| 誓う未来は…… |
| まゆの望みは、いつだって変わらない。 |
| 貴方の一番近くにいたい。貴方のためにできることは、何でもしたい。……貴方の、一番になりたい。 |
カメラマン | お疲れさまでした!佐久間さん、今日の撮影もばっちりでした!さすがですね! |
カメラマン | では、プロデューサーさんも合わせておふたりで、少し確認してくれませんか?こちらの写真になります。 |
カメラマン | ポーズも表情も、衣装にばっちり合ってるし、カメラマンとしてはぜひこちらで進めたいですね! |
まゆ | うふふ……ありがとうございます♪ 全部、スタッフさん方の協力があってのことですよ。 |
まゆ | (それに、このお仕事は、プロデューサーさんが、まゆのことを考えてとってきてくれたもの) |
まゆ | (そして、プロデューサーさんに見つめてもらえた瞬間が、ずっと写真になって残るなんて……) |
まゆ | 本当に素敵……いい写真を撮っていただいて、ありがとうございます♪ |
カメラマン | いえいえ、佐久間さんの実力があってこそですよ。こんなに頑張ってることですし、佐久間さんも |
カメラマン | プロデューサーさんにご褒美をねだってみては?ほら、プロデューサーさんもいいって言ってますし! |
まゆ | そんな……私はもう、プロデューサーさんからたくさんのものをいただいてますから……♪ |
カメラマン | 佐久間さんは謙虚ですね。他の子は、欲しいものとか、したいこととか、たくさんリクエストするのに。 |
まゆ | 欲しいもの……したいこと……。 |
まゆ | (そんなの決まってる。プロデューサーさんの全部がほしい) |
まゆ | (プロデューサーさんの一番近くにいたいし、力になりたい。貴方の望むことは、何でもしたい) |
スタッフ | すみませーん!衣装搬入しまーす! |
まゆ | あら、もう次の撮影の時間ですか? |
カメラマン | いいえ、あれは明日の分なんですよ。大がかりな撮影だから、早めの搬入を依頼したのかな。 |
| まゆの目に映ったのは、煌めくティアラ。ガラスの靴。それと、純白のドレス。 |
カメラマン | もうすぐジューンブライドの撮影シーズンですから。今年も雑誌の特集が目白押しでして。 |
まゆ | そのドレスは、まゆにはとても輝いて見えました。だって、それは一生を貴方に捧げる、誓いの証だから。 |
まゆ | (アイドルの衣装を着ている間は、プロデューサーさんのまゆになれる。でも今は、それだけじゃ不安なのかな……) |
まゆ | (衣装を脱いでも、貴方のものだって感じられるお洋服が着たいと思っちゃう……) |
まゆ | ふたり、結ばれることができたらいいのに…………結婚、できたらいいのに。 |
まゆ | あ、いえ、今のは……あの、プロデューサーさん、さっきの……ワガママのお話なんですけど……。 |
まゆ | まゆが、次に着たい服は……ううん、言わなくたって……伝わっていますよね。プロデューサーさんなら…… |
まゆ | 着せてくれます。だって、プロデューサーさんは、世界で一番まゆを大事にしてくれる人だから……。 |
スタッフA | すみませーん!プロデューサー、明日の入りの時間についてなんですが! |
スタッフB | プロデューサー、いらっしゃいますかー?スケジュールに数点変更がありまして!! |
まゆ | (現場に前乗りしたら、少しでも長く一緒にいられるかなって思ったけど……) |
まゆ | (プロデューサーさん、忙しそう……でも、仕方ないかな。7人も連続で撮影するんだもん) |
まゆ | (彼女たちもみんな、ドレスを着るんだ……プロデューサーさんが、きっと似合うって選んだドレスを……) |
まゆ | (プロデューサーさんが、まゆ以外のことを考えて選んだドレスを……) |
まゆ | 嫌なことばかり考えちゃう……嫌なまゆ……。 |
まゆ | (……ドレスを着るだけじゃ、不安は拭えないのかな……?もっと確かなシルシが、必要なのかな……?) |
まゆ | (まゆがプロデューサーさんの一番だっていう、確かなキズナが……) |
スタッフA | みなさん、お疲れさまです!アイドルのウェディング特集、毎年とても好評なので、今年も頑張っていきましょう! |
スタッフB | あの、私、この現場初めてなんですけど、そんなに人気なんですか? |
スタッフA | そうだねぇ……やっぱり、好きなアイドルのドレス姿は見たいけど、結婚はしてほしくないってファンはいるから。 |
スタッフA | 複雑なファン心が、この特集で満たされるんじゃないかなって思ってるよ。 |
スタッフB | そんな感じなんですかね?私なら、好きなアイドルには、結婚して幸せになってほしいって思うけど……。 |
まゆ | (…………まゆは、どっちの気持ちもわかっちゃう) |
まゆ | (プロデューサーさんには、幸せになってほしい。でも、まゆ以外の誰かが貴方の特別になるなんて、許せない……) |
スタッフB | そういえば、前にも有名なアイドルが結婚して、話題になってましたもんね! |
スタッフA | ああ、相手はマネージャーで、アイドルが引退宣言したってやつだったっけ。 |
