経済・経済学に関するメモ。

中央銀行の業務

中央銀行は、その国・地域で利用される銀行券(通貨・紙幣)を発行する機関である。銀行券を発行する中央銀行は、物価の安定に対して責任を負っている(田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、9頁)。
政府・中央銀行は自国通貨を無限に市場に供給できる(田中秀臣 『経済論戦の読み方』 講談社〈講談社新書〉、2004年、155頁)。
中央銀行は通貨を保証しなければならず、通貨の価値を下げないようにする、つまり物価を安定させなければならない(弘兼憲史・高木勝 『知識ゼロからの経済学入門』 幻冬舎、2008年、120頁)。
インフレーション(物価上昇)、デフレーション(物価下落)のどちらの現象も回避するため、中央銀行は通貨供給量の動きを監視し、市場に出回る通貨量が適量になるように調整する(弘兼憲史・高木勝 『知識ゼロからの経済学入門』 幻冬舎、2008年、122頁)。
現金・預貯金の量は、民間の経済主体の活動によって決まるため、中央銀行が直接マネーサプライの水準を決めることはできない。そのため、中央銀行はマネーサプライに影響を与えるために、マネタリーベースを利用する。中央銀行はマネタリーベースの操作によって、民間銀行の貨幣量の乗数効果を通じ経済全体のマネーサプライを操作する(田中秀臣 『ベン・バーナンキ 世界経済の新皇帝』 講談社〈講談社BIZ〉、2006年、62-63頁)。
中央銀行の政策の基本となるのは、マクロ経済学である(田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、206頁)。
中央銀行は、経済ショックから国民の経済厚生を守るために行動する(田中秀臣 『ベン・バーナンキ 世界経済の新皇帝』 講談社〈講談社BIZ〉、2006年、163頁)。
中央銀行の金融政策が本来の効果を発揮するためには、その政策に対する「市場の信頼」を確保しなければならない(田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、52頁)。
中央銀行の最適な金融政策を考える上で重要なのは「コミットメント」であり、中央銀行は金融政策の目標達成について力強い態度を示す必要がある(田中秀臣 『ベン・バーナンキ 世界経済の新皇帝』 講談社〈講談社BIZ〉、2006年、164頁)。
ベン・バーナンキは、中央銀行は市場に対し、その政策の目的・予測を伝えることで市場の反応を確認し、柔軟に対応すべきであるとしている(田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、82頁)。
ベン・バーナンキは「中央銀行は名目金利だけではなく、インフレ期待の形成を通じて実質金利も操作できる」と指摘している(田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、226頁)。
政策金利の決定など中央銀行の政策内容は、どの国も機密保持がされている(田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、200頁)。

