ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。

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//
//
//[[&ref(https://image01.seesaawiki.jp/k/a/kagemiya/hdANuVJ7Ki-s.png)>https://image01.seesaawiki.jp/k/a/kagemiya/hdANuVJ7Ki.png]]
//''オデュッセウスに口説かれ困惑しながらも照れる我ちゃん''
//
//
//「やぁ! 君可愛いね? ボクに話って、ひょっとして愛の告白かな?
// それなら喜んでお受けしようじゃないか。名前を聞いても良いかい? 君の名前を心に刻みたくてね」
//「え、あ、へ……? えーっと、その。あ、ちょっと待」
//「やめなさい! 戸惑ってるでしょ馬鹿アーチャー!」
//
//招待状を手渡そうとしたら逆にナンパされた。何を言っているか分からんと思うが我も分からなかった。
//いま我の目の前には、オランダで巻き起こった聖杯を求める儀式──────聖杯戦争の参加者が1人、アーチャーとそのマスターがいる。
//事前には調べていたが、なるほど情報以上に浮ついた奴だ。マスターが止めなければどうなっていたことか。
//我が美貌をいち早く理解したことは褒めてやるが、残念だが我は貴様1人のものではなくみんなのものだ。
//おとなしく、この招待状だけを受け取ってくれまいか。
//
//おっと、初対面の貴様にはこいつらが誰か分からんか。いい機会だ、話してやる。
//こいつの名はオデュッセウス。かのトロイア戦争にて活躍したアカイアの大軍師……その境界記録帯。即ちサーヴァントだ。
//何? オデュッセウスは男、だと? それこそがこの世界が泥濘である所以だろうな。見ての通り、コイツは女だよ。女を口説き落とす奴ではあるが、生物学上の性別は女だ。
//お前の知っているオデュッセウスはライダー、か。その側面も"こいつ"にはある。同様に女だ。この泥濘の世界ではそれが普通なんだよ。
//……え? 宝具はロボに変形する木馬かって? 何それ? お前の知ってるオデュッセウスも大概、混沌としているな。
//
//「ごめんなさい。コイツ本当にいっつもこうなのよ。ほら、アーチャーも謝りなさい」
//「いやぁごめんね、困惑させちゃって。改めて用件を伺おうか。君の美しさなら、どんな用件だって聞いてあげられるよ?」
//「ふっ、随分とまぁ歯の浮つく言葉を並べ立てる。それでも妻に対しては一途な愛を貫く。それがお前と言う存在の在り方なのだな"アーチャー"」
//「ッ……! アーチャーを、知っている? まさか、聖杯戦争の参加者!?」
//
//っと、あまり喋りすぎるのは良くないな。逆に警戒されてしまった。
//一瞬にしてアーチャーとそのマスターが距離を置く。警戒心を怠らずすぐに反応できるのは優れた主従である証と言えるだろう。
//だが、こうされては目的である招待状を渡す事が出来ない。ひとまず、警戒を解くのが先決だと言えるか。
//
//「ふむ。そう警戒しないでほしい。確かに我はお前たちを知っている。
// だが、我らに敵意はないと、どうか信じてほしい。その証拠にほら、武器は何も持っていないし攻撃の意志はないぞ」
//「サーヴァントならその徒手の状態から平気で宝具を撃ち放せるものでしょう? だまし討ちの手には乗らないわ」
//
//ふむ。一筋縄ではいかないか。さすがは優秀な魔術師と言わざるを得ない。
//コイツの名は黒咲恵梨佳。魔術師の総本山、時計塔という学舎のエルメロイ教室に通う魔術師の1人だ。
//師であるエルメロイ2世のツテを頼りに聖杯戦争に参加したらしい。このエルメロイ2世と言う男も数奇な男でな。苦労と心労に絶えぬ男だ。
//奴の周りには彼女以外にも、大勢の聖杯に導かれた運命を持つ人間やそれに関わる人間が大勢いる。今はまだ先だが、いずれ奴の名を冠する教室にも向かうつもりだ。
//とはいえコイツにはここで招待状を渡しておきたい。次に教室に行くときにはこいつはいないからな。何? 意味が解らない? 今はわからずとも良い。
//ひとまず──────。招待状を地面に落とし、そのまま去るとしよう。殺されても問題はないが、敵意は薄れさせるに越したことはないゆえな。
//
//「おっと、落とし物だよ」
//「ちょっと! どこに行く気!?」
//「言っただろう? 我に敵意はないと。我が目的はその招待状をお前たち賓客に配る事だ」
//「招待状? ふむ。特に危険は感じないけど。いったいボクらをどこに招待してくれるのかな? 舞踏会と言った様子じゃないようだけど」
//「"新世界"、今はそうとしか言えぬな。今ここにある世界の全てを超越した素晴らしき世界が、その招待状の先に待っている……そうだぞ。我も詳しくは知らんがね」
//「おや、詳細も伝えずに淑女を小間使いに使うとは酷い主催者もいたものだ。そんな主催者なんか忘れちゃって、ボクらと共に行かないかい?
// 君のような美しい──────"女神のような"女性と一緒に戦えるのなら、ボクはいつも以上に頑張れそうなんだけどなぁ」
//「ちょっとアーチャー、何言って……」
//
//ほう、流石はトロイア戦争を終わらせた軍師と言ったところか。微笑みの裏に、我が只者ではないという確かな確信がある。
//このわずかな会話の中で我が正体に迫りつつある。我が中にある気配、あるいは言葉の節々に眠る真実を探ったと言うべきか。
//これ以上会話をするのはまずい。他の参加者らに招待状を渡したら、すぐにこの聖杯戦争を後にするとしよう。
//
//「あ、ちょ! 待ちなさい!!」
//「あらら、フラれちゃった。また会えるのを楽しみにしているよ!」
//「再開を望むなら招待状に書かれている通りにするがいい! 新世界でまた会おうではないか!!」
//
//と、格好つけて啖呵を叫びながら離脱したが、正直紙一重ではあったな。
//初っ端からこれとは先が思いやられる。いや、トップバッターにあの大軍師を選んだせいでもあるのだが。
//
//
//さて、次はこのオランダにおける聖杯戦争参加者に招待状を手渡した後、別の聖杯戦争へと向かう。
//ネバタ、日本、西部時代のアメリカ──────。あらゆる大地で聖杯戦争は起きた。それらを我らは渡り歩く。
//準備は良いな? 次はオデュッセウスのような失敗はしない。迅速に手渡して往くぞ。
//
//
//◆
//
//
//「あぁ? 招待状? こっちは熊に追われてんだよ! 暢気なものだな、ったく!」
