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現地将兵の言動・通信例

大本営陸軍部研究班「支那事変の経験に基づく無形戦力思想関係資料(案)」(1940年9月)*1ではノモンハン事件について「事件に参加せる将兵一部」に「志気不振又は戦意喪失を思はしむるもの」「ソ連の化学兵器の優秀を讃へ恐ソ思潮を醸成せるにあらずやと思料せらるるもの」「皇軍の戦果を疑問視するもの」等の言動・通信等が少からずあり遺憾だと述べている。
続いて「事件参加将兵」による「言動、通信事例の一部」が挙げられている
○ソ連の宣伝も相当信を置く所がある出征軍人留守宅家族の風紀問題等何も知らず第一線で働いて居る将兵は気の毒だ
○戦闘間敵機から撒布した「無意味な戦争で死ぬより一日も早く帰国して温い家庭を作った方が良い降伏するのが身心共安全だ」等のビラを見てお互に顔を見合せた
○ソ連の機械化部隊には如何なる精神も駄目だ我が軍の装備の充実が必要だ
○ソ軍機械化部隊の威力は予想外にして日本軍の現状を以ては幾度戦争を繰返すも敗戦だ
○敵戦車数は我が兵三名に対し一台位にして火焔砲の如き化学兵器の前には大和魂も何の役にもならぬ
○もう戦争は懲々だ新兵器でもあるなら別だが小銃では戦ふ気持にならぬ
○ソ連の火焔発射機の前には如何なる戦法も効果なく命からがら逃げた
○戦争は二度と行くところではないと今度はつくづく考へさせられた
○敵徒歩部隊の夜襲には恐れぬが機械化部隊の襲撃には大恐怖を感じた
○悲惨な戦場を現認せる者は誰も戦争恐怖心を起し戦場に居るのが厭になり反戦を叫ぶ
○軍人の常套語として滅私奉公とか護国の鬼とかの言葉をよく使ふが斯様なことを言ふ人程生命の愛着強く−−−−−−−−−−(※伏字か)靖国神社も生前の気休めだ
○敵の重機、擲弾筒の猛射には皆青くなり指揮官の号令は何の効なく頭に入るものは一人もない
○ソ連の砲弾は物凄く大きく速力も爆発力も我が軍の比ではない
○機械化部隊を誇るソ軍に肉弾を以って勝つことがあれば奇蹟だ

さらに続いて「俘虜帰還者」の「反軍反戦、上官誹謗的言辞」が以下の通り例示されている。
・今度の敗戦はソ連を余り見くびりし為ならずや
・平原地帯に於ける日本軍の作戦は極めて拙劣にして常に敵に機先を制せられ或は包囲を受けて大打撃を繰返したるに反しソ軍は巧妙なる作戦を為したり
・一週間もすれば例の将校たちが刑の宣告に来るだらう、彼等が若し我々と共に参戦してゐたら必ず吾々と同境遇に立てる事明白なり
・○○○の生きてゐる間は我々も死ぬ必要なく生還を恥ずる要なし我々を楯とし身を以て逃れたのは彼だ
・今度の様な馬鹿な作戦はない三年兵の優秀な兵を全部殺してしまった、是皆作戦首脳部の責任だ
・○○○は海拉爾(※ハイラル)に逃避せしとのことなるが多数の部下を殺しておめおめ生きて居られないだらう
・軍司令官とか師団長とか首脳者は辞職で失敗が清算せらるるも吾々の前途は暗黒だ
・負傷して身体の自由を失ひ俘虜となりしものを其の上処分するとは情ない、自分は負傷の結果俘虜となりしことを少しも恥ぢない
・ノモンハン地方の如き無価値な土地の争奪に多くの生命を捨てて全くつまらぬことだ

かん口令

関東軍参謀長飯村穣が1939年9月16日付で出した「ノモンハン事件に関する将兵の言動を一層慎重ならしむべき件通牒」*2では次のようにかん口令を敷いている。
今次ノモンハン事件に従軍したる部隊将兵特に戦傷者の談話又は通信中には悲惨なる戦況等を誇張して言及するもの尠からず為に流言の因をなす処大なるに鑑み従軍将兵は勿論然らざる者と雖も此際一層言動を慎重ならしむると共に各部隊長は通信検閲等に依る取締を徹底強化する如く一段の留意相成度依命通牒す

想定問答集作成

また陸軍は部外からの問い合わせに備えるための質疑応答集である「ノモンハン事件質疑応答資料」(1939年10月10日付)*3を作成した。その中に「民間に相当広くデマの流布せられたる現在、何故、詳細なる発表を行わざるや」*4という想定質問があり、ノモンハンの苦戦が一般に広く伝わっていたことがわかる。

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