1905年 第二次日韓協約（韓国保護国化）
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kannrininn 2024年09月07日(土) 12:57:16履歴
１．保護国とは植民地支配の一種 
保護国とは本当に保護することだ・よいことだと勘違いしてる人が多いが、保護国化というのは英国のエジプト保護国化、フランスのカンボジア保護国化などで分かる通り、他国の外交権などを奪うことを意味し、植民地支配の一種である。よって現代では新規の保護国化は無い。
矢内原忠雄「植民及植民政策」（有斐閣、1937年）では「保護条約」について「全然保護国の好意に出づるものではない」(119頁）とする。
矢内原忠雄「植民及植民政策」（有斐閣、1937年）では「保護条約」について「全然保護国の好意に出づるものではない」(119頁）とする。
矢内原忠雄「植民及植民政策」（有斐閣、1937年）
五、保護条約。植民的保護地の成立も亦全然保護国の好意に出づるものではない。現住社会群が未開種族なる場合には保護条約の締結は詐欺的手段を以てする領土の拡張と同視すべきものが多い。例へばアフリカのウァニャッサ（Wanyassa）族の酋長等の署名したる英国との保護条約には、「上記境界内に於ける全地域に対する凡ての主権其他の権利を、何等の留保なく将来永久に亘りて、至仁なる女王陛下に譲与する」旨明記せられた。憐むべき黒人酋長等は之等の文言の何を意味するやを諒解することなく、数瓶のラム酒、数着の衣服の与へらるゝ喜びに駆られ―恐らく白人の「至仁」なるに感激しつゝ―求めらるゝまゝに「条約」文書に記されし自己の姓名の下に十字のサインを為した。かくの如き方法を以て東部及び中部アフリカ等に於て夥多の保護条約が短時日間に締結せられたのである。「一飯の為めに家督の権を売りし」憐むべき黒人！「条約」文言の何を意味するやを体験せしめられしとき、彼等千古太平の夢は破られたのである。
保護条約が国家生活を為せる社会群に対して締結せられたる場合は上述の欺詐的手段と異り、概ね軍隊力を背後に有する外交上の強制による。英国が埃及（※エジプト）に対して保護関係を定めたるは、埃及の内政秩序を失ひ殊に財政紊乱せるが故なりといふも、英国艦隊によるアレキサンドリア港砲撃の挙（一八八二年）あるを忘るべからず。明治三十八年（一九〇五年）十一月の協約によりて日本は韓国の外交権を掌握し国際法上の保護国と為したのであるが、その交渉に当って我駐屯軍隊の威力は無言の強制ではなかったか。之等のことは保護国の統治が必ずしも常に圧迫的なりと言ふのではない。ただ保護関係の設定は強制的なりといふのみ。而して保護条約の実質は国際法上第三国の干渉を排斥するの権利であって、保護の結果独立宗主権を回復せしむべきの国際義務に存しない。
２．条約に至る経緯
日本の韓国保護国化方針と列強に対する根回し
1901年6月成立の第一次桂太郎内閣は、当初から韓国保護国化を目標としていた。
「公爵桂太郎伝」では次のように述べる。*1
その内容は「韓国の対外関係は全然帝国に於て之を担任し」「韓国は直接に外国と条約を締結するを得ざること」などであった。
「公爵桂太郎伝」では次のように述べる。*1
公が内閣を組織するに当り、先づ内治外交に対する大方針を確定せり。其の政綱を掲ぐれば、大略左の如し。1905年4月8日、第一次桂内閣は「韓国保護権確立の件」を閣議決定した。*2
一 財政上の基礎を鞏固にし、商工業の発達を謀る事。
一 海軍は八万噸を限度とし之を拡張する事。
一 独力極東の大局を担当するは困難なるを以て、機会を見て欧州の一国（英国）と或種の協約を締結するに注意する事。
一 韓国は我が保護国たるの目的を達する事。
その内容は「韓国の対外関係は全然帝国に於て之を担任し」「韓国は直接に外国と条約を締結するを得ざること」などであった。
対英交渉
対米交渉
対露交渉
