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1-7:厄災、白き虎豹誕生編編

初公開:2020/05/23


【オレオ王国 王都】

しかし、其の日から王国を取り巻く環境は悪い方に激変した。
オレオ王国はすぐに今回の協議内容を公開し国内外で王国への理解を求めた。

しかし、当初の予定とは反し諸外国からの支援要請は三日以上経っても進展の兆しすら見えなかった。
二国間協議まで友好的だった諸外国が途端に消極的な返事とともに王国を突き放し始めたのだ。

以前から懸念していた公国へ盾突きたくないという消極的外交姿勢に加え、
信じがたいことに『でも、公国の言うことも一理ある…』と、公国擁護を始める国も一つや二つではなかった。

事前に公国が根回しを行い、公国に同調する勢力を急速に拡大させていることは容易に推測できた。

頼みの綱だった“三大国”の一角だったトッポ連邦からも良い返事は無かった。
支援推進派の椿と保守派の勢力が衝突し議会が紛糾しているという。
中立派の首相は議会の引き伸ばしにかこつけて結論を先延ばしにしているのがありありと見て取れた。

椿からの手紙には何度も謝罪の言葉が書かれていた。
加えて、末文には『このまま決議遅延が図られるのであれば自らの職を辞してでも個人で支援を行う』との強い決意が記されていた。

斑虎「昔から責任感が強すぎるんだよなあ、あいつは」

口ではそう言いながらも、自分たち以外にも少なからず味方がいることに、斑虎は少し救われた気持ちになった。

ただ、ここにきて王国内の反乱勢力も勢いを増していた。
点在した地方都市にデモ勢力が結集し、打倒王政を訴え王都に向かいデモを開始したというのである。
このような状況の中であまねく国民に自制を訴えようとするナビス国王の言葉は虚しく、敏い王都の民はすぐに不穏な空気を察知した。
そして彼らは緊急事態宣言が出る前に、自主的に避難を始めてしまった。

オレオ王国は事実上八方塞がりともいえる状況に陥っていた。
そして公国が一方的に突きつけた五日目の期限の朝を迎えても、何もいい手立ては浮かばず手をこまねいているしか無かったのである。



【オレオ王国 王都 王宮】

協議から五日目の朝、王都にはシトシトと雨が降り注いでいた。
王宮の擬宝珠を濡らす雨が人々のさめざめとした涙のようで、まるで心の写し鏡のようだと斑虎は暫し幻想的な気持ちに浸った。
しかし、すぐに気持ちを目の前の会議に戻した。

斑虎「滝さんからの連絡で『協議の日以来、someoneさんと同行していた791さんとからの連絡は途絶したまま』とのことだ。くそッ!公国の野郎めッ!」

someoneと791は公国に監禁、幽閉されたと見るのが普通だろう。
こうなると、以前からのsomeoneの報告が全て疑わしくなる。

ナビス国王「踊らされたな。悔しいが、情報戦においては公国が一歩上手だった」

其の場が痛々しい沈黙に包まれた。
意を決し、以前の会議所で行われていた会議と同じように、斑虎は発言した。

斑虎「公国の工作で各国からの支援は得られず、国内では暴動が多発し沈静化できていない。
この状況で公国から攻め込まれでもしたら王国はひとたまりもなく“霧の大国”の霧に呑まれることでしょう。今からでも軍備を編成し国境に配置するべきです」

ナビス国王は珍しく顔を苦悶に歪ませた。

ナビス国王「斑虎くんの言いたいことはよくわかる。だが、この国は戦いを起こさず無血で今日まで発展してきた。
流れたのは血ではなくチョコだけだ。
私にはこの国を統べる覚悟と誇りがある。やすやすと軍備結集に舵を切るわけにはいかない」

