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「ここがあの悪徳商人の家……改めて見ると相当大きいですね……」


 月明かりが分厚い雲に隠された、ある日の夜。
 街の有力者や富豪たちが居を構える小高い丘の上の一画に、女義賊―――藍子は足を踏み入れていた。
 猿のような身のこなしの軽さでひょいと登った樹の上から偵察するのは、この辺りでも一際巨大な邸宅である。
 その悪趣味なまでに広大な敷地を持つ建造物は、黒い噂が絶えぬ悪徳商人の住処であった。


「教会の土地の権利書……何としてでも取り返さなくっちゃ……!」


 義賊たる藍子が暗闇に紛れてその邸宅を偵察しているのは、当然盗みを働くためである。
 対象は土地の権利書。
 もちろん、義賊である彼女は無為な盗みは行わない。
 盗みに入る正当なる理由がある。


(あの孤児の子たちを分け隔てなく保護する教会を、ただ目障りだという理由で取り壊そうとするなんて……!)


 藍子の友人である女僧侶、響子が生まれ育って働いている、こじんまりとした教会。
 この荒み切った世にあまねく慈悲を示し、行き場のない子供たちを引き取り育てているその教会は、ささやかなれど確かに弱者の居場所であった。
 そんな弱者たちのための場所を、あの悪徳商人はくだらない理由で踏みにじり、卑怯で不当な手段を使って権利書を奪い、打ち壊そうとしているのだ。
 

 外法には外法をもって対抗する。
 友人の響子を涙させたあまりの非道に立ち上がらずして、義賊である資格はない。
 そういうわけで、義憤に燃える藍子は今正義を執行せんと闇に紛れ、この悪趣味な伏魔殿を狙い定めているのだった。




(さて……どうやって侵入しましょうか……)


 目を細め、普段の温厚な雰囲気からは想像もつかぬ義賊の顔になって、藍子は思案する。
 邸宅の周囲は、門のある一か所を除き高い生垣で囲われている。
 乗り越えるのは造作もないし、乗り越えた先に歩哨の一人も見当たらないが、藍子の義賊としての勘はそれが罠であることを敏感に感じ取っていた。
 

(あの商人にはお抱えの魔術師がいたはず……。おそらく屋敷の護りに、何らかの魔法を使っている可能性が高い……)


 財産を他人の手から守る時は人を大勢雇いムダ金を使うよりも、魔法や頑丈な金庫といった物言わぬ守りに頼った方がよい―――。
 藍子にはあの商人の考え方がよく分かった。
 他者を信用せず、僅かな金を惜しむ、典型的な守銭奴の考え方だ。
 そんな男が使いそうな侵入者用の魔法は一つしかない。


(庭に人がいないっていうことは、人の気配を感知する魔法かなあ。人間が庭に足を踏み入れた瞬間、多分屋敷中に警報が鳴り響く……)


 女義賊は直観と経験から、使用されているのは人間を対象にした感知魔法だと当たりをつける。
 単純だが厄介な魔法だ。
 いかに藍子が凄腕の義賊でも、人間であるという事実は隠すことができない。
 武力をもって押し込み強盗でもするのではない限り、およそ人間の盗人には万能と言ってもいい対策である。


 ―――ただし、相手が藍子でなければだが。




(これを使って―――!)


 懐を探った藍子は、何やら犬の尻尾を象ったプラグを取り出す。
 中々凝った造形の、茶色の尻尾である。
 それが単なるジョークグッズでなく何らかの魔力を秘めたアイテムであることは、見るものが見れば一目瞭然だ。
 しかしそれが看破できる者も、その使い方と効力については想像もつかないに違いない。
 

「ふっ……!うっ……くふっ……!」


 藍子は一瞬の躊躇の後、スカートを捲り上げて手にしたプラグを自らの尻穴に挿入していく。
 ここに来るまでの“下準備”でしっとりと濡らされていた彼女のアナルは、まるで生き物のように拡がってプラグを飲み込んでいった。
 まるで飛び切り変態の商売女のような行いである。
 だがそんな卑猥な行為を、彼女はぬぷぬぷという卑猥な音が微かに響くのに目を閉じ唇を噛み締めながら、ついに奥まで挿入することで完遂しきった。


 変化が訪れたのは、次の瞬間である。


「……っ!」


 挿入された犬の尻尾が妖しく左右に揺れたかと思うと、女義賊の頭頂部から瞬く間に何かが飛び出した。
 一対の、可愛らしくぴょこぴょこと動くもの―――そう、犬耳である。


「ふぅ……“変化”は上手くいったみたいですね……」


 そう呟きながら、藍子は自分の体を手早く確認する。
 体の大きな変化は犬耳だけだが、やや毛深くなり、鼻と聴力が普段の何倍も利いているのが分かった。
 肛門に挿入した尻尾の違和感もなく、まるで元から生えていた自分の尻尾のようだ。
 この国に名をとどろかす義賊、藍子の持つ奥の手、『獣人化の尻尾』その能力がこれだった。
 肛門に挿入して体内の魔力とリンクすることで自らを獣人化させ、人間を相手にする感知魔法から姿を隠す能力。
 藍子の持つ七つ道具の中でも、特に強力なものである。
 この道具による盗賊行為の度重なる成功で、藍子は義賊としての名声を得たと言っても過言ではなかった。




