kagemiya@ふたば - 杞憂
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 きっとそれは、幼いころに誰もが描いた夢。



 夜が来るのが怖かった。
 私の知らない世界にはたくさんのばけものが住んでいて。
 きっと夜になったらぞろぞろと私を食べにやってくるから。

 朝が来るのが怖かった。
 真っ赤に燃えているお日様は夜明けとともに落ちてきて。
 夢から目覚めるその前に私とみんなを焼いてしまうから。

 怖い。
            怖い。
 怖い。
            怖い。

 私は怖い。私の知らない全てが怖い。
 家の外には知らないものが溢れてて。
 故郷の外には恐ろしいもので満ちていて。
 幼い私は怖がってばかり。今日も眠らず夜を明かす。

 そして成長した私もまたこの世界が怖いのだ。
 だって私は夜の蓋を誰が掛けているのかを知らない。
 だって私は太陽を燃やす炉の在り処を知らない。
 私は、この世界の仕組みを、何一つと知りやしない。

 そう。だからじっと目を開け待っているのだ。
 せめて、せめて私が死ぬ時に。
 何が私を殺すかだけは最後にこの目で知っておきたいから。



 誰もが抱いた幸福の中の不安。
 麻疹のようなそれに思い悩む少女は宙を睨む。
 今にも落ちてくるかもしれない空の底が抜けぬようにと。
 そうして少女は安堵するのだ。
 ああ、────────今日も私の幸福(せかい)は揺らがなかった。


基本情報

【元ネタ】哲学
【CLASS】アークエネミー/ロスト
【真名】杞憂
【性別】女性
【身長・体重】140cm・29kg/140cm・37kg
【肌色】黄 【髪色】黒 【瞳色】黒
【外見】目元に隈を色濃くした痩せ細った少女/血色の良いどこにもいるような平凡な少女
【地域】中国
【年代】B.C400
【属性】秩序・善/秩序・善
【天地人属性】反星または地(反星属性の詳細判明まで保留)/地
【その他属性】人型/人型
【ステータス】筋力:E 耐久:EX 敏捷:E 魔力:E 幸運:E 宝具:EX / 筋力:- 耐久:- 敏捷:- 魔力:- 幸運:- 宝具:EX

【クラス別スキル】

Archenemy

連鎖召喚・宿敵:─

 人類の脅威に対抗するため、かつてこのサーヴァントを倒した、
 あるいは倒すのに最適なサーヴァントが抑止力によってカウンターとして自動召喚される。(デメリット)
 杞憂の場合はその天敵が後述の宝具として現れるためにこのスキルは失われている。

未達の運命:EX

 このサーヴァントの目的が達成されることは決してない。抑止力の偶然の積み重なりにより必ず阻止される。(デメリット)
 アークエネミーの目的とは全ての不条理の否定。知覚できない因果への恐怖を取り除くこと。
 善性から生じた願いであるがアークエネミーの願いは喪失という形で失われている。

抑止の試練:(ランクはシナリオの規模により変動)

 世界の脅威に立ち向かう者たちは、何らかの試練、逆境を乗り越えることで知らず知らずのうちに強化される。(デメリット)
 事態が収まってしばらくするとだんだんと元に戻る。
 試練を達成した者には場合によって抑止力から追加の令呪が供給されることもある。

不可知の凶兆:EX

 このサーヴァントが召喚された際は広範囲から確認できる何らかの異変を引き起こすが、
 何らかの神秘によらない科学的手法では異変の原因を特定することはできない。
 杞憂の場合は観測から導き出されるはずの結果がズレる。

擬似特異点:(ランクはシナリオの規模により変動)

 世界の終末が再現されたことにより因果律が不安定になっている。
 人類や英雄に敵意を持つサーヴァントやシャドウサーヴァント、怪物などが無作為に召喚され暗躍する。
 聖杯がなくても、星の危機に立ち向かわんとする者たちは抑止力の支援によりサーヴァント召喚が可能となる。
 (サーヴァントの数、令呪の数などはシナリオの規模により変動)