ナビス国王は聡明でありながら、唯一反戦の話になると頑固者になる。
平時には名君だが、非常時には自らの選択肢を狭めてしまうことに彼は気づいていない。

彼の臣君たちも罰が悪そうに目を背けた。分かっているのだ、彼の性格を。
しかし、今こそ心を鬼にして言わなければいけない。

斑虎「それではダメなのです、ナビス国王ッ!
公国は近い内に本気で攻めてきます。軍備は国家防衛のための緊急の策です。各国から協力を得られず四面楚歌となった今、我々は自分で自分の身を守るしか無いのです」

同じ提案は以前より周りの人間が提言していたものの、其の度に国王は掛け合わず議論にすらならなかった。

しかし、今日此の時ばかりはナビス国王も話に耳を傾けるわけにもいかず、彼は深く考え込んだ。
たったの数分だろうが、一分一秒も惜しい斑虎には無限の時間に感じられた。

ナビス国王「わかった。すぐに、緊急事態宣言を発令し国軍を編成する。
ただ、我らには軍隊編成の仕方も判らない素人だ。
君には軍事顧問として我軍を率いてもらいたい。それでいいな?」

斑虎「わかりました。助かります――」

しかし、彼の判断はおそすぎた。

轟音が室内に響き渡った。
音の主は、外へと続く扉が勢いよく開け離れたことによるものだった。

そこにはびしょ濡れのままの兵士が立っていた。
絶望にまみれた表情で、王の謁見への挨拶も忘れ、彼は息も絶え絶えに叫んだ。

「報告しますッ!

先程、カキシード公国が同盟の破棄通達とともに、我が領地のカカオ産地に大規模進軍を敢行ッ!
少数の警備隊は壊滅し、カカオ産地はカキシード公国に支配されましたッ!!」

戦乱の火蓋はかくもあっという間に切って落とされた。



【オレオ王国 王都 王宮】

「報告しますッ!王都周りの隊の配備、完了しましたッ!」

ナビス国王「ご苦労、下がっていいぞ」

厳かな声で国王は応じ、鎧を着た兵士は慣れない格好に苦労した様子でふらふらと走り去っていった。

斑虎「それでは一足先に行って参ります。本当に戦場に行かれるので?」

ナビス国王「当たり前だ。兵の士気を高めるためにはそれしかない」

斑虎「この間までは反戦を訴えていた方とは思えないお覚悟だ。いえ、褒めているんですよ?
ですがすぐに戦いになる。そうしたら王宮に引き上げてください」

ナビス国王「君には本当に苦労をかける。交渉事だけでなく戦乱の中でも我々は君に頼りっぱなしだ」

斑虎「滝さんからの帰還命令を断ってから、この国のために戦うと決めたんです。俺も感謝しているんです。
この国に来てから“生きている”という実感を得られます。
いまイキイキとしているんですよ。
まあ状況は至極不利ですがね」

ナビス国王「さしずめ、きのこ軍に追い詰められたたけのこ軍陣地本部ってところかな?今の此処は」

斑虎はふふっと笑った。

斑虎「いえ、それ以上ですよ。だけど勝負は最後までわからない。でしょう?」

斑虎は踵を返し王宮を出た。
先日まで賑わっていた王都も今は商人や住民の姿は消え、大通りには砲台が敷き詰められ、火薬の匂いが充満していた。
会議所の大戦場と同じ匂いに、斑虎は密かに心が躍った。

斑虎「へッ。久々の戦いが、国の存亡をかけた戦いだとは。腕がなるねえ」

オレオ王国は降伏を選択せず徹底抗戦の道を選んだ。ナビス国王が決断したのだ。

王国はカカオ産地を占領されるという、チェスの盤面で喩えればクイーンを取られ絶体絶命の状況に陥った。
即座の降伏案も考えられた。事実、斑虎も口に出そうかと思ったほどだ。
しかし、屈服を瞬時に否定し継戦を主張したのは意外にもナビス国王自身だった。

