| 教室 |
| 私は、入学式になると、いつもドキドキよりも、緊張の方が上回る。 |
私 | (それに、この学校……派手な人ばっかりなんだもん!) |
| 受験に失敗して入った、第一志望とは違う高校。 |
| そこは、制服や校則なんてあってないようなもので、私の常識とは、何もかもが違っていた。 |
| (友だちは……できないよね。せめて、挨拶くらいはできるといいんだけど。えっと、私の席は……) |
派手なクラスメイト | えー、リナリナ、何買ってきてんの!?このパン、カロリー激ヤバじゃん!マジで買った!? |
里奈 | まぢまぢ〜!この辺のコンビニ、品ぞろえちょー面白いよ?イチオシしかない系! |
派手なクラスメイト | はー、マジ笑った……!ウチら、これで初対面とかありえなくね? |
私 | (やっぱり、派手な人だ……。どうしよう、うまくやっていける気がしない……っ!) |
里奈 | って、隣の子来てるし!どいとこどいとこ!邪魔んなったり、席とっちゃうのはNGっしょ! |
派手なクラスメイト | オッケー。ってかリナリナ、意外と真面目じゃんね!そこもウケる! |
里奈 | んじゃ、マジメな流れで挨拶しとこっか☆アタシ、里奈ってゆーの。よろしくねー♪ |
私 | あ、えっと……その…… |
里奈 | あっ、急すぎた?よく言われるんだよね。距離近すぎ―とか! |
里奈 | アタシ、バカだから人のキビ?みたいなの全然わかんなくってさー! |
私 | う、ううん、いいの……!あの……これから、よろしくお願いします……っ! |
里奈 | オッケー! アタシのことはリナリナって呼んでちょ☆ |
私 | ええっ、それはさすがに急すぎ……かも。 |
派手なクラスメイト | あははっ、リナリナ、こういう時こそ頑張ってキビ?を何とかすんじゃね?キビがなんなのか知らんけど! |
| それが、私と藤本さんの出会いだった。相変わらず、私は教室になじめなかったけど……。 |
| 藤本さんは、とても明るくて、クラスのみんなと仲がいい。 |
| 私にもいつも話しかけてくれるから、この高校での生活は、最初に考えていたよりも怖くなくなって…… |
| むしろ、楽しいものになっていた。藤本さんが変わったのは、そんなある日のことだった。 |
先生 | 藤本は……珍しいな、まだ来てないのか。 |
私 | (藤本さん、学校楽しいから皆勤賞目指すって言ってたのに……大丈夫かな……?) |
| ガラッ |
里奈 | やべー、寝坊で遅刻ギリギリ!アタシ、まぢ不良じゃん? |
先生 | まだホームルームは始まってないから、ギリギリセーフだ。藤本にも事情があると思うが、あまり無理しないように。 |
里奈 | はーい☆ |
| ―――昼休み |
里奈 | いっただっきまーす!あー、メロンパン、甘くてちょーうめー♪ひと口どーお? |
私 | えっ?い、いいよ……!美味しいなら、里奈ちゃんが全部食べなよ。それ、購買の新作だよね? |
里奈 | そー!アタシ不良だし!新作も、大フンパツしてすぐ食べちゃうー♪ |
| それからしばらくしても、藤本さんはいつもと違う調子で……。 |
| 私の知っている藤本さんが、どこか遠くにいってしまった気がして。私は少しだけ、寂しく感じた。 |
| ―――数日後の朝 |
私 | (教室から賑やかな声がする。そういえば、里奈ちゃんが遅刻ギリギリで登校するようになるまで、毎日こんな感じだった) |
里奈 | あ、おはよ〜! |
私 | わっ、おはよう…っ!藤本さん……今日は早いんだね。 |
里奈 | そーなんだよね☆ぶっちゃけさー、グレてみよっかなって思ったけど、なんか、つまんなかった☆ |
私 | つまんない……? |
里奈 | そそ!朝はやっぱみんなとだべりたいし、お昼をフンパツするのもたまにでいーや。ママのお弁当も美味しいし♪ |
私 | そっか……よかった……。でも、突然グレてみたくなるって……何かあったの? |
里奈 | んー、なんてんだろ……アタシ、変わらなきゃいけないのかな?って思ったんだ。 |
里奈 | んで、カッコいいセンパイの真似してみた!家族支える!ってカンジに、バリバリ働いてる人でさー。 |
里奈 | バリバリといえば、カリアゲも先輩みたいにもっとガッツリしてみたし! |
私 | つまり、影響された……って、ことなのかな?それで、グレてみて……戻ったんだ。 |
私 | ……ふふっ、藤本さんって面白いよね。私の周りには……ずっといなかったタイプ。 |
