| バラエティ番組 |
みく | ナナチャン!歴史の問題、答えてくれてありがとねっ!次の動物クイズは、みくに任せて♪ |
菜々 | はいっ!お互いの長所を活かして、全問正解しちゃいましょう!みくちゃんっ! |
みく | ばとん猫たっちっ!ふっふっふ、さあ!どんな問題でもかかってくるにゃーっ! |
みく | ……にゃにゃにゃっ!ピンポーン!答えは……お肉っ! |
みく | は、外れ!?なんでにゃあ〜!?正解は……お魚ぁ?嘘にゃ!だってみくはお魚嫌いだもん! |
| 目の前で流れるテレビから、笑い声が聞こえてくる。今盛大にウケていたのは、みくにゃんこと、前川みく。 |
| お茶の間の人気者で、猫耳をつけたアイドルで、なんと、私のクラスメイト。しかも、席が隣なんです。 |
私 | すごいなぁ、前川さん。キラキラしてて、楽しそうで。最高に、アイドルって感じ。 |
私 | ……前川さん、明日は学校来るのかなぁ。来てくれたら、嬉しいな。 |
教師 | 前川。授業の補習の日程を組むから、事務所さんに空いてる日、教えてもらっておいてくれ。 |
教師 | くれぐれも、無理のない範囲でな。 |
みく | ありがとうございますっ!Pチャ……プロデューサーに聞いておきま〜す! |
クラスメイトA | 前川さ〜ん。さっき調理実習でカップケーキ作ってさ。みんなで食べ比べするんだけど、一緒にどうかな? |
みく | ケーキ……!あ、でもみく、さっき来たばかりで、実習参加してないし……。 |
クラスメイトB | いーのいーの。美味しく食べてもらえるだけで、作った甲斐があるってものだし。 |
クラスメイトA | そーそー♪いっぱいあるし、みんなで食べた方が美味しいじゃん♪ |
みく | ありがとうっ♪じゃあ、ご一緒させてもらおうかな。えへへっ♪ |
| 前川さんは、お仕事の都合上学校に途中から来たり、逆に抜けたりすることが多い。 |
| 今日だって、お仕事を終えて登校してきて疲れてるはず。なのに、そんなこと少しも表情に出していない。 |
私 | …………すごいなぁ。 |
みく | なにが? |
私 | わっ!?え、あ……前川さんっ!?なんでそこにっ……! |
みく | ?そりゃあいるでしょ〜。席、隣なんだし。ふふっ、変なの。 |
私 | そ、そうだね……あはは。……あっ!そうだ。これ、授業のノート!休んでた分、纏めておいたよ。 |
みく | わ、また見せてくれるの!?ありがと〜……!これで、今度の補習もバッチリだよ〜。 |
私 | 役に立ってなによりだよ。……お仕事、大変そうだね。 |
| 心の中に秘めていた本音が、ついポロっと漏れてしまう。昨日見た、アイドルの姿が今と重なってしまったから。 |
| 学校でアイドルの話をして、機嫌悪くなったりしないかな。秘密というわけではないみたいだけど、前川さんは |
| 自分からアイドルであることをバラしたりしない人だから。バレて、騒がれて、周りに迷惑をかけてはいけないと、 |
| そう思っているみたい。……そっと顔色を伺うと、前川さんは、笑っていた。 |
みく | まあ、それなりにね。けど、今はすっごく楽しいの。だから全然大丈夫!へっちゃらだよ♪ |
私 | ……そっか!私にできることがあったらなんでも言ってね!隣の席のよしみってことでさ。 |
| 何気なく言った一言。けれど、前川さんは私の言葉を聞いて、目を丸くして…… |
みく | ホントにゃ!?あ……ホント?じゃあね、ひとつだけお願いがあって……。 |
みく | 急にごめんね?お願い、きいてくれてありがとっ! |
| 夕暮れの校舎をふたりで歩く。前川さんのお願いは、私に勉強を教えてほしい、というものだった。 |
私 | 気にしないで!むしろ、私なんかの教え方で大丈夫だったか、ちょっと心配なくらい。 |
みく | ううん、わかりやすいよ!休んでた部分の英語、文法がちょっと難しかったけどこれならすぐに追いつけそう。 |
| ……はじめ、少しだけ緊張していた私だったけど、話しているうちに、いつの間にか自然体になっていた。 |
| きっと、前川さんの人となりのおかげだろう。やっぱり彼女は、根っからのアイドルなんだ。 |
| 人を惹きつけて止まない、輝きの中を歩む少女。……だからこそ、つい思ってしまう。 |
私 | ……本当に、前川さんってすごいねぇ。 |
みく | ……うーん、そうかなあ?別に普通だと思うけど。 |
私 | ううん……すごいし、偉いよ。だって私が前川さんの立場なら、そこまでマジメに頑張れないもん。 |
私 | 少なくとも、学校では偉ぶっちゃうかも。私はアイドルだぞ、敬えー!とか、 |
