| ずっと……闇の中から眩い光を見つめ続ける……。あのときの感情を、なんて言えばいいんだろう……。 |
クラスメイトA | えーん!転んじゃった!痛いよー! |
クラスメイトB | 大丈夫?保健室いこっか。 |
クラスメイトA | もうやだー!ほたるちゃんといると、嫌なことばっかり! |
ほたる | ちが……私、何もしてなくて……。 |
クラスメイトC | 私ね、知ってるよ?ほたるちゃんみたいな子、疫病神って言うんだ! |
ほたる | …………ごめんなさい。 |
| 私は、睨まれるのも怒られるのも……友だちだと言ってくれた子に、嫌われることも怖かった……。 |
| でもそれ以上に、一番怖かったのは、友だちに不幸が伝染してしまうこと……。 |
| だから、あの頃の私は、あまり外に出ませんでした。部屋の隅で膝を抱え、ひっそりと息をひそめて……。 |
| ……眩い光を初めて見たのは、その時です。 |
| テレビで見たのは、幸せな詞を可愛く歌い上げる、アイドルの女の子……。 |
ほたる | (楽しそう……周りで見ている人も、みんな笑顔で……。私もこんな風に歌えたら、みんなを笑顔にできるのに……。) |
ほたる | ららら……らららら……♪ |
ほたるの母 | ただいま。ほたる、歌ってるの……? |
ほたる | ご、ごめんなさい……っ。 |
| 謝ったのは、私に幸せな歌なんて似合うはずがないから。でも……お母さんはそんなことを言わなかった。 |
ほたるの母 | どうして謝るの?……ほたるは、歌が好きだったのね……。 |
| そう呟いた母は、笑顔でした。私の不幸で、学校の備品が壊れた時も、 |
| 私の不幸で、友だちが泣いてしまった時も……謝る母は、いつも苦しそうな顔をしていたのに……。 |
ほたる | (アイドルって、すごい……。お母さんも、私も、幸せな気持ちにしてくれる……) |
ほたる | あの、お母さん……。私……アイドルになっても、いいですか……? |
| それから、私の夢を叶えるために……お父さんもお母さんも、たくさん支えてくれました。 |
| オーディション会場に行くために前乗りをして、何本も前の電車に乗って…… |
| 私は、アイドル事務所に所属できました。普通の物語なら、これでハッピーエンドだけど……。 |
| あの時の絶望を、なんて言えばいいんだろう……。 |
| 最初に、私の周りが不幸になっていきました……。 |
同期A | 聞いた?うちが持ってる撮影スタジオで、ボヤ騒ぎがあったんだって! |
同期B | 知ってる!原因は火の不始末だったみたいだけど……気をつけなきゃね。 |
同期A | 待って……そのスタジオって、今度ほたるちゃんを撮影するところじゃなかった……? |
同期B | ちょっと!事務所に警察が来てるんだけど!? |
同期A | ほら、近所で空き巣騒ぎがあったじゃん?とうとううちの事務所にも……って感じらしいよ。 |
同期B | なんかさ、こんなこと言いたくないけど……最近、悪いことばっかり続くよね……。 |
| ある日の夜、忘れ物を取りに戻った時……社長が、スタッフのみなさんを集め、話し合っていました。 |
社長 | うちの評判も、ずいぶんと落ちたよ……。所詮、小さな事務所だ。このままだと……立ちゆかなくなるだろうな。 |
| 私を笑顔で迎え入れてくれた。そんな優しい人たちの肩が、悲しみで震えているのがすごく辛かった……。 |
| 次に所属した事務所も、まともにレッスンもできないまま、初めてのレコーディングの日に倒産しました。 |
| そして、その次に所属した事務所でも、私が来てからは、不幸なことばかりが起こって……。 |
スタッフA | ねぇ、今回の収録押してない? |
スタッフB | ああ、マイクトラブルなんだって。 |
スタッフA | はぁ……最近、運が悪いよね。ほら、この前は収録中にセットが壊れるしさぁ……。 |
スタッフC | あの、白菊ほたるさん? |
ほたる | は、はい……っ。 |
スタッフC | ごめん。急だけど、今日の立ち位置を変更してもらってもいいかな?中央から、下手側のここに……。 |
ほたる | (あ……せっかくセンターに近かったのに……端の方になっちゃったんだ……) |
ほたる | いい、ですけど……どうしてですか……? |
スタッフC | ごめんね、上からの指示で。収録中に何が起こるかわからないって……。 |
ほたる | わかりました……すみません。 |
| それでも、事務所は私の努力を認めてくれたのか、小さな撮影の端には、いさせてもらえるようになりました……。 |
ほたる | あ……せ、先輩……、おはようございます……っ! |
事務所の先輩 | …………。 |
他事務所の先輩 | 同じ事務所の後輩でしょ?挨拶くらいしたら? |
事務所の先輩 | だって、あの子とかかわるとろくなことないし……。 |
| でも、これでいいんだ……。だって、私はアイドルになれたんだから……。夢を叶えたんだから……。 |
| あとは、周りが不幸にならないよう、私はすみっこにいればいいだけ……そう思っていたのに。 |
ほたる | どうして……誰もいないの……? |
| ある日、事務所がもぬけの殻になっていました。 |
事務所の先輩 | ここに来ても、もう何もないわよ。 |
ほたる | 先輩……。 |
事務所の先輩 | ……笑える。夢も何も、私にはなくなっちゃったわ。 |
| それだけを言い残し、先輩は去っていきました。 |
| アイドルになった先には、何もなかった。……不幸の嵐が、全てをさらっていってしまった。 |
| 過ぎた望みだったんだろうか。私が……輝きたいなんて。誰かを幸せにしたいだなんて。 |
| 私は……もう、十分頑張ったはず……。だから、ここでやめてもいい……。 |
| そうすれば……誰も傷つけずにすむから。……でも、それでも……。 |
??? | ららら……らららら……♪ |
ほたる | 歌……? |
| 雨の中、人々は足早に通り過ぎていくけれど……街頭のテレビから流れるアイドルの歌は、響き続けた。 |
| 私しか見ていなくても、アイドルは笑顔で歌って……輝き続ける。 |
| その姿は青空のようで、太陽のようで……私にとっては、眩い光のようでした……。 |
| どうして……どうして、世界はこんなにひどいことをするんでしょう。 |
| 諦めかけている人に、残酷な夢を見せるんでしょう。 |
ほたる | 挫けたくない……っ、諦めたくなんかないっ!! |
| 私はまだ頑張れると、頑張りたいと、思ってしまう……。 |
| 次に所属した事務所でも、私はまた、誰かを不幸にしてしまうんでしょうか……。 |
| それでもまだ前に進みたいと、誰かを笑顔に、幸せにしたいと考える自分は……傲慢でしょうか。 |
ほたる | ごめんなさい……ごめんなさい……それでも、私は……アイドルでいたいんです……っ。 |
| どんな不幸も、幸せで塗り替えてしまうほどのアイドルに―― |
ほたる | トップアイドルに、なりたいんです……っ! |
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