作者 睡蓮
以前はなろうで書いてましたが、鬼威惨になってからめっきりバトルシーンを書いていなかったので、リハビリと個人的な趣味で書きました。ずん虐シーンは薄めなので、それでも良いという方だけご覧ください。
本編
2024年4月25日
「くしょにんげんのおはかしゃんなんかいらねーのだ!ぶっこわしてはたけさんにするのだ!!」
「のだ!ぼくらがぶっころしたくちょにんげんはそのへんにすてたのに、コイツらだけうめてあったらカワイソー、なのだ!」
函館市内の霊園の墓石を、妖精軍中将イゾーが造反して軍を割った武闘派組織『ずんだ府』の兵士が小石を持って削っている。
霊園破壊を主導しているずんだ府兵の名はキチノスケ。野良ずん出身だが、妖精戦争初期から戦場に立つ精鋭であり、ずんだ府においてはイゾー配下の最高戦力『三豆傑』(さんずけつ)の一角に叙せられた。
「はこだてはこれから、ぼくたちよーせいのてんごくさんとしてうまれかわるんちゃ!はこだてのすばらしらさをみたら、まだあかねしゃちょーにしたがってるヤツらも、どげざしてずんだふにはいりたがるはずなのだ!だから、くしょにんげんがつくったものは、ぜんぶはかいするのだ!」
「お前がキチノスケってヤツなのだ?」
キチノスケがずんだ府の発展のために粉骨砕身する決意を固めた時、見知らぬ妖精が墓石の上から話しかけてきた。
「ん?えっ……?」
声の先を見上げ、その妖精を見たキチノスケは硬直した。その凍りついた顔のまま、キチノスケの首は飛び跳ねて地蔵の頭に当たって弾けた。
しばらくして、噴き出す鮮血を浴びて振り返った部下が首無し死体を見て、やっと殺されたことに気づいた。
「キ、キチノスケしゃん!?」
***
【五稜郭】
「コゴロー!キチノスケがやられたそーなのだ!」
コゴロー《三豆傑》
「あぁ!?フン、しょせんアイツはよーせいぐんでも、ちゅーいどまりだったカスなのだ!どうせくしょにんげんにまけたのだ!よっしゃ、アイツがやられたおはかしゃんにむかゥ」
「あぎゃぁぁぉぁぁ!!?コゴロォォォーッ!!」
コゴローが愛用の槍を掴み、配下に号令をかけた瞬間、空から何故か箪笥が降ってきてコゴローは下敷きになった。
すぐさま手下が40匹がかりで箪笥を持ち上げたが、コゴローは血だまりの中で煎餅より平べったくなって即死していた。
***
【函館空港】
「ショースケさま!コゴローさまとキチノスケさまがころちゃれたのだ!いますぐふくちゅーにいくのだ!」
ショースケ《三豆傑》
「おちつけあん。アイツらをやったってことは、かならずオレにもケンカさんをうってくるあん。ならば、このくうこーでむかえうつ……な、なんのおと?」
ショースケが血相を変える手下を宥めてあんこ餅を頬張った時、騒々しい外の物音に気づいて立ち上がった。
「ぶぼっ!?うふぉぉぉ゛ぉぉごぉ゛ぉお゛お゛お゛お゛お゛!!」
「ひぃぃぃぃぃ!!!ショースケさまぁーっ!?」
直後、シャッターを突き破って格納庫に燃えた大型バスが投げ込まれた。あまりのことにショースケは固まり、避ける間もなくバスに激突。屋外まで吹き飛んでバスごと海に沈んだ。
三豆傑、壊滅。
「あちゅいあちゅいあちゅぃよぉ!!みじゅぅゔぅぅ!!」
「まっちぇ、おいてかにゃいで……あ、あつい……!まって……」
「だれかひをけすんちゃ!パパずんがまだなかに!!」
停まっている旅客機の上に鎮座し、火に包まれる格納庫の中から、ネズミ花火のように散り散りに飛び出す火だるまのずんだ府兵を一瞥すると、それは飛び去っていった。