(それじゃあ、権利書を頂きに行きましょうっ)


 人ならざる跳躍力で邸宅の生垣に登ると、藍子は音もなく目的地の庭に飛び降りる。
 外見こそ犬と人間のハイブリッドであるが、カテゴライズとしては犬に属する今の藍子に、警報が反応することはない。
 ゆえに悠々と、藍子は邸宅に近づくことができた。
 一応、警戒は怠らない。
 発達した嗅覚と聴覚で辺り一帯をクリアリングしながらゆっくりと邸宅の周囲を確認すると―――。


(あ、ワンちゃん……。でも番犬っぽくはないし、ただの飼い犬かな……?)


 締め切られた豪華な玄関の傍らに、大きな犬小屋とその中で眠る大型犬を見つける。
 ……お世辞にも、あまり賢そうには見えない。
 かなり太っているようでもあるし、十中八九番犬ではなくただの愛玩用であろう。


(時と場合が許せば遊んであげたいところだけど……ごめんね、ワンちゃん)


 元来の犬好きでしかも自身が一時的に犬の獣人になっている藍子はそう彼、もしくは彼女に詫びると、おそらく書斎であろう部屋の木窓にへばりつく。
 不用心にも、戸締りはなされていなかった。
 感知魔法にそれだけ頼りきりだということだろうか。
 藍子はわずかな不信感を感じつつも窓から部屋の中に体を滑り込ませると、早速中身の物色を始める。


(あった……!)


 目当てのものはすぐに見つかった。
 商売に使う書類を収めてあるであろう金庫は、書斎の片隅に置かれている。
 流石にこちらには施錠がなされていたが、その程度は藍子の前ではないも同然である。


 ガチャッ!


 軽快な音と共に錠が開くと、金庫内には羊皮紙の書類の束が山と入っていた。
 その中からお目当ての最も新しいものを抜き出し、確認する。


(これですね……教会の土地の権利書……!)


 これさえ取り戻せば、少なくともあの悪徳商人に付け込まれて好き勝手されることはなくなる。
 その悪評から、彼をよく思わぬ者は市井の人々の中にも多いのだ。
 然るべきところに訴え出れば、権利書を失った商人は教会に手出しできないはず……。
 

(それじゃあ、さっさと退散しなくちゃ―――)


 目的を達した今、ここに長居する必要はない。
 藍子は権利書を懐にしまい込むと、侵入口から脱出しようと足を踏み出し―――。


 ビリビリビリィッ!!


「ひゃうんっ!?」


 その電撃に襲われた。


(な、なにっ……!?)


 あまりに突然の感覚に、思わずよろめく。
 下半身を重点的に襲う、甘く体の芯まで響くような痺れ。
 可愛らしい悲鳴を漏らしてしまった口を引き結びつつ辺りを見回すが、人の気配は依然としてない。
 だとすれば―――。


(ト、トラップ……!?)


 そうとしか考えられない。
 おそらく商人は藍子に盗みに入られるのを予期して、権利書を彼女が持ち出した途端に罠が発動するように仕組んでいたのだろう。
 ここまで警戒を感知魔法に頼り切っているように見えていたから、藍子も気づかなかった。
 相手の気が緩んだ隙をつく……定石だが、効果的な一手だ。
 商人に1本取られたことを、認めざるを得ない。


(警報が鳴ったり、誰かに気づかれたりはしてないみたい……変身したおかげでしょうか。……壁際と天井にトラップの痕跡はなし。ということは……)


 この部屋の床は、全て絨毯が敷き詰めてある。
 先の電撃が、どこから来たかと言えばこの下しかないが……。


(確信が持てないと、対策のしようもないから……。1歩だけ、慎重に足を踏み出して―――)


 ほぼほぼ想像通りだとは思いつつも、疑惑を確信に変えるため藍子は足を一歩、慎重に踏み出す。
 靴のつま先が、床にちょこんと触れて体重が乗った瞬間―――。


 ビビビビビビリィッ!!!


「くひゅっ……!?うふっ、ん゛ぅ……!?」


 また甘い電撃が、藍子の下半身を襲った。
 悩ましい悲鳴を漏らしかけるが、咄嗟に口を覆って耐える。
 

(な、なんですかぁ……こ、このお股の方がビリビリするトラップ……)


 藍子には知る由もないことだが、これは商人が金に糸目を付けずに取り付けた、性感電流のトラップであった。
 藍子が権利書を盗みに来るであろうことを予期した、彼女を辱めるためだけの姦計。
 本来ならばこれを発動させた直後に警報が鳴り響き、性感電流に悶える女義賊を散々笑いものにした後捕らえる腹積もりだったのだろう。
 藍子にとって警報が発動しなかったのは、まさに僥倖だと言ってもよかった。



(と、とにかく、ここから脱出しないと……!)