その後、カキシード公国は当初の目的であるカカオ産地の制圧意外にも、短期間で王国の領土の1/2を制圧した。
殆ど戦いらしい戦いは起こらず、散発的に発生した戦いでも急増の王国軍部隊では到底彼らの進撃は食い止められず、精々彼らの大休止を倍増させたぐらいだった。
公国軍は補給のことをあまり考えず、行軍をひたすら続けた。
兵の消耗も抑えられ、オレオ王国のほぼ中心に位置する王都は、公国軍の次なる“ハイキング”にはうってつけの目的地だったのだ。

しかし、その目論見を看破していた王国側は、密かに王都決戦の準備を始めた。
軍部顧問という名の王国軍の軍務トップとなった斑虎は、すぐに王都の陣地構築を進め、同時に少しでも公国軍を足止めさせるための策を展開し始めた。
全て【きのこたけのこ大戦】や【会議所】で学んだ知識だ。
数日も経つ頃には、王都周辺に強大な防衛線を配置し、急増部隊とともに一大決戦に備えることに成功した。

急増部隊の多くは国を守ろうと立ち上がった義勇兵たちだ。
王政打倒のデモ隊に遮られたこともあり、当初よりも参加する人数は少なくなってしまったが、だからこそ障害を乗り越えて駆けつけてきた兵士たちの士気は十分に高い。

さらに士気を上げる出来事がもう一つあった。
カカオ侵攻が報じられた次の日、突然、トッポ連邦から武器を含む大量の物資が届いた。
驚愕する王国側に、輸送役の行商人は、斑虎にある手紙を託し早々に引き上げていった。


『親愛なる友へ。
これは興国の崩壊を防ぐために一人で抗う“英雄”への一時の手向けだ。
本当は私自身も君の下に駆けつけ共に奮戦したいが、いま私の身は連邦政府に拘束されている。
ただ、旧くの友にも私から声を掛け君の力になるようにお願いをした。直に到着すると思う。

連邦政府は中立立場を貫くとなっているが、実際は公国の言いなりとなり、王国の滅亡を今か今かと待ち望んでいる。

私の力が足りなかった。だからこれは友人として約束を果たせなかった詫びでもある。

個人の資金でかき集めたものだ、上手く使ってくれ。
正義は我々にこそ微笑む。
最後まで、決して諦めるな。

たけのこ軍兵士 椿』


王都に運ばれてきた積荷は大名行列のように長蛇の列で荷台の渋滞を起こしていた。
次から次へと届けられる物資は、明らかに個人で用意できる量を凌駕していた。
ここまで大々的に動いてしまっては、直に彼の行動は公にされ連邦内では職を追われ、処罰もされるだろう。その未来を予期できぬほど愚かな男ではない。

だが、彼も斑虎と同じく“赦せなかった”のだ。
強大な一国家の向けた悪意がこれ程効果的で、非もない弱者が虐げられ泣き寝入りをするしか無いという事実を赦せなかったのだ。

二人は離れていながらも同じ信念を持っていた。
“正義”という眩しい理想を信じ続ける信奉者だったのだ。



王都の周りに広がる草花が生い茂っていたルヴァン平野は、今は塹壕のため凹凸の盛り土が多く用意され、掘り返された大地は剥き出しとなっている。
会議所地域にある大戦場と変わらなくなった見た目に、次にこの草原に緑が戻るのは何時になるだろう、と斑虎は思いを馳せた。
戦争とはこういうものだ。華々しい戦果の裏には必ず代償がある。

王国陣地に到着するや否や、斑虎は異色の集団に出くわした。
同色の甲冑を付けておらず思い思いの格好で戦いに臨む、見るからに傭兵集団だ。しかし、その全員が斑虎の見知った顔だった。

