ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。

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''(土夏のセイバー陣営どこかなー)って探してたら日が暮れ始めて焦る我ちゃん''


2009年7月のある日、夕暮れ時を過ぎたここ土夏市は闇が覆おうとしていた。
朱が景色を染め上げる黄昏とはまた違う、何処か物寂しくも風情のある黒が街を染め始める時刻だ。
だが、そんな時刻にあっても人々と言うのは活発的なものだ。時に騒がしく、時に静かに、様々に道を歩む姿が観測されるのはどの世界に於いても変わりはない。

そんな道行く人々の中、2人の男女が歩む姿に我は目を付けた。
見る者が見れば分かるだろう。その少年と共に歩む少女は、見た目こそ10代半ばほどでしかないが、並び立つ者のいない無窮の実力を持つ英霊、サーヴァントであると。
ここまで付き合った貴様なら分かるだろうが、彼女と共にいる少年、十影典河が彼女のマスターだ。察しの通り、ここ土夏市では今まさに聖杯戦争が起きている。
今までマスターの作り出す組織や家系、サーヴァントの作り出す特異点、そしてその2つが織りなす継ぎ接ぎの都市を巡ってきたが、また戻ったという形になるな。
ただ、ここは今まで廻ったオランダやネバタの聖杯戦争とは違う。かと言ってイギリスのような聖杯大戦でもない。全てが違う、のだ。
意味が解らないか。まぁ今はわからずとも良い。いずれ分かるのだから。

「あの、俺に何か用でしょうか」
「おっと失敬。用事……と言えばまぁ、お前に用事ではあるか。
 正確には、ここ土夏市で発生している聖杯戦争の参加者に用があるわけだが」
「……………テンカ」

我と典河の間に割って入るようにセイバー、ギャラハッドが立つ。
そのふたりの佇まいに思わず感嘆のため息を漏らしてしまった。許せ、我もこうして直に目の当たりにするのは始めてなのだ。
少年は優女のような華やかな顔立ちに静かな緊張感を帯び、少女は少年の前に一歩踏み出て鋭く静かな気迫を放つ。
分かるか? そうだ。匂う。匂うとも。群青に染まっていく只中にあってこのふたりからは血の匂いがする。この鋭く涼しい緊張感はその黒血に磨かれたものだ。
見縊るな。これまでの世界が生半可だったなどと言いたいわけではない。だが……言うなれば、これまでとは鮮度が違う。
醜く、陰惨で、酸鼻極まる。穏やかな日常の中に致命的な陥穽が潜む、『聖杯戦争』というものの本質の只中にこのふたりはいる。
我らがこれより赴く世界は皆そうしたものだ。伊達も酔狂もここからは介在しない。心するがいい。

「そう急くな。我とてこんな往来で争う気はない……と言いたいところだが。
 お前たちにはどう告げようと無意味だろうな。憎み合い殺し合う輪廻の渦中にあるお前たちに『敵意は無い』などと……我ながら噴飯ものだ」
「───いずこの英霊か、名乗れとは言わぬ。だが、この往来の中で気配を殺し私とテンカに近づいたこと。
 例えその言葉が正しくとも、企みを懐に忍ばせて歩み寄る者に私の容赦はない。このまま剣を執ることに躊躇はないぞ」
「……やはりここからは一筋縄ではいかんな。ただ招待状を配って回るだけでもこれまで以上に苦労をしそうだ」

既に臨戦態勢を整えているセイバーの静謐な殺意に小さく苦笑を零してしまった。
わざわざこうして人の往来のある場所を選んだつもりだったが、この剣士は背後の主が少しでも危険と感じれば躊躇いなく剣を抜くだろう。
書状を直に渡すかべきどうか迷ったが、どうやらその選択を取らなかったのは正解だったようだ。ここで呑気に渡していても突き返されるのが関の山だ。
ここからは空気が違う。雰囲気が違う。毛色が違う。我はその象徴ともいえる少年へ眼差しを向けた。

「我は使いだよ。新世界への案内人だ。端的に言えば、争いも痛みも無い世界と言ったところか。」
 どうだ、十影典河。貴様も聖杯戦争に巻き込まれ、苦難の絶えぬ身だろうよ。新世界へ行けば、そんな苦難からも解放されるぞ。
 争いのない穏やかな日々がある。セイバーと共に続いていく暮らしを夢想したことはないか?」
「貴様、何処まで………!」

