| とある日… |
| 拝啓 夏の暑さも随分とやわらぎ、朝夕は過ごしやすい季節になってきましたね。 |
| 先日は、お手紙、ありがとうございました。私は、とっても元気です。 |
| お話にもあったように、私は今、アイドルをしています。 |
| 最近は、少しずつ忙しくなってきて―― |
ベテラントレーナー | 氏家!気が散っているな?足元がおろそかになってるぞ。 |
むつみ | は、はい!すみません! |
ベテラントレーナー | 動きにも、キレがないな。ステップもターンも、ぼやっとした印象を受ける。 |
ベテラントレーナー | スペイン帰りの直後やこの前のLIVEの時は、キレがあったんだがな。どうした? |
むつみ | あの時は……その、はっちゃけすぎてたのかもって思ってて……。 |
ベテラントレーナー | ……なるほどな。氏家に、何か考えがあるのはわかった。今日のレッスンはここまでにしよう。 |
むつみ | はい……。 |
ベテラントレーナー | そう落ち込むな、氏家。アイドルを始めた頃より体力もついてきている。 |
ベテラントレーナー | 時には、シンプルに考えてみたらどうだ?前を向いて、楽しく踊ってみよう、とかな。 |
ベテラントレーナー | あれこれ考えるのもいいが、自分のしたいことを、してみるのも手だぞ。 |
むつみ | はい……!レッスン、ありがとうございました! |
むつみ | ――帰り道。 |
むつみ | ダンスって、やっぱり難しいなぁ……。 |
むつみ | でも、前の私だったら、今頃、もっとヘトヘトになってたよね。 |
むつみ | トレーナーさんにも、体力がついてきたって褒められたし……うん、頑張ろうっ! |
野良猫 | にゃ〜。 |
むつみ | あ、ネコさん……。どこに行くんだろう?もしかして、冒険中?追いかけてみようかな。 |
むつみ | そういえば昔も、ネコさんを追いかけて、ひとりで冒険したっけ。 |
むつみ | ……お母さんたちに、また心配かけちゃうかな? |
| ――数年前。 |
むつみの父 | むつみ!無事でよかった……! |
むつみの母 | 帰りが遅いから心配したのよ?もう危ないことはしないでちょうだい。ね?約束よ。 |
むつみ | あの時は、まだ小さくて……帰り道がわからなくなって。そしたら、お母さんたちが、見つけてくれたんだよね。 |
むつみ | でも、今は……私だって、少しは成長したんだし……。 |
むつみ | (時には、シンプルに。自分のしたいことを、してみる…………) |
野良猫 | にゃ〜。 |
むつみ | ……あっ!ネコさんっ、待って! |
| ガサゴソ…… |
むつみ | えっ?ネコさん、こんなに細い路地を通るの? |
むつみ | このまま、不思議の国に行けちゃったりして♪ |
むつみ | あの道、公園に繋がってたんだ……。 |
むつみ | そうだ!近くに郵便ポストがあったはず。あの手紙、出していこう! |
野良猫 | にゃ〜♪ |
むつみ | えへへ♪ネコさん、道案内ありがとう! |
茜 | おや?むつみちゃん、奇遇ですね! |
むつみ | 茜さん、こんにちは!……あ。こんばんは、でしょうか? |
茜 | そろそろ陽も低くなってきましたからね!ところで、ここら辺には何かご用があって? |
むつみ | あっ、いえ!レッスン帰りに、いつもと違う道を通ってみたら、ここにたどり着いたんです。 |
むつみ | それで、近くにポストがあったことを思い出して、この手紙を出そうと思って。 |
茜 | お手紙ですか、いいですね!お友達へのお手紙ですか? |
むつみ | はいっ♪ |
茜 | なるほど、どうりで分厚いお手紙だと思いました!熱いメッセージをたくさん書いたんですね!! |
むつみ | そうなんですっ。近況をたくさん書いて……あと、最近撮った写真も、たくさん入れました。 |
茜 | でも郵便とは、なかなか素朴なやりとりですね! 直接渡さないんですか? |
むつみ | それが……手紙の相手は、小学校に入る前に、遠くに引っ越しちゃった子なんです。 |
むつみ | 幼稚園の頃は、その子とよく遊んでいました。おままごととか、粘土遊びとか、折り紙とか。 |
茜 | ふふっ、楽しそうですね!むつみちゃんなら、お友達と探検隊を作って冒険もしたんじゃないですか? |
むつみ | あ、いえ。冒険もしてみたかったんですけど……あの頃は、いろいろと難しくて…… |
むつみ | (……ううん。本当は、簡単だったのかもしれない) |
むつみ | (お父さんやお母さん、お友達にも「冒険したいの!」って。その、たった一言が言えたらよかったのかも……) |
むつみ | ……今みたいに、冒険はあまりしませんでした。 |
茜 | おや、意外でした!じゃあ、そのお友達との冒険は一度も? |
むつみ | そうなんです。だから……きっと、私が冒険好きだって、知らないと思います。 |
むつみ | 静かに本を読んでいる、大人しい子。私って、そんなイメージだったと思うから。 |
茜 | そうでしたか!では、いつかそのお友達と会う日が楽しみですね! |
茜 | その時がきっと、お友達との初めての冒険になりますから! |
むつみ | ……!そうですよね!実は、お手紙にもそう書いてみたんです!冒険したいな、って。 |
むつみ | 応えてもらえるかは、わからないけど……。 |
茜 | 大丈夫ですよ!むつみちゃんとの冒険は、楽しいですから! |
茜 | そのお友達も、そう思ってくれるはずです! |
むつみ | そうだといいな……♪茜さん、ありがとうございますっ! |
| 忙しくなってきたけれど、とっても楽しくて……毎日が冒険なんです! |
| お手紙と一緒に、冒険の地図を入れました。今度、私が出演するLIVEのチケットです。 |
| よかったら……私と冒険してほしいのっ!どうぞ、よろしくね。敬具 |
| あなたと一緒に冒険したい氏家むつみより |
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