経済・経済学に関するメモ。

経済学の見地

経済学者が累進課税を評価しない理由について、経済学者のハル・ヴァリアンは「現実の世界では、収入は本人の生産性と税率だけで決まるわけではない。例えば、運もある。運がよかっただけで高収入を得ている人は、累進課税で高い税率を課せられても働き方を変えるわけではない。たまたま得た収入に課税をするのが当然ではないか。それなのに従来のミクロ経済学者は、運が大切な要因であることを見過ごしている。最適税率に関しても見込み違いをしている可能性が高い」と指摘している(トーマス・カリアー 『ノーベル経済学賞の40年〈上〉-20世紀経済思想史入門』 筑摩書房〈筑摩選書〉、2012年、162頁)。

累進課税強化による経済成長促進効果

1990年代のアメリカが安定的に成長できた原因の一つは、ビル・クリントン政権が累進課税を強めたことにある。強めの累進課税が、景気の乱高下を防ぐ(飯田泰之・雨宮処凛 『脱貧困の経済学』 筑摩書房〈ちくま文庫〉、2012年、192頁)。

雇用への影響

テキサス大学のハマメッシュ教授とミシガン大学のスレムロッド教授は、高所得者ほどワーカホリックに陥りやすいのであれば、累進所得税をかけることが対策として有効であると主張している(大竹文雄 『競争と公平感-市場経済の本当のメリット』 中央公論新社〈中公新書〉、2010年、183頁)。
日本の所得税の累進度は1990年代後半から低下してきたが、長時間労働が問題になりだしたのも1990年代後半からである(大竹文雄 『競争と公平感-市場経済の本当のメリット』 中央公論新社〈中公新書〉、2010年、183頁)。

日本

他の先進国並みに累進課税を適用すれば、経済成長による税収増は大きなものとなる(飯田泰之・雨宮処凛 『脱貧困の経済学』 筑摩書房〈ちくま文庫〉、2012年、225頁)。
所得の累進課税の強化は、労働意欲・起業意欲を衰えさせ、経済全体を委縮させるかもしれない(「http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41814 賢者の知恵 『21世紀の資本』ピケティ教授が提唱「金持ちの財産にもっと課税せよ」 もし日本で実現したら、を考える 原田泰×田中秀臣」現代ビジネス2015年1月28日)。
日本では所得税率が高いために自発的に悠々自適の生活に入る人は少ない。所得税の引き上げは、労働供給を抑制しない。所得税率の引き上げは財政再建の有効な手段となる(日本経済新聞社編著 『やさしい経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、199-200頁)。
所得税が実際に勤労意欲にどのような影響を与えているかは、不明である(「http://www.cuc.ac.jp/keiken/view/27/tokusyu/index7... 個人所得に対する望ましい課税」千葉商科大学経済研究所 機関紙「View & Vision」2009年3月31日)。
どの程度の所得再分配を行うべきかは累進税率構造によるため、価値判断の世界である。所得税そのものは公平な良税であるが、現行(2009年)の日本の所得税には多くの欠点がある。日本の所得税は非常に複雑な税制となっている(「http://www.cuc.ac.jp/keiken/view/27/tokusyu/index7... 個人所得に対する望ましい課税」千葉商科大学経済研究所 機関紙「View & Vision」2009年3月31日)。
所得税は、節税・脱税が行われやすい。働き方によって所得の捕捉率が異なる問題(クロヨン)があり、必ずしも公平・平等ではない(三和総合研究所編著 『30語でわかる日本経済』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2000年、204頁)。
日本の所得税制度には、大きな歪みがある。国民の所得総額は年間約250兆円あるが、実際に所得税が課される対象となる課税所得はそのう内の約110兆円である。残り140兆円は、控除に次ぐ控除で、課税対象から外されている。控除のやり方に大きな問題がある。日本の所得税制度は世界的に見て、所得課税による格差是正効果が極めて低い。所得の多い人ほど、税負担が軽くなる(「http://jp.reuters.com/article/jp_view/idJPKBN0K70O... 視点:格差是正へ所得税改革が急務=土居丈朗氏」Reuters2014年12月30日)。

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