セイバーが眉間に皺を寄せながらこちらを睨みつける。我をして1歩後ずさりかねない剣気が突風のように吹き付けてきた。
典河の方はというと、そんなセイバーのすぐ後ろに立ちながら黙考している。おや? すぐには頷かないだろうと思っていたが、脈があるか?
やがて典河は得心に至ったようにゆっくりと顔を上げた。こちらを真っ直ぐに見つめながら彼は答えた。

「誰の痛みを踏みつけて、その世界は回るんだ?」

───なるほど。これは迂闊なことを聞いた。
一瞬目の前の男が隅々まで汚泥に塗れているのを幻視した。重油のようにこびりついて離れない、窮めて煮詰められた怨嗟の泥に。
穏やかさに気圧されるとは得難い経験であった。我もこれまでとは心を入れ替えねばならないな。こんな宿命を背負った者たちと幾人も会うことになるのだから。

「まぁ、招待状は配った後だ。今は挨拶だけに留めておこう。
いつの日か、思い出した時に招待されるでもこちらは構わないさ。その時に、またお会いしよう」

それを別れの挨拶として、我は背中にセイバーの敵意を受けつつ踵を返した。
ま、こういう招待状の渡し方も良いだろう。投函した後に招待状がどうなるかは、我自身にも分からない。
彼らは招待状を手に取らないかもしれないし、そもそも招待状に気づかないかもしれない。だが、それでもいいのだ。そういった渡し方を選んだのは我なのだからな。

そんなことを思いながら、我は暗闇に包まれた土夏市を歩んだ。
これから先、土夏の聖杯戦争に参加した主従らに同様の手段で招待状を渡すのだ、自然と歩みも速足となる。
そして幾らかの挨拶を交わしながらも、我は7つの主従に招待状を投函し次の世界へと向かった。
渡した招待状がどうなったかは、我自身も知らない。





さて、何故今さら聖杯戦争を巡るのか、その意味についてお前に話そう。
今までの聖杯戦争は、全て一繋がりであった。マスターたちが集った組織も、家系も、サーヴァントが作り出した特異点も、その全てが1つの線の上にあったのだ。
世界線、あるいは平行世界とお前たちが言うモノの内の1つ。そこに今まで巡った全てが集っていたのだ。いくつかは異なる世界ではあったが、そんな違いなど些細な事だ。
ああ、かの黎明の都市は多少違うが、その属性は同じだよ。基本的にはかの聖杯戦争や組織が多発した世界の延長線上だ。それゆえ、かの世界の人物のIFも多い。
陰謀渦巻く組織群も、渇望の為に世界を塗り替えんとする特異点も、そして願いの為に他者を踏み躙る聖杯戦争も、全てが1つの世界の中で起きていた。
我がこの世界を"泥濘"と呼称した理由がわかるだろう。あれほどの混沌が重なり合っていれば、泥濘と評したくなるものだ。

だが、先の土夏市にて聖杯戦争が起きた可能性は、違う。泥濘の組織も、家系も、当然今までの聖杯戦争も、全て"存在しない"世界なのだ。
ああして我が堂々と顔を出せるのも、晴明やアンバサダーなどと言った厄介な存在があの土夏市に、ひいては世界にいないが故、と言える。
まぁあの聖杯戦争における原因であるみしゃくじなどは蘇れば我とて無事では済まないが、それでもかの泥濘に比べれば可愛い物さ。

寂しいと思うか。そんな思いは抱く必要がない。
何故ならかの土夏市もまた、泥濘たる世界の一片なのだから。確かに、今まで巡った組織も、家系も、聖杯戦争も存在しない。そこに混沌など生まれるのかと思うであろう。
違うのだ。あんな家系や組織、特異点などの存在に、混沌であるか否かなど左右されない。人が集えば、そこに混沌が生まれる。だからこそ、この世界は泥濘なのだよ。
美しくも醜く、儚くもしぶとい人の業。それが混ざり合えば極彩色を超えて悍ましき泥濘となるは必然と言える。そこに組織などの人間関係など必要ないとかの土夏市は証明してくれた。
だからこそ、我はかの土地で行われた聖杯戦争をこう呼んでいる。"泥濘の再起地点"と。その重要性はオランダの聖杯戦争に並び立つと思っているよ。

