位置に着き、備え付けのマイク越しに廉を宥めようとする柊と、
驚いて固まる麗子へ話し掛けた勇気。

美子もしばらくは唖然と舞台中央に突っ立っていたものの、段々とこの状況が楽しくなり、
笑顔で客席に向かって手招きする。

『廉さん、早く来て下さい!廉さんが居ないとライブが出来ませんから!』

眉を顰め、不機嫌を露にする廉だったが…美子にまで壇上へ呼ばれ、思い切り大袈裟な溜め息を吐いた。

『ったく…美子まで……』

頭を抱えた彼に、麗子が何かを話し掛けている。
声は聞き取れなかったが、きっと背中を押すような一言を告げたに違いない。
廉は大人しくステージへ戻り、美男が差し出したギターを受け取った。

『…よし。お前ら、やるからには失敗は許さねぇからな!』
『あったりまえじゃん!』
「あ、あの、廉さん、私は……」
『全国ツアーと同じ……いや、それ以上に本気で行くぞ!』
『『オーーッ!!!』』


廉に肩を組まれ、逃げ出せなくなった美子はそのままA.N.JELLの円陣に加わり、大ヒット曲の
“promise”、“ふたり”を共に熱唱する羽目となった。

客席をちらりと窺うと、涙ですっかりメイクの崩れた麗子が、手拍子をしながら楽しんでいるのが
分かり、喩えようの無い嬉しさが込み上げる。

彼女もまた、廉の歌に救われたのだ。



こうして、たった一人の観客の為に開催されたA.N.JELLスペシャルライブは、
大盛り上がりで幕を閉じた。

がらんとした会場には歓声こそ響かないが…代わりに、
大きな愛で溢れていたのは間違いないだろう。

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