//「おうおう、この程度で辟易していては身が持たんぞ? お前はこれから先、泥濘の世でこの何十倍もの不幸に見舞われ続けるのだからな」
//「何コイツ!? え、怖い! 悪徳占い師か何か!? 招待状とか要らねぇよとっとと帰ってくれ!」
//「そうはいかぬ。これを渡すのが我の使命故な」
//
//「招待状、ねぇ。こんなしょぼくれたおっさんにもくれるたぁ、気前がいいじゃねぇか」
//「誰にでも平等に招待される権利がある。新世界とはそういうものだ。争いも痛みもない理想郷がそこにある」
//「えぇ!? 争いが無いのはちょっと困るなぁ。僕としてはもっと戦いたいです!」
//「すがすがしいほどにケルトだな。聖杯戦争に相応しい少年だ」
//
//
//不幸に見舞われ続ける青年、ケルトの若き勇士を連れる探偵に続き、超感覚の呪いを背負った少女や若女将に招待状を渡してゆく。
//竜の少年──────はこの後の機会の方がよかろう。彼はまだ旅の途中だ。答えを見出したその時、我が向かうべき"聖杯大戦"で招待状を渡すべきであろうな。
//ん? ああ、貴様は気にしなくていい……と言っても、何も教えずに連れまわすというのも無粋なもの。ゆえ、少しは話してやろうか。
//
//今巡っているのは、この泥濘の世界に於ける中心に立った人物たちのもとだ。
//中心、と言っても様々な意味があるが、この世界に多かれ少なかれ影響を与えた人物、と言っても良いかな。
//まぁーようするに、だ。のちのち様々な人物に出会い、関わり、その果てにこの世界を混沌とさせていく要因たち、とでも言えばいいか。
//混沌とさせると言うと聞こえは悪いかもしれんが、後々の世界に様々な変化をもたらしたと言えば、彼らがどれだけ重要か分かるだろう?
//我の役目は、そういう連中を招待する事なのだ。
//
//さぁ、呆けている暇はないぞ。
//オランダでの参加者たちに招待状を配った。ならば次の聖杯戦争に向かうだけだ。
//次はネバタ、その次は日本──────連れまわして悪いが、忙しくなるぞ。さぁ、次の聖杯戦争へと向かおうか。
//
//◇
//
//「へぇ、俺に招待状だって。どういう理由で招くのか分からないんだけど」
//「何、理由はない。あえて理由を言うのならば、全人類が権利を持つゆえだ。新世界に向かい、救われる権利を」
//「こんな俺なんかが、救われる権利ね。面白そうじゃないか」
//
//「はぁ、招待状ですか。以前に旅館でお会いしましたか?」
//「いやそういう縁ではないのだ。ただ理由なく配っている。それはそれとして九重には行った事がある。実にいい食事だったぞ」
//「まぁありがとうございます。また是非いらしてください。腕によりを奮っておもてなし致します」
//「こちらの招待も、是非時間を作ってきてほしい。お前のもてなしに匹敵する世界をお見せしよう」
//
//「今さら勲章……って訳じゃあねぇよな。ま、貰えるものは貰っておくぜ。
// だがどこに招待しようって言うんだ? 新世界? 日本にそういう地名があると聞いたが」
//「そこではない。まぁ、日本の何処かではある、と思うよ。我も詳しくは知らんがね」
//
//
//ある程度ネバタの聖杯戦争参加者に招待状を配ったところで、我らは次の聖杯戦争へと巡った。
//この聖杯戦争はかの"悪魔の頭脳"、フォン・ノイマンが生み出した仮想空間内での聖杯戦争だ。じきに奴が目覚め、そして行動を開始するだろう。
//そうなる前に次の聖杯戦争に向かうのだが──────次に向かったその聖杯戦争は、少し厄介だった。
//
//
//「招待状だってぇ? 俺ぁもらえるもんならなんだって貰いやすが……。セイバーさんはどう思うんで?」
//「マスターがそれを受け取るというのならば、私は止めはしない。私にもくれる、というのはいささか想定外であったが」
//「お前は良い素質を持っているからな神秘殺し。なんというか、救いがいがある。神世界に来るべきだ」
//「? よくわからないが、マスターが貰うというのなら貰っておこう」
//
//「へぇ、あたしに招待状ね。招待される覚えないけど」
//「人生、えてしてそういう時もある。あるいは、貴様が覚えを忘れているだけかもしれんぞ?」
//「あ、もしかして昔ぶっ飛ばした輩の敵討ちか? やるならやるぜ? 今ここでなぁ!」
//「うーむちょっと血の気が多すぎるな。こういう奴は招待状渡さん方がいいかもしれん」
//
//
//次に我々が移動したのは日本における聖杯戦争だった。
//オランダ、ネバタ、そして日本。様々な国と地域で聖杯戦争は繰り返されてきた。聖杯戦争とは大規模な儀式ではあるが、この泥濘の世界では違う。
//幾度となく繰り返され、そしてその全てがドラマを生んだ。特にオランダでは数え切れぬほど繰り返された後、最古のファラオであるメネスの手により全てが無に帰った。
//あの我々が訪れた聖杯戦争がそれにあたる。あの後、メネスが降臨し彼らが結託して戦うのだ。その先は──────なに、案ずることはない。"いずれ出会う"さ。
//
//だが問題は其処じゃない。今この場にある。
//ここ日本の聖杯戦争は正直言って避けたかったが、招待状をあらゆる全てに配るという責務ゆえ避けずには通れなかったのだ。
//何故避けたかったか、だと? ネバタの聖杯戦争におけるノイマンと同じだよ。この聖杯戦争も、奴と同じように厄介な存在が中心にいる。
//特にここの中心にいる奴は余りにも目敏い。すぐにでも離れたいのだが、あと数組の参加者に招待状を投げねば──────。
//
//「人の庭で企み事とは、良い身分だな偽りの神」
//
//……噂をすればなんとやら、か。背後にすさまじいまでの魔力と殺意を感じる。
//ちらり、と背後にわずかに視線を向ければ、そこには身長が優に数mを超える巨漢が仁王立ちをしていた。
//奴の名こそ安倍晴明。千年という月日を生き続けている大陰陽師だ。肉体は朽ちることなく、魂も腐ることなく、世界を征服するなどと言う大望を抱き続けている。
//この聖杯戦争も、その野望を実現する一環として奴が作り出した儀式なのだが──────。流石に見逃してはくれぬか。これはオデュッセウス以上に厄介だぞ。
//見るに、我が霊基の真実にも気づき始めている。まぁ、真実に到達できたとしても保険はあるが……。
//
//「問おう。貴様の目的はなんだ」
//「その千里眼は飾りか? 招待状を配っていただけだが」
//「戯けが。見透かせぬと思っているとすればとんだ愚か者だ。その招待の先に何が待っているかを問うている」
//「話せぬ。知らん。存ぜぬ──────そうとしか言えぬとしたら?」
//「なれば死ぬ」
//