9月5日 ポーツマス条約調印。韓国における日本の「政事上、軍事上及経済上の卓絶なる利益」「必要と認むる指導、保護及監理の措置」をロシアが容認。
こうして日本は列強への根回しを済ませ、韓国保護国化の準備を整えた。
こうして日本は列強への根回しを済ませ、韓国保護国化の準備を整えた。
韓国側の反対・排日の動き
7月25日、韓国皇帝から在外公館宛電報。日露開戦以降に日韓が締結した条約は「日本の強圧に由る」ものだと批判。*10
9月25日、林権助在韓公使から桂太郎外務大臣へ「意見上申」。その中で「韓国皇帝は東京擾乱（日比谷焼打事件）を聞いて、ポーツマス条約が批准に至らずロシアが勝ち日本は掃蕩されると喜んでいる」「皇帝は排日に傾きつつある」と報告。日本側としては「此後の機会に於て多少强圧を加ふるとも宮中枢要の地に悉く我官吏を配置」すべきなどと具申。*11*12
10月11日、萩原守一在韓臨時代理公使から桂臨時兼任外務大臣宛の電報で、「韓国保護問題」について現地韓国の反応を報告。「当国の宮中府中は勿論一般人民中にも悲観的観念を抱くもの漸く多く」、「排日主義」「義兵」の動きがあると述べている。*13
10月17日、萩原代理公使から桂宛の電報で、第二回日英同盟協約の韓国条項について韓国外相が英国公使に抗議したと報告。日本に対しても同様の抗議があったこと、その抗議を「イグノヲア（※無視）」する積りであることも付記している。*14
同じく10月17日、萩原代理公使から桂宛の電報で韓国皇帝や韓国政府大臣らの動きを報告。「韓国保護問題」について「皇帝は益々日本の態度を疑ひ近き将来に於て日本は其の目的を達せんが為強圧を加ふべしと予想し雑輩等の説を聞き他館に播遷若くは地方避難策を内密に講ぜらるるやの疑ひあり」と述べている。*15
10月20日、萩原代理公使から小村外務大臣宛電報で、仏語教師が露・仏政府宛の皇帝密書を発送するため芝罘か上海に向った」という情報。*16
10月22日、萩原代理公使から小村外務大臣宛電報で、韓国人李起鉉が宮中の内命で英国に向う、また米国人ハルバートも韓国での仕事を急に辞めて帰国する、韓国皇帝が動いているのではないかという報告。*17
10月23日、萩原代理公使から小村外務大臣宛電報で、李起鉉よりハルバートが重大だと英国公使が語った、という報告。*18
10月28日、萩原代理公使から小村外務大臣宛電報で、日本が韓国を保護国にすると韓国では悲観している、李起鉉・ハルバート・マアテルについてそれぞれ宮中・政府内の誰それが背後にいるという情報。*19
条約締結後12月2日付文書で林公使が韓国側の条約拒否の動きが交渉前からあったと報告。*20
9月25日、林権助在韓公使から桂太郎外務大臣へ「意見上申」。その中で「韓国皇帝は東京擾乱（日比谷焼打事件）を聞いて、ポーツマス条約が批准に至らずロシアが勝ち日本は掃蕩されると喜んでいる」「皇帝は排日に傾きつつある」と報告。日本側としては「此後の機会に於て多少强圧を加ふるとも宮中枢要の地に悉く我官吏を配置」すべきなどと具申。*11*12
10月11日、萩原守一在韓臨時代理公使から桂臨時兼任外務大臣宛の電報で、「韓国保護問題」について現地韓国の反応を報告。「当国の宮中府中は勿論一般人民中にも悲観的観念を抱くもの漸く多く」、「排日主義」「義兵」の動きがあると述べている。*13
10月17日、萩原代理公使から桂宛の電報で、第二回日英同盟協約の韓国条項について韓国外相が英国公使に抗議したと報告。日本に対しても同様の抗議があったこと、その抗議を「イグノヲア（※無視）」する積りであることも付記している。*14
同じく10月17日、萩原代理公使から桂宛の電報で韓国皇帝や韓国政府大臣らの動きを報告。「韓国保護問題」について「皇帝は益々日本の態度を疑ひ近き将来に於て日本は其の目的を達せんが為強圧を加ふべしと予想し雑輩等の説を聞き他館に播遷若くは地方避難策を内密に講ぜらるるやの疑ひあり」と述べている。*15
10月20日、萩原代理公使から小村外務大臣宛電報で、仏語教師が露・仏政府宛の皇帝密書を発送するため芝罘か上海に向った」という情報。*16