さぁ、呆けている暇はないぞ。
次に向かうはドイツ、首都ベルリン。時代は太平洋戦争の真っただ中だ!
此方でも聖杯戦争は起きていた。ここは今までの泥濘たる世界に比較的近い可能性の分岐ではあるが、かの組織などの干渉が少なかったのも特徴的であるな。
ゆえにこそ、土夏と同様に切り離された中での混沌を楽しむことができた。此度はその演者たちに招待状を一斉に配るとしようではないか。

「──────なんだ、通信か?
 いや、違うな。この通信機はもう壊れているはず。
 何らかのノイズ、か。……にしては、いやに鮮明なモールス信号だな」

「ボールシャイト隊長! 通信が入っておりますが……」
「今は大事な局面なんだよ! そんなもん放っておけ!」
「で、ですが……。内容が、奇妙なものでして。聖杯戦争に、何らかの関係があるかと思い報告を」
「──────なんだと?」

「マスター、何か落ちている通信機が音を立てているよ」
「ふむ。拙者としては機械仕掛けは苦手なのだが……キャスター頼めるか」
「わたしが得意と思いますか!? ですが、期待されたからにはやってみせましょう!」

此度は艦船どもの特異点と同じように、通信で招待状をばらまく形とした。
というのも、この聖杯戦争の中心的立ち位置にいる男、ゼノン・ヴェーレンハイトと我の相性が最悪でな。
晴明のような実力的なものではない。その存在自体が我の霊基に影響を与えかねん。同じ"神"を使った詐術なわけだしな。
ああいう輩が一番厄介だわ。だからこうして姿を見せず、頓智で招待状を配らせてもらった。

まぁ、純粋に砲弾が飛び交っているのもあるがな……。我、復活できるだけで痛いのは痛いし?
ひとまず、通信があったこと自体はおそらくナチス軍にも伝わっているだろうし、いずれはゼノンの奴の耳にも届くだろう。
奴が動いて我と鉢合わせする前に、我は逃げるようにベルリンから立ち去った。





「理想郷──────と呼ぶと安易に聞こえるかもしれない。
 だがその存在は、"理想"であるがゆえに古今東西を問わず人々の心を惹きつけ、故に数多くの神話で語られることとなった。
 旧約聖書に於けるエデン、アーサー王伝説に語られるアヴァロンなどが著名だろう。神話に限らずとも、その言及は比喩を含めれば枚挙に暇がない。
 イギリスの思想家トマス・モアが定義したユートピアや、ジェームズ・ヒルトンが著作で使用したシャングリラ。これらは一般名詞として楽園の代名詞となっている。
 今日は、こういった"理想郷"という概念が持つ神秘の詳細と成り立ちの解説。そしてそれらを魔術に組み込む実技授業を行う」

時代は飛び、2000年代前半の時計塔。そこではロードエルメロイ2世が自らの持つ教室の生徒たちに講義を行っていた。
彼の生涯はまさしく混沌と言わざるを得ないだろうな。聖杯戦争故に狂わされたが、その捻じれた生涯がこの世界に長く大きな影響を残し続けた。
その影響は彼の人生の長さを優に超える。その最たる例こそが、この彼が後継を育てるべく買い取った教室、通称エロメロイ教室だ。
時計塔の他の教室では居場所のない生徒であろうと、彼は最適な魔術と指導法を見つけ出し、その眠れる才を引き起こす。
そういった天性の才を持つ存在、あるいはほかに居場所のない奇人、変人、落伍者がここに集うわけだな。

当然、ここに訪れたのにも意味がある。
そんなエルメロイ教室だがね、ここもまた1つの"切り離された混沌"なのだよ。先の土夏やベルリンと同じという訳だ。
ゆえ、ここに所属する生徒たちの顔ぶれも通常の世界とは異なる。いや、おそらく他の世界でも遅かれ早かれエルメロイ教室に通う運命を持つ連中ばかりだろうがね?
例えば、一番最初のオランダで出会った黒咲恵梨佳がいるだろう? あいつもエルメロイ教室だが、今この場にはいない。
これも世界が異なる証拠だな。さて、というわけでそろそろ招待状を配るとしようか。

