焼肉店 | |
早苗 | オフのアイドル大集合!ドキドキ!親睦会〜♪ってことで、まだ全員揃ってないけど……みんな〜! |
みんな | お疲れさま! お疲れさまです! お疲れさまっス! お疲れさまでしゅ……! |
ガチャン♪ | |
早苗 | 直近だとハワイでのLIVEが大成功だったわね! |
美羽 | はい!海もキレイで、最高でしたね! |
比奈 | いや〜、緊張したっスけど。真奈美さんが空き時間に歌の指導をしてくれたおかげでなんとか無事に歌えたっス。 |
歌鈴 | 私も、同じ舞台に立ててとても心強かったです……! |
真奈美 | 指導は慣れているが……LIVEが成功したのはあくまでみんなの実力だよ。私の方こそ仲間とともに |
真奈美 | 大きなステージで歌うことが出来て、非常に有意義な時間だった。礼を言おう。 |
トレーナー | 私は現地についていけないけど、木場さんがいてくれると思うと、安心して送り出せました♪ |
くるみ | くるみも、おうえんしてたよぉ〜。 |
真奈美 | フフ、ありがとう。 |
歌鈴 | 英語も流暢で、とってもカッコよかったですっ!お店でも通訳してもらって、助かりました! |
比奈 | たしか、最近までアメリカで生活してたんスよね?ロサンゼルスでしたっけ? |
早苗 | LAで生活か〜!憧れるわよね〜♪ |
くるみ・歌鈴・美羽 | かっこいい……! |
トレーナー | 聞かせてくれませんか?向こうでどんなことをしてたのか! |
早苗 | アイドル木場真奈美のルーツ、あたしも気になるわ! |
真奈美 | アメリカか……いろいろあったな……―― |
歌で人を喜ばせたい……そんな思いを抱いて、日本でボーカリストの道を歩んでいた私は、本場で | |
修業したいとふと思い立ち、気がついた時にはロスに居た。 | |
同僚ボーカリスト | Hi,マナミ!このネクタイどう?似合ってる? |
同僚ボーカリスト | 聞いてよマナミ!さっきコーヒーを零したの!お気に入りのシャツなのに!朝からツイてないわ! |
単身渡米し、頼ったのは友人のコネクションだった。日本でボーカルの仕事を通して出会った友人が、LAの知人を | |
紹介してくれたのだ。ラッキーだった。 | |
同僚ボーカリスト | マナミ、また新しいオーディションがあるみたい。受けるでしょう? |
真奈美 | 当然だな。正直、もっと自信がついてからとも思うが、挑戦の機会は逃したくない。 |
アメリカは実力社会だが、おおらかで気のいい人間が多い。特にLAは、土地柄か、人々の心に余裕があった。 | |
そして、アメリカという国は、私の気質によく合った。 | |
真奈美 | ……マナミ・キバ。日本から来た。皆さんの前で歌えることを光栄に思う。 |
スタジオで歌い、ジムで汗を流し、オーディションを受ける日々。充実していた。 | |
真奈美 | ……フゥ。あまり腕に筋肉をつけるなと言われたが……楽しいからな。 |
真奈美 | フフ……ここで見られる光景は、日本と変わらないな。 |
郷愁や寂寥感とも無縁だった。だが―― | |
同僚ボーカリスト | マナミ!オーディション、どうだった? |
真奈美 | ああ、ダメだったよ。 |
同僚ボーカリスト | そうかい……気にするな!次があるさ! |
真奈美 | ありがとう。 |
真奈美 | 次、か……。 |
審査員 | 日本人にしては体格に恵まれ、声量にも問題ない。技量もしっかりある。……だが、それだけだ。 |
審査員 | あなたの歌はパワフルで、圧倒されたわ。体と鼓膜に響いた。でも……心には響かなかった。 |
審査員 | 何か個性が欲しいね。正直、君のレベルのシンガーはたくさんいるんだ。 |
オーディションには落ち続けた。そして、私の歌を聴いた人々の評価も、シビアなものだった。 | |
人は否定され続けると、気が滅入る。私は否定されるたびに「まだまだ足りていないんだ」と気合を入れ直したが…… | |
真奈美 | 心に響かない……か。…………ははっ。 |
今でこそ『謎の超人』なんて言われることもあるが……フフ、私も人間だからな。悔しくて眠れない夜もあった。 | |
小さな仕事をコツコツこなし、オーディションを受け続け、人脈をつくる。 | |
1年目は、そんな挑戦の年だった。 | |
――2年目 | |
エージェント | マナミ、今度の仕事の音源と歌詞を送っておいたよ。来週までにインプットしてくれ。 |
真奈美 | ああ。確認しておくよ。 |
渡米の目的は、歌を学ぶこと。私は駆け出しシンガーに渡される曲の仮歌や、バンドのコーラス、その他、あらゆる | |
仕事を片っ端からこなす傍ら、オーディションにも挑戦し続けていた。 | |
