| ある夏の日… |
あい | おや、肇くん。お疲れさま。直接会うのは……春の撮影ぶりかな? |
肇 | ええ、そうですね。ご無沙汰しています。あの撮影は、とても勉強になりましたね。 |
あい | 私としても、あの仕事は挑戦だったな。だが、新しい自分に出会うことができた。お花見もできて良い思い出になったよ。 |
肇 | 夜桜も美しかったですね。あ……そういえば、あの後は大丈夫でしたか? |
肇 | は、薫ちゃんたちと先に帰らせていただきましたが……その、かなり酔っていらしたようですので……。 |
あい | ああ……いや、ハハ……失態を見せてしまったね。帰りはプロデューサーくんが送ってくれたんだ。 |
肇 | であれば、安心でしたね。またいつか、皆さんと……あら? 廊下が少し騒がしいような……。 |
| ばたばたばたばたっ! |
あずき | あ〜!東郷さん、肇ちゃん!やっと見つけた〜っ! |
肇 | あずきちゃん?どうしたんですか、そんなに慌てて……。 |
あずき | あのねっ、ふたりにお願いがあるの!あずきの大作戦に、協力してくださ〜いっ!! |
肇 | 大作戦……? |
あずき | そうっ!大作戦っ!!えっとねっ、あの!!! |
あい | あずきくん、ひとまず落ち着いて話してごらん? ほら、まずは深呼吸だ。 |
あずき | えっ、あ、はいっ!すー、はぁ〜。 |
あずき | ……よしっ。えっとですね、あずき、今度、撮影のお仕事があって。それで、すごい困ってて! |
あい | 困ってる?どうしてだい? |
あずき | 今までやったことない感じの撮影テーマなんです……!絵画がモチーフで、ゴシックな衣装の撮影らしくって……。 |
肇 | 絵画モチーフですか……素敵なコンセプトですね。ゴシックな衣装というのも、よく似合いそうです。 |
あずき | そうかな……?でもあずき、今まで和風っぽいお仕事が多かったでしょ?だから……その……。 |
あい | ふむ……プロデューサーくんはなんて言ってるんだい?不安そうにしてたかい? |
あずき | ううん。あずきなら、大丈夫だって。きっとうまくやれるよって。けど…… |
あずき | 参考資料を見せてもらったらあずきが着たことないような衣装だし、テーマもなんだかすっごく難しそうで……。 |
あい | なるほど。つまり、あずきくんは、私たちからアドバイスを貰いたいんだね。 |
あずき | そうなんです!プロデューサーは大丈夫って言うけど、私はすっごく……その……そうっ、不安でっ! |
あずき | それで、東郷さんのことを思い出したんですっ。ほら、この前の洋館風のお仕事も素敵でしたし♪ |
あい | ああ、あの時のか。見てくれたのかい?ありがとう。 |
あずき | とってもカッコよかったです!ゴシックな装いが東郷さんに似合ってたし、表情や仕草もすっごくセクシーで! |
肇 | あの……あいさんはわかりますが、私は……?あずきちゃんと同様、和風のお仕事が多いですし……。 |
あずき | だって肇ちゃん、あずきとひとつしか歳が違わないのに、すご〜く大人っぽいでしょ? |
あずき | この前のお花見のときも、大人だな〜って思ってたの。だから、参考にしたくって♪ |
肇 | そ、そうでしょうか?ありがとうございます。 |
あずき | うん、大人っぽい!きっと秘訣があるんだよね? |
肇 | いえ、秘訣というのは……特に……。私の方こそ、あずきちゃんに教わりたいと思っているくらいで……。 |
あずき | ふえっ、あずきに? |
肇 | ええ。あずきちゃんは、色っぽく艶やかでしょう?ですから、色気というものをご教授いただければと……。 |
あずき | んー……あずきって、本当に色っぽいのかなぁ? |
あずき | 「あずきはセクシー路線でいこー!」って思ってたけど最近、違う気もしてて……。 |
あい | ほう?なんでだい? |
あずき | だって……私のセクシーって、真似っこじゃないですかっ? |
肇 | 真似っこ……というと、どなたかモデルがいるということですか? |
あずき | うん。あずきの実家って呉服屋だから、小さい頃からお店に着物を仕立てにくるお姉さんたちを見てたんだ。 |
あずき | みんな素敵でねっ!だから、あずきも素敵になりたくて、なんとなーくそんなイメージでやってたの。けど…… |
あずき | それで本当にいいのかなぁ?あの時のお姉さんや東郷さん、肇ちゃんみたいに自然と出る色気がないとダメじゃない? |
あずき | あずきって、全然セクシーなんかじゃないのかも……。 |
あい | ……ふむ。あずきくんは今、迷っているんだね。 |
あずき | えっ!私、迷ってるんですかっ!? |
あい | フフ、そうだね。自分の進んでいる道が合っているのか、自信をなくしてしまっているように見えるよ。 |
肇 | そうですね……いつものあずきちゃんなら、自信をもって新しい世界に飛び込むはずですから。 |
あずき | そういえば……そうかも? |
あい | 気にすることはないよ、あずきくん。迷うのは、何も悪いことじゃないんだ。誰だってそんな時はあるよ。 |
あい | 立ち止まって考えたり、誰かから意見を貰ったり……そうしてまた、納得できる答えを見つけたらいいのさ。 |
あずき | なるほどぉー。それなら……肇ちゃんっ!! |
肇 | は、はいっ? |
あずき | さっきあずきのこと、色っぽいって言ってくれたよね?たとえば、どのあたりかなっ? |
肇 | ど……どのあたり?そうですね……表情や仕草が、魅力的でしょうか。 |
あずき | もっと具体的にお願いっ!どういうあずきがセクシー?『うふ〜ん♪』って感じ!? |
肇 | うふ……!?ええっと、その……。 |
あい | まあまあ、あずきくん。焦る必要ないよ。じっくりいこう。なぁ肇くん? |
肇 | ええ。私もあいさんも、今日はこの後、空いてますから。ゆっくり喋りしましょう? |
あい | ただ……そうだな。今言える確かなことがひとつ。 |
あずき | 確かなこと?それって、なんですか? |
あい | あずきくんはセクシーだ、ということさ。あずきくんらしい形でね。 |
あずき | ええっ、そうですか〜!? |
あい | おや、私や肇くんのことが信じられないかい? |
あずき | いえっ、そんなことないです!絶対絶対、信じますっ! |
あい | なら、よかった。不安はなくなったんじゃないかな? |
肇 | あずきちゃんなら、きっと素敵な撮影にできますよ。表現したいことを自由に……思うままにしてみてください。 |
肇 | 大丈夫です。あずきちゃんは、セクシーでとても素敵な人ですから。 |
あい | そうさ。プロデューサーくんがくれた挑戦の機会だからね。ぜひとも楽しんでおいで。 |
あずき | ……はいっ!えへへ〜、なんだか勇気が出てきました♪ありがとうございますっ! |
あずき | そうと決まれば!セクシーゴシック大作戦!早速、プロデューサーと練ってこなくちゃっ! |
| ばたばたばたばたっ…… |
肇 | あ……行っちゃいました……。でも……あずきちゃんが元気になってよかったです。 |
あい | ああ、そうだね。肇くんの力強い言葉が、きっと彼女の力になったはずだよ。 |
肇 | それを言うなら、あいさんのおアドバイスのおかげかと……。優しくて、励みになる言葉をたくさん伝えていましたから。 |
あい | おや、そうかい?フフ……褒められると気持ちがいいね。 |
あい | 肇くんも、何か悩みごとができたら、いつでもおいで。 |
コメントをかく