ヤナセ水産・工場 | |
あの日はたしか……学校が建った日で、平日だけどみゆきはお休みだったんだ! | |
だから、みゆきは宿題をしてたの!出された作文は、将来の夢!でも、あんまりうまくまとめられなくて…… | |
お父さんか、お母さんに聞こうかなって思ってたんだ。ふたりはいつも、みゆきに色んなことを教えてくれるから! | |
そしたら、ちょうど大事な話があるって、お父さんから工場に呼ばれたの! | |
美由紀 | お父さーん!きたよー! |
美由紀の父 | おう、美由紀。わりいな、ちょっと待っとけ。もうすぐ点検終わるからよ。 |
みゆきのお父さんは、水産工場をやってるの!でも漁にも出てて、空いた時間にはよく『見雪丸』の | |
お掃除したりしてるんだー!いつも丁寧に点検して、ピカピカに磨いてるんだよ! | |
美由紀 | お父さん、真剣な顔だねー!カニを解体してる時のお父さんも好きだけど、点検してる時もカッコイイよ♪ |
美由紀の父 | あたりめえのことをやってるだけだ。それより、みゆきもちょっと中に来い。 |
美由紀 | はーい♪ |
美由紀の父 | よし。ここなら誰もいねえし、丁度いいな。座ってくれ。すこしばかり揺れるけどよ。 |
美由紀 | うん、わかった!よいしょっ! |
美由紀の父 | なあ、美由紀よ。おめえも14歳……そろそろ高校だの仕事だの考える歳だ。将来の夢とか……あんのか? |
美由紀 | あーっ!それね、ちょうど聞こうと思ってたんだ!作文の宿題が出たんだよー♪ |
美由紀 | それで、みゆきは大好きなものがいっぱいあって迷ってたの!お花でしょ?ケーキにカニのぬいぐるみも! |
美由紀 | だから、ケーキ屋さんもお花屋さんもいいし、カニ屋さん?もいいなーって! |
美由紀 | でも、みゆきが一番大好きなのはお父さんとお母さんだから、お父さんの工場でも働きたいんだー! |
美由紀 | 家族みんな、ずーっと一緒がいいんだもん♪ |
美由紀の父 | ……船に乗らなくても、海辺で働くってのは大変だぞ?それにな、工場で働くってことはいつか美由紀が後を継いで、 |
美由紀の父 | 経営をしていくわけだ。そしたら、家族で過ごす時間も取れねえぞ?わかってるだろうけどよ……。 |
美由紀 | うん……そっか……そうだった、よね……。 |
幼い美由紀 | おとうさん、おかあさん!みゆき、ゆうえんちいきたい! |
幼い美由紀 | クラスのね、おともだちがね!パパとママといっしょに、遠くのゆうえんちにいったって!みゆきもいきたいなー♪ |
美由紀の父 | ……わりいな。美由紀。お父さんも、お母さんも忙しいんだ……。 |
美由紀の父 | 婆さんに続いて爺さんもポックリ逝っちまって……。これからは俺らが会社を経営していかなきゃいけねえ。 |
美由紀の父 | 何かあるといけねえから、遠くまでは行ってやれねえ。……すまねえ、美由紀。 |
幼い美由紀 | え……。でも、みゆき……ゆうえんちいきたい……。おてつだい、いっぱいするから……。ぐすっ……。 |
美由紀の母 | ごめんね、美由紀。遊園地、行きたいわよね。ごめんね……。 |
美由紀の父 | ……あの日から、美由紀はワガママ言わなくなったな。美由紀は利口だから、分別のつもりだろうけどよ。 |
美由紀の父 | 親として、情けねえ。ワガママのひとつも言わせてやれねえなんてよ。 |
美由紀 | そんなことないよっ!お父さんもお母さんも、すごく頑張ってるもんっ!カッコイイよっ! |
美由紀 | たくさんのお家に、美味しいお魚とかカニを届けるのって、大変だもん!だから……すごいよっ! |
美由紀の父 | ……ありがとな、美由紀。けどよ、このまま美由紀に会社を継がせるわけにはいかねえ理由もあんだ。 |
美由紀の父 | 最近じゃこの辺も、土地開発だの施設建設だので、きなくせえ状態なんだ。正直、うちの工場もあぶねえ。 |
美由紀の父 | 工場を潰させねえためには、今まで以上に……うちの工場の価値を、示していかねえとならねえ。 |
美由紀 | え……?そ、そうなの?じゃあ、やっぱりみゆきも手伝った方が…… |
美由紀の父 | ダメだ!……美由紀のカニ剥きの腕前は、確かにすげえ。けど、それだけじゃ足りねえ。 |
