マヤ神話において、自殺を司る女神。死者を楽園に導く役割を担っていた。
楽園に行くことができるのは、聖職者、生贄、戦死者、お産で死んだ女性、そして首を吊って死んだ者であった。ユカテク族の社会では自殺、とくに首吊り自殺は名誉な死に方と考えられていたようである。
イシュタムはこの魂たちを楽園へと導き、そこでは死者はすべての欲望から開放され、極上の食べ物と飲み物を賞玩し、マヤの宇宙樹ヤシュチェの木陰に永遠の安息を享受すると考えられていた。
イシュタムはドレスデン絵文書には首を吊った女性の姿で描かれている。
そして日蝕、月蝕を扱う項に出てくるため、月蝕を象徴していた可能性が指摘されている。
加えてマヤでは月蝕は胎児に奇形を発現させ、死に至らしめると考えられていたため、イシュタムは女性、特に妊婦の悲劇を象徴したとも考えられている。
ドレスデン絵文書に見られる姿以外に図像は存在していない。
実のところ、イシュタムについて記されている文書は、悪名高きマヤ文化の破壊者、マヤ文書の焚書者であるコンキスタドールの宣教師ディエゴ・デ・ランダの記した『ユカタン事物記』のみであり他の資料からはその存在は確認されていない。
上記で言及したドレスデン絵文書に描かれた姿も、近年ではこれはイシュタムではなく、首吊りの様子でもなく、絡まったへその緒による出産事故死や流産の象徴の絵というのが有力なようである。
挙げ句の果てには数多の現地人の首を吊り上げたディエゴ・デ・ランダが罪の意識に苛まれて産み出した幻の神ではないかと推測する者すら存在する。
...そんな神として成立するかも怪しいイシュタムがサーヴァントとして召喚された理由は───"救い"を求める声が余りにも多かったから───なのかも知れない。