| 事務所 |
拓海 | あー……腹減った。 |
拓海 | ったく、プロデューサーのヤツ差し入れくらい用意しとけっての…… |
拓海 | ……ん? |
拓海 | クンクン……いい匂いがすんな。甘いっつーか、香ばしいっつーか……キッチンのほうか。 |
拓海 | 誰か、なんか作ってんのか?へへっ、やりぃ!このさい甘いモンでもいいや、ちょっくら覗いてみっか♪ |
| ──それが、間違いだった。 |
| アタシはあの時キッチンに 行 く べ き で は な か っ た。 |
法子 | みちるちゃーんっ!ドーナツ生地に練りこむ用の練り練りチョコとってくれる? |
みちる | はいっ、法子ちゃん!チョココロネに詰める用の練り練りチョコです! |
みちる | ……おや? |
拓海 | なるほど。匂いの正体はコレか。甘ったるいけど、食欲そそられるぜ……ゴクリ。 |
法子 | あ、拓海さんだっ!こんにちは〜!わあ〜、会えて嬉しいな♪バレンタインぶりだね! |
拓海 | おー、そうだな!あんときはお互いよくやり切ったな……。 |
拓海 | で……そっちのヤツは? |
みちる | 大原みちる、15歳です!好きな食べ物はパン、好きな飲み物もパンです!よろしくお願いします! |
拓海 | は?飲み物がパンってお前…… |
拓海 | ああ、お前も法子タイプか。 |
法子 | そうなの、気が合うんだ〜♪ところで拓海さん、キッチンに何か用だった?ごめんね、独占しちゃってて! |
拓海 | いや、用っつーかな。なんか食うモンねーかと思ったら、お前らの匂いに誘われたんだ。 |
拓海 | にしても、すげー量のパンとドーナツ……。これ全部、お前らが? |
みちる | はい、そうです!協力して作りました! |
拓海 | へえ、器用なモンだな。バレンタインの仕事でちょろっとやったけどよ、パンとか作るの難しいだろ? |
みちる | 手間も美味しさのヒケツです!それで今は、ふたりの合作『究極のドーナツパン』を作ろうかと! |
法子 | ちょっと待ったー!『究極のパンドーナツ』ね!だってドーナツだもん!。 |
みちる | いえ、『ドーナツパン』です!なぜならパンですから! |
法子 | む〜〜っ。ドーナツぅっ! |
みちる | フシュゥゥゥ……。パァァァァァンッ! |
拓海 | お、落ち着けって。どっちでもいいじゃねーか、どっちも似たようなモンだし。 |
法子&みちる | …………。 |
拓海 | な、なんだよ。急に黙りやがって。 |
法子 | 拓海さん……それは違うよ。ドーナツとパンは全然違うの。別物なの! |
拓海 | 同じだろ?パンを揚げたのがドーナツ……だよな?だったら、パンみてーなモンじゃねーか。 |
みちる | パンは全てを包み込む……と?ハハァーン……さすがです。拓海さん、よくご存じで! |
拓海 | そこまでは言ってねーよ! |
法子 | たしかにドーナツとパンの生地は似てるけど、でも違うの!だってドーナツには、特別な穴があるんだもん! |
拓海 | 穴ァ?んなモン、ベーグルにだって空いてるじゃねーか。 |
法子 | うううっ、違うんだよ〜!なんて言えばいいのかな?あたしにはわかってるのに〜! |
みちる | 拓海さん、法子ちゃん。あたしも一言いいでしょうか。 |
みちる | 拓海さんの言う通り、ベーグルにも穴はあります。ですが、ふたつにはハッキリと違いがある……わかりますか? |
拓海 | アァ?それは……。揚げてるか、揚げてないか、じゃねぇのか? |
みちる | 答えならば、あたしはこう言わなければなりません。 |
みちる | イエスッ!バット、ノン・イーストッ! |
拓海 | なんだよそれは!? |
みちる | 合ってはいますが、イースト菌の入っていない……つまり、膨らまない答えです。 |
法子 | うんうん。ちゃんと膨らまないと、美味しくならないもんね。 |
みちる | そうです。なので……あたしなら、こう答えます。 |
みちる | ベーグルとドーナツでは、『存在理由が違う』……と! |
拓海 | おっ……おう?……は? |
みちる | 全てのパンには生まれた理由があり、与えられた意味がある。それはドーナツも然り……。 |
みちる | ジューシィになりたい?フワフワで包みたい?ほっこり甘さで愛されたい?全ての食べ物に、意志がある。 |
みちる | たしかに製法でいえば、揚げているか否かの違いかもしれません。ですが、みんな違って、みんないい。 |
みちる | のまれますよっ! |
拓海 | オイ、そろそろキレんぞ? |
法子 | みちるちゃん……あたし、なんとなくわかったよ。ドーナツの穴が、なんで特別なのか。 |
みちる | ほう?ならば法子ちゃんは、なんと説く! |
法子 | ドーナツとベーグルのはっきりした違い……あたしなら、こう言うよ。 |
法子 | 『穴の味が違う』! |
拓海&みちる | 穴の味っ!? |
みちる | そ、そんな……バカな。だって、穴にはっ! |
法子 | 『何もない』……そう、思ってる? |
法子 | あたしも、最初はそうだった。ドーナツにはなぜ穴があるの?穴がなければ、もっとドーナツを味わえるのに。 |
法子 | でも、違った。ドーナツの穴がドーナツの味わいを生むの。つまり、ドーナツはね……すっごく美味しいの♪ |
拓海 | …………いや、穴の味の話はどうした!? |
みちる | そっか……!生地から余分なガスを逃すように、穴には穴の理由がある……。つまり穴も味わっていたんだ! |
拓海 | お前もお前で何言ってんだよ! |
みちる | まあ、それでも穴がなければもっと……コホン。いやー、法子ちゃん、お見事!さすがアイドルです! |
法子 | えへへ〜♪みちるちゃんも、すぐにわかってくれて嬉しいよ♪やっぱり気が合うんだね! |
拓海 | ……帰るわ。なんかもう、腹いっぱいを通り越して胸やけしてるし。 |
法子 | ああっ、ダメだよ拓海さん!今から実食タイムなんだから!ドーナツも拓海さんをしっとりいい感じで待ってるよ♪ |
みちる | パンも全て焼きあがりました♪たーっくさんありますので、好きなだけどうぞ!ぜーんぶ、拓海さんのです♪ |
拓海 | あー、サンキュ…… |
拓海 | ああっ!?ちょ、ちょっと待てよ。この量を……?アタシひとりでか!? |
法子 | もっちろ〜ん♪せっかく来てくれたんだもん!たっぷりおもてなししないと!どっちも好きになってほしい♪ |
みちる | お腹、空いてたんですよね?パンもドーナツは、人間の心も飢えも満たすスーパーフード。満腹になるころには……フフ♪ |
| さあ………… め し あ が れ ♪ |
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