//カッ!! と閃光が稲光の如く迸ったと思うと、我が肉体は跡形もなく消し炭と化した。
//コイツ……手加減と言うものを知らんのか。天性の才ゆえか、あるいは生まれ持った勘か。どちらにせよ、我が存在を脅威と感じとったがゆえにこれほどまでの力を行使したのだろう。
//その認識は正しい。だが、これほどまでに早く気付ける人間が現れるとは思わなかった。ああいった輩には、我ではない別のルートで招待状を手渡す必要が出てくるな。
//
//「……フン。影ゆえに逃げるも容易いと来たか。どこかで見ているのだろう偽りの神。
// ──────フ、フハハハ!! フハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!! そうして余裕をこいているがいいわ!!!!!!!!!!!
// 貴様の霊基様式はすでに捉えた!!!!!!!! 我が千里眼を以て、貴様の本体を探り当ててやろう!!!!!! 首を洗って待っているがいい!!!!!!!!!
// この安倍晴明の手を、清廉なる儀式の場で穢させた罪、とくとその身に刻んでくれようぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
//
//ほう、まさかそこまで気づいているとは思わなんだ。我が本体がここにはおらず、あくまで影を飛ばし招待状をばらまいていることまで気づくとは。
//さすがは稀代の陰陽師。冠位に匹敵する魔術師が今なお生き続け研鑽を続けた存在なだけはある。けたたましい笑い声も、その自信の表れというわけか。
//
//? どうした。何故普通に会話できているのか、だと? 言った通りだ。我はここにはいない。故に死ぬことはない。
//だが困ったな。奴に見つかったとなればもうこの聖杯戦争では招待状を配る事が出来ない。この場は我以外の手段を使って招待状を届けるとしよう。
//なに、心配するな。我の影などいくらでも蘇らせられる。ついてこい。次の招待状を届ける地へと向かうぞ。
//
//
//……とは言っても、少し考え無しに配りすぎたきらいがあるな。
//直接出会って手渡すのが礼儀ではあるものの、オデュッセウスだの晴明だの化物揃いの中に幾度も飛び込むのは浅慮が過ぎるというものか。
//つぎからは少し、渡し方を工夫するとしようか。ちょうど1つ、別手段を試すに良き聖杯戦争──────否、聖杯大戦の場がある。
//その混乱に乗じて、招待状を配るとしようか。
//
//
//◆
//
//
//『はっはっはぁー! 鼠1匹入れないと言ったねキルケー!
// たっぷり連れて来てやったさ! 1匹と言わず千匹も1万匹でもねー!』
//『ったく! まさか数千単位の鼠を運ぶことになるたぁ思いませんでしたよ!』
//『お代は勝利出来たらいくらでも払うよ! ってなわけで、全軍進めー!!』
//
//イギリス、セント・キルダ島。ここでは今まさに、7基同士の英霊らがぶつかり合う大規模な聖杯戦争……"聖杯大戦"が最盛を迎えようとしていた。
//ここはキルケーという英霊が引き起こした聖杯大戦でな、以前も出会ったオデュッセウスを覚えているか? アイツの関係者だ。知っているか、それは重畳だ。
//あの聖杯戦争において、オデュッセウスは聖杯を獲得した。だが、その聖杯を通じて降臨したのがかの鷹の魔女、キルケーである。
//何でそうなったか? さすがの我もそこまでは知らんよ。
//
//兎角、キルケーと言えば敗北者の代名詞……というのは言い過ぎかもしれんが、オデュッセウスに対し思うところがあったのだろう。
//奴は英霊を7基引き連れ宣戦布告をした。当然時計塔としてもこれは看過できないと、オデュッセウス陣営を始めとした7つの陣営を招集して迎え撃とうとした、というわけだな。
//オデュッセウスのマスターがエルメロイ教室の一員だったのもあって、メンバーはすぐに集まったそうだ。
//そして今が、その決戦の火ぶたが切って落とされたタイミングだったようだな。
//
//見ろ。島中に魔力のデコイを積み込んだ鼠共がばらまかれあちこちに疾走している。
//参加者の1人、東山という運び屋の魔術を使った攪乱、と言ったところか。おかげでキルケー側もてんやわんやだ。
//この混乱に乗じれば我が直接出向いても招待状は渡し放題……なのだが、生憎このイギリス聖杯大戦には安倍晴明もオデュッセウス陣営にいてな。
//なのでこうして、我が直接出向かずに搦め手で招待状を渡そう、というわけなのだ。
//ほら見ろ。島に乗り込んだオデュッセウス陣営の主従が1組疾走しているぞ。
//奴らにまず、我が直接手を介さずに招待状を渡して見せようか。
//
//「セイバー、ここまで一緒に戦ってくれて、ありがとう」
//「何を言うのです、マスター。私がここまで来れた事自体が、マスターの力があったからです。
// どれだけ感謝してもしきれません。だから──────これからも、共に戦わせてください」
//「うん、そうだったね。まだ戦いは終わってないのに、変なこと言っちゃったね」
//
//純白という言葉の具現とすら言えるほどに白き少年と、紫の鎧を纏う女騎士が言葉を交わす。
//女騎士の真名をランスロットと呼ぶ。史実においては男性だが、この泥濘の世界に於いては女性のようだな。
//先のオランダの戦争においても、かの白き少年──────柏木星司の手によって召喚された円卓の騎士だ。
//あの時彼らに招待状を渡さなかったのは、この時に手渡すためなのだな。そら、始まったぞ。
//
//「ん? 鼠たちの様子が……」
//「規則的な動きを始めていますね。これは、私たちを導いているのでしょうか」
//「ちょっと行ってみようか。何かあったのかもしれない」
//
//不規則かつ縦横無尽に乱舞する鼠たちにちょいと細工をし、規則的な誘導陣形を描いてやった。
//人間レベルになるとこんなことは出来んが、鼠が陽動に使われていたことが幸いした。これで奴らをポイントに誘導できる。
//そして彼らが数分ほど走ると、いつも我らが配っていた招待状が2枚落ちていた、という訳だ。招待状だけあの世界に移動させておいた、という仕組みなのだな。
//
//「なんだろうこれ。手紙?」
//「招待状のようですね。……貴方の人生に今まであった、全ての不幸を否定する新世界、とあります」
//「ふぅん。──────。確かに、散々だったと言われれば否定しきれないかも」
//
//少し考え込むような沈黙の後、柏木星司はうなずいた。
//この男は白き竜の因子を宿していてな。それが理由で様々な事情を抱えて来た。ランスロットのほうは言うまでもないだろう。
//そう言った連中故に気を遣った文面だったのだが……少し余計だっただろうか。