美由紀の父 | 魚は扱えんのか?それに、場合によっちゃ、船舶免許だって必要になる。半人前は、働かせらんねえ。 |
美由紀の父 | ……そこでだ、美由紀。東京へ行く気はねえか? |
美由紀 | え〜?と、東京〜!?すっごく、遠いけど……。 |
美由紀の母 | あんた、美由紀はね、そんな建前よりも、私らの考えが聞きたいって思う子よ。 |
美由紀・父 | あっ、お母さん! げっ、母ちゃん……。 |
美由紀の母 | 急に難しいことを言われて、美由紀も困ってるじゃない! |
美由紀の母 | あのね、美由紀……これから工場がもっと忙しくなって、一緒にいられる時間がもっともっと減っていきそうなの。 |
美由紀の母 | ご近所の助けはあるけど、広い家にずーっと美由紀をひとりにするのが、お母さんたちは心配でね。 |
美由紀 | そっかー……。みゆき、ひとりでのお留守番増えちゃうんだ……。 |
美由紀の父 | あー……それもあるが、俺は美由紀に、もっと広い世界を見てほしい。工場を継ぐだけが選択肢じゃねえからよ。 |
美由紀の母 | そう。それで、東京でしばらく暮らしてみたら?って話になるの。 |
美由紀の母 | 美由紀が暮らすところについては、お父さんが用意してくれるみたいだから。 |
美由紀 | ああ、俺の伝手でなアイドル事務所の寮に空きがあるそうだ。美由紀、そこに住んでみねえか? |
美由紀 | それって、みゆきがアイドルになるってこと?楽しそうだけど……大変そー! |
美由紀の父 | 別に、アイドルになれって言ってるわけじゃねえさ。……お父さんは、美由紀ならなれると思ってるけどな。 |
美由紀の父 | しばらく傍にいられねえからよ。東京の、人がいっぱいの場所で……世の中を見て、でっけえ夢を探してこい。 |
美由紀の母 | 東京へ行った後で、どうしても美由紀が工場を継ぎたいのならそうすればいいのよ。 |
美由紀 | でも、転校の手続きとか、忙しいのに大丈夫……?お友だちにも、しばらく東京に行くねって知らせたいし……。 |
美由紀の母 | ふふっ。大丈夫よ♪だって、ほら……。 |
ベテラン社員 | 美由紀ちゃん!工場のことはおっちゃんたちに任せな! |
社員 | 社長、奥さん!俺ら社員一同、美由紀ちゃんのためなら、寝ずに働きますんで! |
美由紀の母 | ……ね?美由紀のために、みんな協力してくれるって。 |
美由紀の父 | こいつらも、もう家族みてーなもんだからよ。だから……俺と同じで、娘の将来を、いいものにしてえんだ。 |
美由紀 | ……うんっ! |
美由紀 | 決めたっ!みゆき、東京に行くねっ! |
東京行きを決めてから一か月後……。今日はついに、旅立ちの日! | |
美由紀の母 | 美由紀、お友だちへの挨拶はちゃんと済ませた? |
美由紀 | うんっ♪いっぱい泣いちゃったけど……最後は、みんな笑顔で送り出してくれたよっ! |
美由紀の父 | 毎週、手紙を送ってくれよ?美由紀が便りをくれりゃあ、それで、俺は十分だからよ。……達者でな。 |
美由紀 | ……っ。お父さぁん……お母さぁん……ぐすっ。 |
美由紀の母 | 美由紀、大丈夫よ。心細いかもしれないけど、プロデューサーさんがきっと助けてくれるから。 |
美由紀 | ぐすっ。……うん。大丈夫! |
美由紀 | お父さんがいつも言ってるもんね!困った時や辛い時でも、笑顔でいなさいって♪ |
美由紀 | それじゃあ……みゆき、いってくるね! |
美由紀の母 | いってらっしゃい。美由紀……。 |
美由紀の父 | ……みゆきぃぃぃぃ!!元気でやれよおぉおおお!!うぅっ……うおおおお! 美由紀ィ!! |
美由紀の母 | あんた、うるさいわよ!いつもカッコつけてるくせに、美由紀のこととなると……しょうがない人よねぇ。 |
寮の人たちと、仲良くできるかなー?お父さんに似て方向音痴だけど迷ったりしないかなー? | |
……みゆきが一番にお世話になるのは、プロデューサーさんって人なんだって。どんな人だろー? | |
不安なことは、いっぱいある。だけど、それと同じくらいワクワク、ドキドキする!東京には何が待ってて…… | |
美由紀 | みゆきは、これから何になっていくのかなっ♪ |
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