雑用係「おう虎さん。久しぶり」

傭兵集団の戦闘にいた男が声をかけた。ダークグレーのスーツに身を纏ったその男には見覚えがあった。

斑虎「雑用さんじゃないか、久しぶりだな。あんたもこの戦いに駆けつけてくれたのか」

雑用係「椿さんからの便りを見てな。王国の一大事に居てもたてもいられなくなってね。会議所からの静止を振り切って来たのさ」

雑用係は斑虎と同じく王国出身のたけのこ軍兵士だ。会議所加入は斑虎より遅いが、数多くの大戦で功績を残してきた戦闘のエキスパートである。

雑用係「他にも有志を募って会議所を抜け出してきたんだ」

雑用係の背後には見知った顔の兵士が数多く、きのこ軍・たけのこ軍問わず大勢の仲間が集った。

ビギナー「虎さん。あなたがこの軍を実質指揮しているんだって?越権行為じゃないかッ?ハハハッ」

メテオ隊「新しい魔法を覚えたんです。丁度使う良い機会だ」

現役兵士たちでひしめく集団の中には、大戦を引退したはずの老兵もいた。

シャンパン「久々の戦いだ、血湧くな」

旧C-12「大戦から離れて久しいがまだこの銃は現役さ。きのこ軍を射抜く要領でやればいいんだろう?」

斑虎「みんな、すまない…」

或る者は王国の窮地に駆けつけるため、或る者は斑虎の窮地を救うため、そして或る者は過去の戦いの記憶を喚び起こすために立ち上がり、王都に結集した。

「報告しますッ!敵軍はノアール河を迂回しながら王都へ接近中ッ!もう間もなく、このルヴァン平野に侵入すると思われますッ!」

斑虎「よし、目論見通りだ。予定通り主力部隊を展開させ、敵の侵攻を食い止める。別働隊は敵の背後に周り込み敵の補給路を経つ。
孤立させた敵軍をここで叩く。全てのプランが上手くいかなかった場合は王都で籠城戦を行う。いいですね、ナビス国王?」

斑虎の提案にナビス国王は頷いた。

ナビス国王「皆の衆、よく聞いてくれ。王国の民も王国外から駆けつけてくれた者も、感謝している。本当に、本当にありがとう」

国王は軍勢の前に立ち、魔法の拡声スピーカーで語り始めた。

ナビス国王「我々は重大な戦局を迎えている。王国の興廃を決めるのは、正に今回の会戦だッ。敵は強大だッ!しかし我々には心強い味方がいる。

私の横にいるたけのこ軍兵士 斑虎殿だッ!」

話に上がると思っていなかったため、国王の横でビクッと肩を震わせた。

ナビス国王「貴君らも既に承知のことだろうッ!
斑虎殿は王国の窮地に、【きのこたけのこ会議所】から単身で駆けつけ、我が国のために公国側への交渉のみならず各国に働きかけを行い尽力してくれている御仁だ。
そして公国との戦乱に巻き込まれると、不退転の決意で会議所には帰還せず、我軍の実質的な編成や作戦指揮を担っているッ!
彼の働きで今日この日を迎えることが出来たッ!紛れもない名将だッ!!」

歓声が上がるにつれ、斑虎は顔を赤くした。

ナビス国王「私は彼のような英雄を忘れはしない。歴史も決して彼を忘れることをしないだろう。


“白き虎豹<こひょう>” 斑虎がいる限り、オレオ王国に負けはないッ!そうだろうッ!」


王国軍は怒号にも似た熱狂的な歓声で応えた。
歓声の中、斑虎はチラリとナビス国王を見やると、彼は茶目っ気たっぷりの目つきでこちらを見返した。
うまく利用されたな、と苦笑するほかない。

ナビス国王「王国の興廃、この一戦にありッ!各人、奮迅し努力せよッ!」

国王の演説は、この日王国兵たちのわずかの不安を消し去り最大の士気高揚へと繋がった。


1-8.大会戦、そして編へ。
Episode : “白き虎豹(こひょう)”斑虎へ戻る。

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