10月22日、萩原代理公使から小村外務大臣宛電報で、韓国人李起鉉が宮中の内命で英国に向う、また米国人ハルバートも韓国での仕事を急に辞めて帰国する、韓国皇帝が動いているのではないかという報告。*17
10月23日、萩原代理公使から小村外務大臣宛電報で、李起鉉よりハルバートが重大だと英国公使が語った、という報告。*18
10月28日、萩原代理公使から小村外務大臣宛電報で、日本が韓国を保護国にすると韓国では悲観している、李起鉉・ハルバート・マアテルについてそれぞれ宮中・政府内の誰それが背後にいるという情報。*19
条約締結後12月2日付文書で林公使が韓国側の条約拒否の動きが交渉前からあったと報告。*20
保護国化実行・伊藤博文派遣
３．交渉過程
伊藤の強圧
11月15日、伊藤博文が韓国皇帝に謁見した。
その内容は翌16日に林権助在韓公使が本国桂臨時兼任外務大臣宛に電報で報告した。
それによると、韓国皇帝は「哀訴」して伊藤の保護国化要求をかわそうとしたが、伊藤は「最早寸毫変改の余地なきを述べて之を拒否」した。*23
また伊藤博文自身が提出した復命書（※出張報告書）*24には伊藤と皇帝のやりとりが詳細に記されている。
それによると伊藤が強圧的に保護国化を迫り、皇帝がなんとか逃れようとして様子がうかがえる。
翌16日には、伊藤は韓国政府の各大臣・元老と会談している。
そこでも伊藤は強圧的に話を進めている。*25
林公使報告書は韓国各大臣の反対、特に韓参政と閔泳綺の二名の絶対反対を記している。
協議中の王宮内外は不穏な状態で、「已むなかるべき」と承諾の意を示した李完用宅が襲われ放火された。*26
11月17日、第二次日韓協約調印。韓国側は更なる協議のため数日猶予を求めたが日本側が拒否した。*27*28*29
伊藤は日記「伊藤大使韓国往復日誌」で、日本側が一気呵成にやろうとして韓国側がためらったと書いている。*30
その内容は翌16日に林権助在韓公使が本国桂臨時兼任外務大臣宛に電報で報告した。
それによると、韓国皇帝は「哀訴」して伊藤の保護国化要求をかわそうとしたが、伊藤は「最早寸毫変改の余地なきを述べて之を拒否」した。*23
林公使報告「伊藤特派大使韓帝ニ内謁見シテ日本ニ外交権委任ノ必要ニ付陳奏ノ件」
皇帝は……哀訴的情実談を持出し大使（※伊藤）使命の条件を可成緩和軽減せむことを極力努めらるるものの如く……陛下は既に大勢の然らしむる所敢て之（※保護国化）を絶対に拒絶の意にあらずと雖も要は只形式を存し其内容に至ては如何様に協定せらるるも敢て辞する所にあらずとて数回となく形式保存説を以て哀訴し其困難の情況を弁疏せらるるに過ぎざりしかば大使は……最早寸毫変改の余地なきを述べて之を拒否し該約案を皇帝に内示し……皇帝は終に大使の意翻すべからざるを知り兎も角外部大臣に命じ妥協の途を講ぜしむべき旨承諾せらる。
また伊藤博文自身が提出した復命書（※出張報告書）*24には伊藤と皇帝のやりとりが詳細に記されている。
それによると伊藤が強圧的に保護国化を迫り、皇帝がなんとか逃れようとして様子がうかがえる。
伊藤復命書中「伊藤大使内謁見始末」
○大使（※伊藤） 本案は帝国政府が種々考慮を重ね最早寸毫も変通の余地なき確定案にして……断じて動かす能はざる帝国政府の確定議なれば今日の要は唯だ陛下の御決心如何に存す。之を御承諾あるとも又或は御拒みあるとも御勝手たりと雖も若し御拒み相成らんか、帝国政府は已に決心する所あり。其結果は果して那辺に達すべきか。蓋し貴国の地位は此条約を締結するより以上の困難なる境遇に坐し一層不利益なる結果を覚悟せられざるべからず
○陛下（※韓国皇帝） 朕と雖も豈其理を知らざらんや。然りと雖ども事重大に属す。朕今自ら之を裁決することを得ず。朕が臣僚に諮詢し又一般人民の意向をも察するの要あり
○大使 人民意向云々とあるも定めて是れ人民を扇動し日本の提案に反抗を試みんとの御思召と推せらる。是れ容易ならざる責任を陛下自ら執らせらるるに至らんことを恐る
