物静かで控えめな美しい少女。年の頃は十代前半ほど。
その姿は雪女のイメージ通り純白の白い着物に長く真っ直ぐな髪……ではなく、ストレートの髪を肩口でばっさりと切り落としてショートボブにし、ダークブラウンのマフラーを巻き、ブルーグリーンのモッズコートに身を包むという現代的な衣装に身を包んでいる。
これは「雪女」の辛気臭いイメージから脱却しようと彼女なりに努力した結果であるという。
ちなみにコートの下は白のブラウスにプリーツスカートという女子中学生的な衣装。
マスターに対しては非常に礼儀正しく、真面目で真摯な態度を見せる。
基本的にはマスターの指示に忠実に従い、常に主を立てるような言動を行う。
そのため、一見すればとても従順で扱いやすいサーヴァントに見える。
しかししばらく彼女と過ごしていると、それはあくまでも「そうすべきだから」と思うという理由でそう振る舞っているに過ぎないことが分かるだろう。
ランサーは思いの外マスターの言うことを聞かず、すぐに激情して言葉が乱れ、そして手まで出る性格が透けて見えてくる。
本来の彼女は強気で頑固、喧嘩っ早くてお転婆な田舎娘である。
マスターという主を持つにあたって、「それが仕えるべき主君である以上、(誰かに仕えたことなどないけれども)忠実に仕えねばならない」という考えの元に無理をしているに過ぎないのだ。
そして無理をしている以上、すぐにボロが出るのが彼女である。
マスターが、彼女が素で振る舞うのを許容できるような人間であるならば、そう彼女に伝えてやる方が円滑な関係を構築することが容易になるだろう。
そして彼女はその大人しく争いごととは無縁そうな外見とは裏腹に荒事にも慣れており、サーヴァント戦では攻撃的かつ苛烈に戦闘を行う。
自らの親指を噛み切り、あふれる血を宝具で氷結させることで生み出す氷の長槍を武器とし、華麗に宙を舞いながら兵士顔負けの肉弾戦闘力を披露する。
彼女のことを深く知らんと何かを問いかけたとして、ランサーはほぼその問いに答えることはないだろう。否、答えることができない、と言う方が正しい。
彼女には、サーヴァントとなる前の記憶がないのだ。
言葉は話せる。サーヴァントとして与えられた現代の知識や戦闘の感覚、聖杯戦争の情報などもある。
恐らく生前に教わったであろう、礼儀や心構えなどの教養も残っている。
しかし、自分が生前どのような人間であったのか、名前はなんであったのか、どのような環境で育ったのか、どのような家族がいたのか、そしてどのように死んだのか。
それらの記憶が、彼女には残っていないのである。
故に、聖杯へ駆ける望みは「自分を取り戻す」こと。
自分が誰であるのかを知りたいが故に、彼女は殺し合いへと臨むのである。
だが同時に、自分がもしやもしたら人ならざる者なのではないかと潜在的な恐怖心を抱いている。
それゆえ、あまり積極的には氷の力を使用しようとはしない。
彼女の記憶喪失その理由は、彼女というサーヴァントの成り立ちにある。
「雪女」とは特定の人物の名前ではなく、また、特定の伝説に登場する存在でもない。
「雪女」に該当する伝説は数多に存在し、またその伝説に登場する怪異にもまた非常に多岐に渡るパターンが存在する。
そしてその伝説の一つ一つは、単体ではサーヴァントとして成立するにはあまりにも信仰が小さく、せいぜい幻霊という形でしか成立しない存在である。
しかし、「雪女」という一括りで見るならば話は別である。
日本人であれば、「雪女」という怪異を知らない人間の方が少ないほどにまでに、広くに知れ渡った高名な存在なのだ。
それゆえに、「雪女」は「雪女」という概念のまま英霊化した。
雪女伝説の元となった複数の逸話、伝説、伝承が複合体と化し、「その中の一人」が「代表」として選ばれ、雪女伝説にまつわる全ての逸話・信仰を負荷として担い、一人のサーヴァントとして召喚に応じる。
ただし、「雪女」としての総体として成立させるために、召喚時に生前の記憶を持ち込むことが不可能となっている。
彼女の記憶がないのはこのため。
英霊としての成り立ちはジャック・ザ・リッパーに、召喚方法としてはハサン・サッバーハに近いものであると言えよう。
このため、様々な要因により「代表」に選ばれる少女・女性は無数に変化しうる。当然、それに応じクラスも変化する可能性がある。
今回は、江戸時代前期に越後国山中で遭難により若干14歳で凍死した、とある村の庄屋の娘が代表に選ばれている。
別の遭難者が低体温症による幻覚も合間って彼女の遺体を雪女だと誤認し、それを伝えた結果として雪女伝説の一員となった。
田舎の寒村の出身ではあったがそれなりに裕福な家の出であり、薙刀の扱いにも才能の片鱗を見せていた。
冬の夜、吹雪の中病床の祖母へ無理をして薬を届けにいく途中に遭難死したという。
生前はただの人間であり、怪異としての力はサーヴァント化に伴い身に付いたもの。
選択されうる「代表」の中には実際に雪の化身であったり、鬼であったりするような人外であった少女が選ばれる場合もあるのだが、彼女は該当しない。
イメージカラー:クリアホワイト
特技:運動
好きなもの:囲炉裏、暖炉、ストーブ(ただし近づきすぎると具合が悪くなる)
嫌いなもの:寒くて暗い場所(ただし肉体的にはむしろそちらの方が好調)
天敵:熱
願い:「わたし」を取り戻す
【一人称】わたし 【二人称】あなた(あんた) 【三人称】あの人