| ある日の昼下がり |
公園のハト | くるっぽー |
ライラ | おおー、ハトさん、お元気でしたかー?ライラさんは元気でございます。 |
ライラ | 元気ですが……バイトをクビになってしまいましたねー……。 |
ライラ | お店はボランティアではないと言われてしまいましたー……。 |
ライラ | ライラさんを見送るテンチョーさんも、どこか悲しそうで……。 |
公園のハト | くるっぽー…… |
ライラ | 大丈夫ですよ。ライラさんにお勉強が足りないだけでしたねー。 |
ライラ | お店の商品は、困っている人にあげてはダメなのでございます。ライラさんは、もっと日本を知らないとです。 |
ライラ | でも、日本に来て、ライラさんは幸せでございますよー。 |
ライラ | いろんなものがあって、いろんなことを知ることができて。ここは、自由なところでございます。 |
ライラ | そうでした。ライラさんが元気なこと、ママや故郷のメイドさんたちに知ってもらいたいですねー。 |
ライラ | 帰ったら、みなさんにお手紙を書きましょうー。パパにバレないよう。こっそり出すのです。 |
公園のハト | くるっぽー! |
ライラ | おおー、ハトさんも楽しみでございますかー。 |
公園のハト | くるっぽー! |
ライラ | あわわわ。今日はパンの耳は持ってないのですよー。……うしろでございますか? |
ライラ | あー……。何か御用でございますか?わたくしライラと申しますです。 |
| ──同じころ、ライラの故郷。 |
| お嬢様が日本へと発ってから、もう何か月になるでしょう。 |
| 彼女は、元気でいるでしょうか。……今日も、笑顔でいてくれているでしょうか。 |
| お嬢様の笑顔を、私は今でもありありと思い出せます。 |
| 私が始めてライラお嬢様に出会ったのは……初めて彼女の笑顔を見たのは、 |
| このお屋敷に勤めはじめた日のことでした。 |
| おや、あなたが新しく来たメイドさんなのですねー。 |
| 初めて会った時、ライラお嬢様は飛んでいる鳩に話しかけているところでした。 |
| 少しぼんやりとしており、心配になりましたが…… |
ライラ | あなたと出会えたので、今日も素敵な日になりました。ありがとうございます。 |
| 彼女はただのんびりと、麗らかな午後を謳歌していただけだったのです。 |
| それから、ライラお嬢様は私とも何度もお話ししてくれました。たとえば、ある日のこと──。 |
ライラ | こちらをどうぞー。 |
私 | そんな、いただけません……! |
| お嬢様が私にくださったのは美しい髪飾りでした。 |
ライラ | それは、お嬢様が気に入って手にされたものでしょう?であれば、お嬢様が使うべきかと……。 |
ライラ | はいー。わたくしは、あなたの髪に似合うと思い、これを買ったのです。 |
ライラ | ですから、この髪飾りを、あなたへの贈り物として使うのですよー。 |
| そしてライラお嬢様は、とても楽しそうに笑うのでした。 |
| 彼女は、私たちメイドにも分け隔てなく接してくれる方。そして何より、小さな幸せを見つけるのが上手な方でした。 |
| そんなお嬢様に結婚の話しが持ち上がったのは、しばらく後のことでした。 |
私 | お嬢様が結婚だなんて……まだ早すぎるのではないでしょうか? |
噂好きのメイド | それが……旦那様が言うには、大きな商談を成立させるための婚姻らしいの……。 |
| 私たちは不安になりました。この話を受けて、お嬢様の素敵な笑顔が、曇ってしまうのではと考えたのです。 |
| そこで、メイド数人で、さりげなく、ライラお嬢様に気持ちを伺いました。 |
ライラ | 結婚……それはつまり、もっとたくさんの人と仲良くなれるということですねー。 |
| 私たちの不安とは裏腹に、お嬢様は見知らぬ方との結婚を憂いてはないように見えました。 |
ライラ | わたくしは、パパとママに大切に育てていただきました。ですから、これも恩返しだと思うのです……。 |
| しかし、彼女の笑顔は、いつも私たちに見せてくれるものとは違い……どこか困っているようにも見えました。 |
ライラ | でも……でも……パパはいつになったら、わたくしと結婚以外のお話しをしてくれるのでしょうかー……。 |
| それは、いつも上手に幸せを見つける彼女が、幸福以外の感情を、初めて私たちに見せた瞬間でした。 |
私 | あの、お嬢様……。差し出がましいようですが、私の個人的な見解を申し上げます。 |
私 | ライラお嬢様は優しい方です。そして、小さな幸せを見つけるのが上手なお方……。 |
私 | あなたの言葉は、いつも私たちをあたたかい気持ちにしてくれました。 |
私 | ただ……お嬢様は、優しすぎるところがありますね。旦那様や奥様……誰かのためというのは、一度横に置いて…… |
私 | 私たちは、ライラお嬢様に幸せだと思えるような、最前の選択をしていただきたいのです。 |
| その夜、私は、お嬢様が側仕えのメイドとお話ししているのを聞きました。 |
ライラ | 日本でございますかー? |
側仕えのメイド | はい。奥様からの提案でございます。私とともに、日本でお勉強するのはいかがでしょう? |
側仕えのメイド | きっと、ライラお嬢様の好きな美味しいものも、楽しいこともたくさんありますから。 |
側仕えのメイド | ただ、密かに事を運びますので今よりも、生活は苦しくなってしまいますが……。 |
ライラ | 日本に行くことが……わたくしが幸せだと思える、最前の選択になりますか……? |
ライラ | そこでは……わたくしは、自由になれるのですか……? |
側仕えのメイド | ええ、もちろんです。 |
| 彼女の言葉を聞き、私はそっとその場を離れました。 |
| 朝になると、ライラお嬢様たちの姿は見えませんでした。奥様の協力もあり、夜のうちに日本へと発ったのでしょう。 |
| あれから、数か月経ち──お嬢様は、今、元気で暮らしているのでしょうか。 |
| 日本という地で、新たな幸せと……自由を、見つけられたのでしょうか。 |
| ──数日後。 |
配達人 | こちら、お手紙です。 |
| 私が受け取ったのは、一通のエアメール。消印には"JAPAN"とあり、差出人は書かれていませんでした。 |
| 中には、お嬢様の現状を報告する手紙が一枚。そして、お嬢様からのお手紙が一枚ありました。 |
ライラ | ママとメイドさんたちへ……わたくしは、アイドルというものを始めました。 |
ライラ | アイドルをすると、お給料でアイスが買えます。ファンのみなさんが、笑顔でわたくしの名前を呼んでくれます。 |
ライラ | アイドルのお友達も、たくさんできました。 |
ライラ | わたくしは、日本で、夢のように幸せな日々を送っています。 |
| 私はいてもたってもいられなくなり、立ち上がりました。 |
| 手紙を忍ばせ、とある部屋の扉を叩きます。 |
私 | 奥様、お嬢様のことで……旦那様には内密のお話がございます。 |
| ライラお嬢様の出演なさるLIVEに、奥様とメイドたちから花を贈ることになるのは |
| それから少し後のお話です。 |
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