○大使 事の緩慢なるは事情の許さざる所なれば今夜直ちに外部大臣を御召しありて林公使の提案に基き直に協議を纏め調印の運びに取計ふべき旨勅命を下されたし
翌16日には、伊藤は韓国政府の各大臣・元老と会談している。
そこでも伊藤は強圧的に話を進めている。*25
十一月十六日伊藤特派大使韓国大臣元老談話筆記
○韓参政 韓国の独立は……大使の同情を待てせめては形式上なりとも其名を保全したき希望なり。日本政府の這回の提案は大勢実に止むを得ざるに出づることを諒とせざるに非ずと雖も我方の事情も亦少しく顧慮せられんことを望む
○大使（※伊藤） 帝国政府自ら決する所あって此提案を敢てせし上は貴国政府が之を承諾せられずとて其儘黙止するものにあらざることを記憶せられよ
○農商工部大臣権重顕 若し仮りに貴方提案を我方に於て容るるとせんか我国の独立は名実共に失し昔日清国の属邦たりし時代より今一層劣りたるものと為る恐れなき乎
○大使 諸君が十年乃至二十年前の旧夢を想起し時世の変遷を察せずして自分勝手の判断を下すが如きは時勢に通ぜざるの甚しきものなり。貴国は其独立に必要なる実力を有せず実に虚名の独立に過ぎず……貴国が他の勢力を頼み若し此案の決定を荏苒に付せんとせらるる如きことあれば是全く空頼みに過ぎずして何等利益する所なきや明なり
○参政韓圭卨 夫れ韓国現下の状況は気息奄々瀕死に等し。唯だ纔に一縷の余命を存せるは一に是れ外交関係を親らするに在るなり。其外交をすら貴国に委任せんか全く命脈断絶するの悲境に沈むべし
○大使 到底其御希望には応ずる能はざる次第を奏聞し陛下も已に御了解ありたることと信ず
林公使報告書は韓国各大臣の反対、特に韓参政と閔泳綺の二名の絶対反対を記している。
協議中の王宮内外は不穏な状態で、「已むなかるべき」と承諾の意を示した李完用宅が襲われ放火された。*26
林公使報告書「日韓協約調印事情報告ノ件」
韓参政は本官に対して御前会議の経過を告げたり其要は各大臣一致の意見として本約案拒絶の奏上を二回迄為したるに陛下は拒絶の議を容れられず政府大臣尚進で本官との間に協商を凝らすべしとの勅諚ありたるに付此上は一両日の猶予を請ひ更に政府の議を纏めて本官に協議することとしたしと…
外部大臣は自分一己としては不賛成なるも勅命あらば調印すべしと答へ韓参政及度支大臣閔泳綺の二人が絶対に不賛成を唱へたる外李址鎔李完用李夏栄権重顕及び李根澤の御大臣は情勢已むを得ずとの意見にて殊に学部大臣李完用は最も明晰に同意の已むなかるべき意見を表したり右の次第李址鎔及宮内大臣李載克に依り奏上せられたる結果陛下に於ても亦議決を嘉納せられ…調印を了へたるは本朝一時半なりし
宮中にての論議中韓参政は精神衰弱症に陥りて別席に移り又宮城内外不穏の兆候あり且条約案に明晰なる賛成を表したる学部大臣李完用の留守宅は暴漢数十名の襲ふ所となり放火の難に遭へりとの急報ありて各大臣も調印前に大に躊躇狼狽の態度を現はしたるに付…
11月17日、第二次日韓協約調印。韓国側は更なる協議のため数日猶予を求めたが日本側が拒否した。*27*28*29
伊藤は日記「伊藤大使韓国往復日誌」で、日本側が一気呵成にやろうとして韓国側がためらったと書いている。*30
伊藤の日記「伊藤大使韓国往復日誌」
十一月十七日 金曜日 晴
大使は依然長谷川大将邸に在り本日午前十一時韓国各大臣は林公使の招に応じて日本公使館に来り午餐を共にし懸案談判に関し林公使と熟議したる後午後三時一同相伴ひて参内す萩原・国分両書記官前間・塩川両通譯亦之に従ふ公使は一気呵成に本日保護條約の調印を了せんとせしも韓官の派遣逡巡によりて容易に其の解決を視る能はざるを以て午後七時半伊藤大使の参内を促せり
戦前語られていた様子
条約締結当時に京城日本人居留民長だった中井錦城は、条約から10年後の著書「朝鮮回顧録」で次のように述べている。*31
また西四辻公堯は1930年の著書「韓末外交秘話」で「所謂朝鮮人の併合観なり」*32と前置きしつつこう描写している。*33
