2011/09/22(木) 01:11:26.50 ID:X4Wulkib

事務所の廊下、廉は先を歩く美男への用事を思い出して声をかけた。

「おい、美男」
と、廉が呼び止めても美男は聞こえているのかいないのか
振り返りもせずに歩みをやめない。
「おい、こら」
廉が駆け寄って肩を掴むと、美男はようやく歩みとめて振り返った。
「なに」
「なに、じゃない。呼んでるだろうが」
「…はぁ」

なんでこいつはこんなに反抗的なのか。と廉は頭を抱えていた。
柊や勇気にも心を開かず、コミュニケーションを取ろうともしない。
喋ったと思えば、一言か二言で会話に困る。
だが歌も演奏もすばらしく、仕事だけは完璧にこなす。
だからこそ余計に、廉は頭を抱えるのだ。

「…ところで」
「あぁ?」
「俺ってそんなにあいつに似てますか」
美男はふと、思い出したように言った。
「なんだ急に…そりゃ双子なんだから似てて当たり前だろ」
廉は話し出した美男に驚きつつも、返事をする。
「・・・だよなぁ」
「なんなんだお前は。それより、昨日の曲の構成変えるぞ」
「あぁ、はぁ」
「ちゃんと聞け、美男」
やっと本題を言った廉だが、美男の気のない返事を聞いて
少し怒ったような声で言う。
「…似てるってことは…こういうことされたら、やっぱドキドキします?」
美男はそう言いながら背伸びして自分より背の高い廉の額に
自分の額をくっつけた。自然と顔は近くなり、互いの鼻先が触れる。

自分の好きな、自分を好きだといってくれる女と全く同じ顔の男。
その顔が目の前にあって、大きな目が自分を見つめてくる。
美男の吐息が、廉の鼻をくすぐった。
それはそこはかとなく甘い香りがしたような気がして
廉は思いがけず胸の鼓動は速くなる。
そして廉の耳や顔、首筋はみるみるうちに真っ赤になった。
そんな廉の反応を見た美男は、口角を上げて満足そうに微笑む。

「な、なにすんだ!」
「…ちょっと実験」
美男の笑った顔にはっとした廉は慌てて美男から離れて声を張り上げた。
だが美男は表情を変えずに呟く。
「お前いい加減にしろ、何がしたいんだ!」
「だから、実験」
「…もういい!いいか、次こんなことしたらただじゃおかねえぞ!」
廉は実験、と言われてカチンときてしまい、美男の胸倉を掴んだ。
「まあ…気をつけます」
明らかに反省の見えない態度と返事の美男。
廉はもっと、さらに怒りたくなったが、
美子と同じ顔の美男になんだかそれ以上いえなくなった。

そして美男は廉が何も言わなくなると、
何もなかったかのようにまた廊下を歩いていった。

取り残された廉は、先ほどのこと思い出す。
「…な、なんだあいつ。変なやつだ…気持ち悪い」
思わず身震いをしたが、廉の頭からあの至近距離で見た
美男の笑った顔やあの甘い匂いがしばらく離れることはなかった。

管理人/副管理人のみ編集できます