 今のところ、このトラップには下半身を甘く疼かせる電流を流す以外の効果はないようだ。
 ならば、さっさとこの罠を踏破して、トラップがないであろう屋外に出るに越したことはない。


(す、少し電流がビリビリ走るだけだから……!声出さないようにして、落ち着いて歩けばなんてことない……はず)


 見たところ、入ってきた木窓までは大股でおおよそ10歩ほど。
 その程度の距離なら、我慢しとおさなくては……!
 藍子は決意を新たに唇を引き結ぶと、また一歩足を踏み出す。


 ビリリリィッ!!ビリビリ!


「ぇひ!?え……あ゛……!」


 また下腹部にダイレクトで響く電流。
 今日3度目のそれに、藍子はあられもない声で喘ぎながらも、確かな違和感を覚えていた。


(な、なんで……!?さ、さっきより電流、強い……!)


 1度目よりも2度目よりも明らかに強い電流罠に、頭の中が混乱する。
 下半身が甘く痺れる程度の域はもう超えていた。
 電流ではなく電撃と言った方が近いような感覚だ。
 あと9歩余りもあるのに、こんな電撃を下半身に食らい続ければ……!


(も、もう一気に行っちゃえば……!)


 強烈な性感にすっかり冷静さを失った藍子が、短絡的にもそう決断する。
 勢いよく足を踏み出し、一歩―――。


 バチバチバチバチィッ!!!


「ひぎぃっ―――お゛っ♡お゛ひゅっ……う゛♡」


 踏み出すと同時、先ほど以上の凄まじい電撃が走る。
 強烈な逃げ場のない性感に目の前がスパークし、遅ればせながら藍子はそれに気づく。
 そして気づいた時には、すべてが遅すぎた。


 ぷしゅっ!ぷしゃぁぁぁぁ……!


 性感電流が強制的に藍子を絶頂の高みまで昇りつめさせ、濁り切ったアクメ声を喉から搾り出させた。
 伴って膣口から子宮までが激しく収縮し、勢いよく透明な潮をぴゅうぴゅうと吹かせる。
 知らず知らずのうちに愛液で湿っていた下着で吸収しきれなかった分の潮が、ポタポタと絨毯の上に淫らな染みとなって降り注いだ。


「お゛おお……♡おっ……へぇぇ……♡」


(イ、イっちゃったぁ……♡お、お股濡れてきてたから、だんだん電流通しやすくなって強くなってたんだぁ……)


 はしたなくも仕事中に、それも敵地のど真ん中でイキ顔を晒しながら、藍子はようやくそれに思い至る。
 性感電流に気持ちよくさせられた結果、自分で股座を濡らして自分で性感を増幅させていた―――。
 そんな義賊の名が泣く情けなさすぎる顛末に、藍子は唇を噛み締めるしかない。


「くふっ、う゛ぅ……!はぁ、はぁ……でも、これどうしたら……!」


 まだ窓までは8歩分の距離が残っている。
 すなわちそれが意味するのは、あと8回分、快楽電流による強烈な刺激に耐えなければならないということ。
 しかも潮吹きと愛液によってますますグショグショになった下着は、さらに電気を通しやすくなって苛烈な刺激を藍子に与えてくることが予想された。


(ダメ……頭がビリビリして何も思いつかないです……とにかく、進むしか―――)


 だが、その対策を練っている時間はない。
 先ほど味わったアクメで、藍子は抑え気味だったとはいえ太く濁ったイキ声を響かせてしまっていた。
 その声が、寝静まった邸内の者たちを起こしてしまったかもしれない。
 警報を鳴らしたわけではないから心配は杞憂かもしれないが、万一のこともある。
 いずれにせよ、一刻も早くここを離れる必要があった。


(気持ちよくなっても、我慢……我慢です……っ!声出すのも、我慢……!)


 少なくともこのトラップから逃れて庭にさえ出られれば、そのままこの邸宅から退散することができる。
 ここが勝負どころだ、ここさえ凌げれば……!
 快楽に蕩けた顔を何とか引き締め、藍子は大きく深呼吸して息を整える。
 上下する貧しく平らな胸の蕾がぽっこりと勃起して浮き上がり、その部分の衣服だけ淫らに押し上げていたが、今はそれを恥ずかしがる余裕はない。
 ぐっと口を真一文字に引き結ぶと、強靭な決意と共に何とか歩を進めていく。


 バチバチバチィッ!!