「触媒いきわたったー? じゃあ実践始めるよ」
「その組み合わせよりも、こちらの方が魔力の伝達が効率的かと思います」
「お、こっちのほうが確かにやりやすい。マギちゃんさっすがー」
「なんか、これうまくいきすぎでは? 大丈夫?」

とは言っても、こんな授業中に顔を出すほど我は非常識ではない。
ちょうど新世界、あるいは理想郷に関わる講義なのを逆手に取り、ここで干渉させてもらうとしようか。
ま、ここは天才ならぬ天災が10や20平気でいる空間。故、どんな不自然な事が起きようと疑われることはないだろうよ。

「うげっ!! 明らかに教科書にない反応! イレクトお前何やった!?」
「えぇー? 特に何もしていませんけど……。あ、でもこれをこうすれば止まるんじゃないでしょうか」
「待って待ってさわらんで! あ、これちょっとダメな奴だ」

バチバチと火花が飛び散り、煙と灰が教室中に舞う。
……いや、これは我の干渉外だぞ。マジで。ただ、この混沌は利用できるな。
煙と灰をちょちょいと弄れば、まぁ招待状の文面を作るぐらいはできるだろう。

「んー、これ、誰かしらの干渉を感じまスね」
「テアちゃんマジー? ひょっとして、ウチらに喧嘩売ってる勢力の仕業?」
「これ、文章になってる? 招待状、みたいな感じだね」
「決闘の申し込み、という事か。なら先生の身が危ない! 俺たちが前に出るしかねぇ!」
「まずはこの事態を収束してから盛り上がってくれないか!!」

……なんか、想定とは偉い違う形になったが、奴らが揃ってくる気になってくれたのは良しとしよう。
とりあえず記憶は新世界に於いては薄れさせたいところだ。殴られるのは嫌だし、怖いし……。

おっと、忘れていた。同じ文面をこの世界で起きている聖杯大戦の場にも送っておくとしようか。
ああ、そうだよ。この世界では同時期に、イタリアの地方都市ストゥーラにて聖杯大戦が起きているのだ。貴様がイギリスで見たような、あれだな。
時計塔の非主流派に分類される魔術師達が名を連ねる連盟組織、アーキペラゴと時計塔の一大決戦だ。我としても混ざりたいが……ちと大規模が過ぎるな。
というかマスター陣営が血なまぐさすぎる。中心にいるのがマフィアだからな。前に出れば撃たれそうな勢いだ。ただでさえ戦争でピリピリしてるわけだし。
我としてもそれは避けたいので、先ほどのような遠隔メッセージで行こうと思ってる。フォインのような無害なマスターなら良いかもしれんが……それでもサーヴァントがいる事には変わりない。
我は先の土夏で学んだのだ。敬意だのなんだの言ってられんわ。直接対面すると我ボロ出すってな!!

なので、遠隔で招待状を投函、あるいは表示してアーキペラゴ率いる黒の陣営と、時計塔改めルーラー・クリスティーナ率いる赤の陣営に配った。
ここもまた、今までの泥濘と切り離された割には混沌としていた戦争だった。まぁ、アーキペラゴ自体が混沌としている組織ゆえ当然と言えるか。
そんなことを考えながら、我は次の舞台へと向かうのだった。





「む、なぁなぁ檀那! あれはなんだ!?
 見た事のない装飾のメッセージだ! 俺を讃えるメッセージか何かだろうか!」
「あんまりはしゃぐと、危ないよセイバー。でも、なんか嬉しそうで楽しそうだな」

次に向かった舞台は、月であった。
ああ、あの享楽主義者がいる月ではない。あれはどっちかって言うとCCCだからなぁ。何の話かって? こっちの話だ。
ここもまた、ああいった場所とは切り離された"別の月"。年代も西暦3000年代と一気に飛ばさせてもらったぞ。
そんな月を舞台にして発生した聖杯の争奪戦。否、トーナメントこそがこの地にて巻き起こる混沌の形だ。

その中心に立つマスターこそ、かの"つみびと"オズワルド。
生まれたばかりのいのち。残骸の成れの果てが集いしもの。されど、それ故に何よりも純粋なるもの。
召喚されたサーヴァントが、文字通り歴史より消え去ったローマ皇帝たるルキウスなのも、何か繋がり合うものがあったのやもしれんな。