「アイツら多分無視してよかったのだ……」
そう嘆息した特注の妖精用防弾チョッキとヘルメットを被った1匹の妖精兵。
ハンジロー《妖精軍大将》
FAIRIES最強の妖精兵であり、此度の反逆者イゾーとその右腕で同じく反逆者、マッドドッグ1号の処刑を命じられて敵地の函館入りしていた。
事前に妖精軍上席大将琴葉葵にもらった資料で、その他の懸念として三豆傑の名があったので一応討伐はしたが、相手にする価値もなかったと後悔した。
「しかしひどい有様なのだ……」
イゾーがいる可能性が高いのはずんだ府の本部として接収した函館山の頂きにある展望台だが、それは函館市内の最奥、青森との海境にある。
ハンジローはそこまで飛んで向かっていたが、そこまでの道のりは惨憺たるものだった。
まず何より、暗い。街灯1つなく車1台通らないので地上は墨汁を垂らしたような暗黒が広がっている。曇り空のために月光さえ通らない完全な闇夜は、ハンジローほどの妖精兵でさえ心細くさせた。
だが、夜目に慣れると燻る熾火が地べたで儚い光を放っていることに気づいた。それがあまりにも大量にあるので、ハンジローはずんだ府兵が火を囲ったのではなく、街に火を放ったと悟った。
むせかえるほどに濃い、鉄と木と屍が焼けた臭いにハンジローは思わず顔をしかめた。そして、夜明けと共に曝け出される大地の有様のおぞましさ、それが脳裏をよぎって憤怒すら覚えた。
「イゾー……あのバカタレさんめ……!」
ハンジローは舌打ちすると背筋に意識を回し、人工飛行器官の出力を引き上げた。
背中に埋め込んだ6つの人工飛行器官が眩い紺碧の光を放ち、ハンジローの背筋に蒼翼を生やす。彼は翼を煌めかせ、雲を裂き空を切って、イゾーが待ち構える函館山の展望台へと稲妻の如き速さで飛び去った。
敬愛する琴葉茜の資産を傷つけたイゾーを討たずにはいられなかった。
***
函館山展望台、レストランラウンジ内。
「イゾー、さんずけつがぜんいん、なきがらさんでみつかったのだ!」
「……あ?」
練乳をかけた山盛りのずんだ餅に頭を突っ込んでいたイゾーは、青白い顔で飛んできた手下の報告を聞くと、目を瞬かせてずんだ餅からずぼっと頭を引き抜いた。
イゾー《ずんだ府総大将》
「アイツらが……?バカだが腕っ節だけならくちょにんげんより上なのだ」
「たすかったショースケのぶかは、きちにバスさんがブチこまれたといっていたのだ!そんなことができるのは、きっと……」
イゾーが立ち上がり、重く頷いた。濡れ布巾を持ったオスずんがイゾーの顔を拭う。
「茜しゃちょー……ついにハンジローのやろーを呼び寄せたのだ。機械化人型歩兵部隊に連絡するんちゃ!戦闘準備なのだ!最大の壁があっちから来てくれたのだ!周囲のヤツらも全て呼びつけるのだ!」
「はいのだ。し、しかし……あのハンジローにかてるのだ?ヤツはハンパねーのだ。しんかんせんさんを、たいあたりでなぎたおすバケモノちゃ……」
そう怯える手下にイゾーは目を向けた。
「恐れるななのだ。壁とは言ったけど、壁はただ壁のままなら硬いし分厚くて壊せないけど、動いてしまった壁は……」
脈絡なくイゾーの脇下から触手が飛び出し、手下の枝豆耳の隙間を縫って背後の衝立を貫いた。
「このようにペラくて脆いのだ」
「あっ!?」
触手を引き抜いた衝立が倒れるまで、手下は何をされたか気づかなかった。それほど精緻かつ神速の刺突だった。
「ヤツは素早いっちゃ!1時間もせずにここに来るのだ!さっさと動くのだ!」