「ひぃんっ、くぅっ……んっ、くぅうん……!」


 あと7歩。


「ふぁっ!?くぅっ、う゛ぅっ……♡はぁっ、んん゛ぅ……♡」


 あと6歩。


「くほっ!?ぁあ……うぅ、ほぉ゛っ、はふっ……」


 あと5歩。


「ふぅ゛っ♡あ゛は……☆はぁ、はぁ……」


 あと4歩。


「はぁ、あ゛っ……ひぃんっ、はぅっ……!くっ、ふぅぅぅ……♡」


 あと3歩。


「くひぃ……♡ん゛ぅっ!?ん゛っ!!ぅあ……♡」


 あと2歩。


「ぜーっ♡ぜーっ♡ぃいっ……!くぅ、はひゅ……♡」


 あと1歩。


「あへぇ……☆あ、あ……♡……ぅあ……っ♡〜〜〜っ♡」


 到着。


 縋るようにして窓枠に寄りかかり、女義賊が快楽に悶え悦びながら甘く湿り切った艶息を吐く。
 彼女はもはやボロボロの様相だった。
 歩を進めるたびに流される快楽電流、その刺激が派手に脳までスパークさせ、快楽神経に狂おしいほどの信号を送ってきている。
 体の芯まで響く快楽は藍子の子宮をダイレクトで襲い、発狂しそうなほどに甘い感覚となって彼女の股座をさらなる大洪水に導いていた。
 ボタボタとまるで壊れた蛇口のように股間から垂れ落ち続ける愛液が、彼女の体験した快楽地獄を物語っている。


(や、やっと、ついたぁ……)


 視界が明滅し、ともすれば闇に落ちてしまいそうな意識を奮い立たせながら、必死で藍子は前を向く。
 既に顔は涙と涎と鼻水でグチョグチョだ。
 足腰もガクガクとひきつけを起こしたかの如く痙攣し、窓枠に縋りつくことによって何とかつかまり立ちしているような状態である。
 凄腕の女義賊として民衆の声望を集めているとは思えない、無様で情けない姿。


(こ、ここさえ、出られたらぁ……)


 だが、ここさえ脱出してしまえば性感電流にこれ以上悩まされることはない。
 少し気持ちを落ち着かせた後、藍子は電流でアクメ潮吹きする無様な女ではなく、再び民衆の英雄たる義賊の仮面をかぶることができる。
 この脱出口の窓枠さえ、乗り越えられたなら―――。


「う……ぎ……!」


 普段の身軽さからは程遠いぎこちなさで、何とか上半身を窓枠に乗せる。
 残った体力からして、華麗に脱出口から飛び降りて庭に着地という芸当はできそうにない。
 とはいえここは1階の窓であるから、仮に身を投げ出すように落下してもダメージは少ないはずだ。
 

(一歩でも動いたらまた電流がきちゃうから……このまま前に……!)


 そのまま前に重心をかけ、上半身を庭の地面に向けて突っ込ませる。
 伴ってテコの原理で下半身が浮き、足が床から離れた。
 あまり勢いよく落ちすぎないよう、勢いを調整し、腰を窓枠に乗せ―――。


「ほぉ゛ぅっ☆」


 その瞬間、図らずも窓枠に擦り付けられた下着の下の勃起クリトリスが、先ほどまでの電流とはまた違った性感を浴びせてきた。
 何の捻りもない、強めに擦っただけの刺激。
 散々電流責めを食らった後でなければ、痛いとしか感じられなかったであろう刺激。
 だがその電流とはまた違った直接的な性感が偶発的に藍子を襲い―――極限まで高められていた彼女にはそれに抗う術などなく。


(なにこれきもちいぃっ!だめ―――!)


「んに゛ぃぃっ♡か、はぁ゛っ♡ん゛おぉっ……!!お゛―――」


 重力に従って強く窓枠でクリトリスが擦られ、ドサッ、と地面へ藍子の体が投げ出されたのと同時。
 昂り切っていた藍子の体は、なすすべなく絶頂へと導かれていく。


「んぎっ、〜〜〜っ♡♡〜〜〜ぁぅ♡♡い゛ぃっ♡」


 眼前に星が舞い飛び、甘い衝撃が脳天まで突き抜けるように襲った。
 先ほどよりも深く強烈な快楽が全身を灼き、絞り出すような声で絶叫しながらアクメに浸る。
 我慢していた分の性感が、すべて爆発したかのようだった。
 全身をビクつかせて低い声で悶えさせられ、何度も視界が白く明滅する。
 絶頂で意識を飛ばしかけ、また絶頂により意識を引き戻される。
 人生で初めて味わういわゆるイキっぱなしの状態に、藍子の体はコントロールを完全に失った。


 ちょろっ、じょろろろろろろぉ……!