はっきり言って、この世界に未来はないと言えるだろう。
人類は月に到達した。されどそこまでだった。その先に歩むも、戻るも、全てにおいて死が付きまとう世界。
この可能性は、この泥濘の世界の中でも特異なほどに切羽詰まっていると言ってもいいかもしれんな。

だが、だからと言って人が足掻かないわけではない。故にこの世界も混沌としている。
夢を現実にせんと足掻く少年、かの月の癌の片割れ、魂の分割者、世界を観測する役目を背負いし人造者。
そして、帰るべき使命を背負う乙女と、安楽の停滞を生み出す女。どれもこれも、混沌を生み出すに足る逸材たちばかりだ。

土夏もそうだし、伯林もストゥーラもエルメロイ教室もそうであるが、切り離された内で巻き起こる混沌は、その要素1つ1つが実に濃い。
だからこそ、我はこいつらを残さず新世界に招き入れたいと思っている。混沌は進化を生み、進化は奇跡を生むのだからな。
このような停滞しか許されないような破滅の未来であろうとも、人類は足掻くのをやめない。だからこそ人間は面白い。
その足掻きこそ、我らにとっては至上の甘露であるのだ。だから我は、この月面がとても好きなのだ。
これほどまで追いつめられようと、人は輝きを失わないと証明された場なのだから。

「何か今、変な声が聞こえた? 様子見にいってくれないアーチャー」
「行きましょう我が乙女」

やっべ。思わず声に出てた。
ひとまず招待状をメッセージウィンドウに偽装して、そのまま我はその場所を後にした。
同じような手法で参加者各位に───ついでにかつての聖杯戦争の参加者らにも───招待状を配ったが、その招待に彼らが応じるかは我もわからない。





最後に訪れたのは、聖杯戦争でもなければ聖杯大戦の舞台でもない。
ここはそもそも、聖杯も英霊も存在しない世界──────人理の否定されし世界、いわゆる死徒が隆盛を誇る世界だ。

「あっはは! 別にいいじゃない血ィ吸わせてもらうぐらいさぁ!!」
「だぁほ! んな事したら死んでまうやないか! ワイはまだ生きなあかんねん!!」

死徒と異能者が小競り合いを繰り返しているな。こんなものは夜観市においては日常茶飯事だ。
祖と呼ばれる高位の死徒が当たり前にいるこの世界。ある日1人の祖がこの世を去った。その後継を狙うべく、死徒が集うのがこの街だ。
その死徒を狙う代行者や異能者、果てはなんだかよくわからない何かに至るまで、集っては互いに殺し合う魔と殺戮の宴の舞台。
さながら切り取られた1つのコロシアムか何かのようだ。ああ、ここも先までの聖杯戦争と同じように、今までの泥濘とは切り離された世界だよ。
いや、ゴリラみたいな代行者とかなんだかよくわからないナマモノとかは通常の泥濘世界にもいるようではあるがな。その辺のさじ加減は我も知らん。

「正直実感はないけど、それでもやるしかないんだよな」
「そうよ。だからもっとしゃんと歩きなさい。背筋を伸ばさないと格好悪いわよ」

おっと、ちょうどよくこの舞台における中心に立つ連中が顔を出したぞ。
死した祖、空座の娘たる銀月の姫君と、そんな彼女に運悪くも目をつけられた幸運なる少年。
こうして鉢合わせたからには直接招待状を渡したいところではあるが、今は時期が悪い。
そもそも「空座が死した」という招待状を以て集まった連中に、招待状をさらに突きつけるというのはあまりにも無作法であろうよ。
じゃあどうするって言うと……。まぁ、自然に道に落としておくとか、ポストに投函するとかしかないよなぁ。
などと考えていたら、ばったりと姫君のほうと目が合った。慌てて目を逸らすが、返って怪しまれたかもしれん……。

「どうした?」
「いえ。少し面白い人がいたから」
「死徒……じゃないか。面白い死徒なんてのがいたらお目にかかりたいものだ」

ぶっ飛ばすぞこの野郎。我の何処がおもしろいって言うんだ。
と食って掛かりそうになる気持ちをぐっとこらえる。この怒りは招待状に込めて50通ぐらい送り付けてやろう。
というかこんな夜にうろちょろしていると死徒とか変質者とかゴリラとかに出くわしかねないから、早めに終わらせよう。
そんな具合に、そそくさと速足で様々な陣営に招待状を配り歩くのであった。





