彼女はかつて、屠殺館と呼ばれる事件を解決するための一員として招集されたことがある。
残虐な殺戮が続けられる館の中で、彼女は唯一その事件の首謀者、
トバルカイン・ブラッディストーンと真正面から対峙している。
物量と魔術をぶつけ合い、どうにかして館ごと破壊することに成功した。それが彼女の覚えている100年前の一連の流れだった。
だがしかし、それ以来彼女はトバルカインが持つ嫌な気配を覚えている。
まるで世界そのものを殺さんとばかりに溢れ続ける、漆黒の殺意が人型を成したかのような恐ろしさを。
死そのものとしか言いようがないほどの悍ましさを、彼女は覚えていた。
そしてそれが、今ゆっくりと、この死の無い世界に浸透しているような違和感を覚えている。
死に敏感であった彼女であるからこそ、かつて対峙した存在が振りまく死であろうという直感があった。
故に彼女は往く。その手で取り逃がしたであろう存在に、決着をつけるために。
多くの人と出会うなど言い訳だ。不死への不安を払拭するなど建前だ。
全ては己の過去に取り逃がした咎を祓うため。全ては自分が止められなかった死を止めるため────。
そのための戦いが、極東の地で幕を開く。