(あはぁっ♡きもちよすぎて、おもらししちゃったぁ……♡)


 快楽のあまり尿道が緩み、人生初の失禁を下着越しに地面へと垂れ流す。
 気持ちよさのあまりのお漏らしが情けないはずなのに、その恥じらいさえ快楽へと変換されてしまっている。
 顔も目尻が下がり切り、焦点の定まらぬ瞳で虚空を見つめながら、だらしなく口を開いて涎を垂らす蕩けきった表情を晒す有様。
 義賊としてどころか、人としてどうかとさえ思われても仕方ないほどの乱れぶりだった。




「はぁっ♡はぁっ♡や、やっと……止まったぁ……?」


 散々イキ漏らし尽くした後、藍子の全身はようやく弛緩する。
 喉から甘く焼けた喘ぎ声がひっきりなしに漏れるのが止まらないが、今はそんなことを気にする余裕はない。
 失禁アクメに浸りながら悦び悶えたせいだろう、彼女の全身はおしっこだの愛液だのでグチャグチャに汚れ、正視に耐えない有様へと変貌を遂げていた。
 特に下半身の衣服は下着もスカートもベチョベチョで、強烈な性臭とアンモニア臭を漂わせている。
 こんな格好で歩いている姿など見られれば、恥ずかしさで死んでしまいそうだ。


「はぁっ……ふぅ♡とりあえず……ここから逃げ出して、早くアジトに帰らないと……」


 何とか息を整えて、藍子は立たない足を無理やり動かし、這うようにしてヨロヨロと敷地外に向けて進む。
 やはり警報が反応した様子はなく、寝静まった邸宅の人間たちが起きる気配もない。
 

(何とか、目標達成です……)


 快楽電流トラップで気持ちよくなって潮を噴いてしまったカーペットや、失禁して汚してしまった庭の一部分なんかの処理はできなかったが……そこは諦めるしかない。
 あの悪徳商人に、自分が無様にイってしまった痕跡を見られるのは屈辱的ではあるが……。
 そんなことを考えながら、藍子はよろよろと脱出地点の生垣に向けて這い進んでいく。
 

 ……おそらく彼女がもう少し冷静だったなら、猛スピードで自分を追ってくる他者の存在に、もっと早く気づけただろう。
 人間が入れない夜のこの庭の主、その存在を。
 2度の絶頂と失禁のみに留まらず、女義賊、藍子の受難はまだ序の口なのである……。




(足音っ!?)


 草を踏みしめるテンポのいい音に気付いたのは、庭も半ばを横断し、もうすぐ脱出地点のやや他より低い生垣に到着しようかという時である。
 犬化した藍子の聴覚だからこそ気づけた、微かな音。
 だが藍子のような紛い物ではなく本物の野生にとって、彼女が音に気付いて振り向くのは遅すぎた。


「きゃあっ!?」


 振り向いた瞬間、毛むくじゃらの塊のようなものが覆いかぶさってきた―――と藍子は思わず錯覚する。
 ずっしりと重く、生暖かく、そして激しい息遣い。
 マウンティングするように藍子を背中から四つ足で押し潰し、ぬめる舌で藍子の犬耳や頬を舐める。
 まさか、この生き物は―――。


(し、侵入する前に見た、この家のワンちゃん……!?)


 肥えた大柄な体に、やや間抜けそうな顔は見覚えがある。
 藍子が窓から書斎へと侵入する前に発見した、あの飼い犬に間違いない。
 あの時眠りこけていた彼、もしくは彼女は遅ればせながらこの邸宅内で唯一、藍子の侵入に気づき、そのまま追跡してここまでやってきたのだ。


(お、重っ……!ど、どうしましょうっ、これっ……!)


 四つん這いの藍子とほぼ同等の巨体にのしかかられながら、藍子は焦燥する。
 噛みついたり吠えたりしてこないということはおそらく藍子に危害を加えるつもりではないようだが、だからと言ってこのままじゃれ合うというわけにもいかない。
 普段の藍子なら、この大きさと重さであろうと犬を押しのけることは何とかできそうなのだが、今の藍子は絶頂の連続で、腰に力が入らないヘロヘロの状態である。
 こんな状態で犬を押しのけるなど、とてもではないができそうにない。


(こ、こうなったらナイフで……!で、でも別に襲われてるわけじゃないのに、危害を加えるのは……!)


 懐に忍ばせたナイフに手を伸ばすことも考えたが、元来優しい性格の藍子にはそれも憚られた。
 結果的に、四つん這いになったままの藍子は犬に覆いかぶされるがまま、じっと耳や顔を舐められるのを耐える。
 この状況で藍子にできるのは消極的対応―――じっと待って、犬の方が興味を失ってどこかに行ってしまうのを待つ―――くらいしか思いつかないのだ。


「ひゃあっ!?あんっ、う、うなじベロベロ、匂い嗅いじゃだめぇっ……!あんっ!」


 藍子の上にしっかりと乗った状態のまま、犬は藍子の体のいたるところの匂いを鼻を鳴らしながら嗅いでいく。
 その過程で押さえつけが緩むことはあるものの、それに乗じて藍子が逃れようとすると、見咎めるように犬の方が首筋を甘噛みして圧力をかける。
 そんな牽制をされつつイキ漏らしてビショビショの下半身まで余すところなく匂いを嗅がれ、何とも言えない恥ずかしさで顔が熱くなった。


