| 長崎県・離島 |
柑奈 | らら〜ら〜♪ららら〜らら〜♪ |
柑奈 | ………………はぁ。今日もお客さんは、カエルの大将だけかー。 |
おばさん | あっ!柑奈ちゃん!ちょうど良かったわ。これ、うちで獲れた野菜!持ってって! |
柑奈 | こんにちは、ナカムラのおばちゃん!すごっ、大きな大根!いつもありがとね! |
ナカムラさん | なんも!社長さんにはお世話になってるもんねぇ。じゃ、またね! |
柑奈 | またねー♪……カエルの大将、これ見てよ!立派な大根!お母ちゃんに届けてくるね♪ |
柑奈 | ただいま、お母ちゃ…… |
柑奈の母 | あの子、高校出てから毎日歌ばっかり歌っとうけん。どうしたもんやろか……。 |
柑奈の祖母 | 柑奈は爺さんに似たからねぇ。けんど、家のことはちゃんと手伝ってくれとるんやし、よかやなかと? |
柑奈の母 | それはそうやけど、ずっとこのまま言うのもねぇ。 |
柑奈 | …………。 |
柑奈 | わかっとるよ……。ずっとこのままじゃいられんことぐらい。でも、どうする……? |
柑奈 | 島のみんなみたいに、家の手伝いして、お嫁に行く?そこには、ピースもラブもある。そうかもしれない。 |
柑奈 | でも、それは……私の探してるラブじゃない。そんな気がしてるんだ。 |
爺っちゃん | おー、柑奈。こんなとこで、どうした?ギターと大根なんか持って。 |
柑奈 | 爺っちゃん!今、帰り? |
爺っちゃん | おう。ちょっくら会社に顔出して来たところだ。お前の父ちゃん、よう働いとったぞ。立派なもんだ! |
爺っちゃん | まったく、爺っちゃんの息子とは思えんな!アッハッハッハッ! |
柑奈 | ……ねえ、爺っちゃん。 |
柑奈 | 私……ラブが見つからんの。このままやと、ダメになってしまうよ。だから……なんか、どうにかしないと……。 |
柑奈 | 東京…………そうだ。 |
柑奈 | 東京に行こうかな。 |
柑奈 | ……うん、そうしよう!爺っちゃん、私、東京に行く!東京に出て、たくさんの人に私の歌を聴いてもらう! |
爺っちゃん | 東京?おおっ、そうか!いいぞいいぞ!行ってこい!爺っちゃん、応援するぞ! |
柑奈 | ありがと爺っちゃん! |
| ──その晩。 |
柑奈の父 | ああ?東京だぁ?アホなこと言うな!!東京行って、何するってんだ! |
柑奈 | アホなことやなかよっ!私は……私の歌を、みんなに聴いてほしい! |
柑奈の父 | 歌ぁ!?たわけ!!お前は、爺っちゃんに影響されすぎだ! |
柑奈 | 影響されたってええやろ!けど私は、私!なんも、爺っちゃんみたいな人気者になりたいからやなか!! |
柑奈 | 私はただ、もっと多くの人に歌を聴いてほしいんよ! |
柑奈の父 | 一緒や!寝言は寝て言え!歌で、飯が食えるわけなか!!そんな暇があったら、父ちゃんの会社手伝え! |
柑奈 | 会社は、コーちゃんが継ぐでしょ! |
柑奈の父 | そうや!けど、あいつはまだ九歳やろうが!お前も長女なら、弟が立派に成長するのを手伝ってやれ! |
柑奈の父 | あのなぁ、柑奈。お前は、この島で育ったんや。この島に育てられたんやぞ!島のために働くのが筋やろ! |
柑奈 | イヤや!こんな狭い島で一生終えるなんて、私はイヤ! |
柑奈の父 | 狭い島で何が悪いんか!! |
柑奈 | 悪いなんて言ってない!私だって島は好きだよ!島しか知らない人生がイヤなんよ! |
柑奈の父 | だいたい、東京に出てどうやって食っていくんだ!? |