中央銀行の独立性

中央銀行は政府から独立しており、金融に関して独自の判断をするという位置づけを与えられている(竹中平蔵 『竹中平蔵の「日本が生きる」経済学』 ぎょうせい・第2版、2001年、179頁)。
政府から独立した存在であることが求められるのは、政府が通貨価値の保持を怠り、目先の諸問題に対応することを避けるためである(高橋洋一 『高橋教授の経済超入門』 アスペクト、2011年、18頁)。
欧米では、保守系は中央銀行の独立性を重視する一方で、左派系は中央銀行の独立性を改めようとする傾向にある(田中秀臣編著 『日本経済は復活するか』 藤原書店、2013年、174-175頁)。
中央銀行に対する外部からの圧力により、適切な政策運営がなされず、物価安定に失敗したケースも多い。その多くは戦争やその他の要因による大規模な財政ファイナンスのため、適切な引き締めができなかったケースである。こうした経験を踏まえ各国は、中央銀行の独立性を高めたり、物価目標(インフレターゲット)を明示的に定めたりし、政府が不適切な政策運営を中央銀行に強いることを阻止するためのしくみを導入していった(日本経済新聞社編著 『マネーの経済学』 日本経済新聞社〈日経文庫〉、2004年、129頁)。
中央銀行の独立性は、政治的介入によるインフレ政策を防ぐためにある(小峰隆夫 『ビジュアル 日本経済の基本』 日本経済新聞社・第4版〈日経文庫ビジュアル〉、2010年、92頁)。
どの国においても、政府と中央銀行はお互いに目的をもって協調し合わなければならない。それは当たり前過ぎて条文として書いていないくらい常識的なことである(「http://www.sbbit.jp/article/cont1/22302 【田中秀臣氏インタビュー】日本をデフレから救うのは、凡庸だが最良の処方箋の「リフレ政策」」ソフトバンク ビジネス+IT2010年9月10日)。
物価安定の定義は、政府が決めるべきである(田中秀臣編著 『日本経済は復活するか』 藤原書店、2013年、109頁)。
(ジョン・)テイラー教授は、金融政策のルールと対比させながら、中央銀行の独立性、とりわけ金融政策の独立性が常に政府・議会から政治的圧力にさらされているので、金融政策のルールを導入すべきであると論じている(「http://president.jp/articles/-/10528 日銀の独立性が失われれば、インフレ率は高くなる」PRESIDENT Online プレジデント2013年9月10日)。
政府目標を明確にさせることは、将来の中央銀行の政策運営に関する不確実性を減らし、政策やショックに対する市場の反応を安定化させるため、金融政策の効果を強めるという好影響が期待できる(日本経済新聞社編著 『マネーの経済学』 日本経済新聞社〈日経文庫〉、2004年、129-130頁)。
経済学者のジョセフ・E・スティグリッツは、中央銀行の独立は不要であると主張している(田中秀臣編著 『日本経済は復活するか』 藤原書店、2013年、176頁)。
フリードリヒ・ハイエクは、現代の民主主義社会ではいかなる政府も通貨当局の独立性を保つことは出来ないとしている(日本経済新聞社編著 『マネーの経済学』 日本経済新聞社〈日経文庫〉、2004年、79頁)。

独立性の弊害

経済学者のミルトン・フリードマンは、連邦準備制度理事会(FRB)の議事録を丹念に調べ、著書『米国金融史』で「結果がよければそのことを自分の手柄とする一方、悪ければその責任から逃れようとすることは人間の常である」と記している(日本経済新聞社編著 『経済学の巨人 危機と闘う-達人が読み解く先人の知恵』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2012年、93頁)。
我々は中央銀行の独立性を擁護してきた。しかし、この独立した中央銀行が失敗による面目失墜を恐れるあまり、自国経済のためになることすら、やらない存在となっていることが不況の大きな原因になっている。国を問わず、根本的には組織に問題がある。(組織の人間が)自分の組織上の地位や組織そのものを守ろうとしている。中央銀行独立性への介入に関しては、躊躇すべきではない(「http://gendai.ismedia.jp/articles/-/994 独占インタビュー ノーベル賞経済学者 P・クルーグマン 「間違いだらけの日本経済 考え方がダメ」」現代ビジネス2010年8月20日)。
中央銀行に独立性があるかどうかが問題ではなく、重要なのは中央銀行のトップの資質だ。経済を成長させ、社会を安定させ、所得格差の是正に取り組むといった社会全体に貢献する目的を持つことが重要だ。(中略)国民からかけ離れたところで、「中央銀行としての役目を果たしている」と言っているだけでは、説明責任を果たしたことにはならない。中央銀行は、究極的にはその国の国民に仕えている(「http://archive.is/85hEP 日銀黒田新体制始動 “物価目標 2%実現を”」NHK Bizプラス2013年3月21日)。