「うう……そんなところ……ひゃんっ!?」


 いかに相手が犬とはいえ、自分が痴態を繰り広げ、粗相をした結果濡れてしまった部分を嗅がれるのは抵抗がある。
 流石に強く身をよじり抵抗しようとすると、何やら一際熱く硬いものが自らの内腿に当たるのを感じた。
 太く長く、脈打ちながら擦り付けられる物体―――まさか、これは……。


「えっ……!?ちょ、ちょっと待ってくださいっ!わ、私っ、ワンちゃんじゃありませんよっ!?」


 脈打つ物体―――ペニスを股間から隆起させながら、その犬は興奮したように唸って藍子の背に前足を乗せる。
 どうやら雄だったらしい彼は、獣人化した藍子のことを繁殖相手の雌犬だと思い込み、交尾をしようとしているようだ。
 犬という動物は、視覚ではなく匂いと聴覚で物事を判断する傾向の強い。
 人型を保っているとはいえ体臭を含めた獣の主要な特徴をいくつか得た藍子のことを、同族だと勘違いしたとしてもおかしくはないが―――。
 

(この子、さ、最初からそのつもりで……!お庭でおしっこ漏らしてイっちゃったから、フェロモンたっぷりばら撒いて、それでこの子を興奮させちゃったんだ……!)


 考えてみれば、匂いに敏感な犬がいる空間で自分の体液を漏らして気づかれないわけがない。
 下半身にべっちょりと発情の証を染みつかせて、よろよろと這うように歩く女など、発情した雌犬にしか見えなかったことだろう。
 藍子がこの犬に襲われるのは、ある意味必定の結果だと言ってもいい。
 

 ……もっとも、それを受け入れられるかというのは全く別の話である。


「やぁっ……!!やめっ!お願いっ!」


 流石に顔色を失って絶叫し、言葉の通じぬ獣に懇願する。
 が、急に叫んで暴れだした雌に気分を害したのか、彼はその懇願に対して首筋に牙を当てることで答えた。
 抵抗すれば喉を噛み切るという、無言の脅迫である。
 

「……っ!!あぁ……」


 そんな雄の本能からくる情け容赦ない脅しに恐怖し、藍子は口をつぐんで押し黙る。
 それに満足したのか、雄犬は邪魔なスカートを払いのけ、下着を犬歯であっという間に噛み切ると、探るように獣の肉棒を藍子の雌穴に押し当ててくる。
 2度の強烈なアクメを味わったそこは、藍子の内心をよそにヒクヒクと蠢いて雄を誘うようにパクパクと開閉していた。


(わ、私のおマンコっ、ワンちゃん誘っちゃってる……!いっぱい気持ちよくなったのに、まだ足りないって……犬相手にビショビショにして……!)


 犬化してしまった影響なのか、藍子の雌穴は雄犬にのしかかられて肉棒を宛がわれても、むしろ新たな蜜汁を溢れさせている。
 心はまだ人間らしい理性を保っていても、体は完全にこの獣を、繁殖相手だと認識しているのだ……。
 その事実が藍子に絶望を与えると同時、雄犬は一声甲高く唸ると―――。


 ズボォッ!!


 何の躊躇もなく、藍子の膣穴に肉棒を挿入した。


「んぎゅっ!?ほぉ゛っ、お……♡か、ひゅっ……♡ふぅ゛ぅ……♡」


 亀頭の先端が無遠慮に膣口を割り開いて押し入れ、あっという間に子宮口にまで到達している。


「あ゛ひ♡あ゛……♡ぎゅぅ……☆」


 そして藍子は挿入の衝撃だけで、本日3度目の絶頂へと導かれていた。
 絶頂の瞬間、緩みかけた唇に手を宛がい、迸る悲鳴を辛うじて押さえつける。


「ふっ゛♡う゛ふぅっ゛♡ぎゅう♡ふう゛ぅぅぅ〜〜〜っ♡」


 それでも、指の隙間から涎の雫と共に、くぐもった絶頂の吠え声が周囲に零れ出てしまう。
 そんな状態だから、犬の肉棒を受け入れた膣肉の蠕動も凄まじい。
 

(お、おまんこぉ……すごい、よろこんで、ぇっ……♡)


 生殖器に見境なくしゃぶりつく女義賊の膣肉に応えるつもりだろうか、雄犬の方もペニスを挿入するだけでは飽き足らず、興奮と共に容赦なく膣内を耕していく。
 イキまんこの激しい蠕動と収縮に負けぬほどの力で膣襞や、子宮口を突き抉って蹂躙し、本気で眼前の雌を征服しようと肉棒を振り立てているのだ。
 そんな性器と性器が激しいセックスを始めた中で、ただ藍子の心だけがそれについていけずに慄いてばかりいる。


「ふゅあ!?はぐぐっ……!だ、だめ……♡たすけ―――」


 確かに感じる快楽と羞恥、そして自分が犬との性行為でそれを感じているという事実に脳をグチャグチャに犯され、藍子は逃れようとするように腰を振りながら誰ともなしに助けを求めるしかない。
 だがその動きは、性行為相手の欲情を、悪戯に煽るだけの行為だった。


「ふぐ!?ぎゅっ☆」


 びゅびゅびゅびゅぅっ!!!


