作者:-
元ネタ:13階の女/安全バンド



雲ひとつ無い快晴。
いや、ほんとは少し雲が浮かんでいるけど、晴れていることに変わりはない。
私の計画を実行するのに、天気なんて関係ない。
晴れは私を照らし、雨は私を打ち付ける。
曇りは……、難しいことを考えるのはよそう。
とにかく、決心がついた今しかないのだ。


私が彼を好きになったのに、理由はいらない。
ほんの些細な出来事から膨れ上がった感情は、私の胸を締め付けた。
悶々と過ごす日々にけじめをつけようと、意を決したのだった。
一世一代の大勝負だった。
大げさかもしれないが、私にとってはとても勇気のいることだった。
これでだめなら、死んでやろうと思った。

思い描いていた場所でもない。
思い描いていた言葉でもない。
思い描いていた人でもない。
でも、彼以外に考えられなかった。
喉から少しずつひり出した言葉は、微かな声となった。
かろうじて聞こえる程度だった。

私の感情は頂点を突き抜けた。
望んでいないのに、涙が溢れ出た。
今までの自分に別れを告げ、新しい自分を迎え入れる。
そんな気持ちだった。
明日が来ても、明後日が来ても、昨日までの私とは全く違う。
誇らしいような、恥ずかしいような、なんと言ったらいいのかわからない。
心が満たされることに、喜びを感じていた。
とにかく、私は変わったのだった。
あの日を境に。


ほんの些細なひび割れが、大きな亀裂となっていった。
あんなに信じていたはずなのに。
あんなに好きだったはずなのに。
彼の行動が信じられなくなった。
彼の言葉が信じられなくなった。

私は彼から距離を置いた。
時間が経てば、元に戻れると思った。
彼以外の人は、つまらない人ばかりだった。
上っ面がよくても、中身は貧相だった。
時々訪れる感情は、気のせいだった。
私は何が欲しいのだろう……。


雨降りの午後。
横断歩道の向こうに見えたあなた。
一緒に傘に入ったあの子はだあれ?
あれは私じゃない。
私の知ってる人じゃない。
私はだれのもの?
あなたはだれのもの?
私の右手は傘を握って、左手は。
左手は?
どこ?


ふと目を覚ました。
パジャマが汗でびっちょり濡れていた。
どうやら、悪い夢を見たらしい。
夢だったらよかったのに。
なにが本当で、なにが嘘なのか、私には検討がつかない。
飾ってあった、彼と私のツーショット写真。
壁に投げてみると、フォトフレームのガラスが飛び散った。
大きな音を立てたあと、部屋は静寂に包まれた。
夢だったらよかったのに……。

カーテンの隙間から明かりが漏れている。
部屋の隅ではガラスの破片が飛び散り、写真の中の私と彼が笑っている。
過去を思い出した私は、意を決した。
一世一代の大勝負。
これでだめなら、死んでやる。
私と彼のために。

かすかに動く彼の手。
うつむいているあの子。
壁紙には新しいデコレーション。
私の大勝負は終わった。
しかし、最後の仕上げができなかった。
玄関から知らない人たちがやってきて、私の手首は冷たさを感じた。
あと少しだったのに。


こんなところ、私の人生には一生無縁のままで終わると思っていた。
白い寝間着に、白い壁紙に、白いベッドシーツ。
無機質で殺風景なこの部屋から見える景色は、鉄格子と、灰色の壁。
家族も友達も、誰もお見舞いにやってこない。
私は、世の中から引き離された。
これから私が生活する場所は、精神病院になった。
こんなところで生活するつもりなんて、全くなかったのに。

だれのせいでこうなったの?
私のせい?
あなたのせい?
ううん、これはすべて、あの子のせい。
私が知らないあの子のせい。
私が信じたあなたがこの世に居ないのも、あの子のせい。
これはもう、間違いのないことなの。

格子窓の向こうに、もう一つの病棟が見える。
窓に反射した景色から見るに、おそらくこの建物は12階建てだ。
まだ最後の仕上げが残っていた。
この場所でもできるはずだ。
最初の計画からずいぶん狂ってしまったが、仕方がない。
ここでできる、最も簡単な方法はなんだろう。

カウンセリングの時、私はつい口走ってしまった。
計画の最後を喋ってしまったのだ。
カウンセラーの先生は、やめなさいと言う。
そんなことをしなくても他の方法があるはずだから、と。
その日を境に、監視の目がより厳しくなってしまった。
しかし、私はあきらめなかった。
なにせ、一世一代の大勝負を2回もしてきたのだ。
成功させる自信はあった。
今回が、3回目。
そして、最後の大勝負。


監視員を振り切り、私は逃げる。
階段を駆け上がって屋上に出れば、私の計画は終りを迎える。
楽しみで仕方がない。
体力は落ちているが、速度を緩めれば捕まってしまう。
私は必死だった。
踊り場の階層を示す数字が大きくなっていく。
ついに出たRの文字。
私は重たそうな扉のドアノブに手を掛けた。
そこで、私の計画は終わった。
扉には鍵が掛かっていて、開かなかったのだ。
私は運が悪かった。
手を後ろに回され、縛られ、私は引きずられていった。
私は泣いた。
もうほかに方法はないのに。
13階の屋上から、身を投げること以外。
×

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