//
//僕の人生は、親戚に追われたり、責められたり、散々だったと言われれば、頷くべきなのかもしれない」
//「……………………マスター」
//「でも、そればっかりだったとは言わない。
// だって、セイバーと会えたから」
// 
//招待状を握りしめながら、少年は我の目を真っ直ぐに見据え告げた。
//……なるほど。これは少し、口説き文句を間違えたようだ。そうだったな。こいつはこういう強さを持つ人間だった。
//ならば、こう言うべきだったか。全てが終わったその時、セイバーと共に来るがいいと。後程、この聖杯大戦が終わり次第出し直すとしよう。
//
//っと、こ奴らばかりにかかずらってばかりではいられん。
//奴以外の連中のもとにも、偶然を装って招待状を配るとしよう。
//この聖杯大戦は泥濘の中心に立つ連中──────"泥濘の血筋"に関係する連中が揃っているんだからな。
//
//◇
//
//「ん、なんだろこれ。招待状、かな?
// あて名は……カニーンヒェンって私じゃん」
//
//ロンドンの端。ルーラーとして顕現した失地王と別れを告げた少女、ザイシャが招待状を手に取った。
//タイプ・エクストラ。あるいは不滅なる雪仔。"人でなし"の願いを文字通りの一身に受けて産み落とされた存在。
//奴が偶然とはいえこの聖杯大戦に関わっていたのは運がよかったよ本当に。
//
//「んー、怪しい物じゃなさそうだし、貰っておくか。
// 結構おいしそうな魔力込められてるけど……落ちてるものは食べるべきじゃないよね。
// でも非常食としては、うん、良いよね」
//
//なんか凄い物騒なこと言ってるが、まぁ拾ってもらっただけよしとするか。
//こういうのを防ぐためにも直接出向きたいんだが……晴明がなぁ。
//
//◇
//
//「うっ……ひっぐ、えぐ! スキュラぁ……!
// ……ん? なんだごれ……? 招、待状? あ、私にだ……」
//
//涙と鼻水交じりの顔をぬぐいながら、オルフィリア・プライムストーンが机の上にいつの間にか置いてあった招待状を手に取った。
//彼女は落ちこぼれである自分を変えようとこの聖杯大戦に参加こそしたが、それ故にサーヴァントを失い傷心の状態にあるのが今となる。
//こういう精神状態の者にこそ、招待状を渡していきたいと思っている。何故なら新世界には全ての苦痛が存在しないのだから。
//
//「んだよ……新世界に行けば、あいつと会えるかって言うんだよ…!」
//
//思わず姿を出現させ、そうだと肯定したいところだったがぐっとこらえた。
//だが、さて。これによりストーンと弦糸と紋章院に関わる3人に招待状を渡せた、か。
//ひとまずは1つの課題をクリアしたというところだな。
//
//……ん? 何を言っているか分からん、か。
//そうだな。何もわからんであろうお前の為に、休みつつ説明をしてやろう。
//次にどこへ招待状を渡しに行くかも含め、一段落ついたついでの休憩を取りに行こうじゃないか。
//例えば──────なんてことはないカフェ、とかにな。
//
//え? なんでこんなに好き勝手世界を移動できるか、だと?
//んー、そうだな。あんまり喋りたくないんだが、貴様は付き合ってくれているし、少し話してやるか。
//とは言っても、簡単だよ。我がいない世界など存在しないから、だよ。
//
//
//"神"という概念が存在しない世界など、存在しないだろう?
//神が語られる世界ならば、我は何処にでも存在できる。
//それを応用して、招待状を配り続けているというだけさ。
//
//
//[[Next→>Invitation_3『連なり、結束する魔術師たち』]]
//
//
//◆  ◇  ◆
//
//
//
//■Tips.[[阿蘭陀聖杯戦争>聖杯戦争の記録]]
//kagemiya@ふたばにおいて、初めて開催された聖杯戦争。
//地名は避難所の名がオランダだったことに由来。TRPG以外にも何度かメンバーが入れ替わり開催された。
//現在主流として扱われるのは、アーチャーが3基召喚されたという偏りが大きいオランダ聖杯戦争。繁華街を熊が食い散らかしたりなど発生した。
//オランダ避難所がそもそも崩壊した事で有耶無耶になりそうになるも、最終的にはネバタ避難所に移り、大ボスであるネメスを参加者全員でレイドバトルした事でエンディングを迎えた。
//この際、参加者の1人であるオデュッセウスが聖杯にある願いをかけた事が後々の大事件に繋がる。
//
//■Tips.[[ネバタ聖杯戦争>聖杯戦争の記録]]
//オランダ避難所が崩壊した後、ネバタ避難所に移った事で発生した聖杯戦争。
//こちらもクトゥルーが出て来たりツァーリボンバーが爆発をしたりと尋常じゃない被害をもたらした。
//が、そもそもがノイマンの作り出した仮想世界だと分かり、その黒幕を2陣営が協力し倒した後に2陣営が決闘。
//最終的に旅館「九重」女将、東雲志津乃とそのサーヴァント戦艦大和が勝利を手にした。
//この聖杯戦争から、泥を動かす場としてTRPGがメインストリームとなっていく。
//
//■Tips.[[第三次泥聖杯戦争>聖杯戦争の記録]]
//開催の場をTRPGオンラインセッション専用のサイト、どどんとふに移してからの記念すべき第一回。
//日本のとある場所で開催された聖杯戦争だが、その正体は千年を生きし大陰陽師、安倍晴明が世界征服の足掛かりとすべく聖杯を起動するための儀式だった。
//が、生前からの因縁のある源頼光と晴明の対峙、吸収した影の三基の反乱による弱体化、項羽が晴明のステータスの高さを逆利用した超狂化など最終決戦は大きく盛り上がる。
//最終的に死徒ヨハンとそのサーヴァントであるスカサハ【オルタ】が安倍晴明の野望を穿ち、聖杯を獲得した勝者となった。
//この後も何度か安倍晴明は泥における重要局面で顔を出す存在となる。
//
//■Tips.[[英吉利聖杯大戦>合同企画]]
//オランダにて聖杯を獲得したオデュッセウスの願いにより、何故かやって来たキルケーが引き起こした一大イベント。
//セント・キルダ島を乗っ取って要塞化したキルケーが7基のサーヴァントを召喚し宣戦布告。時計塔は対抗策としてオデュッセウスを含めた7基のサーヴァントで対抗。
//いわゆる聖杯大戦が幕を開ける結果となった。オランダ聖杯戦争の参加者である柏木星司とランスロットの主従を中心に物語が展開された、今でいう企画もののはしりである。
//オランダから第三次聖杯戦争までのキャラクターが勢ぞろいするお祭り的な企画でもあり、毎週金曜日に会議が開催される当時の泥の主流企画でもあった。
//

