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1-3:トッポ連邦会談編

初公開:2020/04/23


王国に来てからの斑虎は、会議所のときとは打って変わり慌ただしい生活を送った。
少しでも王国の現状を知ろうと次の日からは自らの足で各地に赴き調査を重ねた。

元々、会議所における斑虎の評価は勇往邁進な直言居士といったものだった。
誰に対しても物怖じせずに発言し類まれなる行動力を持っているため、中途半端な実力しか無い兵士からは目の上のたんこぶだが、力を持った人間からは気に入られる。
791が斑虎を気に入っていた理由もそれに因るものが大きい。

彼の持ち前の熱心さは王国側からすると嬉しい誤算だった。
斑虎のひたむきな姿勢と行動が、王国の民の意識を着実に変えていった。
その最中、彼の知名度を爆発的に上げる切欠となった一つの出来事があった。



【オレオ王国 王都】

その日、朝から宮殿内は慌ただしい空気に包まれていた。
【三大国】の一角であるトッポ連邦の外交使節団が王宮に訪れる予定になっていたためだ。
訪問の目的はチョコ資源の相互活用するための技術交流が主である。加えて、王国側としては、公国に対峙するための後ろ盾としての支援表明を連邦に要請したいという真の意図があった。

しかし王国側の気持ちに反し、連邦の態度は煮え切らないだった。
それは事前の王国の調査だけでなく多くの新聞や情報からでも明らかで、公国に遠慮している連邦の姿勢が如実に表れていた。

斑虎は王宮の外に出て、使節団の到着の様子を遠巻きに見ていた。
王宮前には多くの人だかりができ、まるで救国の英雄を持て囃すかのように連邦の使節団は民衆から熱烈に迎えられた。
見ていて痛々しい程の歓声だ。
力を持たないこの国は風前の灯だ。そして弱った国を救う英雄を人々は欲している。
表向きは平時と変わらないように過ごしている人々も心の底では状況を理解し求めているのだ。斑虎にもその切実な気持は伝わってきた。

オレオ王国を救うためには荒療治が必要だ、と斑虎は考えている。
武力を持たず平和主義を貫くオレオ王国は、今回のような連中から因縁をつけられた際の有事に対し非常に無力だ。自分一人では何も出来ないため、他国の力を借りるしかない。
“真の友人”なら助けてくれるだろう。しかし、幾ら同盟が王国を守る唯一の術だとしても、打算のある友好国たる“友人”から切り捨てられれば、残るは対抗手段を持たない王国だけだ。

孤立は避けなければいけない。そのためには“甘ちゃん”の王国の会議を遠くで見届けるのはあまりに心細い。
斑虎は子を見守る親のように気をもんでいた。

思考の渦に囚われていた斑虎は、目の前で外交団の一団が通り過ぎるのを気づかないほどだった。

斑虎「…あいつはッ!?」

しかし、続々と通り過ぎた外交団の中に、一人見知った人間がいたのを斑虎は見逃さなかった。
一瞬の驚きの後、シメたとばかりに斑虎はすぐにほくそ笑んだ。



【オレオ王国 王宮】

優雅な王宮内とは裏腹に厨房は異様な慌ただしさに包まれていた。見習いのコックが加熱処理を誤り鍋のチョコを丸ごと焦がしてしまったのだ。
厨房では慌ててチョコレートドリンクを始めとしたチョコ料理を一から作り直していた。

「ええい!まだ完成せんのかッ!これでは客人への饗しも満足に出せぬ国と言われるぞッ!王国の沽券に関わるッ!」

斑虎が厨房を覗くと、恐ろしい剣幕で初老の料理長が厨房内を怒鳴り散らしていた。
大戦の戦場にもここまで厳しい指揮官はいないだろう。

しかし、このトラブルはかえって斑虎にとっては追い風だ。

斑虎「やあ料理長。少しだけ時間いいかな?」

斑虎の声に、人を射抜かんとする目で料理長は振り返った。彼は斑虎をギロリと一瞥すると、やり場のない怒りを静めるためにギリと一度歯ぎしりした。

「これは斑虎さん。なにか御用で?」

料理長は明らかに苛ついている声色を隠そうともしていない。

斑虎「お困りのようならばお助けしますよ」

「ありがたいお申し出ですが結構です。今は一分一秒も惜しい」

すぐにでも会話を打ち切りたいように、料理長は斑虎から顔を背け吐き捨てるように告げた。それでも斑虎は余裕の表情を見せたまま引き下がらない。

斑虎「それは残念。今から人数分のチョコレートを再度溶かし料理を完成させるだけでも数十分はかかるでしょうね。
それでは予定していたチョコ料理は到底出せないし、せいぜい粗茶で時間を潰すのが関の山だ。王国料理団は首でしょうね」