Lost

喪失証明:-

 スキルを失っていることを示すだけのスキル。
 ロストは本来有するはずのクラススキルを持たず、また取り戻すこともない。

【保有スキル】

Archenemy

ニ身召喚:EX

 矛盾を孕んだ存在が持つスキル。
 召喚されたときに二つの身体で現界することで矛盾を解消する。
 杞憂の場合、それぞれの宝具を持った別個の存在として現れる。
 片方が存在する限りもう片方が消滅することはない。

二重召喚:-

 アークエネミーとロストという二つのクラスを併せ持っている。
 が、二つに分かれたためにアークエネミーのクラスのみを保有する。

不条理の矮躯:EX

 ラッセルの仮説が証明・反証不可能であるように、
 条理の中に存在するものにはアークエネミーを滅ぼすことはできない。

Lost

ニ身召喚:EX

 矛盾を孕んだ存在が持つスキル。
 召喚されたときに二つの身体で現界することで矛盾を解消する。
 ロストを現界させている魔力はアークエネミーからのパスを介して送られている。
 しかし、矛盾を矛盾としないために互いにそのことには気づけない。

二重召喚:-

 アークエネミーとロストという二つのクラスを併せ持っている。
 が、二つに分かれたためにロストのクラスのみを保有する。

【宝具】

Archenemy

『斯くして、神は五分前に世界を創造し給うた(ディソーダリィ・フォウコーズ)』*1

ランク:EX 種別:対因果律宝具 レンジ:? 最大捕捉:1惑星
過去に存在する"原因"を掻き乱すことで結果を改変する宝具。あたかも数分前に世界が創造されたかのごとく過去の出来事は現在の事象を保証しなくなる。
この宝具が向けられる対象が個人ではないこと、アークエネミーの意思で制御できないこと、抑止力が働いていることから特異点が発生している限りは"凪いで"いる。
そのため、特異点の中での不条理とは精々が特異点外からの干渉を完全に遮断したり、全知・未来視に類する権能が発動できなくなる程度。*2
しかし、万一不条理に狂った世界が確立すれば、数分前の日の出は夜に覆われ、数秒前に出会った誰かは存在ごと消失するような地獄絵図が誕生することになるだろう。

バートランド・ラッセルが彼の著作の中で示した思考実験『世界五分前仮説』。*3*4
証明・反証・否定の全てが不可能な、言うなれば不条理を仮説としたもの。
本来は世界五分前仮説が現象として顕現することなどありえない。
なぜならこの仮説への反証が不可能であるのは、同様にして存在の証明・反証が不可能な因果律によって補強されているためであるからだ。
因果律という絶対の事実が存在すれば証明・反証を必要とすること無く全ての仮定・仮説に揺るぐことなき正答を与える。
過去の所在が不明故に成り立つ世界五分前仮説は因果律が論理的必然性によって導かれないがために存在を許されているのだ。
悪魔の証明*5という反証の困難性の比喩があるように、存在の証明は"目の前に現れる"というたった一つの事実によっていとも容易く行われる。
だからこそ『斯くして、神は五分前に世界を創造し給うた』の顕現は"仮説"を論理的必然性から証明するが故にあり得るはずがなかった。

しかし、この宝具においてのみは例外が存在する。
なぜならば"不条理への恐怖心"こそがアークエネミー・杞憂の本質であるためだ。
杞憂の逸話にあるように、時に人は不条理な不幸へ恐怖する。
それは賢明な誰かがこの世の仕組みを一つ二つ教えれば晴れるような些細な恐怖心。成長と共に忘れ行く闇に潜んだ化物の影だ。
証明の根源には恐怖が有り、人は啓蒙によって安堵を得ようとする。この世で最も恐ろしいのは目に見えないものであるのだから。
ならば因果論が原因を明らかにして安堵しようとする心の表れであるように世界五分前仮説が恐れられるのも不条理への忌避感に相違ない。
アークエネミーのクラススキルは宿敵を呼び寄せ、そしてこの宝具こそが不条理を心底恐怖する杞憂の大敵の一つなのだ。*6