「目標の独立性」と「手段の独立性」

ベン・バーナンキは「目標の独立性(goal independence)と手段の独立性(instrument independence)の違いは有用だ。中央銀行が自由に目標を設定できるという目標の独立性を民主主義社会で正当化することは困難である。しかし、中央銀行が干渉を受けずに適切な金融政策を実施できるような手段の独立性は、経済安定のために極めて重要だ」とし、独立性について手段の独立性だけを指している(「http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34098 バーナンキ議長も否定した中央銀行「目標の独立性」に固執する野田首相では景気はよくならない!「安倍期待相場」ではやくも市場が動き始めた」現代ビジネス2012年11月19日、「http://synodos.jp/economy/2118 ドル安ではない。円高こそ問題だ。 片岡剛士 / 計量経済学」SYNODOS -シノドス-2010年9月2日)。
中央銀行の独立性とは、政策手段を自由に選べるという意味。国民経済全体に影響を与えるような政策目標まで決めることを意味しているわけではない(「http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE8BQ04... インタビュー:日銀は無制限緩和を、物価目標2-3%が適切=浜田宏一教授」Reuters2012年12月28日)。
中央銀行の独立性については、中央銀行は政府と目標を共有するが、その達成手段は中央銀行に任せ、政府が口出ししないとなっているのが世界標準である(「http://shuchi.php.co.jp/article/592 埋蔵金6兆円で好景気に」PHPビジネスオンライン 衆知2008年9月16日)。
金融政策の目標は、選挙によって国民の信を得た議会の場で決めるというのがグローバル・スタンダードである。中央銀行の独立性とは、金融政策の手段に関する独立性であり、金融政策の目標は政府が決めるというのが基本(「http://www.bloomberg.co.jp/news/123-L179BJ0YHQ0X01... 民主:デフレ脱却へ数値目標、政府・日銀連携を-公約素案」Bloomberg2010年4月21日)。
政府が中央銀行の行動にしばしば口を挟めば、中央銀行の独立性は失われる。ただ、ターゲットの設定については中央銀行の独立性はない。政府がそれに関与する。しかし、いったんターゲットを設定した後の金融政策の運営については、政府は口を挟まない。ターゲットを実現することを求めるだけである。それなら中央銀行の独立性は失われない(「http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20121224/... インフレ・ターゲティングはデフレ脱却の特効薬となるのか」nikkei BPnet(日経BPネット)2012年12月27日)。
イギリスの例
イングランド銀行は、1997年に独立性を獲得する。イングランド銀行の独立性は「金融政策の運用手段はイングランド銀行に任せる」というもので、政策の目標は実質的に政府が決めている(「http://shuchi.php.co.jp/article/642 民主党で大恐慌?」PHPビジネスオンライン 衆知2009年2月10日)。
日本銀行について
日本銀行については、日本銀行法で「手段と目標の独立性」が定められている(高橋洋一 『高橋教授の経済超入門』 アスペクト、2011年、19頁)。
日本では、中央銀行の独立性について大きな誤解がある。民主制の下では、政策担当者は国民に対して政策の説明と結果責任を負っている。中央銀行も例外ではない。この制度設計の欠陥は、国家のガバナンスの観点からすれば深刻である。さもなければ日本銀行はかつての関東軍のようになりかねない(「http://shuchi.php.co.jp/article/563 日銀新総裁はゼロ金利に復帰を」PHPビジネスオンライン 衆知2008年5月8日)。
日本銀行は、法律上、政府とは独立した機関である。当然、民主主義の統制下に入っているわけである。国民や政府に対して何も責任を取らない、何をやってもいい組織という事ではない。日本銀行は、日本経済を健全に成長させなければならないという責務を負っている(「http://www.sbbit.jp/article/cont1/22302 【田中秀臣氏インタビュー】日本をデフレから救うのは、凡庸だが最良の処方箋の「リフレ政策」」ソフトバンク ビジネス+IT2010年9月10日)。
法律では、日本銀行の政府からの独立は謳われているが、それは政府と目的をすり合わせた上での、手段に関する独立性である。目的を一緒にするのは、日本銀行の独立性を脅かすことではない(「http://www.mammo.tv/interview/archives/no254.html #254 無知につけ込まれて生きることのないために必要なこと。 - 田中 秀臣 さん(上武大学ビジネス情報学部教授)」mammo.tv)。
日銀法には「政府との連携は重要である」と明記されている。日銀だけが政府との連携を無視すれば、それは「独善」となる(岡部直明 『ベーシック日本経済入門』 日本経済新聞社・第4版〈日経文庫〉、2009年、125-126頁)。
社会保障負担が増大する一方で、増税・財政緊縮には限度があり、中央銀行だけがそうした状況から独立していられるわけではないというのも、現実である(「http://toyokeizai.net/articles/-/11991 財政ファイナンスをやってはいけない」東洋経済オンライン2012年12月5日)。
1998年に新日本銀行法が施行されて以降、日本経済は世界各国の中でほとんど最悪といっていいマクロ経済のパフォーマンスを続けてきた(「http://www.rieti.go.jp/jp/special/p_a_w/016.html 日本銀行を後戻りさせてはならない」RIETI2012年6月)。
経済学者のポール・クルーグマンは、1990年代、2000年代の日本銀行の政策判断について「間違いだった」と指摘している(田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、88頁)。
(法改正後の)日銀法は欠陥のある法律だ。権限がすべて日銀へ行ってしまい、政府がほとんど口出しできない。日銀が目標と手段の独立性を併せ持つ、世界でまれなシステムにしたことが、長期のデフレに国民が苦しめられてきた原因である(「http://toyokeizai.net/articles/-/12839 「白川総裁は誠実だったが、国民を苦しめた」 浜田宏一 イェール大学名誉教授独占インタビュー」東洋経済オンライン2013年2月8日)。
日銀の独立性は戦前の陸軍の統帥権と似ている。統帥権は明治憲法に根拠があるが、日銀の独立は憲法に根拠がない。独立を保証するのは実績のはずだが、実際には日銀の独立性が高まるにつれて円高が進み日本経済は沈んだ(「http://jp.reuters.com/article/vcJPboj/idJPTYE8AT07... 次期政権は日銀法改正し、雇用最大化を目標に=中原元日銀審議委員」Reuters2012年11月30日)。
独立とは自分の手で勝ち取るもの。(デフレ脱却など)実績も上げていないのに、偉そうな顔で独立性を主張しても認められない(「http://web.archive.org/web/20130202181834/http://m... アベノミクス・安倍経済政策:期待と課題 金融緩和まだ足りぬ 元日銀審議委員・中原伸之氏」毎日jp(毎日新聞)2013年1月17日)。

