とある昼下がり | |
この事務所は、いつもどこか騒がしい。 | |
目に映る子供たちは眩しくて、その横を、私はいつも通り過ぎていた。けれど…… | |
このとき声をかけたのは、今思えば、必然だったのかしらね。 | |
薫 | うわぁぁぁぁ!!すごいすごーい!! |
雪美 | ……!!…………!! |
真奈美 | はっはっはっ、そら、スピードを上げるぞ! |
薫・雪美 | キャーー!! ……ふふ……。 |
奏 | ……彼女、モテモテね。みんなとても楽しそうだわ。 |
あい | おや、奏くん。ふふ……あの子たちがよい子で宿題をしていたからね。「労い」だそうだよ。 |
薫 | 真奈美お姉ちゃんすごいね!全然フラフラしない!! |
雪美 | ……ちからもち。 |
奏 | ……二人の子供を両腕にぶら下げてぐるぐる回るなんて……すごい腕力と体幹。 |
薫 | あ!奏お姉ちゃんだ!奏お姉ちゃんもやるー!? |
奏 | いえ、間に合ってるわ。お気遣いありがとう。 |
由愛 | あの……こ、こんにちは……。 |
薫 | 由愛ちゃん!こんにちは!! |
由愛 | ドアが開いてて、楽しそうな声が聞こえたから来ちゃいました……。遊んでるんですか? |
薫 | うん!由愛ちゃんもぐるぐるしよー! |
由愛 | ぐるぐる……回してもらってたの?楽しそう……でも、私は見てるだけで…… |
雪美 | 楽しい……よ……? |
由愛 | うぅ……でも……。 |
真奈美 | フフ、遠慮することはないが、無理強いするものでもないからな。だが、遊びで身体を動かすのも悪くない。 |
真奈美 | 代わりにみんなで鬼ごっこでもするか?由愛も、このあと予定がなければ。 |
由愛 | あ、私……打ち合わせが終わって帰ろうと思ったら、楽しそうな声が聞こえて……スケッチしようかなって……。 |
由愛 | でも、みんなの楽しそうな声聞いたら、私も一緒に遊びたくなって……。 |
薫 | じゃあ、みんなで鬼ごっこしてそれからお絵かきしよーよ!! |
真奈美 | それはいいアイデアだな。よし、鬼は私が引き受けよう。みんな、かかってこい! |
薫・雪美・由愛 | とつげきー!! ……!! い、いきます……! |
真奈美 | はははは!こっちだ!! |
ゴロゴロゴロ……! | |
薫 | わーっ、よけられたー!! |
雪美 | なら……こっち……! |
真奈美 | おっと、危ない!フフフ……! |
奏 | ……バク転したわね。アクション俳優もびっくりの大立ち回りだわ。 |
あい | ふふ、真奈美さんらしいな。子供たちも楽しそうだ。 |
由愛 | 薫ちゃん!雪美ちゃん!協力しましょう……! |
真奈美 | お?連携プレイか?さすが由愛、いいところに目をつけたな! |
薫 | ……いまだーっ!! |
ザザザ……!! | |
真奈美 | ははっ、囲まれてしまっては身動きが取れないな。参った。降参だよ。 |
由愛 | やりました……! |
雪美 | 真奈美に……勝った……。 |
真奈美 | 3人で協力したのは偉かったな。よし、いい子たちは撫でてやろう! |
薫・雪美・由愛 | キャー! ……!! わ……! |
あい | 勝負あったようだな。みんな、喉が乾いただろう。しっかり水分補給をするんだよ。 |
薫・雪美・由愛 | はーい!! うん……! はい……! |
あい | ……真奈美さんも、お疲れさま。10分間動きっぱなしだったね。今コーヒーを淹れるから。 |
真奈美 | フフ、いい息抜きになった。コーヒーはありがたいな。いただくよ。 |
奏 | ……息ひとつ乱れてないのね。すごいわ。 |
真奈美 | ああ、鍛えてるからね。体力には自信があるんだ。さぁ、今度は奏が私の息抜きに付き合ってくれるか? |
奏 | ……あの子たち、真奈美さんにとても懐いているのね。 |
真奈美 | フフ、まぁ、慣れているからな。奏は小さい子たちと遊んだりしないのか? |
奏 | そうね……私は子供に好かれるタイプではないから……。 |
奏 | 嫌いではないし、避けてもいないんだけど、寄って来ないの。話しかけにくいみたいね。ふふ。 |
奏 | あぁ……あいさんのコーヒー、美味しいわ。気持ちがほどけていくみたい。 |
あい | ふふ、光栄だね。 |
奏 | ……でも、少し羨ましいわ。 |
あい | 真奈美さんが? |
奏 | いえ……あの子たちが。私には、真奈美さんのように遊んでくれる大人が身近にいなかったから。 |
奏 | もしいたら……私ももう少し可愛げのある女の子になっていたかもしれないわね。 |
奏 | あら?あの子たち、寝てしまったみたい。 |
あい | ああ、本当だ。遊び疲れたんだろうね。しばらく寝かせてあげよう。 |
あい | どれ、ブランケットを掛けてきてあげよう。 |
奏 | …………可愛い。 |
真奈美 | 私からすれば、君も可愛いがな。 |
奏 | ……私? |
真奈美 | ああ。フフ……よしよし。 |
奏 | あら……あの子たちみたいに、私のことも撫でてくれるの?ふふ、ありがとう。でも…… |
奏 | 私は大人と子供の狭間で藻掻く、ただの女よ。……なんて、そんなことばかり口にする、面倒な女なの。 |
真奈美 | ふむ。だがそれは、君の魅力だろう? |
奏 | ……魅力? |
真奈美 | ああ。君は大人びていて、とても賢い。賢い君を見ると、周りは安心する。その周囲の反応を見て、君は更に大人で |
真奈美 | あろうとする。無意識にね。君は優しい子だな。だが……それでは、いつか潰れてしまうぞ。 |
奏 | ! |
真奈美 | そうなる前に、こうして撫でてあげるのが、私たち大人の役目だ。 |
奏 | ……あなたなら、プロデューサーさんのことも臆せず同じように撫でてしまいそうね。 |
真奈美 | フフ。まぁ、区別するつもりはないな。 |
奏 | ……あなたの前では、どんな強がりも無意味になりそう。 |
真奈美 | そうだな、あまりおすすめはしないよ。 |
奏 | あなたは……いつだって完璧に見える。子供の頃から成熟していたのではと思うほどに。 |
真奈美 | 完璧な超人なんていないさ。 |
奏 | でも……私とは違う。 |
真奈美 | 同じだよ。 |
あい | ……奏くん、真奈美さん。これを見てくれるかい? |
奏 | ……?あの子たちのスケッチブック? |
真奈美 | どれどれ、子供たちの重大な秘密でもあったかな? |
真奈美・奏 | ……! |
あい | ふふっ、どうやら談笑する私たちを描いていたらしい。 |
奏 | ……鉛筆で描かれた私たち。みんな、笑っているわ。 |
真奈美 | ……な?私たちは、同じ人間だろう? |
奏 | ……ふふっ、そうね。 |
あい | おや?ナイショ話かい? |
奏 | ええ。大人と子供の、ね。 |
真奈美 | フフ……。 |
あい | では、そんなナイショ話のおともに……コーヒーのおかわりはいかがかな? |
真奈美・奏 | いただこう。 いただくわ。 |
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