 藍子を犯す犬は一鳴きしたかと思うと、本当に出し抜けに熱く粘っこい液体を子宮口に向けて注ぎ込んでいく。
 不用意に腰を捻ったことが、図らずも彼の射精を促す結果となった。
 奥までぎっしり生殖器を詰め込まれているのに、その上さらにたっぷりと注ぎ込まれる焼けるような奔流に、藍子は舌を突き出して淫らに喘ぐしかない。


「はぁ、はぁ……!はぁっ、はぁ……あぅ……!くひ……♡」


(な、なんでぇ……♡おかされてるのに、こんなにかんじてぇ……♡)


 続く絶頂と射精に翻弄され、脳天にバチバチと火花のような快楽を弾けさせながら、藍子はようやくそれだけを思考する。
 本来なら性交渉などしようとも思わない相手に欲情されて犯されて、嫌がるどころか絶頂にまで浸ってしまっている自分の体が、情けなくも恥ずかしい。
 ……実は獣人化の影響で、藍子の意識はともかく体の方は、人間ではなく“同族”である犬を好むように性的嗜好が変化しているのだが……。
 それを知る由もない藍子は、ただ雄犬に媚びていく自分の体に絶望し、被虐の快感を魂と心に刷り込まれていく。
 義賊としてのプライドが粉々に打ち砕かれ、ひとりでに涙が溢れてくる。
 雄の前に、1匹の雌が屈服させられた瞬間だった。


「か……ひゅっ♡お゛ぉっ……な、なに……う゛ぅっ、ふとっ……♡」
 

 藍子の抵抗が止んだのを確認すると、雄犬はさらに肉棒を子宮に押し付け、根元の大きな瘤部分を膣口に無理やり挿入してくる。
 膣穴を目一杯広げて入るか入らないかくらいの太さと大きさである。
 そんな恐ろしい瘤は、既に3回イってグズグズになった媚肉に容赦なく沈んでいき―――。


 ずぶぅっ……!!


 完全に、膣内に押し込まれる。


(は、はいっちゃったぁ……♡)


 言葉もなくまた絶頂しながら、藍子が呆然と頭の中で呟く。
 膣肉が収縮して射精を促し、それに応えるように追加の精液弾が子宮に流し込まれる。
 熱くビチビチと生きのいい子種汁を詰め込まれて、今度こそ藍子は心底からの快感に身を震わせた。


「あ゛……♡はぁ゛っ……♡」


 背筋を震わせて頤を反らし、感極まったアクメ声と共に絶頂を貪る。
 抑えきれぬ野太い声が響くのも、もう気にならなかった。


(きもちぃぃ……っ♡すごい、そそがれちゃってる……♡)


 犬の習性として、性行為の際はペニスの根元の大きな瘤を雌の性器に押し込み、抜けないように固定してから延々と射精する。
 確実に相手を孕ませるために。
 そんな犬特有の性行為を、藍子はここが邸宅から離れて発覚の危険性が低いのをいいことに、存分に楽しんでしまっていた。


「えひ☆あっ……しゅごぃ……♡」


 少し前までの泣き顔はどこへやら、今度は悦び由来の涙を流しながら、藍子は怒涛の連続射精を堪能する。
 体だけでなく心まで雌犬に堕ちたかのような惨めな有様も、しかしもうそれに対して恥じらいを示すことはない。
 断続的に注がれ続けるザーメンに、種付けされる悦びに、全身が夢中だった。


(わんちゃんとのえっち、こんなにきもちいいんだぁ……♡)


 本能の部分で深く甘い満足感に浸り、藍子の思考は真っ白に染まる。
 子宮に精液を出されるたびに絶頂し、あられもない喘ぎ声を喉から撒き散らして。
 もはや敵地に潜入しているという事実は、頭の中から消えてしまっていた。


「あはんっ♡あ゛ぁ……♡しょ、しょんなにらしても、わたし、あなたのあかひゃんうめないれしゅよぉ……♡へぅ……♡」


 脳髄まで快楽に浸りきった声を出しながら、藍子はもはや愛しささえ湧いてきた性交相手にそう語りかける。
 一応ベースは人間で、一時的に獣人化しているだけの藍子には、犬との子供を孕むことはできない。
 だが―――。


(で、でもぉ……♡こんなにいっしょうけんめいなのにぃ……♡ちょっとかわいそう……♡)


 そんなことさえ考えてしまうほどに交尾に夢中になり、さらに注ぎ込まれる感覚に断続的にイキ続ける。
 パンパンに詰められる孕ませ汁の圧迫感に呻きながら、藍子は少し残念そうにさえ見える様子でゆっくりと下腹を撫でた。
 もはや犬に襲われて犯されているというより、犬との愛のあるセックスを楽しんでいる……そんな様相である。