スタッフB | そうそう、ファンも寂しがってて。マネージャーも当然部署異動になったんですよね。 |
スタッフA | そりゃあ、担当してるアイドルとくっついたんだ。信用問題としても、マネージャーは続けづらいからなぁ……。 |
まゆ | (……まゆは、プロデューサーをしてる貴方が好き。貴方にはずっとプロデューサーでいてほしい) |
まゆ | (そして、ずっとまゆを、一番近くでプロデュースしてほしい……) |
スタッフA | 結局、この手の心理には決着がつかないからなあ。幸せになってほしい、でも自分の特別でもいてほしいってさ。 |
スタッフB | うーん……複雑というか……ファンからしたら、袋小路に入っちゃってるんでしょうね。 |
スタッフA | 最終的には、自分の中で折り合いをつけるしかないんだろうなぁ。自分はどっちを大切に想うのかをさ。 |
まゆ | (…………うん。まゆだって本当はずっと前からわかってた) |
カメラマン | そうだ!こんなに頑張ってるならさ、まゆちゃんもたまにはワガママ言ってみたらどう? |
まゆ | ふたり、結ばれることができたらいいのに…………結婚、できたらいいのに。 |
まゆ | (貴方には、プロデューサーでいてほしい。そして、まゆは貴方のアイドルでいたい……) |
まゆ | (まゆと貴方は、決して結ばれないんです……) |
美優 | あら、まゆちゃん、どうしたんですか……?明日は撮影ですし、もう休んだ方が……。 |
まゆ | ごめんなさい……少し、緊張しちゃったのかも。なかなか落ちつかなくて……。 |
まゆ | (楽しみにしていた撮影……ううん、今だって、楽しみなはずなのに……余計なことばかり考えちゃう) |
まゆ | (プロデューサーとは、どんなに頑張ったって結ばれないのなら……) |
まゆ | (苦しくて悲しい、あんまりな初恋を抱えながらドレスを着て、まゆは晴れやかに笑えるの?) |
まゆ | (こんな自分じゃ、他の子に目を向けられちゃう……それだけは、絶対に嫌なのに……) |
まゆ | (……プロデューサーさんに、会いたいな) |
まゆ | (でも、駄目。今日はずっと忙しそうにしてたから、夜はゆっくり休んでほしい……迷惑は、かけたくないの。) |
まゆ | (それなら、せめて……心の靄は晴れなくても、ドレスにぴったりのまゆが作れるように……) |
美優 | まゆちゃん、どこに行くんですか……? |
まゆ | すみません……少し、外の空気を吸いに。 |
| ふらふらと足を向けたのは、明日着るドレスが搬入されている部屋でした。 |
まゆ | こんなに綺麗なドレスなのに……こんなにも、好きで大好きで……結ばれたくてたまらないのに……。 |
まゆ | (改めて見ると、現実を突きつけられているようで、胸が痛む) |
まゆ | (これを着て、あの人の隣で、永遠を誓うことができないだろうという現実を) |
まゆ | 諦めたくない……どうしよう……どうすればいいの……あっ! |
| 後ずさって机にぶつかり、上に置いてあったメモ帳が落ちてしまいました。 |
まゆ | (まゆだから知ってる。これはプロデューサーさんのもの) |
まゆ | (些細なアイデアを書き留めているもので、お仕事の機密情報はないけれど……とても大切なもののはず) |
まゆ | 落としちゃった……大切なプロデューサーさんのメモ帳なのに……。 |
| ちょうど開いたページに、目を奪われる。書かれていたのは、まゆの名前。 |
| それと、あの人が私のことを考えて書いてくれた、たくさんの文字。 |
| 『目を輝かせて見ていた。』『憧れているのかも。』『それなら純白のドレスで。』 |
| 『好きな赤色をワンポイントで入れたい。』『やっぱりリボンが似合う。』『ブーケも赤い薔薇で。』 |
| そして、最後に2行にはアンダーラインが引かれていました。 |
| 『とびっきり可愛く。』『とびっきり綺麗に。』 |
| 全部全部、まゆのための文字だった。まゆをトップアイドルにするための、あの人の想いだった。 |
まゆ | 好き……やっぱり、どうしたって大好きです……プロデューサーさん……。 |
まゆ | 貴方はいつでも、まゆのプロデューサーでいてくれる。私を輝かせる未来を考えてくれている……。 |
まゆ | そんな貴方が好きなの。隣でずっと、そんな貴方の横顔を見ていたいの。 |
まゆ | アイドルの私も、ただのまゆでいる私も……プロデューサーの貴方が大好きなの。 |
まゆ | アイドルとプロデューサーは結ばれない……でも、だからこそ、ずっと寄り添い合えるなら…… |
まゆ | それは、まゆの欲しかった、確かなキズナじゃないのかな……? |
| プロデューサーさんのメモ帳に丁寧に書き足した。まゆの想いを、貴方への返信として。 |
| 『明日の朝、迎えに来てください。』 |
まゆ | 場所は言わなくてもわかってくれる。私と貴方は、運命の赤い糸で結ばれた、アイドルとプロデューサーだから。 |
まゆ | そして、このドレスを着て……明日、まゆは貴方に尋ねます。 |
まゆ | ずっと……ずっと……ずーっと……永遠に、まゆのプロデューサーでいてくれますか?って。 |
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