さて。

"かつての泥濘より切り離された世界"。どうだったかな?
先ほども言ったが、彼らは混沌より切り離されてもなお、その混沌は揺るがなかった。可能性を輝かせた。
万能の願望器の存在しない死徒の世界であろうともそれは変わらない。彼らは存分に自らの生を輝かせ、そして足掻き、物語を生み出している。
その物語こそ、我らの求めるモノ。そのために我はこうして招待状を配り歩いているのだ。

ただ、此度に我らが練り歩いた世界は、もう1つ共通点がある。


それは、彼らのような物語が類似し、1つの可能性世界に存在するということだ。
"らしい"だとか"っぽい"と表現できるようなもの、と表現すればいいか。彼らの物語は、どこか遠い世界で起きた聖杯戦争や大戦と重なる要素が多いのだよ。
そういった、ある種舗装された道筋を往こうとも彼らは素晴らしき物語を紡いで見せた。それこそが、彼らの可能性を示す一端だと思っているよ我は。

次に向かう世界は、その混沌を一歩先んじたものとする。
どこにも、その聖杯戦争と似通った筋書きのない世界。2102年に発生した電脳世界に於ける聖杯戦争や、3つの都市に跨ぎ争われた聖杯の行方。
そして──────地の果てに沈みしテクスチャの成れ果てにて起きた物語。これらを我々は追い求める。

ま、その前に少し休憩をはさんだりもするがな。
目まぐるしく変わる繋がりのない世界群、楽しくはあるが続けて摂取するのは疲労も溜まるであろう?
エルメロイ教室程とは言わんが、姦しくも安らぎのある空間がある。そこで小休止してから、混沌のその先へと飛翔しようではないか。


そう告げながら、我らはひとまず泥濘の世界に戻り、綺羅星の如く輝く園へと足を運ぶのであった。


[[Next→>Invitation_7『泥濘の新たなる夜明け』]]


◆  ◇  ◆



■Tips.[[SNっぽい聖杯戦争]]
「今までの泥組織/泥家系使用禁止」といった具合に、既存の世界観と一線を画して企画された聖杯戦争。
初代Fateたるステイナイトを踏襲した泥を主軸として構成されており、新たなる泥の1ページを紡いだシンギュラリティ的な企画。
これ以降、多くの型月既存作品を踏襲した企画が連発されるとともに「既存泥組織禁止」と言ったように世界観を区切る手法が主流となった。
また同時に、SSではなく怪文書を連発してスレに投下する形式が主流になり始めたのもこのころからである。

■Tips.[[伯林聖杯戦記]]
SNっぽいに続き、帝都聖杯奇譚を踏襲して形作られた聖杯戦争企画。
この企画からそれぞれの参加者にハンドアウトが用意され、それに沿った形で泥を練るという形式が流行った。
時代背景もあり、既存のサーヴァントたちの生前が話に関わってくるという点も興味深い点となっている。

■Tips.[[Apocryphaっぽい聖杯戦争]]/[[外伝>Apocryphaっぽい聖杯戦争・外伝]]
こちらはApocriphaを踏襲して練られた聖杯戦争企画。
原作通り、ルーラーに乗っ取られた赤陣営と組織が主流に立つ黒陣営の2陣営が聖杯戦争を行った。
平行して、外伝として泥メロイ教室の生徒も募集され、個性的な面々や既存泥の関係者などが多く投下され話題を呼んだ。

■Tips.[[Extraっぽい聖杯戦争]]
エクストラを踏襲した泥聖杯戦争企画。ただ、原作のエクストラよりはアニメ版のラスアンに近い。
レゴリスなどの終末観が漂う独特の雰囲気の中で、様々な願いを持つマスターやサーヴァントが投下され聖杯を競い合った。
エクストラ踏襲でこそあるが、そのラスボスなどはCCCに性質が近いなど「エクストラ系列総集編」に近いのかもしれない。

■Tips.[[泥メルブラ>泥のメルブラまとめ]]
こちらは聖杯戦争ではなく、同じ型月作品である月姫……の格ゲーであるメルティブラッドを踏襲した企画。
元ネタが格ゲーであるため不自然なく交戦ができるように様々な舞台設定が整えられ、今のような形となった。
現在。こちらの設定を引き継いだ泥27祖も募集中となっている。

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