中井錦城「朝鮮回顧録」
談判依然として捗取らないので、（長谷川）大将は参政大臣と外部大臣を指し、憲兵隊長に向って何事をか命令すると、日本語の分る大臣は、之を聞て戦慄した、此場の状況を看て取った、大臣の末席文部大臣李完用は、今日の時勢已を得ないから、新条約を承認しては如何と、始て口を切った。
また西四辻公堯は1930年の著書「韓末外交秘話」で「所謂朝鮮人の併合観なり」*32と前置きしつつこう描写している。*33
こうして皇帝の聖断を暫く待って居る間に、突然、韓参政大臣が声を掲げて哀号しだし、遂に別室に連れ出された。此時、伊藤侯は他を顧みて、「余り駄々を捏ねる様だったら殺ってしまへ」と大きな声で囁いた。然るに愈々御裁可が出て調印の段となっても、参政大臣は依然として姿を見せない。そこで誰かが之を訝ると、伊藤侯は呟く様に「殺っただらう」と澄している。列席の閣僚中には日本語を解する者が二、三人居て、之を聞くと忽ち其隣へ其隣へと此事を囁き伝へて、調印は難なくバタバタと終ってしまった。海野福寿は西四辻記述について「二次史料」としつつも、中井記述と「共通する筋立て」であり、「伊藤や長谷川駐箚軍司令官が脅迫的言辞を弄したことを否定するものではない」としている。*34
日本軍の包囲・監視
調印に必要な印章を誰がどう入手したか
スチーブンス銃撃事件
1908年に韓国外交顧問スチーブンスが韓国人独立運動家張仁煥らに銃撃され死亡したが、その裁判で被告側は、被害者らが国璽を横奪したと主張した。*47
そして韓国外交顧問補佐官としてスチーブンス側近だったのがチャイナ・ガゼット紙報道に出てきた沼野である。*48
スチーブンスは井上馨外務卿の秘書官など務めた「親日家」だった。*49
スチーブンス1904年に日本が推薦して以降、韓国外交顧問を務めており、契約書によれば韓国の「一切」の外交文書を閲覧する権限を有し、また韓国は「一切」の外交案件について予めスチーブンスの同意を得る必要があった。*50
伊藤博文の日記によると、スチーブンスは条約交渉開始前の11月10日に伊藤を訪問、16日に林公使の晩餐会に出席、調印後20日には米国公使館の晩餐会で伊藤・林と同席している。*51
沼野は10日に（スチーブンスに付いて？）伊藤を訪問、13日の韓国側の晩餐会で伊藤・林と同席している。
また条約交渉前に韓国は第二回日英同盟協約の韓国条項について日英両国に抗議していたが、その際韓国は「英国公使宛のものは同外交官補（※沼野）に秘して発送したるものなる可し」と沼野に知らせておらず、沼野を警戒していた可能性がある。
スチーブンス銃撃で1909年に韓国内外の韓国人から張仁煥、田明雲に義援金が送られている。*52*53
そして韓国外交顧問補佐官としてスチーブンス側近だったのがチャイナ・ガゼット紙報道に出てきた沼野である。*48
スチーブンスは井上馨外務卿の秘書官など務めた「親日家」だった。*49
スチーブンス1904年に日本が推薦して以降、韓国外交顧問を務めており、契約書によれば韓国の「一切」の外交文書を閲覧する権限を有し、また韓国は「一切」の外交案件について予めスチーブンスの同意を得る必要があった。*50
伊藤博文の日記によると、スチーブンスは条約交渉開始前の11月10日に伊藤を訪問、16日に林公使の晩餐会に出席、調印後20日には米国公使館の晩餐会で伊藤・林と同席している。*51
沼野は10日に（スチーブンスに付いて？）伊藤を訪問、13日の韓国側の晩餐会で伊藤・林と同席している。
また条約交渉前に韓国は第二回日英同盟協約の韓国条項について日英両国に抗議していたが、その際韓国は「英国公使宛のものは同外交官補（※沼野）に秘して発送したるものなる可し」と沼野に知らせておらず、沼野を警戒していた可能性がある。
スチーブンス銃撃で1909年に韓国内外の韓国人から張仁煥、田明雲に義援金が送られている。*52*53
４．締結後
韓国の嘆き・抗議・自決・排日
韓国内
調印後の韓国皇帝の落胆ぶりについて、丸山警視報告で伝えている。*54*55