「ぇへへ……♡わらし、あなたのあかひゃんうめないれしゅけどぉ……♡かわりに、たくひゃんきもひよくしてあげまふからね……♡へぁぁ♡」
 

 断続的な射精にイキっぱなし状態の藍子が、蕩け切った声で雄犬に媚びる。
 顔が涙と涎と鼻水でグチャグチャになり、イキ顔を晒して犬とのセックスに耽るそんな様子は、まさに身も心も堕ち切った雌犬であった。
 そんな女義賊の顔を、彼は長くざらざらした舌で愛おしむ様に舐め回す。


「ひゃんっ♡はぁぁ……♡んぅっ、えへぇ……♡した、べろべろぉ……♡きす、きすしましょう……♡んちゅ」


 涙や涎を舐めとり、親愛の情を示してくる性交相手との、異種間での口づけ。
 犬のペニスに堕とされた藍子と雄犬との交わり合いは、まだまだ始まったばかりだった―――。





「はぁ……あ……んっ……♡ひぅ……お゛……♡」


 その約3時間後。
 夜も白み始めるころ、甘く爛れた犬同士の長く深い性交に、ようやく終わりが訪れた。


 にゅぽんっ!


「お゛ひゅっ☆」


 唐突に雄犬のペニスが引き抜かれ、イキ過ぎて意識を飛ばしていた藍子を無理やり覚醒させる。
 卑猥なラッパ音と情けなさすぎる野太い声が藍子の喉から漏れた瞬間。


 じょろろろろろろ……!


 またしても藍子はイキ漏らして、地面に向けて犬のようなマーキングをしてしまっていた。
 

「あ゛はぁ☆あ゛っ……♡」


 黄金色の小水を漏らしながらも、ぱっくり開いて戻らない雌穴からドロドロの白濁液が零れ落ちる。
 その量はすさまじく、やや膨れて見える彼女の下腹と合わせて、どれだけの子種を今日の性交で注ぎ込まれたのかを雄弁に物語っていた。


(おわっ、たぁ……?)


 一滴残らずザーメンを出し尽くしたのか、雄犬は藍子の中から竿を引き抜くと少し離れ、大あくびをしながら後ろ足で体などを掻いている。
 ひとしきり交尾が終わると、もう用はないとばかりに雌の方に興味を無くしたようだ。
 生物の本能というか習性として仕方ないことではあるが、彼のそんなドライな様子に、思わず頬を膨らませかけて―――。


(……って、そうだ、そうでした……こんなことしてる場合じゃ……!)


 ようやく、本来の目的を思い出す。
 同時に自分がどれだけ乱れて、犬との性行為に耽ってしまっていたかも改めて意識してしまい、顔が真っ赤に熱くなった。


(わ、私、権利書盗みに来たのに、ワンちゃんとのセックスで気持ちよくなって……!)


 電流トラップで気持ちよくなったせいとはいえ、こんなところで性交し、しかもその相手がターゲットの悪徳商人の飼い犬……。
 誰かに知られでもすれば、一生表を歩けないくらいの恥ずかしい行為である。
 できることなら、記憶から消してしまいたいほどだ。


(うう……!とにかく、日が昇る前に帰りましょう……。服も全部べっちょべちょで、多分凄い匂いしてます……)


 犬に押し倒された後さらに汚された衣服をできるだけ整え、藍子は何とか立ち上がる。
 ガクガクの足腰を無理やり立たせ、足を進めようとすると、後ろからの視線を感じた。
 振り向くと、先ほどまで藍子を犯していた雄犬が首を傾げてこちらを見つめている。


「……ワンちゃん、帰りますね。あ、あの今日は……えーっと……き、気持ちよかった……です……」


 途中から藍子もノリノリだったとはいえあんなに辱められた相手である。
 だが藍子は、そんな彼のことがどこか嫌いにはなれなかった。
 別れを惜しんでか、鼻を鳴らしてこちらに寄ってくる彼の頭を、優しく撫でる。


「じゃあ……さようなら。また……会えたらいいですね」


 それだけ言うと、藍子は踵を返して脱出口の生垣へと向かう。
 敷地内から出る時もう一度振り返ると、あの雄犬はまだ藍子のことを見つめたまま、ゆっくりと手を振るように尻尾を振り続けていた―――。




 その後、帰る途中で響子に出会ってしまった藍子が、スケベな汁まみれで臭い体と衣服の言い訳をするために四苦八苦したり、藍子と交尾したあの犬が結局彼女を追いかけてきて一緒に暮らすことになったり、権利書を奪われた腹いせに、悪徳商人が『女義賊藍子が潮吹きしたカーペット』を闇オークションで出品しようとし、顔を真っ赤にした藍子がそれを盗み出そうとオークション会場に潜入することになったりするのは、また別のお話である。

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