彼女の著書は「ウィーン写本」という名でも知られ、その原本は西ローマ帝国皇統の娘、アニキア・ユリアナに捧げられた。
そのため本著は「アニキア・ユリアナ写本」とも称されており……その影響で性別が変化してしまった。と、本人は語る。
原作者が彼女であると勘違いされ、元々影が薄かったが故にユリアナの要素が強く入り込み、霊基を上書きしてしまったのだ……と。
絆レベル5で解放
しかし本スキルの影響は性別の変化だけに留まらず、精神的な面にも多少影響をもたらしている。
彼の著「マテリア・メディカ」は千数百年単位で薬学の権威として扱われ、これこそが完成形であると信じられてきた。
だが彼の著書に記されていたのはあくまでもローマ地域のものであり……多くの国々に渡り、翻訳・再解釈が成されたことで性質は大きく変化してしまった。
それらの編纂による情報の齟齬、改変は、多くの処方ミスを生み出しただけでなく、悲惨な結果を招いたとされる。
本人の責任ではないにせよ、原典の著者であるディオスコリデスには数々の批判が寄せられた。
故に……彼、いや彼女は「この原典が至高であると信じて疑えない」。
間違いがあると理解しているはずなのに、世界から歪められた霊基の形に依って、彼女は在り方を曲げられないのだ。
だから、彼女は原典を自ら“更新”することで解決させた。
これは間違いではない、正しい情報である。ならば正しい情報であり続けるために、記されたものを“更新”する必要がある……と。
己の在り方が変えられないならば、自分の生き方を貫くまでだ。私は常に“己の目で見た、正しいことだけ”を記してきたのだから。
……間違いがあるなどとは言わせない。これは、正しく完璧な“薬物誌”である、と。