それによると皇帝は「千載の遺恨」と嘆き「発熱苦悶」したという。
また丸山は同報告で韓国民の反応が「到る処慨嘆の声」であるとし、宮城門外で排日演説があり群衆が集まったとも知らせている。
韓国各大臣は辞表を提出した。しかし伊藤が止めさせたと伊藤自身の日記に記している。*56
また韓国元老等は韓国皇帝に意見上申し「君臣共に死すべき」「殉死」の意を表明した。*57
侍従武官長閔泳煥と元老趙秉世は自決した。*58*59
閔泳煥の遺書には「自分ハ國事ノ爲メニ殉死スニチ萬同胞ハ一心ニ事ヲ擧ケヨ」との文意が記されていた。*60
日本側は「一般の感情を融和」するため閔泳煥を国葬にするよう皇帝に要請した。*61
皇帝は閔泳煥・趙秉世の二人に諡号を追贈した。*62
本国の桂太郎首相はこうした事態を重く見て、林公使に対し「貴官は韓帝をして将来斯る不心得の行動を厳重に戒むるの詔勅を発せしめんが為至急必要の措置を執らるべし」と指示した。*63
京城の日刊紙皇城新聞は11月20日に条約を批判する論説・記事を掲載し差押え・発行禁止処分を受けた。主筆張志淵によると、前夜の検閲で塗りつぶしを指示されたが処罰覚悟で発行した。*64
11月30日には京城鍾路で「多数の韓民集合」し取締の巡査、憲兵が負傷した。また「暴民の一部は鍾路日本憲兵屯所に至り前面の硝子障子等を破壞」「約百名を逮捕」。*65
朝鮮総督府「朝鮮の保護及併合」（1917年2月）ではこう述べている。
韓国の民間政治団体一進会は協約締結に際し交渉前*66にあるいは締結後*67に賛意を示したが、それにより「勢力を失墜」*68した。
日韓合邦声明を主謀した内田良平は1905年12月から韓国統監府嘱託、1906年10月から一進会顧問を務めていた*69が、その内田の1907年4月15日付報告書によると、「一進会支部長等」は「二十三郡十万余名の会員は今や減退して三万余名に過ぎず」と述べたという。*70
またその後も保護国時代を通じて「国賊」「売国奴」扱いされ、殺された会員も多かった。*71*72
それによると皇帝は「千載の遺恨」と嘆き「発熱苦悶」したという。
また丸山は同報告で韓国民の反応が「到る処慨嘆の声」であるとし、宮城門外で排日演説があり群衆が集まったとも知らせている。
丸山警視報告
一、去十七日夜宮中に於て新条約調印後宮内大臣より調印済の旨を上奏したるに韓皇は如此重要なる条約を斯くも容易に急劇に締結を見るに至りしは実に千載の遺恨なり素より今日の場合各大臣の措置と雖も詮方なかるべし唯茲に日本の要求を容るると仝時に自国よりもまた何をか反対利権を要求するの掛引は此の際予め各大臣の腹案に存ぜざるべからず然るを其の事なく遂に軽々に締結を終へしは大臣等の無能無気力なる心外に堪へずと慨嘆せられたりと而て前来の疾患俄かに発熱苦悶に陥られ今尚、悩まれつゝありと 一、新条約調印後一般の民心は大に悲観的感想を抱き亡国を以て自認し大小の官吏を目して亡国の奴となし到る処慨嘆の声あり刻下不穏の患は中流以下に在るものゝ如く中流以上に在りては比較的稍々静穏に向はんとし寧ろ経済界の不振を嘆ずるの声囂々たり尚一般警戒中 一、一昨十八日午後宮城布徳門外公道に於て排日主義の演説をなす韓人あり多数の者為めに群衆せるを発見し直に解散を命じ弁士は之を取押へ目下取調中なり
韓国各大臣は辞表を提出した。しかし伊藤が止めさせたと伊藤自身の日記に記している。*56
伊藤大使韓国往復日誌
十一月十八日 土曜日 晴
本日午後內閣動搖各大臣辭表提出ノ報ニ接シタルヲ以テ大使ハ都筑書記官長ヲシテ國分書記官ヲ伴ヒ宮中ニ赴キ此ノ際猥ニ內閣大臣ヲ動カサルゝ樣ノコトアリテハ徒ニ人心ヲ不安ナラシムルノ虞アルヲ以テ現狀ヲ維持セサル可カラス若是非共國務大臣ヲ交迭スルノ必要生シタルトキハ博文當地ニ滯在中ハ御下問アリタル上ニテ御決行アリタシト奏上セシメタルニ陛下ハ其ノ意ヲ諒シタル旨勅答アリタリ
また韓国元老等は韓国皇帝に意見上申し「君臣共に死すべき」「殉死」の意を表明した。*57