[[&ref(https://image01.seesaawiki.jp/k/a/kagemiya/hdANuVJ7Ki-s.png)>https://image01.seesaawiki.jp/k/a/kagemiya/hdANuVJ7Ki.png]]
''オデュッセウスに口説かれ困惑しながらも照れる我ちゃん''


「やぁ! 君可愛いね? ボクに話って、ひょっとして愛の告白かな?
 それなら喜んでお受けしようじゃないか。名前を聞いても良いかい? 君の名前を心に刻みたくてね」
「え、あ、へ……? えーっと、その。あ、ちょっと待」
「やめなさい! 戸惑ってるでしょ馬鹿アーチャー!」

招待状を手渡そうとしたら逆にナンパされた。何を言っているか分からんと思うが我も分からなかった。
いま我の目の前には、オランダで巻き起こった聖杯を求める儀式──────聖杯戦争の参加者が1人、アーチャーとそのマスターがいる。
事前には調べていたが、なるほど情報以上に浮ついた奴だ。マスターが止めなければどうなっていたことか。
我が美貌をいち早く理解したことは褒めてやるが、残念だが我は貴様1人のものではなくみんなのものだ。
おとなしく、この招待状だけを受け取ってくれまいか。

おっと、初対面の貴様にはこいつらが誰か分からんか。いい機会だ、話してやる。
こいつの名はオデュッセウス。かのトロイア戦争にて活躍したアカイアの大軍師……その境界記録帯。即ちサーヴァントだ。
何? オデュッセウスは男、だと? それこそがこの世界が泥濘である所以だろうな。見ての通り、コイツは女だよ。女を口説き落とす奴ではあるが、生物学上の性別は女だ。
お前の知っているオデュッセウスはライダー、か。その側面も"こいつ"にはある。同様に女だ。この泥濘の世界ではそれが普通なんだよ。
……え? 宝具はロボに変形する木馬かって? 何それ? お前の知ってるオデュッセウスも大概、混沌としているな。

「ごめんなさい。コイツ本当にいっつもこうなのよ。ほら、アーチャーも謝りなさい」
「いやぁごめんね、困惑させちゃって。改めて用件を伺おうか。君の美しさなら、どんな用件だって聞いてあげられるよ?」
「ふっ、随分とまぁ歯の浮つく言葉を並べ立てる。それでも妻に対しては一途な愛を貫く。それがお前と言う存在の在り方なのだな"アーチャー"」
「ッ……! アーチャーを、知っている? まさか、聖杯戦争の参加者!?」

っと、あまり喋りすぎるのは良くないな。逆に警戒されてしまった。
一瞬にしてアーチャーとそのマスターが距離を置く。警戒心を怠らずすぐに反応できるのは優れた主従である証と言えるだろう。
だが、こうされては目的である招待状を渡す事が出来ない。ひとまず、警戒を解くのが先決だと言えるか。

「ふむ。そう警戒しないでほしい。確かに我はお前たちを知っている。
 だが、我らに敵意はないと、どうか信じてほしい。その証拠にほら、武器は何も持っていないし攻撃の意志はないぞ」
「サーヴァントならその徒手の状態から平気で宝具を撃ち放せるものでしょう? だまし討ちの手には乗らないわ」

ふむ。一枚岩ではいかないか。さすがは優秀な魔術師と言わざるを得ない。
コイツの名は黒咲恵梨佳。魔術師の総本山、時計塔という学舎のエルメロイ教室に通う魔術師の1人だ。
師であるエルメロイ2世のツテを頼りに聖杯戦争に参加したらしい。このエルメロイ2世と言う男も数奇な男でな。苦労と心労に絶えぬ男だ。
奴の周りには彼女以外にも、大勢の聖杯に導かれた運命を持つ人間やそれに関わる人間が大勢いる。今はまだ先だが、いずれ奴の名を冠する教室にも向かうつもりだ。
とはいえコイツにはここで招待状を渡しておきたい。次に教室に行くときにはこいつはいないからな。何? 意味が解らない? 今はわからずとも良い。
ひとまず──────。招待状を地面に落とし、そのまま去るとしよう。殺されても問題はないが、敵意は薄れさせるに越したことはないゆえな。

「おっと、落とし物だよ」
「ちょっと! どこに行く気!?」
「言っただろう? 我に敵意はないと。我が目的はその招待状をお前たち賓客に配る事だ」
「招待状? ふむ。特に危険は感じないけど。いったいボクらをどこに招待してくれるのかな? 舞踏会と言った様子じゃないようだけど」
「"新世界"、今はそうとしか言えぬな。今ここにある世界の全てを超越した素晴らしき世界が、その招待状の先に待っている……そうだぞ。我も詳しくは知らんがね」
「おや、詳細も伝えずに淑女を小間使いに使うとは酷い主催者もいたものだ。そんな主催者なんか忘れちゃって、ボクらと共に行かないかい?
 君のような美しい──────"女神のような"女性と一緒に戦えるのなら、ボクはいつも以上に頑張れそうなんだけどなぁ」
「ちょっとアーチャー、何言って……」

ほう、流石はトロイア戦争を終わらせた軍師と言ったところか。微笑みの裏に、我が只者ではないという確かな確信がある。
このわずかな会話の中で我が正体に迫りつつある。我が中にある気配、あるいは言葉の節々に眠る真実を探ったと言うべきか。
これ以上会話をするのはまずい。他の参加者らに招待状を渡したら、すぐにこの聖杯戦争を後にするとしよう。

「あ、ちょ! 待ちなさい!!」
「あらら、フラれちゃった。また会えるのを楽しみにしているよ!」
「再開を望むなら招待状に書かれている通りにするがいい! 新世界でまた会おうではないか!!」

と、格好つけて啖呵を叫びながら離脱したが、正直紙一重ではあったな。
初っ端からこれとは先が思いやられる。いや、トップバッターにあの大軍師を選んだせいでもあるのだが。


さて、次はこのオランダにおける聖杯戦争参加者に招待状を手渡した後、別の聖杯戦争へと向かう。
ネバタ、日本、西部時代のアメリカ──────。あらゆる大地で聖杯戦争は起きた。それらを我らは渡り歩く。
準備は良いな? 次はオデュッセウスのような失敗はしない。迅速に手渡して往くぞ。