私 | お仕事大変なんだから、宿題なんてやってらんない!なんて言ったりして……。 |
みく | あははっ!なんだ、そういうことか〜。 |
| 私の言葉に、ようやく合点がいったのか。校門についた前川さんが、身を翻して私に向き直る。 |
| 夕日に包まれた彼女は、目が眩んでしまいそうなほど、キラキラして見えた。 |
みく | みくはたしかにアイドルだけど、まだ道の途中なんだ。 |
私 | えっ?でも、前川さんは、もうじゅうぶんすごいアイドルで……。 |
みく | ぜーんぜん!むしろ始まったばかりだよ。目指すは最高にカワイイ女の子……トップアイドルだから! |
| 前川さんは人差し指を空へと向ける。何かに向けて、宣誓するように。 |
みく | 事務所の子の中には、みくと同じくらい、勉強もアイドルも頑張ってる子がたくさんいるの。 |
みく | だからってわけじゃないけどみくは負けたくない。ライバルにも、自分にも! |
みく | そのためには、お仕事も勉強も、妥協しないよ!できることはしたいんだ。 |
みく | 自分を曲げずに、迷わずに。楽しみながら突き進む!それが、ネコチャンアイドル前川みくだからっ♪ |
| ……衝撃だった。私のクラスメイトは、真面目で、自分の好きを貫き通していて、 |
| だから、こんなにもキラキラしてる。私は今まで以上に、前川みくのファンになってしまった。 |
みく | ……なーんて。さっそく偉ぶっちゃったかな? |
私 | ううん……むしろ、感動した!今までもファンだったけど……もっともっと、前川さんのファンになっちゃったよ! |
みく | えっ!?みくのファンだったの!?照れるにゃ……あ。て、照れるなあ……あはは。 |
私 | もう、最推しだよ!前川さんの出てる音楽番組もクイズ番組も録画して、何回も見てる! |
私 | 特にソロ曲がすっごく好きで……あの、えっと、ごめん、喋りすぎて……。 |
私 | とにかく、これからも応援してるね。クラスメイトとしても、ファンとしてもっ! |
みく | にゃふふっ、ありがと♪すっごく嬉しい♪けど、クラスではこれまでどおり、普通に接してほしいなっ。 |
みく | アイドルじゃない、ただの前川みくでいられる場所も、みくにとっては、大切な居場所だから……ねっ? |
私 | もちろん、当然だよ!なんか私、はしゃいじゃって……ごめんね! |
みく | そんなに謝らなくていーよっ。応援の言葉、嬉しかったし♪……何かお礼をしたいんだけど何がいいかなー。 |
私 | お、お礼だなんてそんな!私が勝手に応援したいって言ってるだけで……! |
みく | いーのっ。最高にアイドルしてるみくを、『友だち』に見せたい。ただそれだけなんだから。 |
私 | ……とも、だち? |
| その発言の意味を理解できないでいる間に、前川さんは何かを思いついたようだった。 |
| あたりをしきりに見渡してるけど……いったい、何をする気なんだろう? |
みく | ……人、いないよね?よーしっ。ちょっとだけだから、ちゃんと聴いててねっ。 |
私 | 聴くって、何を…… |
| 私の問いよりも早く、その歌声は耳に優しく届いてきた。 |
| プレイヤー越しに聴いたものよりも小さく、囁くような歌声が、夕暮れの空に溶けていく。 |
| たった一節の短い時間。だけど私にとっては、その一瞬が永遠にも思えた。 |
みく | ……〜♪ね、どうだった? |
みく | みくの曲が好きって言ってくれたから、一節だけだけど、心を込めて歌ってみました♪ |
私 | ……す、すごかった。前川さん、今……最高に、アイドルだった……! |
| 思わず我を忘れてはしゃいでしまいそうになっているその時、誰かの声が聞こえた気がした。 |
| 辺りを見渡すと、少し離れたところから、スーツ姿の人影がこちらに手を振っている。前川さんの知り合いだろうか? |
みく | Pチャン!お迎え来てくれたんだ!……あ、さっきの歌のこと、クラスのみんなには内緒だよ♪ |
私 | ……うん、もちろんっ!ふたりの秘密、だね。 |
みく | そーいうこと!じゃあ、みく行くね?また、学校で! |
私 | うんっ!トップアイドル、なれるよ!前川さ……みくちゃんならっ!! |
| 去っていく背に向けて、大きなエールを友だちへ送る。名前で呼ばれたみくちゃんは、驚いたように振り返って…… |
みく | えへへっ……。未来のトップアイドル、前川みくに、まっかせにゃさ〜いっ♪ |
| 笑顔で手を振る姿は、夕日よりも強く、綺麗に輝いていた。 |
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