Lost

『遥か遠く、いつか世界に怯えた誰かへ(ディア・サムワンライクアイ)』*7

ランク:EX 種別:対概念宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
アークエネミークラスの杞憂への特攻を持つ宝具。あらゆる不条理を跳ね除ける力を持つ。
もしもアークエネミーと対峙するならばどうにか彼女の身柄を手に入れる必要があるだろう。
宝具は無形の知識であり、アークエネミーが現れる時代では使用されない言語で編まれている。*8
そのためアウトプットは不可能で、仮に読心能力を持っていたとしても概念レベルで理解できない。
ロスト自体もその意味を理解できてはいないのだが、聖杯に受けた宿命としてこの宝具がアークエネミーの急所であることを認識している。

その正体は連鎖召喚・宿敵によって呼び出されたもう一体の宿敵であり、どこまでも遠い万華鏡の先の未来で提唱された世界五分前仮説への完璧な反証。
不条理を恐れた誰かが灯した因果の明かり、願いの結晶は世界を恐れる誰かのもとで幽かながらも暖かな光を映し出す。
闇の中に潜んだジャバウォック。この灯火はきっと誰もが一度は描いたソレを打ち倒すヴォーパルソードなのだ。

────しかし、この宝具を呼び寄せた事実こそが杞憂をアークエネミーたらしめる理由である。

杞憂の逸話は二つの性質から成る。
一つは不条理への恐怖。いつ落ちてくるかもわからない天蓋の不安に怯え続けること。
もう一つは啓蒙による解消。賢者による知識の伝達によって無闇な恐れが晴れること。
そして、この二つのうちより強い色を持つのが後者の性質であるのだ。
よってアークエネミー・杞憂の世界五分前仮説に対してロスト・杞憂は完璧な啓蒙を施す。
────そう、"完璧すぎる"ほどに。
賢者の啓蒙は杞憂に理解できるものであり、逆説的に杞憂が入手する解決は杞憂だけには理解できてしまう。
しかし彼女が手に入れる知識は彼女の恐怖を晴らすためのものであるが故に彼女の願いと一致してしまうことになるのだ。
何かの間違いでアークエネミーとロストが同じ願いのもとに協力したとすればそれは世界がたった一人に掌握されることに他ならない。
自在に因果を改変し、自らにとっての不条理を廃したならば、最早抑止力すらもその手が届く事はないのだから。

彼女らは聖女ではない。杞憂の願いの根源には自分や周りの誰かの幸福が続くことを祈るごく当たり前の欲望しか無い。
未達の運命というクラススキルが示すように彼女自身がその願いを叶えることは決してあり得はしないのだ。
だが、もしも不条理に嘆く彼女らが、同じ苦しみを味わう人々のために捨身飼虎することがあれば、────世界は、約束された安寧の中に眠るだろう。

【Weapon】

『なし』

A:人を害する暇があるならまず自分を守る。
L:盾職みたいな宝具なのにシールダーじゃないので肉盾ですらありませんね!

【解説】

道家の思想家である列御寇。彼が著したといわれる『列子』の中でも杞憂の故事はあまりに有名。
しかし列御寇の実在は確認されておらず、『列子』に莊子思想が見られることなどからも偽書であることが疑われている。

杞憂はそのような性質を受けた大敵で、杞憂という少女の人格はアラヤのなかに眠り続ける"得体のしれぬ不安"の殻でしか無い。
その為、彼女らが自らの幸福など初めから無かったと気づいてしまえばためらいもなく人類の礎になることを選ぶ。

アークエネミーの願いが叶えられないとしてもロストの願望が届かない道理などどこにもありはしない。
彼女らは世界を壊さず不条理を退け、幸福であれと矯正するのみ。
だからこそ磔刑の結末を選択した瞬間に特異点は収束し、あの砂漠のキャメロットのように一つの世界でしかなくなるのだ。