「あぁ? 招待状? こっちは熊に追われてんだよ! 暢気なものだな、ったく!」
「おうおう、この程度で辟易していては身が持たんぞ? お前はこれから先、泥濘の世でこの何十倍もの不幸に見舞われ続けるのだからな」
「何コイツ!? え、怖い! 悪徳占い師か何か!? 招待状とか要らねぇよとっとと帰ってくれ!」
「そうはいかぬ。これを渡すのが我の使命故な」

「招待状、ねぇ。こんなしょぼくれたおっさんにもくれるたぁ、気前がいいじゃねぇか」
「誰にでも平等に招待される権利がある。新世界とはそういうものだ。争いも痛みもない理想郷がそこにある」
「えぇ!? 争いが無いのはちょっと困るなぁ。僕としてはもっと戦いたいです!」
「すがすがしいほどにケルトだな。聖杯戦争に相応しい少年だ」


不幸に見舞われ続ける青年、ケルトの若き勇士を連れる探偵に続き、超感覚の呪いを背負った少女や若女将に招待状を渡してゆく。
竜の少年──────はこの後の機会の方がよかろう。彼はまだ旅の途中だ。答えを見出したその時、我が向かうべき"聖杯大戦"で招待状を渡すべきであろうな。
ん? ああ、貴様は気にしなくていい……と言っても、何も教えずに連れまわすというのも無粋なもの。ゆえ、少しは話してやろうか。

今巡っているのは、この泥濘の世界に於ける中心に立った人物たちのもとだ。
中心、と言っても様々な意味があるが、この世界に多かれ少なかれ影響を与えた人物、と言っても良いかな。
まぁーようするに、だ。のちのち様々な人物に出会い、関わり、その果てにこの世界を混沌とさせていく要因たち、とでも言えばいいか。
混沌とさせると言うと聞こえは悪いかもしれんが、後々の世界に様々な変化をもたらしたと言えば、彼らがどれだけ重要か分かるだろう?
我の役目は、そういう連中を招待する事なのだ。

さぁ、呆けている暇はないぞ。
オランダでの参加者たちに招待状を配った。ならば次の聖杯戦争に向かうだけだ。
次はネバタ、その次は日本──────連れまわして悪いが、忙しくなるぞ。さぁ、次の聖杯戦争へと向かおうか。



「へぇ、俺に招待状だって。どういう理由で招くのか分からないんだけど」
「何、理由はない。あえて理由を言うのならば、全人類が権利を持つゆえだ。新世界に向かい、救われる権利を」
「こんな俺なんかが、救われる権利ね。面白そうじゃないか」

「はぁ、招待状ですか。以前に旅館でお会いしましたか?」
「いやそういう縁ではないのだ。ただ理由なく配っている。それはそれとして九重には行った事がある。実にいい食事だったぞ」
「まぁありがとうございます。また是非いらしてください。腕によりを奮っておもてなし致します」
「こちらの招待も、是非時間を作ってきてほしい。お前のもてなしに匹敵する世界をお見せしよう」

「今さら勲章……って訳じゃあねぇよな。ま、貰えるものは貰っておくぜ。
 だがどこに招待しようって言うんだ? 新世界? 日本にそういう地名があると聞いたが」
「そこではない。まぁ、日本の何処かではある、と思うよ。我も詳しくは知らんがね」


ある程度ネバタの聖杯戦争参加者に招待状を配ったところで、我らは次の聖杯戦争へと巡った。
この聖杯戦争はかの"悪魔の頭脳"、フォン・ノイマンが生み出した仮想空間内での聖杯戦争だ。じきに奴が目覚め、そして行動を開始するだろう。
そうなる前に次の聖杯戦争に向かうのだが──────次に向かったその聖杯戦争は、少し厄介だった。


「招待状だってぇ? 俺ぁもらえるもんならなんだって貰いやすが……。セイバーさんはどう思うんで?」
「マスターがそれを受け取るというのならば、私は止めはしない。私にもくれる、というのはいささか想定外であったが」
「お前は良い素質を持っているからな神秘殺し。なんというか、救いがいがある。神世界に来るべきだ」
「? よくわからないが、マスターが貰うというのなら貰っておこう」

「へぇ、あたしに招待状ね。招待される覚えないけど」
「人生、えてしてそういう時もある。あるいは、貴様が覚えを忘れているだけかもしれんぞ?」
「あ、もしかして昔ぶっ飛ばした輩の敵討ちか? やるならやるぜ? 今ここでなぁ!」
「うーむちょっと血の気が多すぎるな。こういう奴は招待状渡さん方がいいかもしれん」


次に我々が移動したのは日本における聖杯戦争だった。
オランダ、ネバタ、そして日本。様々な国と地域で聖杯戦争は繰り返されてきた。聖杯戦争とは大規模な儀式ではあるが、この泥濘の世界では違う。
幾度となく繰り返され、そしてその全てがドラマを生んだ。特にオランダでは数え切れぬほど繰り返された後、最古のファラオであるメネスの手により全てが無に帰った。
あの我々が訪れた聖杯戦争がそれにあたる。あの後、メネスが降臨し彼らが結託して戦うのだ。その先は──────なに、案ずることはない。"いずれ出会う"さ。

だが問題は其処じゃない。今この場にある。
ここ日本の聖杯戦争は正直言って避けたかったが、招待状をあらゆる全てに配るという責務ゆえ避けずには通れなかったのだ。
何故避けたかったか、だと? ネバタの聖杯戦争におけるノイマンと同じだよ。この聖杯戦争も、奴と同じように厄介な存在が中心にいる。
特にここの中心にいる奴は余りにも目敏い。すぐにでも離れたいのだが、あと数組の参加者に招待状を投げねば──────。

「人の庭で企み事とは、良い身分だな偽りの神」

……噂をすればなんとやら、か。背後にすさまじいまでの魔力と殺意を感じる。
ちらり、と背後にわずかに視線を向ければ、そこには身長が優に数mを超える巨漢が仁王立ちをしていた。
奴の名こそ安倍晴明。千年という月日を生き続けている大陰陽師だ。肉体は朽ちることなく、魂も腐ることなく、世界を征服するなどと言う大望を抱き続けている。
この聖杯戦争も、その野望を実現する一環として奴が作り出した儀式なのだが──────。流石に見逃してはくれぬか。これはオデュッセウス以上に厄介だぞ。
見るに、我が霊基の真実にも気づき始めている。まぁ、真実に到達できたとしても保険はあるが……。