「は、はいのだ!」
イゾーが声を荒げると、手下は血相を変えてラウンジを飛び出し、外にいる仲間にも号令をかけて各自持ち場に散らばっていった。
それを見届け、イゾーは再び食事を再開した。その山盛りのずんだ餅の1つを1匹の妖精兵が掴んで丸呑みした。
「お前も行かなくていいのだ?」
「どうせ勝てはしないのだ。ぼくはぼくの作業に入らせてもらうのだ」
「好きにしろなのだ。せいぜい、クラブハウスの頃みたいに盛り上げてくれなのだ……さ、ぼくもいくか」
***
ずんだ府機械化人型部隊
FAIRIESが密造した物、または自衛隊から鹵獲した大型兵器の運用を任されたずんだ府の決戦兵力である。
機関砲付き歩兵戦闘車3台。装甲兵員輸送車4台。それらを車体前面を鉄板で覆い、尖った鉄パイプを複数本溶接した改造10トントラック2台が先導し、次いで随伴兵が上空を飛んで付近を警戒している。
部隊は道道を使って函館山を下り、市街地でハンジローを迎え討つ手筈だ。ライトを点灯して走行しているが、これはハンジローを誘き寄せるためではなく、発電所を破壊したのでライト無しにはまともに走れないからだった。
道路に放置され、白雪を薄く纏った人間や鹿の死体を先陣を切るトラックが容赦なく引き潰していく。同じことを何度も繰り返したせいで、どの車両も乾いた血がこびりついていた。
歩兵戦闘車の上で身体を出し、風を浴びて麓の様子を見張る部隊長にハンドルを握る部下が声をかける。
「隊長、本当にぼくらだけで倒せるのだ?ぼくは妖精だった頃、秋田でハンジローの戦いぶりをこの目で見たけど、あれは異常なのだ。くしょにんげんを遥かに超えた化け物しゃんなのだ」
弱気な手下の肩を蹴り、隊長は煙草を咥えながら返事を返した。
「わかってるのだ。ぼくも戦争前は帯広大本営の警備員だったから、ヤツの姿は何度も見てるのだ。アイツとは戦えるとは軍門の誉さんなのだ。それに、ヤツとて所詮はずんだもん。弾の雨を降らせりゃ、あっという間にすの立った豆腐さんみたいになるのだ。この戦い、長くて1分で終わるんちゃ」
そう言って、肺に吸い込んだ紫煙を吐いた時のことだった。
「?」
本来なら絢爛な夜景が望めるはずの函館市内の街区。闇に包まれたその片隅で、一点の緑色の輝きが浮かび上がった。
何の光なのだ?ああ、人間狩りをやってる兵士の発砲光なのだ。と、部隊長は光を一瞥すると、別段気にせずにまた前へ顔を向けた。
その光が自分らに迫ってきていると察知したときには、もう手遅れだった。
「あっ!?て、停車!停まるのだぁぁっ!!」
部隊長が叫ぶ。その声をかき消して、光はトラックの50mほど前に着弾した。さらに部隊の方へとアスファルトを薙ぎ払って迫り、あと少しで部隊を襲うというところでふっと消えた。
直撃を受けた道路が逆さ茶碗の如く捲れ上がり、1台目のトラックは停止できずに乗り上げ、宙を舞った末に剥き出しの地面に鉄パイプが突き刺さり、不動の姿勢で起立した。
「ハ、ハンジローなのだ。来るぞ!全員戦闘準備なのだ!」
「今のは何なのだ!?」
「タネちゃん砲なのだ!ハンジローはタネちゃんを高圧で発射できるのだ!前に青森でマスコミのヘリをまとめて撃ち落としたのを見たことあるのだ!」
吹き上がる砂塵に口元を覆いながら部隊長が叫ぶと、後方車両のハッチが開いてAKS74uを構えた人型ずんだ府兵が飛び出した。そして車両を遮蔽物にして先頭と最後尾の兵士が頭を出して、他は周囲を見張った。
トラックの助手席からもバギーラを握った兵士が出てきた。