【人物・性格】


イメージカラー:黒と白のマーブル
特技:紡績
好きなもの:故郷*9
嫌いなもの:不条理な終わり
天敵:不条理
願い:全ての人々の幸せが、ずっとずっと続きますように。

【一人称】私 【二人称】あなた 【三人称】あの人

Archenemy
「いや……いや、いや!どうして?どうして私ばかりがこんな目に遭うの?」
「私は悪いことなんてしてない!罰を受ける必要なんて無いのに!」
「お願い……お願いだから誰か私を助けてよ……」
「……ああ、まただ。────空が、空が落ちてくる」

不条理への怯えと拒絶が色濃く出た側面。
聖杯の存在する場所に引きこもり、不条理が支配する外へは好んで出ようとしない。
何かにつけて悲観的な考え方をするために自分が召喚したサーヴァントにも遠巻きにされる。

二身召喚によって幸福を願う感情を喪失しており、基本的に降りかかる困難を振り払うためにしか動かない。

Lost
「幸福ってどんなものだと思いますか?」
「私は、……そうですね。糸を紡いだり母さんのお手伝いをしたり」
「そんな日常が続くことこそ、何より素晴らしいことだと思うんです」
「だから私は祈るんですよ。誰もが、────永久に幸せでありますように、って」

恒久の幸福を願う感情が色濃く出た側面。
人の言うことをすぐに信じる素直な性格で騙されることもあるが、おおよそは楽観的なために笑っていることが多い。
ロストクラスとして召喚されているためかサーヴァントとしての力のほとんどが機能しておらず霊体化も儘ならない。
そのこともあってか、微笑みを振り撒く彼女の姿はどこにでもいるようなただの少女にしか見えないだろう。

二身召喚によって自分の願い以外への記憶を喪失しており、アークエネミーを倒すという使命しか覚えていない。

【因縁キャラ】

アルトリア・ペンドラゴン[コメディアン]
A:ギャグ時空(ふじょうり)の存在。怖い。
L:ココナッツ叩いてる変わった人だけど個々人の幸せは千差万別だよね!

キニチ・ハナーブ・パカル1世
A:モントリアよりはマシだけど怖い。たぶん星の開拓者(笑)持ちはみんな怖い。
L:よく叫んでるお兄さん。自分が近くにいても不幸(?)が訪れるからもう運命だと思う。

ベイマックス
A:宇宙規模で修正してくる本当の意味での宿敵だけど不条理ガードで召喚阻止。無辜ってるソレが既に不条理なので二重に怖い。
L:未来が見える人。もしも機会があれば自分の未来も見てほしい。*10

成れの果て
双子は鏡写しの子。天変を恐れる杞憂があれば空虚を恐れる杞憂もある。
それが外向きか内向きか。世界の裏切りへ怯えるは共に同じ。
一人は既に裏切られ、一人も直に裏切られ。救いを与える賢しき者は愚かな者へと成り果てる。
矛と盾とを鎖で繋ぐ憐憫と傲慢と無知と願い。双子はモノクロの海へ沈み、盲目の獣は吼え猛った。

【コメント】

知らない運命なんて最初から欲しくないという、某一巡する神父とは真逆のタイプ。
不穏なことはいっぱい書いてあるけど要は自分の幸福を見つければいいのでシナリオ中で接していれば思い出ができて青い鳥見つけたって寸法よ!

コンセプトとしては巻物争奪戦みたいなの。
敵のサーヴァントが連れてるロストを奪ったり逆に奪われたりすれば戦闘しやすいかと。
宝具のイメージはアークエネミーが闇の衣、ロストが光の玉みたいな感じ。
性質上ラスボス戦がしょぼくれると思われるのでHFの泥人形みたいなので調整してください。

ちなみに哲学が元ネタですけどその辺りはかなりいい加減なのでご容赦を。