「問おう。貴様の目的はなんだ」
「その千里眼は飾りか? 招待状を配っていただけだが」
「戯けが。見透かせぬと思っているとすればとんだ愚か者だ。その招待の先に何が待っているかを問うている」
「話せぬ。知らん。存ぜぬ──────そうとしか言えぬとしたら?」
「なれば死ぬ」

カッ!! と閃光が稲光の如く迸ったと思うと、我が肉体は跡形もなく消し炭と化した。
コイツ……手加減と言うものを知らんのか。天性の才ゆえか、あるいは生まれ持った勘か。どちらにせよ、我が存在を脅威と感じとったがゆえにこれほどまでの力を行使したのだろう。
その認識は正しい。だが、これほどまでに早く気付ける人間が現れるとは思わなかった。ああいった輩には、我ではない別のルートで招待状を手渡す必要が出てくるな。

「……フン。影ゆえに逃げるも容易いと来たか。どこかで見ているのだろう偽りの神。
 ──────フ、フハハハ!! フハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!! そうして余裕をこいているがいいわ!!!!!!!!!!!
 貴様の霊基様式はすでに捉えた!!!!!!!! 我が千里眼を以て、貴様の本体を探り当ててやろう!!!!!! 首を洗って待っているがいい!!!!!!!!!
 この安倍晴明の手を、清廉なる儀式の場で穢させた罪、とくとその身に刻んでくれようぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

ほう、まさかそこまで気づいているとは思わなんだ。我が本体がここにはおらず、あくまで影を飛ばし招待状をばらまいていることまで気づくとは。
さすがは稀代の陰陽師。冠位に匹敵する魔術師が今なお生き続け研鑽を続けた存在なだけはある。けたたましい笑い声も、その自信の表れというわけか。

? どうした。何故普通に会話できているのか、だと? 言った通りだ。我はここにはいない。故に死ぬことはない。
だが困ったな。奴に見つかったとなればもうこの聖杯戦争では招待状を配る事が出来ない。この場は我以外の手段を使って招待状を届けるとしよう。
なに、心配するな。我の影などいくらでも蘇らせられる。ついてこい。次の招待状を届ける地へと向かうぞ。


……とは言っても、少し考え無しに配りすぎたきらいがあるな。
直接出会って手渡すのが礼儀ではあるものの、オデュッセウスだの晴明だの化物揃いの中に幾度も飛び込むのは浅慮が過ぎるというものか。
つぎからは少し、渡し方を工夫するとしようか。ちょうど1つ、別手段を試すに良き聖杯戦争──────否、聖杯大戦の場がある。
その混乱に乗じて、招待状を配るとしようか。





『はっはっはぁー! 鼠1匹入れないと言ったねキルケー!
 たっぷり連れて来てやったさ! 1匹と言わず千匹も1万匹でもねー!』
『ったく! まさか数千単位の鼠を運ぶことになるたぁ思いませんでしたよ!』
『お代は勝利出来たらいくらでも払うよ! ってなわけで、全軍進めー!!』

イギリス、セント・キルダ島。ここでは今まさに、7基同士の英霊らがぶつかり合う大規模な聖杯戦争……"聖杯大戦"が最盛を迎えようとしていた。
ここはキルケーという英霊が引き起こした聖杯大戦でな、以前も出会ったオデュッセウスを覚えているか? アイツの関係者だ。知っているか、それは重畳だ。
あの聖杯戦争において、オデュッセウスは聖杯を獲得した。だが、その聖杯を通じて降臨したのがかの鷹の魔女、キルケーである。
何でそうなったか? さすがの我もそこまでは知らんよ。

兎角、キルケーと言えば敗北者の代名詞……というのは言い過ぎかもしれんが、オデュッセウスに対し思うところがあったのだろう。
奴は英霊を7基引き連れ宣戦布告をした。当然時計塔としてもこれは看過できないと、オデュッセウス陣営を始めとした7つの陣営を招集して迎え撃とうとした、というわけだな。
オデュッセウスのマスターがエルメロイ教室の一員だったのもあって、メンバーはすぐに集まったそうだ。
そして今が、その決戦の火ぶたが切って落とされたタイミングだったようだな。

見ろ。島中に魔力のデコイを積み込んだ鼠共がばらまかれあちこちに疾走している。
参加者の1人、東山という運び屋の魔術を使った攪乱、と言ったところか。おかげでキルケー側もてんやわんやだ。
この混乱に乗じれば我が直接出向いても招待状は渡し放題……なのだが、生憎このイギリス聖杯大戦には安倍晴明もオデュッセウス陣営にいてな。
なのでこうして、我が直接出向かずに搦め手で招待状を渡そう、というわけなのだ。
ほら見ろ。島に乗り込んだオデュッセウス陣営の主従が1組疾走しているぞ。
奴らにまず、我が直接手を介さずに招待状を渡して見せようか。

「セイバー、ここまで一緒に戦ってくれて、ありがとう」
「何を言うのです、マスター。私がここまで来れた事自体が、マスターの力があったからです。
 どれだけ感謝してもしきれません。だから──────これからも、共に戦わせてください」
「うん、そうだったね。まだ戦いは終わってないのに、変なこと言っちゃったね」

純白という言葉の具現とすら言えるほどに白き少年と、紫の鎧を纏う女騎士が言葉を交わす。
女騎士の真名をランスロットと呼ぶ。史実においては男性だが、この泥濘の世界に於いては女性のようだな。
先のオランダの戦争においても、かの白き少年──────柏木星司の手によって召喚された円卓の騎士だ。
あの時彼らに招待状を渡さなかったのは、この時に手渡すためなのだな。そら、始まったぞ。

「ん? 鼠たちの様子が……」
「規則的な動きを始めていますね。これは、私たちを導いているのでしょうか」
「ちょっと行ってみようか。何かあったのかもしれない」

不規則かつ縦横無尽に乱舞する鼠たちにちょいと細工をし、規則的な誘導陣形を描いてやった。
人間レベルになるとこんなことは出来んが、鼠が陽動に使われていたことが幸いした。これで奴らをポイントに誘導できる。
そして彼らが数分ほど走ると、いつも我らが配っていた招待状が2枚落ちていた、という訳だ。招待状だけあの世界に移動させておいた、という仕組みなのだな。

「なんだろうこれ。手紙?」
「招待状のようですね。……貴方の人生に今まであった、全ての不幸を否定する新世界、とあります」
「ふぅん。──────。確かに、散々だったと言われれば否定しきれないかも」