柑奈 | どうとでもなるよ!バイトしたらいいんだし! |
柑奈の父 | どうとでもなるだぁ!?お前は世間ってもんを、知らなすぎる! |
柑奈の父 | そうやって何の不自由もなく、原っぱでテキトーな歌なんぞ歌って、フラフラ生きていられるのは誰のおかげだと思ってる! |
柑奈 | それは……! |
柑奈の父 | お前は、その有り難みをなんもわかっとらん。そんなやつが東京で一人でなんて、やっていけるわけがないだろうが。 |
柑奈 | !! |
柑奈の父 | 俺は、援助なんかせんぞ!それでも行くってんなら、とっとと出てけ!! |
柑奈 | よか!ああ、よかよ!私、島を出ていくから!! |
柑奈 | 父ちゃんの強情っぱり……!よかよか、援助なんていらん。爺っちゃんにもらったギター1本あれば、それで充分! |
| ……父ちゃんの言うとおり、間違ってるのかもしれない。でも……他に、やりたいことなんてない。 |
| うまく生きるなんて、きっと、私にはできない。だったら、やりたいようにやろう。後悔しないために! |
| ──1週間後。 |
柑奈の祖母 | 決めてから出発まで、あっという間やったね。柑奈、息災でな。 |
コーちゃん | ねーねー、姉ちゃん。姉ちゃんは、なんで出て行っちゃうの?島のこと、嫌いになった? |
柑奈 | 違うよ、コーちゃん。お姉ちゃん、島のことは大好きだよ。 |
柑奈の母 | アンタ、お父ちゃんに挨拶したの? |
柑奈 | してないよ。顔合わせてもケンカになるだけだし。 |
柑奈の母 | はぁ……。ねぇ柑奈。アンタの気持ちもわかるけど、お父ちゃんの言ってることもわかってあげなね? |
柑奈の母 | なんも、意地悪してるわけじゃないんだから。お父ちゃんは柑奈に、幸せな暮らしをさせてあげたいんよ。 |
柑奈 | ……。 |
柑奈の母 | それに、東京で歌って暮らすなんて夢みたいな話、本当はお母ちゃんだって心配だよ。だけどねえ…… |
柑奈の母 | 柑奈が毎日退屈してたのも、歌が楽しいのもわかってる。 |
柑奈の母 | だからね、柑奈。お正月には帰って来なさいよ。 |
コーちゃん | 待ってるね、姉ちゃん! |
柑奈 | ……うん。 |
柑奈 | 行ってきます。 |
爺っちゃん | おう、柑奈。行くんか。 |
柑奈 | 爺っちゃん!……うん。ラブとピースを探しに、行ってくる! |
爺っちゃん | そうか!柑奈は爺っちゃんに似て『ポジチブ』やけん、きっとうまくやれるぞ! |
柑奈 | ありがと爺っちゃん! |
爺っちゃん | ん?なんだお前、爺っちゃんが昔やったそのオンボロギター持って行くんか? |
柑奈 | え?あ、うん。 |
爺っちゃん | ハッハッハ!ギター片手に出ていくたぁ、カッコいいぞ!さすが、爺っちゃんの孫だ! |
柑奈 | へへっ……♪だってこれは、私の原点……爺っちゃんの形見だから! |
爺っちゃん | おいおい、爺っちゃんはまだ生きとるぞー!? |
柑奈 | あははっ、そうだった! |
爺っちゃん | まあ、オンボロでも大切にしてやってくれ。それがありゃあ、どこでも歌が歌えるってもんだ。 |
爺っちゃん | そんで、でっかいラブを見つけてこい! |
柑奈 | うんっ!!歌は世界を救うんだもんね!私、頑張ってくるよ!じゃあ……行ってきます! |
柑奈 | ……いつか、ラブとピースに出会えたら胸を張って帰ってくるよ。だからそれまで── |
柑奈 | バイバイ! |
コメントをかく