短編集約束の第六話。
撮影機材を肩に、河原へおりていった。そこは自動車ほどの岩塊が転がる狭いガレ場である。
岩の頭を跳んで簡単にわたれる幅数メートルほどの急流のむこうに、邦弘の七年来の恋人が待っていた。
白っぽい花崗岩の岩場に立つソメイヨシノの若木である。
枝先は垂れずに、そりかえって夕空をさしていた。手を伸ばし、空をつかもうとしているようだ。
七年まえよりほんのわずか背が高くなっている。このあたりのガレ場は土がやせているのだろう。
一本桜は孤独に耐えてじっくりと生長しているようだった。邦弘は三脚をすえて4×5の大判カメラをセットした。
登場人物
撮影機材を肩に、河原へおりていった。そこは自動車ほどの岩塊が転がる狭いガレ場である。
岩の頭を跳んで簡単にわたれる幅数メートルほどの急流のむこうに、邦弘の七年来の恋人が待っていた。
白っぽい花崗岩の岩場に立つソメイヨシノの若木である。
枝先は垂れずに、そりかえって夕空をさしていた。手を伸ばし、空をつかもうとしているようだ。
七年まえよりほんのわずか背が高くなっている。このあたりのガレ場は土がやせているのだろう。
一本桜は孤独に耐えてじっくりと生長しているようだった。邦弘は三脚をすえて4×5の大判カメラをセットした。
登場人物
- 溝口邦弘:カメラマン。四十すぎ。毎年信濃川上にあるソメイヨシノの写真を撮っている。
- 長尾三枝子:溝口がソメイヨシノを撮っている場に現れる。
- 長尾英次:三枝子の夫。
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