厨房がシンと静まり返った。全員が手を止め、斑虎を見つめている。舞台に立つ俳優のように斑虎は愁眉を寄せ深刻そうな顔を作った。

斑虎「私ならこの窮地を救える策があるというのに」

「…どういうことですか?」

途端に弱気な声を発した料理長に、舞台の主役は途端にニヤリと笑い“小道具”の準備を指示し始めた。

斑虎「今すぐ倉庫に眠っているであろう、とある“菓子”を取ってきてください。他のチョコ以外の料理と合わせてすぐに提供できるように準備しましょう」



【オレオ王国 王都 大広間】

斑虎が大広間の扉を開けた時、両国の協議は正に佳境を迎えている最中だった。
広々とした部屋の天井には絢爛な壁画が一面に彩られ、見る者の目を奪う美しさだ。しかし、その壁画の真下では絵画の美しさなど見る余裕も暇もない大人たちが額を合わせ話し合っている最中だった。

少しだけ静観して斑虎は両者の話を聞くことにしたが、話の冒頭から早速ずっこけそうになった。
傍から見ても協議は対等な関係には見えず、懇願をする王国側に対し連邦側は理由をつけノラリクラリと交わしていた。

「ですから再三申し上げた通り、貴国のおっしゃるように【支援表明】など無くとも、我が国は貴国との友好関係を世界に十分に示せていると考えています」

連邦外交団席の中心に座る華奢な青年議員は、駄々をこねる子供たる王国側をたしなめる親のように、諭す口調でそのように突き放した。

「いえ。しかし、我が国はご承知の通り軍隊を持ちません。そのため、カキシード公国が仮に暴挙に出た際に対抗する手段を持たないのです。
貴国とは緊急時の安全同盟を締結している。この非常事態に事態を打開できる国家を貴国と見越し、このようにお願いをしているのです」

王国側の文臣の一人は懇切丁寧に連邦側に自らの置かれている立場と本心を伝えた。
しかし、彼の悲痛な叫びにも連邦側は眉一つ動かさない。文字通り連邦側の中心人物的な青年議員は掛けたメガネの位置を片手で直すと、顔色一つ変えずに語り始めた。

「大変申し訳無いが【支援表明】については、全権大使の私でもその一存はすぐに決められない。
我が国は議会制でね。議題を持ち帰り議会での議論がないと決められないのだ。今すぐのお応えはできない」

連邦使節団の中には彼よりも経験を積んだ重鎮は数多くいるだろうに、件の青年議員以外は一切の言葉を発さず、そのせいか彼は一際輝き目立って見えた。
もしかしたら彼以外の仲間は全員蝋人形かもしれないな、と遠巻きで眺めながら斑虎は考えていた。

「それならばすぐに持ち帰り協議していただけませんか。事態は一刻を争います」

ある王国の文臣からの声に、彼はフンと鼻を鳴らした。

「議会は現在閉会中です。それに緊急事態なのは承知していますが、果たしてこれが客人にもてなす態度なのでしょうか?
誠に僭越ながら、今日は昼食を取りながらの会談と聞いておりましたが、料理の一つも録に通されぬまま数十分が経とうとしています。
我が国では通常、このようなことは無礼千万にあたります。
加えて、いきなりそのように捲し立てられては、いくら友人といえども付き合い方を考える必要があるとは思いませんか?」

―― 外交上の非礼にあたります。

最後に告げた彼の言葉は王国側から見れば非常な通告に聴こえたことだろう。

斑虎「物腰柔からなインテリヤクザと、食い物にされる哀しき貧民といった構図かな…」

斑虎の目の前で繰り広げられている会話は見るに絶えない、“交渉未満”の駆け引きだった。
一通り事の次第は把握した。満を持して、斑虎は交渉のテーブルに加わる覚悟を決めた。

斑虎「楽しいお話のところを失礼ッ!お待たせして申し訳ございません。お食事をお持ちいたしましたッ!」

突然の部外者の張り上げた声に、全員は一斉に斑虎に顔を向けた。その中には当然、件の青年議員も混ざっていた。
彼は怪訝な顔で顔を斑虎に向け、直後に驚愕の表情に変わった。今日初めて彼の表情が変わったところを見た、と斑虎は少し得意気になった。

「お前は、斑虎ッ!どうしてッ!?」

斑虎「こんなところで会うとは奇遇だな、椿(つばき)。祖国では随分と偉くなったみたいじゃないか」

元たけのこ軍兵士、現トッポ連邦国務大臣の椿は斑虎の言葉に金魚のように口をパクつかせることしかできなかった。


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