十一月十八日 土曜日 晴
(181) 時局ニ關スル件 祕第一二四號
（略） 一. 去三日ノ夜李根命其ノ他ノ元老カ入闕シテ韓皇ヘ上疏シタル顚末ナリトリ沈相�皀�近親ニ語リタル要領左ノ如シ
「元老等ハ韓皇ニ對シ韓國三千里ノ疆土二千萬ノ同胞臣民ハ陛下ノ造ラレタルモノニアラス祖宗大王ノ讓リ給ヘル國家ナリ然ルヲ今日本ノ爲ス處ニ一任シタルハ大王始メ二千萬衆ノ憤慨ニ堪ヘサル處ナリ若シ新條約ニシテ破毀スル能ハスンハ陛下先ツ自盡シテ罪ヲ上下ニ謝セラルヘク君臣共ニ死スヘキハ今日ナリ陛下死セハ臣等又殉死スヘシト奏上シ爲メニ甚シク陛下ノ震怒ニ觸レ汝等何ヲ云々スルカ今回ノ條約ハ朕深ク之ヲ熱考シ最早汝等ノ容喙スヘキ餘地ナシ況ンヤ自盡ヲ迫マルカ如キハ其ナ罪眞ニ輕カラストテ遂ニ上奏セル元老等ニ對シ黜門ノ典ヲ施サレタリト」（略）
右及報告候也 明治三十八年十二月六日 警務顧問丸山重俊 特命全權公使林權助殿
侍従武官長閔泳煥と元老趙秉世は自決した。*58*59
閔泳煥の遺書には「自分ハ國事ノ爲メニ殉死スニチ萬同胞ハ一心ニ事ヲ擧ケヨ」との文意が記されていた。*60
日本側は「一般の感情を融和」するため閔泳煥を国葬にするよう皇帝に要請した。*61
皇帝は閔泳煥・趙秉世の二人に諡号を追贈した。*62
本国の桂太郎首相はこうした事態を重く見て、林公使に対し「貴官は韓帝をして将来斯る不心得の行動を厳重に戒むるの詔勅を発せしめんが為至急必要の措置を執らるべし」と指示した。*63
京城の日刊紙皇城新聞は11月20日に条約を批判する論説・記事を掲載し差押え・発行禁止処分を受けた。主筆張志淵によると、前夜の検閲で塗りつぶしを指示されたが処罰覚悟で発行した。*64
11月30日には京城鍾路で「多数の韓民集合」し取締の巡査、憲兵が負傷した。また「暴民の一部は鍾路日本憲兵屯所に至り前面の硝子障子等を破壞」「約百名を逮捕」。*65
朝鮮総督府「朝鮮の保護及併合」（1917年2月）ではこう述べている。
朝鮮総督府「朝鮮の保護及併合」32頁
第一章 朝鮮の保護
第四節 排日の騒擾
韓国の官民多くは固陋頑冥にして大勢に通暁せず明治三十八年十一月の協約締結以来我が保護国と為りたるを憤慨し百方術を講じ策を回らし其の覉絆を脱せむと欲し上は皇帝より下群衆に至るまで努めて我が対韓政策を誹謗し我が施設を阻害し流言浮説を捏造し人心を扇動し…以て明治四十年の前半は韓国上下を通じて滔滔として之に和し之に奔りて皆是れ排日の徒にあらざるなきの観を呈し…
韓国の民間政治団体一進会は協約締結に際し交渉前*66にあるいは締結後*67に賛意を示したが、それにより「勢力を失墜」*68した。
日韓合邦声明を主謀した内田良平は1905年12月から韓国統監府嘱託、1906年10月から一進会顧問を務めていた*69が、その内田の1907年4月15日付報告書によると、「一進会支部長等」は「二十三郡十万余名の会員は今や減退して三万余名に過ぎず」と述べたという。*70
またその後も保護国時代を通じて「国賊」「売国奴」扱いされ、殺された会員も多かった。*71*72
列強への無効訴え
早くも11月中には韓国側外交官が仏・露に対して条約が強制であると主張した。*73
また韓国皇帝特使の米国人ハルバートは韓国から帰米し、保護国化に反対する内容の韓国皇帝親書を11月中に米国務長官エリフ・ルートを通じて米大統領セオドア・ルーズベルトに届けた。
しかし日本側が既に根回しを済ませていた事もあり、11月25日付でルート長官から示された回答はよいものではなかった。*74
ハルバートはルートに直接会ったが、ルートは「Do you want us to get into trouble with Japan?（我々を日本との揉め事に巻き込みたいのか？）」と述べたという。*75
ルートの回答翌日、ハルバートは韓国皇帝からの電報を受け取ったが、そこには第二次日韓協約は無効であり認めないと記されていた。ハルバートはそれを米国務省で国務次官補に渡した。*76