真奈美 | 受かった……!ああ……これは大役だ! |
映画に使われる楽曲のコーラスをした時は、心が躍った。なんたってハリウッドのお膝元だ。 | |
その仕事は、私に確かな自信をもたらしたらしい。オーディションに受かることが、増え始めた。 | |
現地トレーナー | マナミ、オーディション番組に出てみる気はないの? |
答えはNOだ。私はタレントになる気はなかった。 | |
友人 | Hi,マナミ!今日も精が出るね! |
行きつけのジムには知り合いも増えて、仕事で知り合った人とも積極的に交流を持った。おかげで、知り合いに仕事を | |
紹介してもらうことも、推薦してもらう機会も得た。何もかもが順調に動き始めた。そんな2年目だった。 | |
――3年目 | |
現地トレーナー | うん、いいわね。表現力もしっかり身についた。もうボイストレーニングは卒業してもいいんじゃない? |
エージェント | 仕事も順調じゃないか!このLAで、単身日本から来て……君はもう、立派な成功者だな! |
真奈美 | 成功者、か……。 |
スタジオボーカリストとして求められたのは、調和・正確さ・対応スピード。個性なんてものは必要なかった。 | |
いや、邪魔なだけだったんだ。自己主張がものを言う国なんだがな。自分の歌を歌いたいならその道へ行け。 | |
まったく正論だよ。 | |
身につけた確かな技術。仕事の種類に応じた歌。まるで機械のように、喉を震わせ、音を出す。 | |
それは、誰かを喜ばせるためではなく、クライアントを満足させるための音。 | |
いつしか私は、歌う楽しさも、人を喜ばせたいという願いも、忘れていた――。 | |
真奈美 | 明日はオフか……ジム、は今日も行ったし……ははは、困ったな。やりたいことがない……。 |
――LAで、自分の力で生計を立てられている。成功はしたのだろう。 | |
だが、そうして日々を過ごしているうちに、気付いたんだ。 | |
この仕事を、アメリカでやる意味はなんだろう? | |
妹 | お姉ちゃん、頑張ってきてね!でも……いっぱい電話してね? |
弟 | 正月には帰ってくんだろ?じゃないと怒るからな! |
……日本には家族がいる。まだまだ手のかかる思春期の弟と妹の世話を兄に任せ、親に頼んで渡米した。 | |
兄 | あいつらのことなら大丈夫だ。中学生なんだし。真奈美は真奈美のやりたいことを突き詰めて来い。 |
兄 | 中途半端は、父さんと母さんの名にも傷がつく。……まぁ、要するに、たくさん学んで来いよ。 |
真奈美 | 兄さん…………ありがとう。 |
母 | 貴女は器用だから……私たちの後を継ぐのは、貴女ではないと思っていたの。でもそれを……誇りに思うわ。 |
父 | 好きなようにしなさい。どこででも生きていけるように育てたつもりだ。……迷ったら、より険しい道を選びなさい。 |
真奈美 | ――はい。いずれ、父さんと母さんのように、道をきわめられるよう、しっかりと学んでまいります。 |
……学びはあった。が……このままアメリカに居続ける意味は? | |
そんな思いが過った次の月。私は帰国した。 | |
もとより、延々悩むのは性分じゃない。受けていた仕事を全て完璧に片づけ、私は仲間たちに別れを告げた。 | |
そうして日本に戻り、世話になっていたスタジオで歌っていた時……あの人と出会ったんだ。 | |
真奈美 | ……私を、アイドルにしたいと? |
真奈美 | 私を求めているのは、君、というわけか。 |
真奈美 | (ふむ……アメリカの話といっても、特別派手なエピソードがあるわけでもないしな……) |
真奈美 | ……フフッ。 |
早苗 | あら、真奈美ちゃんったら悪いカオ♪ |
真奈美 | ――実は木場家には、先祖代々の伝統があってね。私たちは17才になったら……修行の旅に出るんだ。 |
比奈 くるみ 歌鈴 美羽 | マジっすか? えっ……! 旅!!? どんな!!!? |
真奈美 | ああ……アメリカに、筋肉の神様に会いに行くんだ。 |
くるみ | 筋肉の神しゃま!?つよそう……!! |
歌鈴 | 17才……わ、私、行かなきゃ!!? |
早苗 | あらあら……みんな信じちゃって、可愛いわね♪ |
トレーナー | 木場さんって、こういう冗談も言うんですね……!新たな一面だぁ……! |
比奈 | 真奈美さんの過去は謎のベールに包まれ、真奈美さん自身も、依然として謎の超人ってわけっスね。 |
真奈美 | フフフフッ。私は―― |
どうせ語るなら、苦労話よりも笑える話を。そして、夢のある話を。私は…… | |
真奈美 | ――アイドルだからな。 |
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