飛鳥 | ………………雨の、匂いだ。 |
蘭子 | 天は未だ憂いを帯びず、一滴の涙も見えぬが…? |
飛鳥 | 予報は、雨。…今日は当たり、かな。 |
蘭子 | 遠く昏き空の彼方に見えるは、涙の兆候…或いは、神の乱心か。 |
飛鳥 | 灰色の空の季節がやってきたというわけか。 |
蘭子 | フフフ…気まぐれなゼウスに、運命を翻弄される事もあろう。 |
蘭子 | だが、所詮は神が定めた運命…降り来る災厄に屈する私ではないわ! |
飛鳥 | なるほど。蘭子はたしか、傘を持っていたね。 |
蘭子 | ええ。煩わしい太陽に身を灼かれぬよう、我を護る楯は常に我が身と共に。 |
蘭子 | 今は魔力を蓄え、仮の姿で眠っているわ。 |
飛鳥 | 備えあれば憂い無し、か。雨に打たれるのは嫌いかい? |
蘭子 | 我が漆黒の衣は天の涙とて触れること能わず…。 |
蘭子 | 飛鳥…あなたは神に屈し、ただ静かにその裁きを待つ、と? |
飛鳥 | 所詮、ボクは庇護なき身。冷たい雨に打たれるのみ、さ…。 |
飛鳥 | 無論、濡れた服の感触は好まない。たとえそれがお気に入りの服でもね。 |
蘭子 | …ならば何故、自ら災厄の空に挑むのかっ!? |
飛鳥 | 一理あるね。けれど蘭子、キミはありふれた日常、目に視えるモノだけに囚われてはいないかい? |
飛鳥 | 雨天に傘…。そんなの誰が決めたんだい? |
蘭子 | えっ? |
飛鳥 | ボクは今日、新たな鍵を手にする。雨に濡れる煩わしさを代償に、ね。 |
飛鳥 | それに…雨音はいいよ。都会の喧騒を掻き消してくれる。 |
蘭子 | ああ…確かに、天の裁きは、時に優しく我ら闇の眷属をも包み、恵みの雫となろう。 |
蘭子 | かかる日はグリモワールを開き、心静かに新たな術式を紡ぐのも、また一興…。 |
飛鳥 | 雨音を聴きながら、詩を紡ぐ。悪くないだろう? |
蘭子 | されど、闇と光。天界と魔界。それはやはり…相容れぬもの。 |
飛鳥 | 恐れるというのかい?新しい世界へ踏み入るのを。 |
蘭子 | 新世界…。まだ見ぬミューズとの邂逅か…。 |
飛鳥 | 新たな門出を祝福しよう、蘭子。キミはその身さえあればいい。 |
飛鳥 | さぁ、踏み出そう!ボクらは、恐れを知らない。だから罪だって…犯せる。 |
蘭子 | 甘美な誘惑ね。されど我は、やはり楯を掲げよう。なぜなら── |
蘭子 | 我が携えるは、新たなる楯!災いが降り注ぐのであれば、むしろそれは好機! |
飛鳥 | フッ…それがキミの選択か。手に入れた新しい力を試したい、と。 |
蘭子 | まさしく!飛鳥、汝が望むならば、我と庇護の楯を分かち合わん! |
蘭子 | 我ら共に行けば、いかなる災厄も恐るるに足らず! |
飛鳥 | ああ、それは嬉しいお誘いだね。けれど、だ。けれど蘭子。ボクは……。 |
飛鳥 | 在りのままの自分でいたいのさ。雨に打たれ、街へ消えるとしよう。 |
蘭子 | 何!?迫り来る漆黒の牙に抗わず、その身を滅ぼすと? |
蘭子 | 喉元を噛み破られ、来たる祝宴で哀しく病んだ歌声をさらす…。それでも良いと? |
飛鳥 | ……ふむ、なるほど。キミの言う通りだ。ボクは過ちを犯すところだったよ。 |
蘭子 | ならば友よ。いざ、我と共に…! |
飛鳥 | ああ、キミと往こう。 |
蘭子 | クックック…。我が美しき楯で、神の涙を掃うのが楽しみね。 |
飛鳥 | 天の憂いを、今はただ…静かに待つとしよう。ボクたちは…逃げない。 |
蘭子 | うん♪ |
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