パリにいた閔泳瓚駐仏韓国公使も渡米して12月11日にルート国務長官を訪ね、第二次日韓協約は「was procured from the Emperor of Korea by duress and should therefore be ignored（皇帝が強要されたもので無効となるべき）」と訴えたが、これも受け入れられなかった。*77
12月11日付米現地紙イヴニング・スターは閔泳瓚の国務省訪問を取り上げ、翌12日付ワシントン・ポスト紙は閔泳瓚とハルバートのワシントンにおける言動を記事にしている。また13日付イヴニング・スターは韓国皇帝からハルバートへの電報の内容を報じた。*78
13・14日のニューヨークタイムズ紙もハルバートを記事にして韓国側の主張を伝えている。*79
また1906年1月29日付で作成されたという韓国の国璽入り文書が、1907年1月16日付の大韓毎日申報に掲載された。*80。これも第二次日韓協約が無効であることを主張する内容で、ロンドンのトリビューン紙に掲載されたものの転載だという。*81
またハルバートは、1907年6月にも同内容の欧米各国宛皇帝親書(1906年6月22日付）を託されている。*82 ハルバートはシベリア鉄道経由でパリに到着し*83*84、そこから平和会議が行われているハーグへ向い*85、そして渡米したが、彼に親書を託した皇帝が退位させられて不首尾に終わったという。*86
そして一連の韓国皇帝高宗の抵抗の最後が、李儁・李相・李瑋鍾3人を皇帝特使として派遣した有名なハーグ密使事件だった。
また韓国皇帝特使の米国人ハルバートは韓国から帰米し、保護国化に反対する内容の韓国皇帝親書を11月中に米国務長官エリフ・ルートを通じて米大統領セオドア・ルーズベルトに届けた。
しかし日本側が既に根回しを済ませていた事もあり、11月25日付でルート長官から示された回答はよいものではなかった。*74
ハルバートはルートに直接会ったが、ルートは「Do you want us to get into trouble with Japan?（我々を日本との揉め事に巻き込みたいのか？）」と述べたという。*75
ルートの回答翌日、ハルバートは韓国皇帝からの電報を受け取ったが、そこには第二次日韓協約は無効であり認めないと記されていた。ハルバートはそれを米国務省で国務次官補に渡した。*76
パリにいた閔泳瓚駐仏韓国公使も渡米して12月11日にルート国務長官を訪ね、第二次日韓協約は「was procured from the Emperor of Korea by duress and should therefore be ignored（皇帝が強要されたもので無効となるべき）」と訴えたが、これも受け入れられなかった。*77
12月11日付米現地紙イヴニング・スターは閔泳瓚の国務省訪問を取り上げ、翌12日付ワシントン・ポスト紙は閔泳瓚とハルバートのワシントンにおける言動を記事にしている。また13日付イヴニング・スターは韓国皇帝からハルバートへの電報の内容を報じた。*78
13・14日のニューヨークタイムズ紙もハルバートを記事にして韓国側の主張を伝えている。*79
また1906年1月29日付で作成されたという韓国の国璽入り文書が、1907年1月16日付の大韓毎日申報に掲載された。*80。これも第二次日韓協約が無効であることを主張する内容で、ロンドンのトリビューン紙に掲載されたものの転載だという。*81
またハルバートは、1907年6月にも同内容の欧米各国宛皇帝親書(1906年6月22日付）を託されている。*82 ハルバートはシベリア鉄道経由でパリに到着し*83*84、そこから平和会議が行われているハーグへ向い*85、そして渡米したが、彼に親書を託した皇帝が退位させられて不首尾に終わったという。*86
そして一連の韓国皇帝高宗の抵抗の最後が、李儁・李相・李瑋鍾3人を皇帝特使として派遣した有名なハーグ密使事件だった。
日本側の喜びと韓国への再威嚇
５．研究者の評価
海野福寿、伊藤之雄