少し考え込むような沈黙の後、柏木星司はうなずいた。
この男は白き竜の因子を宿していてな。それが理由で様々な事情を抱えて来た。ランスロットのほうは言うまでもないだろう。
そう言った連中故に気を遣った文面だったのだが……少し余計だっただろうか。

僕の人生は、親戚に追われたり、責められたり、散々だったと言われれば、頷くべきなのかもしれない」
「……………………マスター」
「でも、そればっかりだったとは言わない。
 だって、セイバーと会えたから」
 
招待状を握りしめながら、少年は我の目を真っ直ぐに見据え告げた。
……なるほど。これは少し、口説き文句を間違えたようだ。そうだったな。こいつはこういう強さを持つ人間だった。
ならば、こう言うべきだったか。全てが終わったその時、セイバーと共に来るがいいと。後程、この聖杯大戦が終わり次第出し直すとしよう。

っと、こ奴らばかりにかかずらってばかりではいられん。
奴以外の連中のもとにも、偶然を装って招待状を配るとしよう。
この聖杯大戦は泥濘の中心に立つ連中──────"泥濘の血筋"に関係する連中が揃っているんだからな。



「ん、なんだろこれ。招待状、かな?
 あて名は……カニーンヒェンって私じゃん」

ロンドンの端。ルーラーとして顕現した失地王と別れを告げた少女、ザイシャが招待状を手に取った。
タイプ・エクストラ。あるいは不滅なる雪仔。"人でなし"の願いを文字通りの一身に受けて産み落とされた存在。
奴が偶然とはいえこの聖杯大戦に関わっていたのは運がよかったよ本当に。

「んー、怪しい物じゃなさそうだし、貰っておくか。
 結構おいしそうな魔力込められてるけど……落ちてるものは食べるべきじゃないよね。
 でも非常食としては、うん、良いよね」

なんか凄い物騒なこと言ってるが、まぁ拾ってもらっただけよしとするか。
こういうのを防ぐためにも直接出向きたいんだが……晴明がなぁ。



「うっ……ひっぐ、えぐ! スキュラぁ……!
 ……ん? なんだごれ……? 招、待状? あ、私にだ……」

涙と鼻水交じりの顔をぬぐいながら、オルフィリア・プライムストーンが机の上にいつの間にか置いてあった招待状を手に取った。
彼女は落ちこぼれである自分を変えようとこの聖杯大戦に参加こそしたが、それ故にサーヴァントを失い傷心の状態にあるのが今となる。
こういう精神状態の者にこそ、招待状を渡していきたいと思っている。何故なら新世界には全ての苦痛が存在しないのだから。

「んだよ……新世界に行けば、あいつと会えるかって言うんだよ…!」

思わず姿を出現させ、そうだと肯定したいところだったがぐっとこらえた。
だが、さて。これによりストーンと弦糸と紋章院に関わる3人に招待状を渡せた、か。
ひとまずは1つの課題をクリアしたというところだな。

……ん? 何を言っているか分からん、か。
そうだな。何もわからんであろうお前の為に、休みつつ説明をしてやろう。
次にどこへ招待状を渡しに行くかも含め、一段落ついたついでの休憩を取りに行こうじゃないか。
例えば──────なんてことはないカフェ、とかにな。

え? なんでこんなに好き勝手世界を移動できるか、だと?
んー、そうだな。あんまり喋りたくないんだが、貴様は付き合ってくれているし、少し話してやるか。
とは言っても、簡単だよ。我がいない世界など存在しないから、だよ。


"神"という概念が存在しない世界など、存在しないだろう?
神が語られる世界ならば、我は何処にでも存在できる。
それを応用して、招待状を配り続けているというだけさ。


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◆  ◇  ◆



■Tips.[[阿蘭陀聖杯戦争>聖杯戦争の記録]]
kagemiya@ふたばにおいて、初めて開催された聖杯戦争。
地名は避難所の名がオランダだったことに由来。TRPG以外にも何度かメンバーが入れ替わり開催された。
現在主流として扱われるのは、アーチャーが3基召喚されたという偏りが大きいオランダ聖杯戦争。繁華街を熊が食い散らかしたりなど発生した。
オランダ避難所がそもそも崩壊した事で有耶無耶になりそうになるも、最終的にはネバタ避難所に移り、大ボスであるネメスを参加者全員でレイドバトルした事でエンディングを迎えた。
この際、参加者の1人であるオデュッセウスが聖杯にある願いをかけた事が後々の大事件に繋がる。

■Tips.[[ネバタ聖杯戦争>聖杯戦争の記録]]
オランダ避難所が崩壊した後、ネバタ避難所に移った事で発生した聖杯戦争。
こちらもクトゥルーが出て来たりツァーリボンバーが爆発をしたりと尋常じゃない被害をもたらした。
が、そもそもがノイマンの作り出した仮想世界だと分かり、その黒幕を2陣営が協力し倒した後に2陣営が決闘。
最終的に旅館「九重」女将、東雲志津乃とそのサーヴァント戦艦大和が勝利を手にした。
この聖杯戦争から、泥を動かす場としてTRPGがメインストリームとなっていく。

■Tips.[[第三次泥聖杯戦争>聖杯戦争の記録]]
開催の場をTRPGオンラインセッション専用のサイト、どどんとふに移してからの記念すべき第一回。
日本のとある場所で開催された聖杯戦争だが、その正体は千年を生きし大陰陽師、安倍晴明が世界征服の足掛かりとすべく聖杯を起動するための儀式だった。
が、生前からの因縁のある源頼光と晴明の対峙、吸収した影の三基の反乱による弱体化、項羽が晴明のステータスの高さを逆利用した超狂化など最終決戦は大きく盛り上がる。
最終的に死徒ヨハンとそのサーヴァントであるスカサハ【オルタ】が安倍晴明の野望を穿ち、聖杯を獲得した勝者となった。
この後も何度か安倍晴明は泥における重要局面で顔を出す存在となる。

■Tips.[[英吉利聖杯大戦>合同企画]]
オランダにて聖杯を獲得したオデュッセウスの願いにより、何故かやって来たキルケーが引き起こした一大イベント。
セント・キルダ島を乗っ取って要塞化したキルケーが7基のサーヴァントを召喚し宣戦布告。時計塔は対抗策としてオデュッセウスを含めた7基のサーヴァントで対抗。
いわゆる聖杯大戦が幕を開ける結果となった。オランダ聖杯戦争の参加者である柏木星司とランスロットの主従を中心に物語が展開された、今でいう企画もののはしりである。
オランダから第三次聖杯戦争までのキャラクターが勢ぞろいするお祭り的な企画でもあり、毎週金曜日に会議が開催される当時の泥の主流企画でもあった。

どなたでも編集できます