「ライトを付けるのだ!同士討ちを狙ってくるはずななだ!」
部隊長は戦闘車についた固定機銃のM2ブローニングの引き金に指をかけ、周りの兵士はAKSに装着したフラッシュライトを点けた。
「隊長!来たのだ!」
兵士の1人が街を指差す。そこには空に燦然と輝く青い光があった。視認すると、部隊長は無線を取って上空の妖精通信兵に命じた。
「接近して様子を見るのだ。ただし戦うななのだ。お前らじゃ犬死にならぬ豆死になのだ。射程距離まで近づい……チッ聞いてねーのだ」
「うおおおおおハンジローはぼくがころすのだ!!」
「ちがうのだバカ!ヤツのくびしゃんはぼくがいただくのだ!!」
「アイツをころせば、イゾーさまのみぎうでになれて、おちびちゃんといいくらしができるのだ!!」
「いちどハンジローとはころしあいたかっちゃ!!」
部隊長は闇雲な突撃は避けろと言いたかったが、血の気の多い兵揃いのずんだ府の妖精兵は、忠告も聞かずにハンジローへ一斉に襲いかかった。
「射程まで近づいたら一斉射撃するのだ。ヤツの射程は長くて15m。こっちは300mなのだ。近づかれる前にバラバラにしてやるのだ」
1人の兵士が車両に戻ってレミントンの狙撃銃を取り出し、スコープ越しにハンジローを見た。
「あれは……?」
それを見て、眉間に皺を寄せた。
「うおおおおちねええぇーーっ!!」
上空では、無数の妖精兵が濁流のようにハンジローへと迫っていた。しかし、場数を踏んだずんだ府の兵はただ闇雲に接近戦を挑むほど無謀ではない。群れの中の何匹かは連射式ボウガンを持っていた。
ずんだ府はボウガンの運搬係、矢の運搬係、装填係、射撃係、索敵係という細かい役割を50匹単位で分担することで高度な遠距離射撃を実現しており、これにより民兵相手にも互角以上の戦いができた。
「うてぇぇ!!」
「のだぁっ!」
射程まで近づくと、妖精兵達はすぐさま矢を射出した。全員功を焦っていたので、ろくに照準も定めずに撃った。
火薬を使わないボウガン特有の弦のしなる音が折り重なり、大量の矢を浴びたハンジローは瞬く間に砕け散った。
「………」
だが、喜ぶものは誰もいなかった。
自分達が撃ったのは信号弾だと分かったからだった。信号弾の青い光を勝手にハンジローだと思っていた。気まずい空気の中、妖精側の部隊長が通信兵ずんを呼び、機械化部隊側の人型部隊長に連絡を取った。
「あの……これ、ハンジローじゃなかったのだ。おとりさんだったのだ……」
「はぁ!?てことはヤツは今……ど、こに」
「おわぁぁ!?」
人型部隊長が周囲を見渡した瞬間、切り倒された大樹が頭上に落下し、戦闘車ごと部隊長が潰された。兵士らが戦慄する間に後方にも薙ぎ倒された木々が降り注ぎ、退路を塞がれた。
「うっ、うわっ……たい、長……!」
「指揮官は殺したのだ。お前ら、投降すれば命さんだけは助けてやるっちゃ」
空から声が鳴り、部隊長を潰した大木の上にハンジローが着地した。6本の触手をくねらせ、兵士を値踏みするように冷たく睨みつけた。
「こ、殺すのだ!!」
数秒、兵士達は降伏するか戦うか迷っていたが、1人が発砲したことで戦闘の道を選んだ。女児の喚き声に似た銃声を掻き鳴らしてAKS74Uが火を吹く。
「射撃がまともすぎるのだ」
だが、ハンジローは触手1本を幹に突き立て宙に上がって弾をかわし、残る5本の触手に埋め込んだ枝豆弾を発射した。
「うぐっ!?」
「い゛ぃ……」
枝豆弾は兵士の利き手の腱を撃ち抜き、力の抜けた兵の手から銃が落ちた。だが、力の差を分からせたところで諦めというのは中々つくものではない。