里奈 | おっ、それって褒めてる系?うれちー☆ってか、その顔初めて見た!かわいいしずっと笑顔でいなよ! |
私 | え……そう、かな?それに、私を笑顔にしてくれたのは、藤本さん、だから……。 |
里奈 | まぢ!?えへへっ、やっぱ友だちを笑顔にできるっていいね!しゃーわせいっぱいっていうか〜。 |
私 | 友だち……。 |
里奈 | えっ、違った!?かなぴ〜……。 |
私 | ち、違わない……違わないよ! |
里奈 | よっしゃ☆じゃ、そろそろ藤本さんはやめて、リナリナって呼んでちょー♪ |
私 | それは……まだ勇気が……。里奈ちゃん、でどう……? |
里奈 | オッケーオッケー!仲良し子ちゃんって感じで、しゃーわせだなー☆ |
| それから、私たちはもっと話すようになった。 |
| 朝は、里奈ちゃんを経由して派手なクラスメイトたちの会話に入ることもあったし、放課後には勉強会もした。 |
| たいていはクラスのみんなと。そして、たまに、里奈ちゃんとふたりで。 |
里奈 | どーしよー!宿題、ぜんっぜんわからんちょ! |
私 | この問題は、こっちの公式がいいんじゃないかな?たすきがけを使うんだけど……こうして、こう。どうかな? |
里奈 | ……え、やば!解けたー!すご、教えんのうますぎ!天才ちゃんぢゃん! |
私 | そんなことないよ。里奈ちゃんの力だよ。 |
里奈 | そっかなー?でもアタシ、バカだからさ、勉強ちょー苦手だし、なかなか正解が出せないんだよね〜。 |
私 | 勉強は……多少苦手かもしれないけど……里奈ちゃんはバカじゃない、と思うよ。 |
私 | 初めてのクラスで戸惑ってた私を、気にかけてくれて……里奈ちゃんは、周りが明るくなるよう、頑張れる人。 |
私 | 本当に何も考えてなかったら、そんなこと、できないし……私にも気づかなかったんじゃないかなって思う。 |
里奈 | そっか……うれちー……。それならさ、もしかしたら……アタシにも、もっとできることがあるんかな? |
私 | えっ? |
里奈 | ずっと考えてたんだ。家のこと、学校のこと。今もすっごく楽しいけど、このままでいいんかなって。 |
里奈 | アタシも、先輩みたいに、おうちを支えるために頑張るのもアリかな、みたいな? |
里奈 | んー……うまく言えないけど、アタシができること、本気で探してみっかー!みたいな! |
私 | できること……うん。里奈ちゃんにしかできないこと、きっとたくさんあるよ。 |
私 | 里奈ちゃんは、絶対に誰かを幸せにできる人だもん! |
里奈 | あは、リナリナ最強じゃーん!……あのさ、ありがとね。スッキリしたら、お腹ペコペコになっちった〜! |
私 | (里奈ちゃんみたいな明るい子でも、悩んだりするんだ。意外だけど……前よりも近くに感じられて、嬉しい……) |
| ……それから、ひと月も経たないうちに、里奈ちゃんは学校を辞めてしまった。 |
| 里奈ちゃんからは、ときどき連絡が来る。今は、現場でバリバリ働いているんだとか。 |
私 | (……ん、こんな時間に……メール?) |
??? | 『やほ〜☆ねね、起きてるー?窓の外、見てみて〜!』 |
| ガラッ |
里奈 | あ、おつかれちゃーん!寝てた? |
私 | お……起きてたよ!そんなことより、急に学校辞めちゃって、ビックリしたよ……! |
里奈 | まーまー!メールも入れたっしょ! |
私 | そ、そうだけど…… |
里奈 | んで、今日はメールじゃなくて直接言いたいことあってさ!あのね、あの日アタシの背中押してくれてあんがと☆ |
里奈 | アタシ、もっと頑張るからさ、応援してちょ!んで、いつかまたあそぼーね♪ |
私 | ちょ、ちょっと待ってて、今、私も外に出るから……! |
里奈 | 今日はもー遅いし、ご近所迷惑になっちゃうから、この辺で去るぽよ〜!んじゃ、ばいちゃー☆ |
私 | あっ……!?……本当に行っちゃった……! |
| 私は、彼女が高校を辞めた詳しい理由を、推測することしかできない。 |
| だから、辞めないでほしかったとか、せめて卒業までは一緒にいたかったなんて、言えない。 |
| 里奈ちゃんには里奈ちゃんの道がある。そして私と彼女は、これからは別々の道を行くんだろう。 |
| そのことが、寂しくないと言ったら嘘になるけれど…… |
私 | どこに行っても、どんなお仕事をしていても…… |
私 | 里奈ちゃんは、誰かを笑顔に……「しゃーわせ」にするんだろうな。 |
コメントをかく