中央銀行不要論

フリードリッヒ・ハイエクは中央銀行は不必要と主張している(橘木俊詔 『朝日おとなの学びなおし 経済学 課題解明の経済学史』 朝日新聞出版、2012年、160頁)。
フリードリッヒ・ハイエクやラルフ・ホートレイは「中央銀行の不安定な信用の拡大(縮小)は、在庫投資・産業構造といった実体経済に不均衡・不調整をもたらす」と指摘している(田中秀臣 『ベン・バーナンキ 世界経済の新皇帝』 講談社〈講談社BIZ〉、2006年、119頁)。
ミルトン・フリードマンは、中央銀行の仕事だけは市場に任せるわけにはいかないという考えであり、中央銀行は無くし貨幣発行を自由化する、金本位制のように外部から枠をはめるような制度をつくるといった代案を提示している(浜田宏一・若田部昌澄・ 勝間和代 『伝説の教授に学べ! 本当の経済学がわかる本』 東洋経済新報社、2010年、150頁)。

テイラー・ルール

テイラー・ル−ルは、単にFRBの実際の行動をもとに導き出した理論であり、FRBがこのルールに拘束されて政策を決定しているわけではない(田中秀臣 『ベン・バーナンキ 世界経済の新皇帝』 講談社〈講談社BIZ〉、2006年、87頁)。

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