多くの兵士はもう片方の手で銃を拾い上げ、銃床を脇に締めた。
「ふぅ〜……」
ハンジローは拙い射撃を跳躍して潜り、隣の歩兵戦闘車に移るとM2ブローニングを手に取った。
先の枝豆弾に被弾しなかった兵士が車体の後ろに張り付いていたが、ハンジローはとうに気づいており、彼らが銃口を向けた瞬間に1人の銃身を真横に叩き、隣の兵を誤射させた。
「し、しまっ……」
誤射した兵士が歯軋りし、再度ハンジローに銃を向けたが、その時にはAKSのコッキングレバーから先は切断されていた。
「な、舐めんななのだ!!お前ら!行くぞ!」
残存兵が車を取り囲んで一斉射撃を開始する。だが当たらない。全て触手で捌いている。視界にさえ映らない亜音速で触手を駆動し、自分に当たりそうな弾を選別してから弾く。
弾を掃く分厚い金属音。その弾雨と飛び散る黄金色の火花の中で、ハンジローはM2の引き金を引いた。
「ビギャァッッッ!!」
機関銃特有の重い反動と鼓膜を劈く銃声を物ともせず、ハンジローは飛来する弾を正確に弾きながら歯向かう兵士を右から左に蹂躙していく。
6つの触手を華麗に振り回し、正確に弾を打ち落としながら自らが連射する弾の弾道は確実に確保している。そうして着実に一人一人を制圧していった。
1発でも当たれば隙ができると思って射撃を続ける兵士達だったが、かすることすらままならない。無為に空薬莢が地面に散らばり、その上に兵士が倒れた。
「うわぁ……」
「あれが、あかねしゃちょーさいきょーのぶか……」
部隊長が言った通り、戦いは1分足らずで終わった。上空の妖精兵達も戦闘を見ていたが、加勢に向かう勇気は湧かなかった。
重武装した機械化部隊が瞬殺されたのに自分らがボウガンぶら下げて行ったところで、今日が命日になるだけだと分かっていたからだ。
「さて、行くか……」
煙が昇り、煌々と焼けたブローニングから手を離してハンジローが飛翔しかけた時、真下から銃声が響いた。
「のだ?」
咄嗟のこととはいえ先ほど同じように弾いたが、弾は9ミリだったので、手で掴むと触手で打ち飛ばして撃った者に返してやった。
「うぎゃっ!」
「生きてたのだ?お前」
撃ったのは部隊長だった。木が倒れた際、咄嗟に車内に入って死なずに済んだらしい。しかし、頭が割れて激しく流血し、ハンジローが返した弾で肘を撃ち抜かれていてもう戦える状態ではない。
「み、見事だった、の、のだ。ころ、すが……いいのだ……」
部隊長は車に手をついて、虚な目でそうつぶやいた。
ハンジローは触手を伸ばすと、装甲車のドアを開けて車内から救急キットを抜き取り、消毒液を部隊長に浴びせた。
「お前らの命も銃もこの車両も、この山も、全ては偉大なる茜社長の資産なのだ。お前らにはまだ利用価値があるのだ。戻ったら弁護さんしてやるから、茜社長に謝罪しろなのだ。で、待ってる間にコイツら止血くらいはしとくのだ」
言う通り、手下は全員息があった。
「だが、最後まで士気を失わない姿は気高かっちゃ。褒美に忠告なのだ。街に下りて仲間を呼ぼうなんて考えるななのだ。そしたら確実に死ぬのだ」
そう言うと、ハンジローは音もなく消え去った。あとから木々の間隙を通って、突風が呻くような音を立てて吹き荒れた。
その冷えた風を浴びながら、部隊長はぼんやりと思った。
「勝てるわけなかったのだ……」
妖精軍最高戦力ハンジローと、それに勝るとも劣らない強さを持つずんだ府総大将イゾーの戦いが始まろうとしていた。