ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
『理性の術策』として漏れ出ている、常時発動型宝具。
その真の効果とは、「『英雄』の創造」。召喚者に自身の霊基情報をインストールすることで、対象を強制的に『英雄』に仕立て上げる。
ただし、此処で言う英雄とは、超人的な人間を指す言葉ではない。無論、大いなる業績を遺した偉人でもない。そもそも、英霊として登録されるような存在ではない。
それは、ヘーゲルの述べた『英雄』の形。星の理性、完成を志向する無形の集合意識。あるべき形へと世界を導く、絶対の法。
「世界精神」──魔術世界では「霊長の抑止力」と呼ばれるそれの後押しを受けうるものの代名詞である。
事態が本当に抑止力の介入を必要とするかどうかは関係がない。事実として抑止力の後押しを受け、ヒューマン█は『英雄』として、望まれる世界の形を実現する。
彼の一挙手一投足が、想定不可能なまでのバタフライ・エフェクトを発生させ、世界という混沌系を一つの形へと導く。
……だが、この宝具の真に悪辣な点は、霊基に内包されるID仮説の幻霊を利用することで、「ヒューマン█の意志≒世界精神」という等式を成立させている点にこそある。
『理性の術策』が既にしてそうであるように、ヒューマン█の依代となったマスターは、その意志とは無関係にただ
操られる木偶の坊となる。
世界精神であるヒューマン█の命令を忠実に実行し続ける傀儡。歪められた『英雄』の解釈を孕んだヒューマン█が、世界の代行者を生み出し、思うままに世界を変える。
──“あなた だけの ものがたりが はじまる よかんが する 。”
“あなたは リソウで みたされた 。”
『万象介入・永劫回帰』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:0 最大捕捉:1つ
『事象選択樹』及び『望み望まれた旅路』として現れている、常時発動型宝具。
これらのスキルの効果は、実際のところ、この宝具の効果の断片的な発露に過ぎない。
その本質とは、「人為的な量子記録固定帯の制御と利用」。世界移動も、世界剪定によるエネルギーの摘出も、全てはこの現象から発生した機能の一つに過ぎない。
霊長の意志、星の抑止力、そういった大いなる存在によって発生するはずのそれを、ヒューマン█は司る。
任意の歴史を辿った世界を
記録し、それらが含む情報の
読込によって擬似的な世界移動を行う。
そして、“主人公の不在”という致命的な欠陥を有する記録は──
消去する。
全ては、獣性を駆逐する為。
ビーストの愛を「在るべき形の破壊」として断じ、これを憎悪する理性を以て、永遠の繰り返しにすら真っ向から立ち向かう。
本来変えられるはずのない運命を、人間という種族に帰属せられた「世界の決定権」によって捻じ曲げ、その果てに、ヒューマン█は目的を達成する。
──それは気づいていない。その在り方こそが、己が弑するべき獣の振る舞いと酷似していることに。在るべき理を歪めていることに。
そして、気づくこともないだろう。根底から捻じ曲げられた概念の複合は、それの現れであるヒューマン█自身を歪めたのだ。
──“せかいは おわりを むかえようと している 。”
“あなたは リソウで みたされた 。”
“…… …… …… …… ?”
“あなたは リソウで みたされた 。”
“あなたは リソウで みたされた ”
“あなたは リソウで みたされた ”
“あなたは リソウで みたされ ”
“あなたは リソウで みたさ ”
“あなたは リソウで みた ”
“あなたは リソウで み ”
“あなたは リソウで ”
“あなたは リソウで ”
“あなたは リソウ ”
“あなたは リソ ”
“あなたは リ ”
“あなたは ”
“あなたは ”
“あなた ”
“あな ”
“あ ”
“ ”
“ ”
“ ”
“ ”
“ ”
“DATA ERROR”
“UNKNOWN ERROR BROKE SAVE-FILE X”
“IT DOESN’T CONTAIN PROTAGONISTS’ DATA”
“ERASE THE SAVE-FILE X?”
“ YES / NO ”
“>YES / NO ”
“PLEASE WAIT ........”
“DATA HAS ERASED”
“NEW GAME?”
『原初状態・極天未達』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:2つ
そして、全ては原初へ還る。
ヒューマン█が、あらゆる手段による獣の討伐を試み、しかしそれを何かしらの手段で邪魔され、遂にその目的が達成不可能になった時。
即ち、ヒューマン█───を名乗っているマスターが、獣に辿り着けなくなった時。それは“主人公そのもの”であるヒューマン█にとって、世界という物語を進行させられないバグの発生を意味する。
だから、データを消す。主人公である自身の目的が達成できない物語など、欠陥でしかない。ならば、やり直すしか無い。
その為にはどうするか? 何故物語は達成できないのか? その原因を、ヒューマン█は、その権能を以てこう断定する。「このマスターに欠陥があるからだ」、と。
真偽など関係がない。それ以外の可能性を剪定し、それだけを真実にする機能が、ヒューマン█にはある。
だから、“壊れた主人公が存在するデータを削除し、新しい主人公がいる世界に移る”。大変シンプルな帰結だ。
この効果によって、現在憑依対象とするマスターが存在する世界を剪定。魔力としてその熱量を回収した後、新たなる依代を選び取る。
そして、多くの場合新たな依代には、「自身を妨害してきた誰か」が選ばれる可能性が極めて高い。何故ならば、“主人公”を打ち破れる可能性があるのは、他の“主人公”だけだからだ。
“主人公”。それは、世界という物語の牽引者。世界精神、即ちは霊長の抑止力によって世界を救うように定義された、当たり前の存在。“世界精神”そのものであるヒューマン█の依代には、うってつけだ。
……こうして、ヒューマン█を討伐しようとするものは、それを追い詰めることで、ヒューマン█自身に乗っ取られ、次の器とされる。
それを繰り返し、ヒューマン█の障害となるもの全てが消え失せたその時、ヒューマン█は、今度こそ獣を完全に討伐することを目指すだろう。
“世界精神”たるヒューマン█にとって、マスターとは、理想の世界を創り出す為のツールに過ぎない。
道具など幾らでも使い潰せばいい。世界というキャンバスがなくなりさえしないのならば、人間という絵筆や生命という絵の具など、幾らでも調達できる。
世界精神とは、“人類総体”の普遍意識。個体の意義など不要である。個体がどのようなものであろうが、最終的に総体の意志を描き出せるならば、それで良い。
───極天への到達は未だ為されていない。しかし、これ以上は進めない。ならば、原初の状態へ全てを還せ。
語られざる物語がある限り、世界は終わらないのだから。