| ある夜のこと… |
| ……昔から、私は友達を作るのが苦手でした。 |
| いつも、流されないようにするだけで精一杯。その間に、他の人はずっと遠くまで進んでいて……。 |
| 気づけば、ひとりで……取り残されていることが多かったように思います。 |
| でも、今は…… |
| アイドルになってからは、違うって、思うんです。 |
| 大人になってからの再スタート……ですね。 |
美優 | 私も、変われるんだって、変わっていこうって、思っていたんですけど……。 |
美優 | えっと……えっと……。それで、今は……何のはなしでしたっけ……、 |
美優 | ん……だめ、です……。あたまがくらくらします……。それに、なんだかとってもねむくなってきたような……? |
留美 | 美優さん、飲みすぎよ。 |
美優 | だいじょうぶ……だいじょうぶですよ……。まだ、一杯しかのんでませんから……。 |
留美 | そうね。いつものカクテルなら大丈夫だったと思うわ。でも、今日は違うものを頼んでいたでしょう? |
留美 | 赤ワインだなんて……。美優さんが普通に頼むから平気なんだろうって思っていたんだけど……。 |
美優 | えへへ、おいしい……。もっとのみたいです……。……おかわりしちゃおっかな。 |
留美 | ストップ!ストップよ、美優さん。これ以上はいけないわ。 |
美優 | なんでですか……。私、のみたいです……。 |
留美 | お水で我慢しましょう?それにしても……珍しいわね。美優さんがこんなにも酔ってしまうなんて。 |
留美 | ねぇ、何かあったの?私でよければ、話くらい聞くわよ? |
美優 | うぅ〜……るみさん、ありがとうございます……。るみさんは、とってもやさしいんですね……。 |
美優 | るみさんは……やさしくて、すごいです……。 |
美優 | なのに……私は……アイドルとしても、人としても、まだまだで……。今だって……うぅぅ……。 |
留美 | そんなことないわ。今は、そのちょっと酔っているかもしれないけれど、仕事もちゃんとこなしてるじゃない。 |
留美 | 慣れない仕事や現場でも頑張っているって聞いているわよ? |
美優 | そこ!!そこなんですっ……!!! |
留美 | きゃっ、びっくりした……。美優さん、そんなに大きい声が出せるのね……。 |
美優 | 私は、みなさんに気をつかってもらってばっかりで……。もう……ほんとに……もうしわけなくて……。 |
美優 | 今日だって……現場で、はしっこにいた私を……、、スタッフさんや共演者さんが話にいれてくれて……。 |
美優 | でも……っ、私は……「はい」とか「ええ」しか言えなかったんですっ……。 |
美優 | おもってることも……、言いたいことも言えずに、気だけつかわせて……情けなさすぎます……。 |
留美 | 気にしすぎよ。きっとみんな、美優さんと話をしてみたかっただけでしょう?気を揉むことはないわ。 |
美優 | でも、どうしても気にしてしまうんです……。みなさんに気をつかわれてると感じてしまって……。 |
美優 | 堂々と……みなさんのお話に混ざれないなんて、って……。こんな自分が、情けなくて、みっともなくて……。 |
美優 | だから、変わろうって……。そう思って、アイドルになったのに……。 |
留美 | あら、美優さんはかなり変わったと思うわよ。だって、会社員とアイドルではまったく違うでしょ? |
美優 | はい……初めてのLIVEで、そう感じました……。 |
美優 | すごい衣装で……すごい緊張して……でも、スポットライトや……歓声が教えてくれました……。 |
美優 | 私は、アイドルとして……強く……まぶしく……だれかに求められているのだと……。 |
美優 | あの時……私は変われたと思いました……。なのに、気づけばいつもの自分にもどっていて……。 |
美優 | そのことが、かなしくて、とても……悔しいんです。 |
留美 | 美優さん……。やっぱり、貴方は私と少し似ているのね。 |
留美 | 落ち着いているように見えて……心の中には、強い情熱を秘めているの。 |
留美 | 美優さんの変りたいという気持ちは、きっと情熱の表れなのね……。 |
留美 | (だとしたら、今の彼女に必要な言葉は、無責任な励ましなんかじゃないわね……) |
留美 | (秘めた情熱を燃え上がらせるような、強い言葉よ) |
留美 | ……美優さんは、今すぐ変われないのなら、簡単に諦めてしまえるの? |
美優 | ……! |
美優 | いいえ……できません……。簡単にあきらめられるなら……こんなに苦しくありませんっ。 |
留美 | ええ、そうよね。貴方なら、そう言うと思ったの……。 |
留美 | できないことも、少しずつできるようになりましょう。もし躓いたら、またここに飲みにくればいいわ。 |
留美 | 私でよかったら、弱音くらいいくらでも聞くから。 |
美優 | ……はい。はいっ。るみさんっ!ありがとうございます……!! |
留美 | ふふっ、美優さんは、酔うと声が大きくなったり、少し幼く見えたりするのね。 |
美優 | あ、あの……っ、わたし、るみさんに聞いてほしいこと、まだあるんです……! |
留美 | あら、何かしら?今なら、何を言われてももう驚かないわよ。 |
美優 | えっと……えっと……私と、おともだちになってくだしゃい……っ! |
留美 | ふふ、呂律が回ってないわよ。 |
留美 | って、もう……。返事も聞かないで寝ちゃってるし……。 |
留美 | 言いたいことが言えないって嘆いてたけれど……ちゃんと言えてるじゃない。 |
留美 | でもね……。 |
留美 | 私は、とっくの昔に友達だと思ってるわよ。 |
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